都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「勝川春章と肉筆美人画」 出光美術館
出光美術館
「生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画ーみやびの女性像」
2/20-3/27
出光美術館で開催中の「生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画ーみやびの女性像」を見てきました。
江戸中期の浮世絵師、勝川春章(1796~1792)。役者絵で人気を博しながら、晩年には美人画を多く描きました。
その美人画がずらりと揃います。出品は80点。タイトルに肉筆とありましたが、確かに偽りありません。全て肉筆画でした。
冒頭からハイライトと言うべき作品がお出ましです。その名も「美人鑑賞図」。最晩年の大作です。ワイドの大画面、広々とした邸宅にて軸画を見定めては談笑する女性が描かれています。じゃれ合う猫も可愛らしい。また、今まさに壁から掛け軸を取り出し、畳の上に広げ、何やらひそひそと会話する様子には動きもあります。映像的とするのは言い過ぎでしょうか。後景の庭園も見どころです。筆は緻密。一説では注文主に所縁のある六義園を意識したと言われています。さらに近年の研究によって鳥文斎栄之の錦絵の構図を引用したことも分かったそうです。ともかく雅やかです。春章美人画の魅力を十分に味わうことが出来ます。
さて今回の春章展ですが、いわゆる単独の回顧展ではありません。「美人鑑賞図」に続くのは前史です。近世風俗画以降、師宣から宮川長春まで、美人画の経緯を辿っています。
春草の画業は長春に連なりました。「立姿美人図」です。振り向きざまの美人、黒い衣装は粋でさえあります。また衣文には金を用いているそうです。杉村治兵衞の「立姿美人図」も目を引きました。寛文美人画の典型例とも言われる一枚、ややふっくらとして丸みを帯びた女性の姿が捉えられています。版画の多い中、絵師の比較的珍しい肉筆画でもあるそうです。
ほか師宣では「秋草美人図」に「二美人図」も美しい。ともかく美人画展、右も左も当然ながら美人画ばかり。目移りしてしまいました。
春章が本格的に美人画に取り組んだのは50歳前後です。展示ではその源流として上方の絵師を参照しています。中でも西川祐信の「詠歌美人図」が優品です。3名の女性が和歌を詠むのか短冊を手にしています。後ろには近江八景を表した屏風が置かれています。古典的なモチーフを取り込んでいます。
春章では「文を読む遊女図」や「桜下遊女図」、それに「柳下納涼美人図」などが際立っていました。うち「桜下遊女図」は清方の愛蔵品です。それに「柳下納涼美人図」も艶やか。夏に涼を取っているのか、女性がやや胸を開けてはくつろいでいます。上部は墨による柳の描写です。月は外隈の技法でしょうか。ぼんやりと浮かびます。なんとも風流な作品でした。
同時代の絵師についても言及があります。例えば礒田湖龍斎や窪俊満です。また酒井抱一も春章と同時期に美人画を描いています。
ほぼ同じモチーフの2点、礒田湖龍斎と勝川春章の「石橋図」の比較も興味深いのではないでしょうか。能や歌舞伎で演じられた故事。ともに華やかな着物を付けた女性が牡丹の花を手にしては踊っています。龍斎画はダイナミックです。やや屈むようにして牡丹を上下に激しく振っています。一方で春章は一口に言えば風雅です。所作は上品でかつ身のこなしは軽い。牡丹がふわりと風に靡いてはたわむ様子を表現しています。
この風雅ならぬみやび。タイトルにもあるように、春章美人画の特徴を示す言葉として重要です。現実に即しながらも、時に古典的な主題を呼び込み、より雅やかな美人画を制作しています。
一例が「雪月花図」や「婦人風俗十二か月」でした。前者ではどこか大和絵を彷彿させるべく繊細な描写が目を引きます。「婦人風俗十二か月」はいわゆる月次絵です。それを美人画として表しています。「正月」では羽根つきです。板を手にした美人の姿。今、突いたのでしょうか。上には羽が浮いています。
さらに「遊里風俗図」も素晴らしい。夏と冬、二つの季節の遊里を表した対の作品です。右が夏、左が冬でしょう。夏では簾越しに男女が寄り添っています。煙管を持ってはやや上の空で見つめ合う二人。おそらく交わされたであろう情愛の熱気も微かに残っています。冬では遊女たちが暖を取っていました。そばにはすらりと立つ遊女もいます。一体、何頭身あるのでしょうか。まるで清長を思わせる美人です。赤と黒の衣装も艶やか。さらに筆も細かい。布団や箪笥の模様の描写も隙がありません。
ラストは春章以降の展開です。歌麿に北斎、そして鳥文斎栄之。中でも歌麿が対比的です。春章が夢想的とするなら、歌麿は実在的ですらある。このようにキャプションでは紹介されていました。
作品は出光美術館のコレクションが中心です。これが殊更に充実。ほか一部に東京国立博物館や千葉市美術館、太田記念美術館などが加わります。また会期中、2~3の作品に展示替えがあります。
「勝川春章と肉筆美人画ーみやびの女性像」出品リスト(PDF)
「浮世絵美人解体新書/安村敏信/世界文化社」
春章の美人画、まさかここまで惚れるとは思いませんでした。3月27日まで開催されています。おすすめします。
「生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画ーみやびの女性像」 出光美術館
会期:2月20日(土)~3月27日(日)
休館:月曜日。但し3月21日は開館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
*3/15~3/27は「学生無料ウィーク」につき学生は無料。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
