「第19回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館

川崎市岡本太郎美術館
「第19回 岡本太郎現代芸術賞展」 
2/3-4/10



川崎市岡本太郎美術館で開催中の「第19回 岡本太郎現代芸術賞展」を見てきました。

毎年恒例、現代美術家の活動を紹介する岡本太郎現代芸術賞。今回も「ベラボーな」(公式サイトより)作品を求めて公募が行われました。集まった作品は全部で485点。うち審査を経て入選した23組の作家の作品が展示されています。


折原智江「ミス煎餅」

入口正面、一際目立っていました。折原智江の「ミス煎餅」です。見ての通り「折原之墓」と記された墓石。白い石の上に鎮座しています。背後には卒塔婆。横には墓誌もありました。かなり精巧です。ただし全体的にやや黄色がかった薄いオレンジ色をしています。はじめは何で出来ているのか分かりませんでした。

少し近寄ると醤油の香りが漏れ出ていることに気がつきました。ずばり煎餅です。なんと煎餅のお墓。作家の生家が煎餅屋を営んでいるそうです。一枚一枚、型をとっては焼き上げたのでしょうか。思いもよらぬ素材を利用しています。


三宅感「青空があるでしょう」

最高賞である岡本太郎賞を受賞したのが三宅感です。タイトルは「青空があるでしょう」。デコラティブな彫刻が空間を囲んでいます。モチーフには人体、また親子でしょうか。幼い子どもの姿も見えます。そして哺乳瓶や花、フライパンのほか、何やら判然としない突起物もあります。中央は口を開けた男がいました。これ見よがしに性器を露出しています。色に形しかり、表現からして鮮烈です。どことなくエネルギッシュな岡本太郎の作品を連想させます。


三宅感「青空があるでしょう」(部分)

実際のところテーマは人生でした。作家の生き様を前史から反映させたのでしょうか。夢、母体、子供心、自我、生活、仕事、そして誕生と死という7つのパートからなっています。人世史を未来を見据えて紐解く巨大壁画。迫力は十分でした。


井田大介「Viewpoint of God」

半裸の男がピストルを構えています。井田大介の「Viewpoint of God」です。背後にはピンク色に光るサークル。太陽でしょうか。そして銃口の先で向き合うのは黒いマントに身を包んだ老人。やはりピストルを手にしています。腰布をつけた男の体は傷だらけです。頭にはいばらの冠をつけています。イエスでしょう。かなり生々しい。彫刻としても存在感があります。


関川耕嗣「ムシトリ」

緑色の水辺が広がります。関川耕嗣の「ムシトリ」です。モチーフとなるのは作家が採取したり飼育した生き物。それをパネル状に表現しています。一枚ではなく何枚か合わせ重なっているのもポイントです。ゴロゴロと転がる石や生い茂る草。トンボが飛び、亀が泳ぎ、蛙がいました。床一面での展開です。しばし自然の風や草の匂いを想像しながら屈んで見入りました。


三角瞳「Vacant」

タンボール箱から溢れ出ているのは何と学生でした。三角瞳の「Vacant」です。空疎、ないしは間の抜けたなどを意味する言葉。箱にも記載されています。学生を象るのは紙一枚。ペラペラで実体をなしません。それにしても何枚あるのでしょうか。まるで死体のように積み上がっています。見るも無残な光景です。そして皆、リクルートスーツを着ていました。手前にはまるで売り物のように吊るされた女子大生もいます。作家の言葉を借りれば「値踏みされて、消費される人生」。社会に対してのメッセージが込められています。


坪井康宏「児島荘2号室」

ブルーシートを描ききっています。坪井康宏の「児島荘2号室」です。ちょうど四畳半。天井には和室用の照明器具がぶら下がっています。そして一面の青。ブルーシートです。ピンと張りつめられています。まさに本物と見間違うばかり。実は油絵です。あまりにもよく描かれているため、絵具特有の匂いがなければ俄かには分からないかもしれません。


横山奈美「逃れられない運命を受け入れること」

油絵といえば横山奈美も迫力がありました。黒を背景に浮かび上がる白い物体。トイレットペーパーだそうです。全て使われて芯のみ。折られているのは捨てるからでしょう。特異なのは縦2メートル50センチ超の麻布に描かれていることです。大きい。作家はこれを「モノリス」とも呼んでいます。確かに物静かながらも有無を言わさない実在感。神々しくさえあります。引き込まれました。


笹岡由梨子「Atem」

私が一番惹かれたのが笹岡由梨子です。特別賞を受賞。タイトルは「Atem」。映像インスタレーションです。赤いカーテンに囲まれたスペース。劇場を模したのでしょうか。正面には「いきおう」の題字とスクリーン。そこにはプールを前にして人形を操る子どもたちの姿が映されています。ただよく見ると顔は大人です。子どもの身体に大人の顔と表情。何でも作家自身だそうです。はめ込みの映像でしょうか。実写とアニメーションが奇妙な形でシンクロしています。


笹岡由梨子「Atem」

スクリーンの手前には実際に水の張られたプールがありました。これがまたさらに映像とシンクロします。映像の中でブクブクと泡を吹くと、プールにも泡が立ち始めました。映像世界が現実の舞台装置へと拡張しています。

出口横では恒例の「お気に入り作品を選ぼう」投票コーナーも展開。一人一票で気に入った作品を選ぶことが出来ます。(3/21まで)


「お気に入り作品を選ぼう」投票コーナー

私が出かけた時は三宅感と笹岡由梨子が僅差で1位、2位争いをしていました。いわゆるオーディエンス賞の設定はありませんが、投票結果は後に同館のWEBサイトで公開されるそうです。


「第19回 岡本太郎現代芸術賞展」会場風景

毎年、何気なく楽しみにしている展覧会でもあります。4月10日まで開催されています。

「第19回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館
会期:2月3日(水)~ 4月10日(日)
休館:月曜日。但し3月21日を除く。祝日の翌日(土曜日、日曜日は除く)、2月12日(金)、3月22日(火)。
時間:9:30~17:00
料金:一般600(480)円、大・高生・65歳以上400(320)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *常設展も観覧可。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
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