「日産アートアワード2015」 BankArt Studio NYK

BankArt Studio NYK
「日産アートアワード2015」 
11/14-12/27



BankArt Studio NYKで開催中の「日産アートアワード2015」を見て来ました。

2013年に創設された現代アーティストを支援、顕彰する「日産アートアワード」。今年で2度目です。推薦された33名のアーティストより選出されたファイナリスト、7名による展示が行われています。


石田尚志「正方形の窓」 2015年 2チャンネルビデオ(カラー、サウンド)

まずは石田尚志です。横浜美術館の回顧展の記憶も新しい映像作家、タイトルは「正方形の窓」でした。もちろんドローイング・アニメーションです。長方形のフレームに四角い窓。確かに正方形をしています。暗がりの密室に青白い光が差し込みました。すると激しいストロークが飛沫を上げ始めます。渦を巻き、空間を裂き、さらには跳ねては散る線の軌跡。全6分強。モチーフはポーの短編から着想を得たそうです。ストロークはさも石田の情念が取り憑いたかのように駆け巡っています。


米田知子 展示風景

写真家の米田知子は新旧作を並べては「歴史的断片」(解説シートより)を紡いでいます。場所も時代も異なる風景。そこはビキニ環礁でのB-29の墜落事故現場であり、朝鮮半島の非武装地帯の近くであり、また靖国神社の桜でもあります。端的な風景として美しい。しかしいずれもが歴史を物語る重要な場所です。暗がりに咲いた「菊」に目がとまりました。「積雲」のシリーズです。かの震災と原発事故を踏まえたとも言われていますが、米田は如何なるメッセージをこめたのでしょうか。


岩崎貴宏「アウト・オブ・ディスオーダー(70年草木は生えなかったか?)」 2015年 人毛

細密なテクスチャーに目を見張りました。岩崎貴宏です。まず目に飛び込んできたのは広く白い台。その上で黒く細い糸が鉄塔などのランドスケープを描いています。実のところはじめは素材が分かりませんでした。キャプションを見て驚きました。何と糸ではなく人毛だったのです。


岩崎貴宏「リフレクション・モデル(羅生門エフェクト)」 2015年 檜、シナベニア、墨汁、ワイヤー

さらに宙を見やれば「リフレクション・モデル」が吊るされています。今度は檜です。映画「羅生門」(黒澤明監督)における半壊状態の羅生門を水たまりに映る姿をあわせて立体化したもの。そして先の人毛も小説「羅生門」(芥川龍之介作)で登場する老婆と髪の毛のシーンをモチーフとしています。つまり二つの「羅生門」を同じく二つ異なった素材で表現しているわけです。


毛利悠子「モレモレ:与えられた落水 #1-3」 2015年 木材、傘、ホース、ペットボトル、ゴム手袋、バケツ、車輪など

毛利悠子が見事なインスタレーションを見せてくれました。ぶら下がるのは3つの木のフレーム。窓のような形をしています。そして様々な日用品、例えば鳥かごやビニールの手袋、タライや自転車の車輪、またじょうろやビニール袋が吊られていました。耳を澄ますとぽたぽたと水の流れ落ちる音が聞こえてきます。モーターによる作用でしょうか。水は緩やかに循環していました。ホースは時折ビクンと波打ちます。まるで血管です。互いの素材は水によって言わば有機的に連結していました。


毛利悠子「モレモレ東京」(フィールドワーク)

ふと裏にある解説冊子に目がとまりました。中には東京メトロでしょうか。よく見かける光景です。地下鉄の駅構内の水漏れをビニールなどで補修した写真が収められています。


毛利悠子「モレモレ:与えられた落水 #1-3」(部分) 2015年 木材、傘、ホース、ペットボトル、ゴム手袋、バケツ、車輪など

ずばり作家の毛利は水漏れの修理の仕事に「用の美」(解説シートより)を見出しました。そのフィールドワークを通して制作されたのが今回の新作、「モレモレ:与えられた落水」です。解説にユーモラスという言葉という言葉がありましたが、確かに楽しい。まるで装置全体が自動楽器のように自律して動いているようにも見えます。ついつい水の動きを目で耳で追ってしまいました。


久門剛史「Quantize #5」 2015年 サウンド、電球、アルミニウム、真鍮、木、ジョーゼット、紙、鏡、電池ほか

まるで舞台を見ているようです。久門剛史のインスタレーションの名は「Quantize #5」。一室での展開です。素材は電球や木に神、そして鏡やカーテンほか、木製の台など様々。電球はちかちかと点滅し、突如カーテンがひらりと靡きます。後ろから風が送られているようでした。無人ながらも人がいるかのような気配。何かの物語が再現されているのでしょうか。細かな光の点滅や小さな音が奇妙に気になりました。どこか不安な気持ちにもさせられます。


久門剛史「Quantize #5」(部分) 2015年 サウンド、電球、アルミニウム、真鍮、木、ジョーゼット、紙、鏡、電池ほか

とすると突如、もの凄いノイズ音が空間に鳴り響きました。全ての音を飲みこむ程の大音量。予想だにしない展開です。もちろん全ては久門のプログラミングにより動いているわけですが、さも全てが偶然に起こっているかのようでもあります。驚きました。


秋山さやか「浸食す 9.1 19 29 10.3 11.7 8 13」 2015年 横浜で出逢ったさまざまな物いろいろな糸、布、顔料

ほか会場のBankART周辺に滞在しては、自身の生活経験と地誌を刺繍で表現した秋山さやかや、沖縄やいわゆるセクシャルマイノリティーに取材したミヤギフトシも興味深いものがあります。社会を批評的に捉えて表現した作品も少なくありません。


ミヤギフトシ「南方からの17通のノート」 2015年 封筒、ハガキ、切手、デジタルプリント、ファウンドフォトほか

なお去る11月24日、会場内にて最終審査が行われ、グランプリ、及びオーディエンス賞が決定しました。

「日産アートアワード2015」グランプリ受賞者を発表@日産自動車

グランプリには毛利悠子、オーディエンス賞は久門剛史が選ばれました。実は私もオーディエンス投票時にこのお二方で迷い、結局、毛利さんに投じました。ただ確かに久門さんの作品も大変に魅惑的です。甲乙云々の判断は出来ません。



入場は無料。場内の撮影も出来ます。12月27日まで開催されています。

「日産アートアワード2015」 BankArt Studio NYK
会期:11月14日(土)~12月27日(日)
休館:無休。ただし11月24日(火)は、イベント開催のため一般入場不可。
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:横浜市中区海岸通3-9
交通:横浜みなとみらい線馬車道駅6出口(赤レンガ倉庫口)より徒歩5分。
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