都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「縫い展」 うらわ美術館
うらわ美術館
「縫い―その造形の魅力」―その造形の魅力
2015/11/14-2016/1/17
うらわ美術館で開催中の「縫いーその造形の魅力」を見てきました。
「針と糸で形づくられる裁縫に刺繍」。(チラシより)文字通り「縫い」の魅力を紹介する展覧会です。
「刺繍袱紗 宝箱(部分)」 宮井株式会社
会場には近現代の刺繍作品がずらり。江戸時代の半纏に袱紗、大正末の裁縫雛形、さらには歌舞伎衣装などを網羅します。また現代作家の「縫い」に関する作品にまで視野を入れているのもポイントです。桂ゆきやオノ・ヨーコらのインスタレーションなども登場します。
はじまりは裁縫雛形です。ところでこの雛形なるもの。詳しい方ならご存知かもしれませんが、必ずしも一般に良く知られているとは言えないかもしれません。
端的に表せば服のミニチュアです。それにしても何故に雛形を作るのでしょうか。ずばり裁縫教育です。学校で縫いの技術を習得するため、様々な雛形を作らせる授業がありました。出品作はいずれも大正時代のもの。生徒は時に競っては服のサンプルならぬミニチュアを制作したそうです。
これが幅広い。法被にコートをはじめ猫や動物の人形、また足袋に靴下、さらにはタンスのカバーやら蚊帳までを作っています。サイズは小さめ。手のひら大のものも少なくありません。そこに花柄などの刺繍を施しています。
あくまでも教育の資料。言ってみればアマチュアの作品ではありますが、案外と良く出来ています。そしてこれらの裁縫雛形をさいたま市が一括して所蔵していました。それをまとめて見せようとする意図から今回の展覧会が企画されたそうです。
「火消半纏(部分)」 さいたま市立博物館
江戸の町火消しが着ていた火消半纏にも多くの刺繍が登場します。いわゆる消防士らの仕事着ならぬユニフォーム。何度も布地を縫い合わせては分厚く重ね、堅牢な上着を作りあげます。そこに勇壮な龍や武者絵、浮世絵でもお馴染みの滝夜叉姫などのモチーフを縫いつけていきます。派手です。遠目からでも目立っていたに違いありません。
ちなみに火事が起こると火消したちは半纏ごと水を被っては出動したそうです。分厚い布地は水を吸うためのもの。タオルよりも分厚い。多少の火の粉であれば燃え移ることもなかったことでしょう。
そもそも「縫い」には背守りや千人針など、神仏の加護を受けるための呪術的な意味も持ち合わせていました。危険を顧みずに火事へ立ち向かった火消たち。細かな刺繍には彼らの無事が祈願されていたのかもしれません。
「菱刺し たっつけ」 青森市教育委員会
羽織の裏地である羽裏の刺繍も面白いのではないでしょうか。先の火消半纏はリバーシブルに対し、羽織は基本的に表と裏を分けて着るものです。その裏地にこれまた凝った刺繍を施しています。
主に明治時代の羽裏が出ていました。図柄はもう何でもありと言って良いかもしれません。麻雀にダンス、ビル群やキューピー人形、さらには野球の早慶戦を描いた羽裏もありました。思いの外にモダン、もはや絵画的と呼んでも差し支えありません。
一面の黒に家紋を入れた羽織に目がとまりました。表はシンプル。しかし裏がド派手です。何とたくさんの鯉が群れて泳ぐ姿が描かれています。強い朱色。赤と言っても良いかもしれません。表の黒とは見事なまでのコントラストです。裏地に思いがけない意匠を凝らす。脱げばさぞかし注目されたことでしょう。裏の刺繍がちらりと見えることが粋だと考えられていたそうです。
派手といえば歌舞伎の衣装も忘れられません。立派な松に恐ろしげな大蛇、そして勇しき雲竜。まさしくかぶき者らしく見るものを威圧します。刺繍はまるで飛び出す絵本さながらに浮き上がってはモチーフを象っていました。
「着物 西こぎん(部分)」 幕末・明治時代 青森市教育委員会
