「没後100年 宮川香山」 サントリー美術館

サントリー美術館
「没後100年 宮川香山」 
2/24-4/17



サントリー美術館で開催中の「没後100年 宮川香山」を見てきました。

明治から大正にかけ、「欧米諸国を席巻」(チラシより)する陶芸を生み出した宮川香山(1842~1916)。それゆえか作品はかつて海外に多く、なかなか国内に残っていなかったそうです。

そうした香山の作品を約半世紀に渡って探し歩いた人物がいました。田邊哲人氏です。同氏は香山の研究者でもあり、またコレクター。世界中から作品を買い集め、今では国内随一のコレクションを築き上げました。

会場内には田邊氏の香山コレクションがずらり。約150点です。一部に国内の美術館や博物館の館蔵品も含みます。

さて宮川香山、生まれは京都です。陶工の家に育ちます。幼い時から父より陶磁器の技法を学びました。10代の頃には早くも家督を継いだそうです。

香山の目は早い段階で外国へ向いていたのかもしれません。1870年(明治3年)、開港間もない横浜へと移住。窯を構えます。その後、明治政府の政策にも則り、主に輸出用の陶器を次々と生産。いわゆる「高浮彫」(たかうきぼり)と呼ばれる装飾的な陶器を作り出しました。

それにしても香山の焼き物、一目見るだけで頭に焼き付く強烈なビジュアルです。

例えばチラシ表紙を飾る「高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指」。ともかくは猫です。牡丹をあしらった水指の蓋に座っています。何やら身をくねらせては顔を舐めるような仕草。目覚めの表情を示しているそうです。それにしても何故に猫なのでしょうか。ただし技術は驚くほど精巧で素晴らしい。猫の口の中の歯や足裏の肉球にまで緻密に再現しています。


「高取釉高浮彫蟹花瓶」 宮川香山 大正5年(1916) 田邊哲人コレクション

「高浮彫」と聞いて思い浮かぶのが蟹です。その名も「高取釉高浮彫彫蟹花瓶」。楕円形をした花瓶の側面に二匹の蟹が這いつくばっています。やや緑色がかった蟹の甲羅は生々しい。迫真的です。今にも泡を吐き出しそうなほどです。まるで生きているような蟹の姿。思わず今、目の前にあるものが陶器であることを忘れてしまいます。

展示室内の一部の撮影が出来ました。


「高浮彫桜二群鳩三連壺」 明治時代後期(19世紀後期) 宮川香山 田邊哲人コレクション(神奈川県立歴史博物館寄託)

「高浮彫桜二群鳩三連壺」はどうでしょうか。モチーフは桜の古木と鳩です。さも壺が止まり木、そこへ鳩が飛来したかのようです。下絵には雀が描かれています。バラの花もありました。もちろんこちらは絵だけに平面的です。浮彫の三次元と下絵の二次元が合わせ重なります。上下の二つの景色を一度に楽しむことが出来ました。


「高浮彫蛙武者合戦花瓶」 宮川香山 明治時代前期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション(神奈川県立歴史博物館寄託) 

カエルもいます。「高浮彫蛙武者合戦花瓶」です。水流に草花の絵の上にいる蛙。ただし擬人化されています。一匹は大将であり、またもう一匹は旗を持つ武士のようでもあります。扇を広げては口を開けていました。勝どきを挙げているのでしょうか。舞台上の演者のように表情が豊かです。ちなみに纏には「大日本」と記されています。これぞ西洋人の抱く日本のイメージなのでしょうか。珍奇の目を持って迎えられたのかもしれません。


「高浮彫桜二群鳩大花瓶」 明治時代前期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション

ともかく香山の「高浮彫」、いずれも超絶技巧の極みです。岩には本物と見間違うような苔が生え、菊の花弁はうっすら透き通るように柔らかく、木や枝は所々穴が空いていて、そこから小さな生き物が顔を出しています。中には洞窟までありました。おおよそ考えうる限りの光景を陶器の表した香山。まさにてんこ盛り。もはや過剰と言っても良いほどにデコラティブです。その技術は終始、目を見張るものがありました。

ところが香山は何も「高浮彫」に代表される陶器だけではありません。

というのも次第に制作を陶器から磁器へ転換。自身の窯を二代香山に継がせ、古陶磁や釉下絵の研究を踏まえた新たな作品を生み出していくのです。ガラリと様相は変化します。

これらの作品は一見するところ可憐でシンプル。色は繊細で抑制的。もちろん華美な装飾もありません。「高浮彫」で見せた激しい表現は影を潜めています。

ただ私はむしろ淡い釉薬の焼き物の方にこそ惹かれるものを感じました。例えば「釉下彩盛絵杜若図花瓶」です。うっすらと紫色を帯びた花瓶に杜若の取り合わせ。薄緑色の葉はゆらりと伸び、白と紫の花が開いています。実に瑞々しい。優美と呼んでも良いかもしれません。


「色嵌釉紫陽花図花瓶」 宮川香山 明治時代後期~大正時代初期 19世紀末期~20世紀前期 田邊哲人コレクション

「釉下絵紫陽花図花瓶」も美しい。紫陽花の花が少しキラキラときらめいています。香山は様々な色合い、ないしグラデーションを駆使しては、細やかな発色を実現することに成功しました。あくまでも技を磨いては新たなる陶磁器の世界を切り開く香山。決して同じ立場にとどまり続けない一表現者としてのプライドすら感じられます。


「高浮彫四窓遊蛙獅子つまみ蓋付壺」 宮川香山 明治時代後期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション(神奈川県立歴史博物館寄託)

没後100年の節目の香山展。当面、質量ともにこれを超える展覧会はなさそうです。



4月17日まで開催されています。

「没後100年 宮川香山」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:2月24日(水)~4月17日(日)
休館:火曜日。及び年末年始(12/30~1/1)。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
 *3月20日(日)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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