都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「フェルメールとレンブラント」 森アーツセンターギャラリー
森アーツセンターギャラリー
「フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展」
1/14~3/31

森アーツセンターギャラリーで開催中の「フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展」を見てきました。
オランダの誇る偉大な画家、ヨハネス・フェルメールとレンブラント・ファン・レイン。来日した作品はともに日本初公開。メトロポリタン美術館の所蔵する「水差しを持つ女」と「ベローナ」です。
タイトルも二人の画家を全面的に押し出しています。しかしながら端的に出品作だけを捉えれば各1点ずつ。よって何も本展、見るべき点はフェルメールとレンブラントだけにあるわけではありません。
「フェルメールとレンブラント」に続く「17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち」が重要です。と言うのもフェルメールとレンブラント以外も粒ぞろい。全60点、アムステルダムの国立美術館からも約25点ほどやって来ています。デ・ホーホ、ヤン・ステーン、ファブリティウスにダウ、ロイスダールまで、文字通り17世紀のオランダを代表する画家の作品が展示されているのです。
冒頭は「オランダ黄金時代の幕開け」。ピーテル・ラストマンの「モルデカイの凱旋」はどうでしょうか。画家はレンブラントの師。後にレンブラントが本作の構図をエッチングに利用しています。ラストマンは旧約聖書の主題に基づく物語をローマに置き換えました。後景の教会はローマのパンテオンに着想を得たもの。手前で白馬に乗るのがモルデカイです。堂々たる姿。明暗の対比、影の使い方が特徴的です。周囲にいる人物はシルエット状に表されています。反面に王は明るい。否応無しに目立っていました。
展示構成はジャンル別です。風景画、建築画、海洋画、そして静物画に肖像画と続いています。風景画ではサロモン・ファン・ライスダールの「水飲み場」に目がとまりました。手前の小川で水を飲む牛。後ろは旅人でしょうか。建物の前で馬車を止めています。視点は低く、空は高い。木々が葉をたくさん付けては大きく突き出しています。長閑な光景です。静かな時間が流れています。

アールベルト・カイプ「牛と羊飼いの少年のいる風景」 1650-60年頃 油彩、カンヴァス アムステルダム国立美術館
オランダで牛は富の象徴として好まれました。例えばアールベルト・カイプの「牛と羊飼いの少年のいる風景」も牛がテーマ。何とも大きな牛です。一頭は正面を見据え、もう一頭はまるで黄昏るように横を向いて休んでいます。そしてそれを見やる少年。つばの広い帽子を被ってはぼんやりと座っています。牛は食糧源であるとともに、土地を耕しては金を生み出す動物でもありました。当時、オランダの人々は牛の絵を家にこぞって飾っていたそうです。

エマニュエル・デ・ウィッテ「ゴシック様式のプロテスタント教会」 1680-85年頃 油彩、カンヴァス アムステルダム国立美術館
建築画ではエマニュエル・デ・ウィッテの「ゴシック様式のプロテスタント教会」が美しい。天井高のある教会内部、ゴシック様式です。吊り下げられたシャンデリアはかなり低い位置にまで達しています。じゃれ合う犬も可愛らしいもの。よく見ると手前の床の墓石が剥がされていました。そばには会話する男の姿があります。前掛けをした人物は墓守とも言われています。一見全てが写実かと思ってしまいますが、実は画家による創造、つまりは空想上の風景だそうです。アムステルダムの様々な教会から部分を切り出しては画面上に再構成しました。

ウィレム・カルフ「貝類と杯のある静物」 1675年 油彩、カンヴァス 財団美術館、オーフェルエイセル (オランダ)
豊かになった17世紀のオランダは静物画のモチーフもより豪華です。ウィレム・カルフの「貝類と杯のある静物」に描かれたのは異国の産物。太平洋の島からもたらされたという貝にオレンジ色のサンゴ、そしてギリシャの神、ネプトゥヌスの銀の立像などが描かれています。ハイライトが白の点描によって際立っていました。物質感のある表現です。当時は世界中から貿易船が集まったオランダ。その繁栄の縮図を見るかのようです。
肖像画ではフランス・ハルスに魅せられました。「ひだ襟をつけた男の肖像」です。胸に手を当て、こちらを見やる男の姿。眼差しは強く、何かを訴えかけるようでもあります。肉付きはよく、顔もやや赤らんでいて血色が良い。手には指輪をつけています。どのような地位にあるのでしょうか。モデルの生気、ないし人となりを巧みに吸い上げては表したかのような一枚です。筆は大胆で力強い。静かな熱気を帯びてもいます。