そのほか青森の「たっつけ」と呼ばれる股引などの郷土資料なども興味深いのではないでしょうか。「縫い」は衣服に魂を吹き込みます。その多様性と魅力。存分に味わうことが出来ました。
宇梶静江「セミ神様のお告げ(原画、部分)」 2007年 作家蔵
一方で後半は変わって現代作家における「縫い」の表現です。先にも触れた桂ゆきやオノ・ヨーコをはじめ、アイヌの神話などを刺繍絵に表す宇梶静江、ちりめん細工作家の高橋よう子、またベルギーの刺繍ドローイング作家のオーレリー・ウイリアム・ルヴォーなどの作品が紹介されています。
師岡とおる「スカッ(部分)」 2005年 作家蔵
イラストレーターである師岡とおるの刺繍に目がとまりました。スパイダーマンでしょうか。漫画のキャラクターなどをビーズなどを交えて描いています。なお師岡は唯一の男性作家。確かに振り返れば刺繍はどういう形であれ「伝統的に女性が担って」(チラシより)きた文化でもあります。
作品は全部で250点。かなりあります。カタログも制作されていました。(2000円)。美術の観点から「縫い」の造形を知る貴重な資料となりそうです。
2016年1月17日まで開催されています。おすすめします。
「縫いーその造形の魅力」 うらわ美術館
会期:2015年11月14日(土)~2016年1月17日(日)
休館:月曜日。但し11月23日、1月11日は開館。翌11月24日、1月12日は休館。年末年始(12月27日~1月4日)。
時間:10:00~17:00
*毎週土・日曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般820(650)円、大高生510(400)(円、中小生200(100)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*リピーター割引:観覧済み有料観覧券を提示すると団体料金で観覧可。(観覧日から1年以内、1回限り有効。)
住所:さいたま市浦和区仲町2-5-1 浦和センチュリーシティ3階
交通:JR線浦和駅西口より徒歩7分。
「縫い―その造形の魅力」―その造形の魅力
2015/11/14-2016/1/17
うらわ美術館で開催中の「縫いーその造形の魅力」を見てきました。
「針と糸で形づくられる裁縫に刺繍」。(チラシより)文字通り「縫い」の魅力を紹介する展覧会です。
「刺繍袱紗 宝箱(部分)」 宮井株式会社
会場には近現代の刺繍作品がずらり。江戸時代の半纏に袱紗、大正末の裁縫雛形、さらには歌舞伎衣装などを網羅します。また現代作家の「縫い」に関する作品にまで視野を入れているのもポイントです。桂ゆきやオノ・ヨーコらのインスタレーションなども登場します。
はじまりは裁縫雛形です。ところでこの雛形なるもの。詳しい方ならご存知かもしれませんが、必ずしも一般に良く知られているとは言えないかもしれません。
端的に表せば服のミニチュアです。それにしても何故に雛形を作るのでしょうか。ずばり裁縫教育です。学校で縫いの技術を習得するため、様々な雛形を作らせる授業がありました。出品作はいずれも大正時代のもの。生徒は時に競っては服のサンプルならぬミニチュアを制作したそうです。
これが幅広い。法被にコートをはじめ猫や動物の人形、また足袋に靴下、さらにはタンスのカバーやら蚊帳までを作っています。サイズは小さめ。手のひら大のものも少なくありません。そこに花柄などの刺繍を施しています。
あくまでも教育の資料。言ってみればアマチュアの作品ではありますが、案外と良く出来ています。そしてこれらの裁縫雛形をさいたま市が一括して所蔵していました。それをまとめて見せようとする意図から今回の展覧会が企画されたそうです。
「火消半纏(部分)」 さいたま市立博物館
江戸の町火消しが着ていた火消半纏にも多くの刺繍が登場します。いわゆる消防士らの仕事着ならぬユニフォーム。何度も布地を縫い合わせては分厚く重ね、堅牢な上着を作りあげます。そこに勇壮な龍や武者絵、浮世絵でもお馴染みの滝夜叉姫などのモチーフを縫いつけていきます。派手です。遠目からでも目立っていたに違いありません。
