「香取神宮ー神に奉げた美」 千葉県立美術館

千葉県立美術館
「特別展 香取神宮ー神に奉げた美」 
2015/11/17~2016/1/17



千葉県立美術館で開催中の「特別展 香取神宮 神に捧げた美」を見てきました。

千葉の誇る古社、香取神宮。早くも奈良時代には藤原氏から崇敬され、平安時代の延喜式神名帳には伊勢、鹿島と並び「神宮」の称号で記載。古くから国家鎮護の神として信仰を集めてきました。

その香取神宮の歴史資料や宝物を紹介する展覧会です。出品は110点。唐に由来する国宝「海獣葡萄鏡」をはじめ平安時代の「木造十一面観音立像」、また神幸祭の賑わいを伝える「香取神宮神幸祭絵巻」のほか、近代以降、神宮に奉納された美術品などを網羅します。

はじまりは古文書です。「日本書紀」に経津主神が香取の地へ祀られたと書かれています。由緒に関しては諸説ありますが、元々は大和朝廷の東国支配の拠点だったとも考えられているそうです。

経津主神は国土平定に関わったことから軍神としても奉られ、武家からも帰依を受けました。頼朝の寄進があったことが「香取神宮文書」に記録されています。またかつて神宮は香取の海と呼ばれた内海に面していました。ゆえに中世では周辺の漁民を統括して収入を得ていたそうです。それを示す文書も展示されています。(なお香取の海の反対側に鹿島神宮がありました。)


「香取神宮神幸祭絵巻 大禰宜家本(部分)」 個人蔵

ハイライトは「香取神宮神幸祭絵巻」6点の全点展示です。古来より香取神宮では20年に一度、式年遷宮が行われていましたが、室町時代に途絶。その後、様々な過程を経て、今では12年に一度、式年神幸祭として執り行われるようになりました。

絵巻の原本は室町時代のもの。それを江戸の元禄期に写したのが「香取神宮神幸祭絵巻」です。本来は全7巻。しかしながら1巻は火災により失われてしまいます。結果、残ったのが6巻です。所蔵はいずれも香取神宮外。しかも全て異なるため、一堂に会したことはありませんでした。つまり史上初の揃い踏みが実現したというわけです。

神輿を中心に馬を従えた行列が進む様子を表した作品、いずれも同じ場面が描かれていますが、巻によって表現が異なっているのが面白いところです。と言うのも例えば「大禰宜家本」は人物の様子が緻密で生き生きとしているのに対し、「多田家本」や「日本民藝館本」はどこか緩くてまるで大津絵風です。「成田山仏教図書館本」は行列の姿を一つの巻物で上下に描いています。

各巻、それぞれ一場面のみの公開でしたが、パネルで全面が紹介されていました。そちらも参考になります。(会期中、場面替えあり。)


国宝「海獣葡萄鏡」 香取神宮

いわゆる宝物では国宝の「海獣葡萄鏡」が重要ではないでしょうか。唐からもたらされた鏡、霊獣が牡鹿にかぶり付く様子が表現されています。彫りは全体的に細かく、小鳥や昆虫などの表現も繊細です。美しい唐草文様が広がっています。なお「海獣葡萄鏡」を筆頭に鏡が多く展示されていました。この辺も鑑賞のポイントと言えそうです。

鏡以外では仏像にも注目です。うち立派なのは重要文化財の「木造十一面観音立像」です。高さは約3メートル。時代は平安、ケヤキの一木造りです。元は神宮内の神宮寺にありましたが、廃仏棄釈の煽りによって荘厳寺へ移されました。のっぺりとしたお顔立ちながらも、体躯は堂々。長い腕が垂れています。露出での展示です。また薄っすらと金が残っているのでしょうか。仄かに光っているようにも見えました。

廃仏棄釈といえば「銅造地蔵菩薩坐像」も忘れられません。やはりこの仏像も神宮内に安置されていましたが、廃仏棄釈によって打ち捨てられてしまいます。それを篤志家らが観福寺に納めては祀ったそうです。一部が割れて破損していました。苦難の歴史を歩んだ仏像。その一端を伺い知ることが出来るのではないでしょうか。


香取秀真「獅子牡丹文花瓶」 香取神宮

ラストは近代美術です。花瓶やお面といった工芸品のほか、日本画に油絵などの絵画が続きます。いずれも明治以降、神宮に献ぜられたもの。松岡映丘の「騎乗人図」や橋本雅邦の「梅」などが目を引きました。

ほか神幸祭の映像のほか、「木造十一面観音立像」の設営の様子を紹介するパネルもあります。広いスペースに作品がぽつぽつと並ぶ展示です。必ずしも密度が濃いとは言えないかもしれませんが、香取神宮の宝物を一度に見られる良い機会であることは間違いありません。



「KATORI special days」@千葉県立美術館 12月19日(土)、20日(日)

12/19、20の土日には「KATORI special days」として香取の物産展が開催されます。実は酒どころでもある千葉県。当地の蔵元も来て日本酒の販売もあるそうです。また講演会のほか、佐原囃子や香取雅楽会による演奏も行われます。この日にあわせて出かけるのも良いかもしれません。



会場の千葉県立美術館の最寄り駅は京葉線の千葉みなと駅です。駅からはおおよそ10分ほど。海のそば、ポートタワーの近くにある広々とした美術館です。



同じく千葉市内にある市美術館からはモノレールを経由して一本。(千葉市美術館の最寄りは葭川公園駅。)いわゆるハシゴも十分可能です。滅多にない県立美術館の特別展です。一度足を運んでみては如何でしょうか。



2016年1月17日まで開催されています。

「特別展 香取神宮ー神に奉げた美」 千葉県立美術館
会期:2015年11月17日(火)~2016年1月17日(日)
休館:月曜日。ただし月曜が祝日の場合は翌日。年末年始(12/28~1/4)。
時間:9:00~16:30。11/17のみ10:30に開場。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般800(640)円、高校・大学生400(320)円、中学生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央港1-10-1
交通:JR線・千葉都市モノレール千葉みなと駅下車、徒歩約10分。
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