「生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画ーみやびの女性像」
2/20-3/27
出光美術館で開催中の「生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画ーみやびの女性像」を見てきました。
江戸中期の浮世絵師、勝川春章(1796~1792)。役者絵で人気を博しながら、晩年には美人画を多く描きました。
その美人画がずらりと揃います。出品は80点。タイトルに肉筆とありましたが、確かに偽りありません。全て肉筆画でした。
冒頭からハイライトと言うべき作品がお出ましです。その名も「美人鑑賞図」。最晩年の大作です。ワイドの大画面、広々とした邸宅にて軸画を見定めては談笑する女性が描かれています。じゃれ合う猫も可愛らしい。また、今まさに壁から掛け軸を取り出し、畳の上に広げ、何やらひそひそと会話する様子には動きもあります。映像的とするのは言い過ぎでしょうか。後景の庭園も見どころです。筆は緻密。一説では注文主に所縁のある六義園を意識したと言われています。さらに近年の研究によって鳥文斎栄之の錦絵の構図を引用したことも分かったそうです。ともかく雅やかです。春章美人画の魅力を十分に味わうことが出来ます。
さて今回の春章展ですが、いわゆる単独の回顧展ではありません。「美人鑑賞図」に続くのは前史です。近世風俗画以降、師宣から宮川長春まで、美人画の経緯を辿っています。
春草の画業は長春に連なりました。「立姿美人図」です。振り向きざまの美人、黒い衣装は粋でさえあります。また衣文には金を用いているそうです。杉村治兵衞の「立姿美人図」も目を引きました。寛文美人画の典型例とも言われる一枚、ややふっくらとして丸みを帯びた女性の姿が捉えられています。版画の多い中、絵師の比較的珍しい肉筆画でもあるそうです。
ほか師宣では「秋草美人図」に「二美人図」も美しい。ともかく美人画展、右も左も当然ながら美人画ばかり。目移りしてしまいました。
春章が本格的に美人画に取り組んだのは50歳前後です。展示ではその源流として上方の絵師を参照しています。中でも西川祐信の「詠歌美人図」が優品です。3名の女性が和歌を詠むのか短冊を手にしています。後ろには近江八景を表した屏風が置かれています。古典的なモチーフを取り込んでいます。
春章では「文を読む遊女図」や「桜下遊女図」、それに「柳下納涼美人図」などが際立っていました。うち「桜下遊女図」は清方の愛蔵品です。それに「柳下納涼美人図」も艶やか。夏に涼を取っているのか、女性がやや胸を開けてはくつろいでいます。上部は墨による柳の描写です。月は外隈の技法でしょうか。ぼんやりと浮かびます。なんとも風流な作品でした。
同時代の絵師についても言及があります。例えば礒田湖龍斎や窪俊満です。また酒井抱一も春章と同時期に美人画を描いています。
ほぼ同じモチーフの2点、礒田湖龍斎と勝川春章の「石橋図」の比較も興味深いのではないでしょうか。能や歌舞伎で演じられた故事。ともに華やかな着物を付けた女性が牡丹の花を手にしては踊っています。龍斎画はダイナミックです。やや屈むようにして牡丹を上下に激しく振っています。一方で春章は一口に言えば風雅です。所作は上品でかつ身のこなしは軽い。牡丹がふわりと風に靡いてはたわむ様子を表現しています。
この風雅ならぬみやび。タイトルにもあるように、春章美人画の特徴を示す言葉として重要です。現実に即しながらも、時に古典的な主題を呼び込み、より雅やかな美人画を制作しています。
一例が「雪月花図」や「婦人風俗十二か月」でした。前者ではどこか大和絵を彷彿させるべく繊細な描写が目を引きます。「婦人風俗十二か月」はいわゆる月次絵です。それを美人画として表しています。「正月」では羽根つきです。板を手にした美人の姿。今、突いたのでしょうか。上には羽が浮いています。
さらに「遊里風俗図」も素晴らしい。夏と冬、二つの季節の遊里を表した対の作品です。右が夏、左が冬でしょう。夏では簾越しに男女が寄り添っています。煙管を持ってはやや上の空で見つめ合う二人。おそらく交わされたであろう情愛の熱気も微かに残っています。冬では遊女たちが暖を取っていました。そばにはすらりと立つ遊女もいます。一体、何頭身あるのでしょうか。まるで清長を思わせる美人です。赤と黒の衣装も艶やか。さらに筆も細かい。布団や箪笥の模様の描写も隙がありません。
ラストは春章以降の展開です。歌麿に北斎、そして鳥文斎栄之。中でも歌麿が対比的です。春章が夢想的とするなら、歌麿は実在的ですらある。このようにキャプションでは紹介されていました。
作品は出光美術館のコレクションが中心です。これが殊更に充実。ほか一部に東京国立博物館や千葉市美術館、太田記念美術館などが加わります。また会期中、2~3の作品に展示替えがあります。
「勝川春章と肉筆美人画ーみやびの女性像」出品リスト(PDF)
「浮世絵美人解体新書/安村敏信/世界文化社」
春章の美人画、まさかここまで惚れるとは思いませんでした。3月27日まで開催されています。おすすめします。
「生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画ーみやびの女性像」 出光美術館
会期:2月20日(土)~3月27日(日)
休館:月曜日。但し3月21日は開館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
*3/15~3/27は「学生無料ウィーク」につき学生は無料。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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