「国芳イズム」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「国芳イズムー歌川国芳とその系脈 武蔵野の洋画家 悳俊彦コレクション」 
2/19~4/10



練馬区立美術館で開催中の「国芳イズムー歌川国芳とその系脈 武蔵野の洋画家 悳俊彦コレクション」を見てきました。

「幕末浮世絵の大スター」(美術館サイトより)こと歌川国芳(1797~1861)。武者に妖怪、そして怨霊に猫にだまし絵。浮世絵好きなら国芳画の一点や二点を挙げるのも難しくはありません。

国芳は多くの門人や弟子を抱えていたそうです。だからこその「国芳イズム」。国芳を筆頭に、彼の影響を受けた絵師を一堂に展観しています。

もちろんはじまりは国芳です。「流行逢都絵希代稀物」は大津絵からモチーフの飛び出した作品。いわばおとぎ話です。中央にいる絵師は国芳本人です。床に座っては忙しそうに筆を走らせています。その周りを大津絵の中の人物が囲んでいます。顔は役者です。実は天保の改革で役者絵が禁止されたため、それを逆手にとって表現しました。国芳らしい機知が伺えるのではないでしょうか。

役者絵で代表的なのは水滸伝です。うち「通俗水滸伝豪傑百八人之内 短命二郎阮小吾」の舞台は水の中。刀を持つ阮小吾。周囲にはエイが泳ぎ、タコが綱に絡んでいます。国芳自身も素潜りの名人だったそうです。自らの経験を活かして描いた一枚かもしれません。


歌川国芳「相馬の古内裏」

人気作も網羅しています。例えば「清盛入道布引滝遊覧 悪源太義平霊討難波次郎」です。雷の大スパーク。中央の闇はまるでブラックホールです。全てをのみ尽くさんとばかりに広がっています。さらに「相馬の古内裏」もよく知られた一枚です。滝夜叉姫が骸骨の妖怪を召喚。何度見ても迫力のある構図です。ぬっと、いやドカンと言わんばかりに現れた妖怪。物凄いインパクトです。それこそ夢にでも出てきます。

「讃岐院眷属をして為朝をすくう図」も代表作と言えるのではないでしょうか。うねる荒波に巨大な鰐鮫。口を大きく開けて見るも恐ろしい。ただし鮫は海に揉まれた為朝を助けにやってきたものです。ともかくダイナミック。映像的としたら語弊があるでしょうか。思わず手に汗を握ってしまいます。

さらに国芳といえば猫です。特に興味深いのが「鼠除けの猫」でした。一匹の猫がやや斜め上を見ています。どこか得意げでもあり可愛らしい。しかしそれだけではありません。謂われがポイントです。絵の中に「これを貼っていくと鼠が出て来なくなる」と記されています。つまりまじない絵です。もしや実際に貼っていたのでしょうか。作品自体もうっすら変色しています。もちろん真偽は不明。ただし現存するのは2例しか確認されていません。その意味では大変に貴重な作品と言えそうです。

それに吉原に集う人々を雀たちの姿に変えた「里すずめねぐらの仮宿」も楽しい。かつてスカイツリーを半ば予言したとして話題となった「東都 三ツ股の図」もありました。例の巨大櫓。とてもとても高い。富岡の相撲櫓を描いたと言われていますが、姿形が妙にツリーと似ています。都市伝説と化すのも無理はありません。

さて後半は「国芳イズム」。まずは一門です。登場するのは28名。有名どころでは落合芳幾、河鍋暁斎、月岡芳年。さらに来歴不明の絵師までを網羅しています。

歌川芳藤はどうでしょうか。国芳の門人です。元は師に倣って武者絵を制作していましたが、明治以降は玩具絵専門として活躍。「玩具絵の芳藤」とまで称されたそうです。また歌川芳員は横浜で外国人を多く描きました。ゆえに横浜絵の先駆者としても知られています。

国芳の猫に対し、暁斎は蛙。「風流蛙大合戦之図」が目を引きます。まさしくカエルたちの大合戦。槍を持ち、大砲ならぬ水鉄砲を放っては戦うカエル。大迫力のパノラマ画です。よく見ると生首が転がり、血が吹き出したりしています。生々しい。長州征伐を置き換えたと言われています。


月岡芳年「魁題百撰相 菅谷九右エ門」

その血みどろといえば芳年です。「魁題百撰相 菅谷九右エ門」も凄まじいもの。頬に深い傷を負った武士の姿。血が流れてはこびりついています。これぞ無残絵の芳年の真骨頂とも呼べるのではないでしょうか。

「国芳イズム」には重要な絵師がいます。尾形月耕、山本昇雲、小林永濯の3名です。いずれも明治以降に活動しました。まずは尾形月耕です。独学ながらも芳年、暁斎と親交があり、絵画を制作。肉筆画が多いのも特徴です。うち「花美人名所合 亀戸臥龍梅」は、雪の降り積もる中を二人の女性が歩く様子を描いたもの。春を目前にしての大雪でしょうか。抒情的です。清方画を連想させるものがあります。


小林永濯「猫図」

小林永濯は狩野派に学びました。さらに明画や洋画も摂取。それゆえでしょうか。とても筆が細い。例えば「猫図」です。猫が目を見開きながら手を舐めています。獲物を前にしているのでしょうか。なにやら不敵な笑みを浮かべているようにさえ見えます。毛の描写が繊細です。毛羽立つ様子を見事に表現しています。

幕末から大きく変革した明治。画題も国芳の時代とは大きく異なっています。山本昇雲は日章旗を持って行進する子供たちの姿を描きました。銃剣を持ってなにやら勇ましい。時は明治28年です。日清戦争に因んでの光景かもしれません。

なお本コレクションは武蔵野の風景を描いた洋画家、悳俊彦(いさおとしひこ)氏によるもの。これほど膨大な作品を個人で所有しているとは驚くばかりです。ラストには悳の絵画作品もあわせて紹介されています。

出品数は全230点。うち国芳は半数弱、ほかがいわゆる「国芳イズム」の絵師の作品です。その意味ではタイトルに偽りもありません。

「国芳イズム 歌川国芳とその系脈/青幻舎」

会期は3期制です。一部作品に展示替えがあります。

前期:2月19日~3月13日
中期:3月15日~3月27日
後期:3月29日~4月10日

ともかく人気の国芳。昨年のそごう美術館での「浮世絵師 歌川国芳」しかり、もう間もなくBunkamuraではじまる「俺たちの国芳 わたしの国貞」など、関連する展示が続いています。


小林永濯「鞠遊び美人」

国芳とポスト国芳を俯瞰することで改めて国芳の魅力を知る。知られざる絵師に思いがけない魅惑的な作品も少なくありません。



4月10日まで開催されています。

「国芳イズムー歌川国芳とその系脈 武蔵野の洋画家 悳俊彦コレクション」 練馬区立美術館
会期:2月19日(金)~4月10日(日) 
休館:月曜日。*但し3月21日(月・祝)は開館、翌22日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(600)円、大・高校生・65~74歳600(500)円、中学生以下・75歳以上無料
 *( )は20名以上の団体料金。
 *ぐるっとパス利用で300円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
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