ピーテル・デ・ホーホ「女性と召使いのいる中庭」 1660-61年頃 油彩、カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー
風俗画ではヤン・ステーン、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホがいずれも力作揃い。甲乙つけ難いものがあります。あえて挙げるとしたらホーホの「女性と召使いのいる中庭」でしょうか。見通しの良い中庭。二人の女性が家事をしています。目の間に広がるのは何ら包み隠されない日常です。煉瓦の舗装は古びているのか所々屈曲しています。そして石灰塗りの壁も薄汚れていました。ポンプの側は水で錆びたのか赤茶けてもいます。座りながら片手で魚を取り出すのは召使い。反面に手前で手を伸ばしているのは女主人だそうです。すると奥からやってくる男は旦那でしょうか。都市に有り触れた戸外の景色の一コマを切り出して描いています。

ヨハネス・フェルメール「水差しを持つ女」 1662年頃 油彩、カンヴァス メトロポリタン美術館、ニューヨーク
フェルメールの「水差しを持つ女」は洗練の極みとも言うべき作品でした。画家のいわゆる成熟期を前にした一枚、文字通り女性が左手で水差しを持っていますが、彼女の動きはどちらかとすれば窓の方にありました。いわば「水差しを持ち、窓を開ける女」とも呼べる構図。つまり持っては開けています。同時の所作です。そっと窓を開けた右手には外の光がうっすらと差し込んでいました。そこから今度は壁、ないし水色の頭巾へと広がっています。また水差しと皿の下方で反射していました。ふと水差しの背が青いことに気づきました。彼女の後ろにある青い布が映っているのでしょう。見事なまでの視覚的な効果です。細かな画肌の質感も素晴らしい。一見、寡黙ではありますが、細部に立ち入るほど、多くを語りかけてくるかのような作品でもあります。

レンブラント・ファン・レイン「ベローナ」 1633年 油彩、カンヴァス メトロポリタン美術館、ニューヨーク
レンブラントの「ベローナ」は思いの外に温和な作品でした。ローマの戦いの女神であるベローナ、盾には生々しいまでのメドゥーサの首が装飾されていますが、ベローナ自身の顔立ち、ないし表情が穏やかでかつ優しい。母性としたら言い過ぎでしょうか。まるで見る者を包み込むかのように立っています。とても戦いの神のようには見えません。
鎧の描写に迫力がありました。兜や鎧には細かな金の装飾がなされています。スカートはビロードです。光は正面から当たってはベローナのみを煌々と照らします。背後にはうっすらアーチ状の建造物が見えました。ダイナミックなまでの光と影の対比です。神話上のモデルにどこか実在感を与えてもいます。

カレル・ファブリティウス「帽子と胴よろいをつけた男(自画像)」 1654年 油彩、カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー
レンブラントの弟子のファブリティウスが2点来ているのには驚きました。いわゆる自画像こと「帽子と胴よろいをつけた男」とアブラハム・デ・ポッテルの肖像」です。ファブリティウスは夭折の画家です。事故により32歳の若さで亡くなってしまいます。それゆえ現存する作品は僅か10点。近年、評価が高まっているそうです。うち今回の「自画像」は日本初公開でもあります。
フェルメールとレンブラントの点数云々を求めると厳しいかもしれません。ただ端的に質の高いオランダ絵画展として楽しめました。
地上のチケットブースにはチケット購入のための列が出来ていましたが、展示会場内はさほど混雑していませんでした。たださすがに目玉のフェルメールの「水差しの女」の前は黒山の人だかりです。最前列で見るには多少時間がかかりました。
[フェルメールとレンブラント展 巡回予定]
福島県立美術館:2016年4月6日(水)~5月8日(日)
「芸術新潮2016年2月号/永遠のフェルメール/新潮社」
3月31日まで開催されています。
「フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展」(@vermeer20152016) 森アーツセンターギャラリー
会期:1月14日(木)~3月31日(木)
休館:1月19日(火)
時間:10:00~20:00
*入館は閉館時間の30分前まで。
*ただし1月26日(火)、2月2日(火)、2月9日(火)、2月16日(火)、2月23日(火)は17時まで開館。
料金:一般1600(1400)円、高校・大学生1300(1100)円、4歳~中学生600(400)円。4歳以下無料。
*( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
「フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展」
1/14~3/31

