「馬鑑 山口晃展」 馬の博物館

馬の博物館
「馬鑑 山口晃展」
3/26-5/29



馬の博物館で開催中の「馬鑑 山口晃展」を見てきました。

絵画のみならず、インスタレーションほか、著述などでも幅広く活動する現代美術家の山口晃。神奈川での展覧会は意外と珍しいのではないでしょうか。

テーマはずばり馬。振り返れば、山口の作品にはバイクと馬を一体化させた表現しかり、頻繁に馬が登場します。出品はおおよそ20点。ほぼ旧作でした。


山口晃「日清日露戦役擬畫」より「フランス重騎兵」 2002年

ただ単純に山口の馬をモチーフとした作品があるだけではありません。博物館とのコラボレーションです。館蔵の馬に関する作品も出展。近世の屏風や浮世絵、刀、鞍なども20点ほど展示されています。


山口晃「おばか軍本陣圖」 2001年 高橋コレクション

このコラボが思いの外に面白い。例えば山口の「おばか軍本陣圖」です。縦に隊列を組む武者たち。馬に跨ってはひしめき合っています。もちろん馬には件のサイボーグ馬もいます。ちょうど弧の字を描くような列です。ただし方向の行く末は不明。そもそもどちらに動いているのか分かりません。どこか一定のパターンの連続した図像的な作品でもあります。

「本陣圖」と隣にあるのが「陣形図屏風」です。8曲1隻、江戸時代後期の作品です。やはり隊列を組む武士が描かれています。足軽に騎馬隊でしょうか。興味深いのは余白です。隊列は互いに間隔を開けています。しばらく眺めていると人文字のように見えてきました。その意味ではモチーフを反復させて一定のパターンを表しているようにも映ります。


「厩図屏風」(部分) 桃山時代 馬の博物館

山口の「厩図」は2点。その間に挟まれたのが桃山時代の「厩図屏風」でした。山口の馬はもちろんバイク馬です。人も洋服であったり烏帽子姿であったりと様々。一方で桃山の屏風にも馬や人が描かれています。時代もモチーフも異なるとはいえ厩舎は厩舎です。親和性という言葉で表しても良いのではないでしょうか。ともかく新旧の作品が互いに響きあうかのように展示されているのです。

江戸初期の「洛中洛外図屏風」に対峙するのは「東京圖」でした。そしてこれらの館蔵の近世絵画自体が殊更に良い。同屏風も筆はかなり緻密です。左に三条大橋に右に三十三間堂。人々も細かい。お祭りで賑わう京都市中が生き生きと表現されています。

歌川芳虎の「東京日本橋風景」に向き合うのは「新東都名所 東海道中 日本橋改」でした。一番下が現在の石造りの橋。その上に高速道路、さらに一番上に江戸時代の木製の橋が架かるという三層の日本橋です。もちろんありえないとはいえ、実現したらさぞや楽しいのではないでしょうか。過去、現在、さらに空想を伴う未来が日本橋で交差しています。


「保元合戦図屏風」 江戸時代 馬の博物館

ほか山口の「九相圖」に馬の頭蓋骨の実物を合わせ並べるなどの工夫もあります。会場中央で馬にまたがる武士も勇ましい。身につけるのは南蛮胴鎧です。あまりにも美しいので復元品かと思いきや、桃山時代のものでした。

さて今回の山口展、これらの絵画のほかにもう一つ見どころがあります。それがインスタレーションです。



というのも、会場内にかつて岩手の遠野にあり、博物館へ移築された「曲り家」を再現したコーナーがありますが、ここで山口がちょっとした仕掛けを行っているのです。(曲り家内は撮影可能でした。)



「曲り家」そのものは天保年間の建築。手前が馬屋と土間です。奥に座敷が広がっています。もちろん民具などは当時を再現したもの。いわば江戸時代の暮らしを目に出来るわけですが、山口はあえてそこへ「現代」を持ち込みました。(キャプションも要注目です。)



ともすれば気がつかないような仕掛け。ただ気づけばにやりとさせられるような面白さもあります。さらにうっかり通り過ぎてしまうような曲り家の入口にも細工がなされていました。古いものと新しいものが混在する空間。その意味では山口の絵画世界を引き寄せた展示と言えるかもしれません。


山口晃「大山崎交通乃圖」 2008年 *撮影可能パネル

なおチラシに「新作『厩図』の披露(予定)」とありましたが、私が見た初日の段階ではまだ全く出来ていませんでした。おそらく会期末になるのではないかと思われます。カタログに準じる記念冊子の刊行も時期未定だそうです。こちらも気長に待ちましょう。

ところで会場の馬の博物館ですが、私は今回初めて行きました。

最寄駅は根岸線の根岸駅か山手駅。ともに歩いて15分から20分ほどです。住所に根岸台とあるように高台の一角、根岸森林公園の入口に位置します。バスも有用です。横浜駅、および桜木町駅から博物館の目の前を通る市営バスが運行されています。(滝の上バス停)実際、桜木町からバスを利用しましたが、所要時間はおおよそ30分でした。



根岸森林公園が思いの外に広大です。ちょうど丘の上だからでしょうか。見晴らしも良い。とても居心地の良い場所でした。



公園内には桜の木も多数。市内でも有数の名所だそうです。私が出かけた日はまだ僅かでしたが、おそらく今週末、4月2、3日には見頃を迎えるのではないでしょうか。

一帯はかつての競馬場。近代競馬発祥の地である根岸競馬場の跡地です。博物館自体もそれを記念して建てられています。



ちょうど博物館から向かって公園の反対側に根岸競馬場の面影を伝える遺構が残されていました。それが観覧席です。当時は一等馬見所と呼ばれた施設。かなり巨大です。建設は昭和5年。アメリカ人のJ・Hモーガンにより設計されました。



観覧席側は米軍の施設。ゆえに立ち入り禁止区域です。中に入ることはおろか、正面から見ることも出来ません。一方で裏手からは見物が可能でした。ともかく目を引くのは大きな三つの塔です。かつてエレベーターの塔として利用されていたそうです。



建物自体はかなり傷んでいましたが、細部にはレリーフも施され、どこかヨーロッパの教会建築のような雰囲気も漂わせています。



2009年には近代化産業遺産に指定されました。ただし修復などはなされず、ほぼ放置の状態だそうです。博物館にお出かけの際は遺構もあわせて見学されることをおすすめします。

チラシに2名分の入館料無料券が付いていました。事前にほかの美術館で入手すると実質無料で観覧できます。



5月29日まで開催されています。

「馬鑑 山口晃展」 馬の博物館
会期:3月26日(土)~5月29日(日)
休館:月曜日。但し3月28日、4月4日、5月2日は開館。
時間:10:00~16:30
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般200円、小中高生30円。中小学生以下無料。
 *20名以上の団体は半額。
 *毎週土曜日は小中高生無料。
住所:横浜市中区根岸台1-3 根岸競馬記念公苑
交通:JR線根岸駅・山手駅から徒歩約15分。JR根岸駅2番乗り場から横浜市営バス21系統桜木町駅行きに乗車、滝の上下車すぐ。JR桜木町駅3番乗り場から横浜市営バス21系統市電保存館行きに乗車、滝の上下車すぐ。JR横浜駅東口7番乗り場から横浜市営バス103系統根岸台・本牧車庫に乗車、滝の上下車すぐ。
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