「柳根澤 召喚される絵画の全量」 多摩美術大学美術館

多摩美術大学美術館
「柳根澤 召喚される絵画の全量」 
9/25〜12/4



1965年に韓国に生まれた画家、柳根澤(ユグンテク)の回顧展が、多摩美術大学美術館で行われています。

チラシ表紙を飾る「Growing room」からして特異です。場所はおそらくマンションの一室。かなり広いリビングです。中央にはテーブルがあり、母子と思しき人物が食事をとっています。左の扉の奥は寝室かもしれません。ほか扇風機や時計、タンスなども部屋のあちこちに置かれています。日常と言えば日常です。一般的な生活の様子が描かれています。

しかしながら観葉植物の存在が凄まじい。場所を選びません。空間を埋めつくさんとばかりに生い茂っています。シャンデリアの吊り下がる天井にまで至っていました。もはや天地が反転したのでしょうか。家具や調度品に実在感があるのに対し、人の姿はまるで影絵です。リアリティーがありません。幻視という言葉が頭に浮かびました。独特のイリュージョンが広がっています。


柳根澤「Old Giant」 2012年

「Old Giant」も不思議な作品でした。やはり舞台は室内。床に広がるのは布団でしょうか。周囲にはピアノや家具が散乱しています。ただし布団の大きさからすれば小さい。ミニチュアかもしれません。部屋を支配するのは何と言っても象です。とてつもなく大きい。天井に背中をつけています。何故にこの部屋の中にいるのでしょうか。シュールです。現実を突き抜けています。


柳根澤「Your Everlasting Tomorrow」 2014年

奇景と呼べるかもしれません。「Your Everlasting Tomorrow」も面白い。荒々しい岩肌を背に広がるのは湖です。湖面には周囲の山や空の雲が写り込んでいます。と同時に家屋や家具などが浮いていました。ひょっとすると各々は別の空間にあるのかもしれません。異なったイメージが一つの絵画平面に落とし込まれています。


柳根澤「A Dinner」 2008年

「A Dinner」にも目が留まりました。ディナーとあるように夜の食卓でしょう。グレーの木目の床の上に大きなテーブルが一つだけ置かれています。たくさんの皿がセットされ、華やかな料理が盛られていました。何名分あるのでしょうか。ただし椅子はありません。食卓のみが光り輝き、糸のような筋が垂れてもいます。周囲は暗い。人の気配はまるでありません。異界とも呼べるかもしれません。なにやら不穏な気配を感じさせています。


柳根澤「自画像」 1999年 

元々、東洋画に学んだ柳は、制作に際して韓国に伝統的な画材を使用しています。紙は韓国紙です。そこに墨や胡粉、顔料などでモチーフを象っています。初期の筆触は激しく、時に墨を散らしては自画像を描きました。2000年頃から室内や食器、日常などを素材に「現実を凌駕する事物関係と空間性」(解説より)を伴う作品を発表するようになったそうです。

画肌が極めて個性的です。墨は掠れ、時に勢いよく走ったかと思うと、顔料は薄く紙に染み渡っては静謐な画面を作り出します。透明感もありました。一方で近作ではテンペラの技法を導入し、さも油絵かと見間違えるような力強い質感を引き出しています。驚くほどに多彩でした。



出品は新旧作をあわせて60点。近年の試みとしての映像も加わります。

韓国にこのような画家がいたとは初めて知りました。まだ見たことのない絵画世界が確かに存在しています。

12月4日まで開催されています。

「柳根澤 召喚される絵画の全量」 多摩美術大学美術館
会期:9月25日(土)~12月4日(日)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般300(200)円、大学・高校生200(100)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:東京都多摩市落合1-33-1
交通:京王相模原線・小田急多摩線・多摩都市モノレール線多摩センター駅から徒歩7分。
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