森アーツセンターギャラリーで開催中の「フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展」を見てきました。
オランダの誇る偉大な画家、ヨハネス・フェルメールとレンブラント・ファン・レイン。来日した作品はともに日本初公開。メトロポリタン美術館の所蔵する「水差しを持つ女」と「ベローナ」です。
タイトルも二人の画家を全面的に押し出しています。しかしながら端的に出品作だけを捉えれば各1点ずつ。よって何も本展、見るべき点はフェルメールとレンブラントだけにあるわけではありません。
「フェルメールとレンブラント」に続く「17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち」が重要です。と言うのもフェルメールとレンブラント以外も粒ぞろい。全60点、アムステルダムの国立美術館からも約25点ほどやって来ています。デ・ホーホ、ヤン・ステーン、ファブリティウスにダウ、ロイスダールまで、文字通り17世紀のオランダを代表する画家の作品が展示されているのです。
冒頭は「オランダ黄金時代の幕開け」。ピーテル・ラストマンの「モルデカイの凱旋」はどうでしょうか。画家はレンブラントの師。後にレンブラントが本作の構図をエッチングに利用しています。ラストマンは旧約聖書の主題に基づく物語をローマに置き換えました。後景の教会はローマのパンテオンに着想を得たもの。手前で白馬に乗るのがモルデカイです。堂々たる姿。明暗の対比、影の使い方が特徴的です。周囲にいる人物はシルエット状に表されています。反面に王は明るい。否応無しに目立っていました。
展示構成はジャンル別です。風景画、建築画、海洋画、そして静物画に肖像画と続いています。風景画ではサロモン・ファン・ライスダールの「水飲み場」に目がとまりました。手前の小川で水を飲む牛。後ろは旅人でしょうか。建物の前で馬車を止めています。視点は低く、空は高い。木々が葉をたくさん付けては大きく突き出しています。長閑な光景です。静かな時間が流れています。

アールベルト・カイプ「牛と羊飼いの少年のいる風景」 1650-60年頃 油彩、カンヴァス アムステルダム国立美術館
オランダで牛は富の象徴として好まれました。例えばアールベルト・カイプの「牛と羊飼いの少年のいる風景」も牛がテーマ。何とも大きな牛です。一頭は正面を見据え、もう一頭はまるで黄昏るように横を向いて休んでいます。そしてそれを見やる少年。つばの広い帽子を被ってはぼんやりと座っています。牛は食糧源であるとともに、土地を耕しては金を生み出す動物でもありました。当時、オランダの人々は牛の絵を家にこぞって飾っていたそうです。

エマニュエル・デ・ウィッテ「ゴシック様式のプロテスタント教会」 1680-85年頃 油彩、カンヴァス アムステルダム国立美術館
建築画ではエマニュエル・デ・ウィッテの「ゴシック様式のプロテスタント教会」が美しい。天井高のある教会内部、ゴシック様式です。吊り下げられたシャンデリアはかなり低い位置にまで達しています。じゃれ合う犬も可愛らしいもの。よく見ると手前の床の墓石が剥がされていました。そばには会話する男の姿があります。前掛けをした人物は墓守とも言われています。一見全てが写実かと思ってしまいますが、実は画家による創造、つまりは空想上の風景だそうです。アムステルダムの様々な教会から部分を切り出しては画面上に再構成しました。

ウィレム・カルフ「貝類と杯のある静物」 1675年 油彩、カンヴァス 財団美術館、オーフェルエイセル (オランダ)
豊かになった17世紀のオランダは静物画のモチーフもより豪華です。ウィレム・カルフの「貝類と杯のある静物」に描かれたのは異国の産物。太平洋の島からもたらされたという貝にオレンジ色のサンゴ、そしてギリシャの神、ネプトゥヌスの銀の立像などが描かれています。ハイライトが白の点描によって際立っていました。物質感のある表現です。当時は世界中から貿易船が集まったオランダ。その繁栄の縮図を見るかのようです。
肖像画ではフランス・ハルスに魅せられました。「ひだ襟をつけた男の肖像」です。胸に手を当て、こちらを見やる男の姿。眼差しは強く、何かを訴えかけるようでもあります。肉付きはよく、顔もやや赤らんでいて血色が良い。手には指輪をつけています。どのような地位にあるのでしょうか。モデルの生気、ないし人となりを巧みに吸い上げては表したかのような一枚です。筆は大胆で力強い。静かな熱気を帯びてもいます。

