都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「佐藤雅晴ー東京尾行」 原美術館
原美術館
「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴ー東京尾行」
1/23~5/8

原美術館で開催中の「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴ー東京尾行」のプレスプレビューに参加してきました。
原美術館が比較的若い世代の作家を紹介するプロジェクトの「ハラドキュメンツ」。第10回目は映像作家の佐藤雅晴です。
1973年に大分で生まれ、東京藝術大学大学院の修士課程を修了。油画を学びましたが、在学中は「絵画制作に意味を見出せず」(*)、インスタレーションやコンセプチュアルアートなどに「傾倒」(*)していました。(*はともに解説より)
2000年にドイツへ留学するも、一時はビザが取得できず、日本レストランで働いていたこともあったそうです。結果的に現在の映像表現に辿り着いたのは2008年頃。つまり作家としてのキャリアは約8年ということにもなります。2009年には「第12回岡本太郎現代芸術大賞」にて特別賞を受賞しました。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
さてタイトルは「東京尾行」、12画面のモニターによる映像作品です。舞台は文字通り東京です。公園の遊具をはじめ、工事現場、歩道橋を渡る人、トラック上のランナー、はたまた街角でアイスクリームをほお張る人の姿などが映し出されています。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
これらはいずれも佐藤が市中を歩き回っては撮影したもの。中には国会議事堂などの東京を象徴する場所も現れますが、ほかはおおよそ誰もが普段目にするような光景ばかり。例えば上のモニターは団地です。真正面を遠くから捉えたのでしょう。規則正しく連なる窓に幾つかの室外機。そして目に付くのは洗濯物や布団です。ありふれた日常の一コマ。一見するところ特別な仕掛けがなされているようには思えません。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
別のモニターを見てみましょう。今度はビルの解体現場です。手前には赤い重機。ヘルメットを着けた作業員の姿も垣間見えます。ほかは剥き出しの鉄骨にコンクリートです。既にかなり破壊されています。解体も佳境です。そしてやはりどこかで見たような景色。ただよくよく凝視すると不思議な違和感を覚えはしないでしょうか。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
それではもう一つ。今度はカフェです。明るい店内です。ランチタイムかもしれません。女性がテーブルを囲んでは食事をしています。手にはフォーク、前には水を入れたグラスと白いプレートが置かれていました。皿に盛るのはサラダや豆にチキンでしょうか。前菜かもしれません。
お気づきいただいたでしょうか。この食事、食べ物の部分こそがアニメーション。ほか女性やテーブル、そして窓の外の景色は実際の映像です。つまり佐藤は自ら撮影した映像をコンピューターに取り込み、実写の一部をペンツールで細かにトレースしてはアニメーションとして表現しています。
ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴―東京尾行 / Hara Documents 10: Masaharu Sato - Tokyo Trace
このトレースこそが制作のキーワード。より分かりやすいのが動画です。公式サイトには「東京尾行」のトレーラーがアップされていますが、どのシーンであれ、一部分がアニメーションで出来ています。例えば先の解体現場では背景の建物こそがトレースしたアニメーションです。一方で重機は実写。また団地では建物が実写で、洗濯物ないし布団がトレースによるアニメーションというわけです。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
実写とアニメーションの位置関係は作品ごとに異なっています。時にトリッキー。一体どの部分がリアルなのか判然としないことも少なくありません。虚と実がないまぜになった光景が映されています。しかし考えてみればアニメーションの部分にもトレースの元になった実写の層が存在しているわけです。ではリアルとは何でしょうか。虚と実の関係の曖昧さを突いています。
「東京尾行」のほかにも興味深い映像が1点、「Calling」です。ドイツ編と日本編の2バージョン。留学時にドイツで見た景色と、帰国後に日本で捉えた景色を映し出しています。

「Calling(ドイツ編)」 アニメーション、ループ(7分)、フルハイビジョン、シングルチャンネル、2009-2010年
両作品も実写をトレースしたアニメーションです。これがまた極めて精密。しかも全てトレースしています。それゆえかむしろアニメーションとしての感触は際立ち、より絵画的な世界が展開されているような気もしました。佐藤はトレースすることを「対象を自分の中に取り込む儀式」(解説より)と説明しています。人の不在の景色、寂寞感を感じたのは私だけでしょうか。ひたすらに鳴る電話のベルはどこか虚しく響いてきます。画家が対象をキャンバスにとめるべく絵筆を動かすのと同じように、佐藤は自らが滞在し、見た風景を改めて咀嚼し、まさに摂取すべく、ペンツールでトレースし続けているのです。

「Calling(日本編)」 アニメーション、ループ(7分)、フルハイビジョン、シングルチャンネル、2014年
2013年にギャラリーαMで行われた「楽園創造(パラダイス)ー芸術と日常の新地平 vol.5 佐藤雅晴」展におけるアニメーション、「ダテマキ」の制作風景を捉えた映像も展示されていました。佐藤がいかにツールを駆使してリアルをアニメに取り込んでいくのか。その一端を知ることも出来ます。

ソフィカル「限局的激痛(第2部)」 1999年
なお美術館2階では「トレース」をテーマにしたコレクション展を展開中。名画の人物に扮して写す森村泰昌やソフィカルの作品などが展示されています。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
「パラレルワールド」(解説より)とも称されるアニメーション。私も「ダテマキ」以来でしたが、また新たな展開を楽しむことが出来ました。
5月8日まで開催されています。おすすめします。
「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴ー東京尾行」 原美術館(@haramuseum)
会期:1月23日(土)~5月8日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる3月21日は開館)、3月22日は休館。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴ー東京尾行」
1/23~5/8

