都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「勝川春章ー北斎誕生の系譜」 太田記念美術館
太田記念美術館
「生誕290年記念 勝川春章ー北斎誕生の系譜」
2/2~3/27
太田記念美術館で開催中の「生誕290年記念 勝川春章ー北斎誕生の系譜」を見てきました。
一部、出光美術館と会期を同じくして行われている勝川春章展。出光が晩年の肉筆美人画に着目しているのに対し、ここ太田はほぼ全てが版画です。絵師の画業の中核ともいうべき役者絵、相撲絵、武者絵などを一堂に展示しています。
「勝川春章と肉筆美人画」 出光美術館(はろるど)
勝川春章 「五代目市川団十郎の坂田金時 三代目瀬川菊之丞の女暫」(前期)
まずは役者絵です。春章はいわば開拓者。それまで主流だった鳥居派とは異なり、役者の似顔をリアルに捉えた作品を生み出します。大変な評判を得たそうです。「東扇 初代中村仲蔵」は縦に切り取った扇面の中に役者を描いたもの。ちょうど刀を抜いては身を乗り出そうとする姿を捉えています。口元には髭。そしてへの字口。やはり本人に似ていたのでしょうか。胸元がはだけて筋肉が浮き上がっています。線は至極細い。簡潔ながらも巧みに身体の形態を捉えています。無駄がありません。
勝川春章「ふた月 たなばた 草市」(前期)
美人画は当初、春信のスタイルに倣ったそうです。北尾重政と春章の合作、「かいこやしなひ草」に目がとまりました。全12点の連作、うち出品は前後期で半々ずつです。女性たちが蚕の飼育や生糸を煮たり、機織りする姿などを描いています。うち場面の「八」は春章の手によるもの。当時の蚕は飛ぶことが出来たのでしょうか。蚕が何匹も宙を舞っています。それを追いかけてはしゃぐ子供たち。さらに横で見遣るのが女性です。美しい立ち姿。確かに春信風です。優しげで中性的な女性像が表現されています。
相撲絵は春章が確立しました。天明2年、大関だった谷川梶之助は63連勝中。さらに勝ち星を重ねるべく小野川喜三郎と対戦。しかしあえなく敗れ、連勝がストップしました。両力士は大変な人気を博していたそうです。ゆえの相撲ブーム。ここでも春章は似絵の技法を用いて力士の姿を表しました。
さらに風景画や武者絵と続きます。風景画では浮絵に由来する独特の遠近法が特徴的です。さらに武者絵。ここで三枚綴りを初めて導入したのが春章でした。先に開拓者と呼びましたが、ともかく様々なジャンルを手がけ、また時に新たな表現を切り開く。大変なチャレンジャーです。これほど芸達者な浮世絵師とは思いませんでした。
さてタイトルにもある「北斎の誕生」。いわばポスト春章にも踏み込んで紹介しています。
一番弟子の春好、そして春英も知られるところですが、またもう一人、春朗と名乗り、春章門下で浮世絵を描いていた人物がいました。それが若き葛飾北斎です。
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(後期)
北斎は18歳の頃に入門。春朗の名を与えられます。そこで役者絵や風景画を学びました。35歳までは勝川一門で活動したそうです。師も描いた「初代 中村仲蔵」に忠臣蔵。後に北斎は自らのスタイルを確立し、いわゆる勝川派の面影はありませんが、風景画などには一部影響が見られるという指摘もあります。春朗期から北斎期へ至る作品が思いの外にたくさんありました。変遷の一端を伺うことも出来るでしょうか。ラストを飾るのは「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」でした。
さて会期は最終盤。後期期間中です。既にほぼ全ての作品が入れ替わりました。(出品リスト)
前期:2016年2月2日(火)~2月28日(日)
後期:2016年3月4日(金)~3月27日(日)
出光との相互割引制度もあります。ともに観覧チケットを提示するとそれぞれの入館料が100円引になります。(1枚につき1人、1回限り有効。)明治神宮前の太田記念と日比谷の出光美術館は千代田線で一本。おそらくこのクラスの春章展はもうしばらくありません。行き来して楽しむのも良いのではないでしょうか。
両美術館の展示に接して、これまであまりイメージの湧かなかった春章が身近になったような気もします。ともに好企画でした。
「生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画-〈みやび〉の女性像展」@出光美術館
2月20日(土)~3月27日(日)
3月27日まで開催されています。
「生誕290年記念 勝川春章ー北斎誕生の系譜」 太田記念美術館(@ukiyoeota)
会期:2月2日(火)~3月27日(日)
休館:月曜日。但し3月21日は開館。翌22日は休館。及び展示替え期間(3月1日~3日)。
時間:10:30~17:30(入館は17時まで)
料金:一般700円、大・高生500円、中学生以下無料。
住所:渋谷区神宮前1-10-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。