ピーテル・デ・ホーホ「女性と召使いのいる中庭」 1660-61年頃 油彩、カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー
風俗画ではヤン・ステーン、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホがいずれも力作揃い。甲乙つけ難いものがあります。あえて挙げるとしたらホーホの「女性と召使いのいる中庭」でしょうか。見通しの良い中庭。二人の女性が家事をしています。目の間に広がるのは何ら包み隠されない日常です。煉瓦の舗装は古びているのか所々屈曲しています。そして石灰塗りの壁も薄汚れていました。ポンプの側は水で錆びたのか赤茶けてもいます。座りながら片手で魚を取り出すのは召使い。反面に手前で手を伸ばしているのは女主人だそうです。すると奥からやってくる男は旦那でしょうか。都市に有り触れた戸外の景色の一コマを切り出して描いています。

ヨハネス・フェルメール「水差しを持つ女」 1662年頃 油彩、カンヴァス メトロポリタン美術館、ニューヨーク
フェルメールの「水差しを持つ女」は洗練の極みとも言うべき作品でした。画家のいわゆる成熟期を前にした一枚、文字通り女性が左手で水差しを持っていますが、彼女の動きはどちらかとすれば窓の方にありました。いわば「水差しを持ち、窓を開ける女」とも呼べる構図。つまり持っては開けています。同時の所作です。そっと窓を開けた右手には外の光がうっすらと差し込んでいました。そこから今度は壁、ないし水色の頭巾へと広がっています。また水差しと皿の下方で反射していました。ふと水差しの背が青いことに気づきました。彼女の後ろにある青い布が映っているのでしょう。見事なまでの視覚的な効果です。細かな画肌の質感も素晴らしい。一見、寡黙ではありますが、細部に立ち入るほど、多くを語りかけてくるかのような作品でもあります。

レンブラント・ファン・レイン「ベローナ」 1633年 油彩、カンヴァス メトロポリタン美術館、ニューヨーク
レンブラントの「ベローナ」は思いの外に温和な作品でした。ローマの戦いの女神であるベローナ、盾には生々しいまでのメドゥーサの首が装飾されていますが、ベローナ自身の顔立ち、ないし表情が穏やかでかつ優しい。母性としたら言い過ぎでしょうか。まるで見る者を包み込むかのように立っています。とても戦いの神のようには見えません。
鎧の描写に迫力がありました。兜や鎧には細かな金の装飾がなされています。スカートはビロードです。光は正面から当たってはベローナのみを煌々と照らします。背後にはうっすらアーチ状の建造物が見えました。ダイナミックなまでの光と影の対比です。神話上のモデルにどこか実在感を与えてもいます。

カレル・ファブリティウス「帽子と胴よろいをつけた男(自画像)」 1654年 油彩、カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー
レンブラントの弟子のファブリティウスが2点来ているのには驚きました。いわゆる自画像こと「帽子と胴よろいをつけた男」とアブラハム・デ・ポッテルの肖像」です。ファブリティウスは夭折の画家です。事故により32歳の若さで亡くなってしまいます。それゆえ現存する作品は僅か10点。近年、評価が高まっているそうです。うち今回の「自画像」は日本初公開でもあります。
フェルメールとレンブラントの点数云々を求めると厳しいかもしれません。ただ端的に質の高いオランダ絵画展として楽しめました。
地上のチケットブースにはチケット購入のための列が出来ていましたが、展示会場内はさほど混雑していませんでした。たださすがに目玉のフェルメールの「水差しの女」の前は黒山の人だかりです。最前列で見るには多少時間がかかりました。
[フェルメールとレンブラント展 巡回予定]
福島県立美術館:2016年4月6日(水)~5月8日(日)

3月31日まで開催されています。
「フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展」(@vermeer20152016) 森アーツセンターギャラリー
会期:1月14日(木)~3月31日(木)
休館:1月19日(火)
時間:10:00~20:00
*入館は閉館時間の30分前まで。
*ただし1月26日(火)、2月2日(火)、2月9日(火)、2月16日(火)、2月23日(火)は17時まで開館。
料金:一般1600(1400)円、高校・大学生1300(1100)円、4歳~中学生600(400)円。4歳以下無料。
*( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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