「円山応挙 『写生』を超えて」 根津美術館

根津美術館
「円山応挙 『写生』を超えて」
11/3~12/18



根津美術館で開催中の「円山応挙 『写生』を超えて」を見てきました。

単に写生といえども、応挙の手にかかると実に多様な技術、ないし表現に裏打ちされていることがよく分かりました。


円山応挙「雪松図屏風」(左隻) 天明6(1786)年頃 三井記念美術館

まず「雪松図屏風」です。言わずと知れた国宝の名品です。金地の大画面に立つのは三本の松。吹雪いていたのかもしれません。雪は松の葉や枝の各所に積もっています。パウダースノーのように柔らかい質感が伝わります。背後の金泥は光です。朝の日差しでしょうか。金の砂子は陽に反射して光輝いています。右隻の松は大見得を切る役者のようです。枝を左右に振っています。一方で左隻の空間には奥行きが伴います。松は左右だけでなく、前後にも枝を広げていました。

一見するところリアルな松ですが、近づくと表情が一変しました。というのも、松葉の描写は思いの外に荒々しい。素早い筆触で墨線を引いています。また余白も効果的でした。そこだけ切り取れば葉に見えません。ただそれでも作品から2歩、3歩下がると、ぴたりとピントがあうように松が実在感を伴って浮かび上がります。「近見」と「遠見」で景色が変わりました。これが応挙の目指した写生を超えた表現なのかもしれません。


円山応挙「藤花図屏風」(左隻) 安永5(1776)年 根津美術館

「藤花図屏風」も同様です。金地を背景に藤が広がります。幹は輪郭線を使わない付立ての技法です。筆は掠れながらも、大胆で力強い。一気呵成で動きがあります。一転しての花房は緻密でした。解説に「印象派」との指摘がありました。丁寧に写生を行ったのでしょう。白と青の花弁が細かに重なります。僅かに暖色系の色が混じっているようにも見えました。だらりと垂れた花房には重みも感じられます。葉は明るい緑です。薄塗りです。仄かに葉脈が浮かび上がります。幹、葉、花の表情は異なります。応挙の多彩な画技を知ることが出来ました。

さて今回の応挙展、こうした有名作だけでなく、個人蔵にも優品が多いのが特徴です。

例えば「雪中小禽図」です。水辺に水禽が7羽。冬の景色です。水面の一部は凍っています。松の木は内側を白く塗り残して雪を表現していました。針葉は「雪松図屏風」を彷彿させるかもしれません。水はうっすらと青く、鴨が首を中に突っ込んでいます。鳥の羽の描写が殊更に細かい。応挙の高い観察眼が伺えます。

観察眼といえば「筍図」も負けてはいません。こちらも個人蔵です。大小3本の筍が横たわっています。さも捥いだばかりの筍を描いたと思いきや、実は写生図に基づいているというから興味深い。筍の柔らかい皮や繊維の質感までが細かに表現されています。


円山応挙「写生図巻」 明和7〜安永元(1770〜72)年 株式会社千總

その元になる「写生図巻」、ないし「写生図帖」も見逃せません。図帖は数点あり、一部は応挙作ではないという指摘もあるそうですが、いずれも精緻極まりない描写で動植物を表しています。中でも「写生図巻」には感心しました。椎茸や栗、楓から鼠に兎などを巧みに写し取っています。図鑑を見るかのようでした。

「四条河原夕涼図」も面白いのではないでしょうか。鴨川を挟んだ情景。季節は夏です。見世物小屋が並び、大勢の人で賑わっています。幟が空高くに靡きます。空はまだ青い。一転して岸は夜の闇に包まれています。人の姿の多くは判然とせず、シルエットで表されていました。眼鏡絵とは西洋の遠近法を用いて描かれた作品です。レンズで覗き込めばよりパノラマ的に浮き上がってくるのかもしれません。

ハイライトは「七難七福図巻」でした。「難福図巻」とも呼ばれています。難は上中巻。うち上巻が天災です。地震に洪水に火災と続きます。家屋が倒壊して、人々は恐れおののきながら逃げまどっていました。洪水は人も建物も飲みこみます。波間で手を上げている人は助けを求めているのでしょうか。痛ましい。火災では火炎の描写が鮮烈です。さもバチバチを音を立てるかのように燃え盛っています。すでに焼かれてしまっている者もいました。


円山応挙「七難七福図巻」(部分) 明和5(1768)年 相国寺 

中巻は人災です。盗賊に追剝ぎ、そして情死。首から血が吹き出る様は恐ろしい。血みどろです。思わず目を背けてしまいます。幼い子供が井戸に放り込まれていました。建物の内部がリアルです。畳に屏風、そして襖などの建具の描写が細かい。構図に歪みがありません。

下巻が福でした。祝宴に飲食、そして花見でしょうか。凄惨な上中巻とは一転、日常の平穏な光景が示されています。人々の様子も皆、楽しそうです。応挙は本作にあたり、六道絵や鳥獣戯画、さらに信貴山縁起絵巻などの古画を参照したそうです。制作期間はおおよそ3年。よほど熱心に取り組んだのでしょう。人間と自然を問わず、この世の様々な事象を見事なまでに描き尽くしました。


円山応挙「牡丹孔雀図」 安永5(1776)年 宮内庁三の丸尚蔵館

出点数は全47点。但し一部の作品に展示替えがあります。

「円山応挙 『写生』を超えて」出品リスト(PDF)
前期:11月3日~11月27日
後期:11月29日~12月1日

国宝の「雪松図屏風」は前期のみの公開です。また「七難七福図巻」は前後期で巻き替えがあります。ご注意下さい。



会期第1週の日曜日に出かけましたが、館内は盛況でした。後半はさらに混み合うかもしれません。



都内では6年ぶりの応挙展です。12月18日まで開催されています。まずはおすすめします。

「円山応挙 『写生』を超えて」 根津美術館@nezumuseum
会期:11月3日(木・祝)~12月18日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、学生1000円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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