「時代を映す仮名のかたち」 出光美術館

出光美術館
「開館50周年記念 時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」
11/19~12/18



出光美術館で開催中の「時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」を見てきました。

平安から鎌倉、そして南北朝、室町へと至る時代ともに、仮名のかたちは常に変化しました。

冒頭は平安です。伝紀貫之の「高野切第一首」が出ています。905年に編纂された「古今和歌集」の最古の写本です。まるで星屑が散るような料紙に流麗な筆線が文字を象ります。線は細い。淀みがありません。時に掠れて消えそうになっています。優美かつ情感豊かでした。

10世紀頃から宮廷でも和歌が詠まれるようになったそうです。さらに平安末期には貴族だけでなく、官人層でも和歌活動を行うようになりました。繊細な書体が一般的でしたが、次第に力強さが求められるようになります。


「高野切第三種」(国宝手鑑「見努世友」の内) 伝紀貫之 平安時代 出光美術館

国宝の古筆手鑑「見努世友」は奈良から室町までに書写された歌集の断簡です。手鑑とは古筆切を収納したアルバムを意味します。伝道真による「華厳経」や伝貫之の「古今和歌集」などが収められています。書体が思いの外に多様でした。例えば藤原公任の「堺色紙」は溌剌。筆に勢いがあります。余白も効果的です。文覚上人の「書状切」は自由奔放でした。とらわれる面がありません。

鎌倉時代に入ると和歌の役割が変化します。武力を背景とした武家に対し、王族の権威として和歌が尊ばれるようになります。貴族らは歌会らの晴れの場にて和歌を詠むことが求められました。自詠でかつ自筆の機会が増えたそうです。書体も太く、めりはりのあるものが好まれました。


「広沢切」 伏見天皇 鎌倉時代 出光美術館

伏見天皇による「広沢切」はどうでしょうか。書は特に直線的で鋭い。筆圧も強く、文字は明瞭に浮かび上がります。同じく伏見天皇の「筑後切」にも目を奪われました。伏見院があえて書体に変化をつけて書写したとされる作品です。流麗でありながらも、筆には力強さがあります。料紙も煌びやかです。藍色の帯が上下に広がっています。実のところ書はなかなか読めませんが、料紙自体に美しい作品があったのも嬉しいところでした。

南北朝から室町にかけては継歌と短冊が流行したそうです。武家も歌壇に参入します。連歌や和漢連句の催しも盛んになりました。さらに室町後期には参会を伴わない紙の上だけの歌会も行われます。いわゆる揺り戻しということでしょうか。重厚でかつ豊麗な書も志向されたそうです。

室町後期の後柏原天皇(ほか)による「慈鎮和尚三百年忌和歌短冊帖」が目立っています。素早い筆触です。金と藍が入り混じる紙も雅やかでした。


「熊野懐紙」 後鳥羽天皇 鎌倉時代 京都国立博物館

出展は80点弱。大半は出光美術館のコレクションですが、京都国立博物館や宮内庁書陵部からも作品がやって来ています。


「表制集紙背仮名消息 巻四」 藤原為房妻 平安時代

解説も充実。一部作品はパネルで仮名を起こしています。和歌のスタイルと古筆の関係に着目した構成も特徴的です。素人の私でも見入るものがありました。

仮名を小声で読み上げながら鑑賞している方が多いのも印象的でした。やはり歌は読んでこそ生きるのかもしれません。

「日本の書/別冊太陽/平凡社」

12月18日まで開催されています。

「開館50周年記念 時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」 出光美術館
会期:11月19日(土)~12月18日(日)
休館:月曜日。但し10月10日は開館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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