ちなみに火事が起こると火消したちは半纏ごと水を被っては出動したそうです。分厚い布地は水を吸うためのもの。タオルよりも分厚い。多少の火の粉であれば燃え移ることもなかったことでしょう。
そもそも「縫い」には背守りや千人針など、神仏の加護を受けるための呪術的な意味も持ち合わせていました。危険を顧みずに火事へ立ち向かった火消たち。細かな刺繍には彼らの無事が祈願されていたのかもしれません。
「菱刺し たっつけ」 青森市教育委員会
羽織の裏地である羽裏の刺繍も面白いのではないでしょうか。先の火消半纏はリバーシブルに対し、羽織は基本的に表と裏を分けて着るものです。その裏地にこれまた凝った刺繍を施しています。
主に明治時代の羽裏が出ていました。図柄はもう何でもありと言って良いかもしれません。麻雀にダンス、ビル群やキューピー人形、さらには野球の早慶戦を描いた羽裏もありました。思いの外にモダン、もはや絵画的と呼んでも差し支えありません。
一面の黒に家紋を入れた羽織に目がとまりました。表はシンプル。しかし裏がド派手です。何とたくさんの鯉が群れて泳ぐ姿が描かれています。強い朱色。赤と言っても良いかもしれません。表の黒とは見事なまでのコントラストです。裏地に思いがけない意匠を凝らす。脱げばさぞかし注目されたことでしょう。裏の刺繍がちらりと見えることが粋だと考えられていたそうです。
派手といえば歌舞伎の衣装も忘れられません。立派な松に恐ろしげな大蛇、そして勇しき雲竜。まさしくかぶき者らしく見るものを威圧します。刺繍はまるで飛び出す絵本さながらに浮き上がってはモチーフを象っていました。
「着物 西こぎん(部分)」 幕末・明治時代 青森市教育委員会
そのほか青森の「たっつけ」と呼ばれる股引などの郷土資料なども興味深いのではないでしょうか。「縫い」は衣服に魂を吹き込みます。その多様性と魅力。存分に味わうことが出来ました。
宇梶静江「セミ神様のお告げ(原画、部分)」 2007年 作家蔵
一方で後半は変わって現代作家における「縫い」の表現です。先にも触れた桂ゆきやオノ・ヨーコをはじめ、アイヌの神話などを刺繍絵に表す宇梶静江、ちりめん細工作家の高橋よう子、またベルギーの刺繍ドローイング作家のオーレリー・ウイリアム・ルヴォーなどの作品が紹介されています。
師岡とおる「スカッ(部分)」 2005年 作家蔵
イラストレーターである師岡とおるの刺繍に目がとまりました。スパイダーマンでしょうか。漫画のキャラクターなどをビーズなどを交えて描いています。なお師岡は唯一の男性作家。確かに振り返れば刺繍はどういう形であれ「伝統的に女性が担って」(チラシより)きた文化でもあります。
作品は全部で250点。かなりあります。カタログも制作されていました。(2000円)。美術の観点から「縫い」の造形を知る貴重な資料となりそうです。
2016年1月17日まで開催されています。おすすめします。
「縫いーその造形の魅力」 うらわ美術館
会期:2015年11月14日(土)~2016年1月17日(日)
休館:月曜日。但し11月23日、1月11日は開館。翌11月24日、1月12日は休館。年末年始(12月27日~1月4日)。
時間:10:00~17:00
*毎週土・日曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般820(650)円、大高生510(400)(円、中小生200(100)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*リピーター割引:観覧済み有料観覧券を提示すると団体料金で観覧可。(観覧日から1年以内、1回限り有効。)
住所:さいたま市浦和区仲町2-5-1 浦和センチュリーシティ3階
交通:JR線浦和駅西口より徒歩7分。
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