原美術館で開催中の「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴ー東京尾行」のプレスプレビューに参加してきました。
原美術館が比較的若い世代の作家を紹介するプロジェクトの「ハラドキュメンツ」。第10回目は映像作家の佐藤雅晴です。
1973年に大分で生まれ、東京藝術大学大学院の修士課程を修了。油画を学びましたが、在学中は「絵画制作に意味を見出せず」(*)、インスタレーションやコンセプチュアルアートなどに「傾倒」(*)していました。(*はともに解説より)
2000年にドイツへ留学するも、一時はビザが取得できず、日本レストランで働いていたこともあったそうです。結果的に現在の映像表現に辿り着いたのは2008年頃。つまり作家としてのキャリアは約8年ということにもなります。2009年には「第12回岡本太郎現代芸術大賞」にて特別賞を受賞しました。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
さてタイトルは「東京尾行」、12画面のモニターによる映像作品です。舞台は文字通り東京です。公園の遊具をはじめ、工事現場、歩道橋を渡る人、トラック上のランナー、はたまた街角でアイスクリームをほお張る人の姿などが映し出されています。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
これらはいずれも佐藤が市中を歩き回っては撮影したもの。中には国会議事堂などの東京を象徴する場所も現れますが、ほかはおおよそ誰もが普段目にするような光景ばかり。例えば上のモニターは団地です。真正面を遠くから捉えたのでしょう。規則正しく連なる窓に幾つかの室外機。そして目に付くのは洗濯物や布団です。ありふれた日常の一コマ。一見するところ特別な仕掛けがなされているようには思えません。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
別のモニターを見てみましょう。今度はビルの解体現場です。手前には赤い重機。ヘルメットを着けた作業員の姿も垣間見えます。ほかは剥き出しの鉄骨にコンクリートです。既にかなり破壊されています。解体も佳境です。そしてやはりどこかで見たような景色。ただよくよく凝視すると不思議な違和感を覚えはしないでしょうか。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
それではもう一つ。今度はカフェです。明るい店内です。ランチタイムかもしれません。女性がテーブルを囲んでは食事をしています。手にはフォーク、前には水を入れたグラスと白いプレートが置かれていました。皿に盛るのはサラダや豆にチキンでしょうか。前菜かもしれません。
お気づきいただいたでしょうか。この食事、食べ物の部分こそがアニメーション。ほか女性やテーブル、そして窓の外の景色は実際の映像です。つまり佐藤は自ら撮影した映像をコンピューターに取り込み、実写の一部をペンツールで細かにトレースしてはアニメーションとして表現しています。
ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴―東京尾行 / Hara Documents 10: Masaharu Sato - Tokyo Trace
このトレースこそが制作のキーワード。より分かりやすいのが動画です。公式サイトには「東京尾行」のトレーラーがアップされていますが、どのシーンであれ、一部分がアニメーションで出来ています。例えば先の解体現場では背景の建物こそがトレースしたアニメーションです。一方で重機は実写。また団地では建物が実写で、洗濯物ないし布団がトレースによるアニメーションというわけです。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
実写とアニメーションの位置関係は作品ごとに異なっています。時にトリッキー。一体どの部分がリアルなのか判然としないことも少なくありません。虚と実がないまぜになった光景が映されています。しかし考えてみればアニメーションの部分にもトレースの元になった実写の層が存在しているわけです。ではリアルとは何でしょうか。虚と実の関係の曖昧さを突いています。
「東京尾行」のほかにも興味深い映像が1点、「Calling」です。ドイツ編と日本編の2バージョン。留学時にドイツで見た景色と、帰国後に日本で捉えた景色を映し出しています。

「Calling(ドイツ編)」 アニメーション、ループ(7分)、フルハイビジョン、シングルチャンネル、2009-2010年
両作品も実写をトレースしたアニメーションです。これがまた極めて精密。しかも全てトレースしています。それゆえかむしろアニメーションとしての感触は際立ち、より絵画的な世界が展開されているような気もしました。佐藤はトレースすることを「対象を自分の中に取り込む儀式」(解説より)と説明しています。人の不在の景色、寂寞感を感じたのは私だけでしょうか。ひたすらに鳴る電話のベルはどこか虚しく響いてきます。画家が対象をキャンバスにとめるべく絵筆を動かすのと同じように、佐藤は自らが滞在し、見た風景を改めて咀嚼し、まさに摂取すべく、ペンツールでトレースし続けているのです。

「Calling(日本編)」 アニメーション、ループ(7分)、フルハイビジョン、シングルチャンネル、2014年
2013年にギャラリーαMで行われた「楽園創造(パラダイス)ー芸術と日常の新地平 vol.5 佐藤雅晴」展におけるアニメーション、「ダテマキ」の制作風景を捉えた映像も展示されていました。佐藤がいかにツールを駆使してリアルをアニメに取り込んでいくのか。その一端を知ることも出来ます。

ソフィカル「限局的激痛(第2部)」 1999年
なお美術館2階では「トレース」をテーマにしたコレクション展を展開中。名画の人物に扮して写す森村泰昌やソフィカルの作品などが展示されています。

「東京尾行」 12チャンネル ビデオ、2015-2016年
「パラレルワールド」(解説より)とも称されるアニメーション。私も「ダテマキ」以来でしたが、また新たな展開を楽しむことが出来ました。
5月8日まで開催されています。おすすめします。
「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴ー東京尾行」 原美術館(@haramuseum)
会期:1月23日(土)~5月8日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる3月21日は開館)、3月22日は休館。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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