「月ー夜を彩る清けき光」 渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館
「月ー夜を彩る清けき光」 
10/8~11/20



渋谷区立松濤美術館で開催中の「月ー夜を彩る清けき光」を見てきました。

振り返れば日本の絵画や工芸には数多くの「月」が登場します。

そうした月をモチーフとした美術品を集めた展覧会です。例えば冒頭、久隅守景の「瀟湘八景図」にも空に月が照っています。中央には奇岩がそびえ、人の姿も見ることが出来ます。筆は緻密です。細部の表現も抜かりがありません。


歌川広重「名所江戸百景 京橋竹がし」安政3〜6(1856〜59)年 和泉市久保惣記念美術館

広重の「名所江戸百景」からは2点、やはり月の描いた作品が出ていました。うち「京橋竹がし」はどうでしょうか。かつての京橋川に架かっていた橋の上には満月が明るい光を放っています。川面には竹細工を運搬する舟も浮かんでいます。橋上に多くの人が行き交います。しばし立ち止まって月見をする者もいたに違いありません。

かぐや姫でお馴染みの竹取物語も月を題材としています。物語の場面を描いたのが「竹取物語図屏風」です。元は絵巻、それを後に屏風に仕立てました。上下の金砂子も美しい。詞書の筆も優美です。左下に表されたのがかぐや姫が月へと帰っていくシーンでしょうか。雲の上に乗った車が天へと昇っています。


「武蔵野図屏風(右隻)」 江戸時代(18世紀) 東京富士美術館

秋の景色が広がります。「武蔵野図屏風」です。六曲一双の大パノラマ。左が富士山です。そして右隻の草の間には月が沈んでいます。直列に並ぶ秋草はリズミカルです。萩などの花を隠しています。構図は図像的ながらも洗練されています。空の金砂子が効果的でした。きらきらと瞬く様子はまるで星屑のようでもあります。

直接描いていないのにも関わらず、月を意識した作品がありました。司馬江漢の「月下柴門美人図」です。柴門とあるように松の下の門で一人佇む女性の姿を描いています。空を見ても月は出ていません。ではどのように月の存在を示しているのでしょうか。答えは女性の青い着衣でした。ちょうど前の部分、特に足のあたりがうっすらと白く灯っています。月明かりが当たっているのでしょう。江漢らしく西洋の銅版画のような陰影を伴っているのも興味深いところでした。

月と動物や植物を取り合わせた作品も少なくありません。動物ではもちろん兎が主役です。中林竹洞の「清光淡月兎図」や源長常の「月兎漕舟図」も可愛らしいのではないでしょうか。植物では竹、中でも呉春・玉潾の「月竹図」が見事でした。墨画の軸画です。竹の描写が殊更に美しい。墨の擦れや跳ねを生かしては笹を描いています。月は十日夜でしょうか。上弦の月よりもやや膨らんでいます。


「花宴蒔絵硯箱(源氏物語蒔絵箔箱附属品)」 江戸時代(17世紀) 徳川美術館

工芸品にも月は多数登場します。「染付吹墨月兎文皿」は兎と月を染付で表現した小皿です。上に三日月が浮かび、下で兎がどこか楽しげに跳ねています。ほか武具では「黒漆塗頭形兜 伝柴田家武将所用」が目立っていました。かの柴田勝家が賎ヶ岳の戦いで着用したとも伝わる兜です。前立てに月が漆で描かれています。なお兜の一部が凹んでいましたが、これは銃弾を受けた痕なのだそうです。合戦の記録が生々しく残されています。

興味深い鐔を見つけました。「田毎の月図鐔 銘 西垣永久七十歳作之鍔」です。鐔の模様は田んぼです。細かな区画に分かれています。それぞれの田には苗と細い三日月がほぼ一つずつ描かれていました。何故に月が田にあるのでしょうか。写り込みです。空の月が水田に写っているという趣向でした。面白いアイデアではないでしょうか。

工芸では尾形乾山の「定家詠十二ヵ月和歌花鳥図角皿」が全点揃い。これは見入ります。また頴川美術館や和泉市久保惣記念美術館、それに京都国立博物館などの関西のコレクションが多いのも印象に残りました。


岳翁蔵丘「山水図」 室町時代(15〜16世紀) 佐野美術館

出品総数は81件です。ただし武具、工芸以外の大半は前後期で入れ替わります。各会期で50件超の展示です。点数は多くはありません。

「月ー夜を彩る清けき光」出品リスト(PDF)
前期:10月8日(土)~10月30日(日)
後期:11月1日(火)~11月20日(日) 

11月20日まで開催されています。

「月ー夜を彩る清けき光」 渋谷区立松濤美術館
会期:10月8日(土)~11月20日(日)
休館:10月11日(火)、17日(月)、24日(月)、31日(月)、11月4日(金)、7日(月)、14日(月)。
時間:10:00~18:00 
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生800(640)円、高校生・65歳以上500(400)円、小中学生100(80)円。
 *( )内は10名以上の団体、及び渋谷区民の入館料。
 *渋谷区民は毎週金曜日が無料。(要各種証明書)
 *土・日曜日、休日は小中学生が無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15~20分。
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