「生誕290年記念 勝川春章ー北斎誕生の系譜」
2/2~3/27
太田記念美術館で開催中の「生誕290年記念 勝川春章ー北斎誕生の系譜」を見てきました。
一部、出光美術館と会期を同じくして行われている勝川春章展。出光が晩年の肉筆美人画に着目しているのに対し、ここ太田はほぼ全てが版画です。絵師の画業の中核ともいうべき役者絵、相撲絵、武者絵などを一堂に展示しています。
「勝川春章と肉筆美人画」 出光美術館(はろるど)
勝川春章 「五代目市川団十郎の坂田金時 三代目瀬川菊之丞の女暫」(前期)
まずは役者絵です。春章はいわば開拓者。それまで主流だった鳥居派とは異なり、役者の似顔をリアルに捉えた作品を生み出します。大変な評判を得たそうです。「東扇 初代中村仲蔵」は縦に切り取った扇面の中に役者を描いたもの。ちょうど刀を抜いては身を乗り出そうとする姿を捉えています。口元には髭。そしてへの字口。やはり本人に似ていたのでしょうか。胸元がはだけて筋肉が浮き上がっています。線は至極細い。簡潔ながらも巧みに身体の形態を捉えています。無駄がありません。
勝川春章「ふた月 たなばた 草市」(前期)
美人画は当初、春信のスタイルに倣ったそうです。北尾重政と春章の合作、「かいこやしなひ草」に目がとまりました。全12点の連作、うち出品は前後期で半々ずつです。女性たちが蚕の飼育や生糸を煮たり、機織りする姿などを描いています。うち場面の「八」は春章の手によるもの。当時の蚕は飛ぶことが出来たのでしょうか。蚕が何匹も宙を舞っています。それを追いかけてはしゃぐ子供たち。さらに横で見遣るのが女性です。美しい立ち姿。確かに春信風です。優しげで中性的な女性像が表現されています。
相撲絵は春章が確立しました。天明2年、大関だった谷川梶之助は63連勝中。さらに勝ち星を重ねるべく小野川喜三郎と対戦。しかしあえなく敗れ、連勝がストップしました。両力士は大変な人気を博していたそうです。ゆえの相撲ブーム。ここでも春章は似絵の技法を用いて力士の姿を表しました。
さらに風景画や武者絵と続きます。風景画では浮絵に由来する独特の遠近法が特徴的です。さらに武者絵。ここで三枚綴りを初めて導入したのが春章でした。先に開拓者と呼びましたが、ともかく様々なジャンルを手がけ、また時に新たな表現を切り開く。大変なチャレンジャーです。これほど芸達者な浮世絵師とは思いませんでした。
さてタイトルにもある「北斎の誕生」。いわばポスト春章にも踏み込んで紹介しています。
一番弟子の春好、そして春英も知られるところですが、またもう一人、春朗と名乗り、春章門下で浮世絵を描いていた人物がいました。それが若き葛飾北斎です。
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(後期)
北斎は18歳の頃に入門。春朗の名を与えられます。そこで役者絵や風景画を学びました。35歳までは勝川一門で活動したそうです。師も描いた「初代 中村仲蔵」に忠臣蔵。後に北斎は自らのスタイルを確立し、いわゆる勝川派の面影はありませんが、風景画などには一部影響が見られるという指摘もあります。春朗期から北斎期へ至る作品が思いの外にたくさんありました。変遷の一端を伺うことも出来るでしょうか。ラストを飾るのは「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」でした。
さて会期は最終盤。後期期間中です。既にほぼ全ての作品が入れ替わりました。(出品リスト)
前期:2016年2月2日(火)~2月28日(日)
後期:2016年3月4日(金)~3月27日(日)
出光との相互割引制度もあります。ともに観覧チケットを提示するとそれぞれの入館料が100円引になります。(1枚につき1人、1回限り有効。)明治神宮前の太田記念と日比谷の出光美術館は千代田線で一本。おそらくこのクラスの春章展はもうしばらくありません。行き来して楽しむのも良いのではないでしょうか。
両美術館の展示に接して、これまであまりイメージの湧かなかった春章が身近になったような気もします。ともに好企画でした。
「生誕290年記念 勝川春章と肉筆美人画-〈みやび〉の女性像展」@出光美術館
2月20日(土)~3月27日(日)
3月27日まで開催されています。
「生誕290年記念 勝川春章ー北斎誕生の系譜」 太田記念美術館(@ukiyoeota)
会期:2月2日(火)~3月27日(日)
休館:月曜日。但し3月21日は開館。翌22日は休館。及び展示替え期間(3月1日~3日)。
時間:10:30~17:30(入館は17時まで)
料金:一般700円、大・高生500円、中学生以下無料。
住所:渋谷区神宮前1-10-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。
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