「漆芸名品展」 静嘉堂文庫美術館

静嘉堂文庫美術館
「漆芸名品展ーうるしで伝える美の世界」 
10/8〜12/11



静嘉堂文庫美術館で開催中の「漆芸名品展ーうるしで伝える美の世界」を見てきました。

「謎のうるしの屏風」(ちらし表紙より)と呼ばれる「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」が、修復を経て10年ぶりに公開されています。

謎とするのは作者、ないし制作背景が分かっていないからです。作られたのはおそらく桃山から江戸時代の初期。杉板に黒漆を塗り、蒔絵や金貝に螺鈿のほか、密陀絵と呼ばれる技法を用いて描いています。


「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」(右隻) 桃山〜江戸時代初期(17世紀)

右隻が源氏絵です。舞台は紅葉賀。青海波を舞う場面です。庇の前で舞うのが光源氏と頭中将です。やや腰を屈め、前に首を突き出しています。後方には紅葉が広がり、手前には菊が咲いていました。秋の景色です。それにしても極めて技巧的な作品です。例えば壇上の人物です。黒い服を着ている男がいますが、よく見ると凹凸の柄の文様が付いています。密陀絵は漆絵では出せない白を得るために使われたそうです。絵を囲む螺鈿も一際、輝いて見えました。


「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」(左隻) 桃山〜江戸時代初期(17世紀)

左隻の主人公は唐の玄宗皇帝です。楼台に座るのが玄宗と楊貴妃。帝自ら鼓を打っています。妃の着物の精緻な模様といったら比類がありません。季節は春。右隻の秋とは対比的です。玄宗が曲を作り、披露したところ、花が一斉に咲き出したという故事にならっています。楼台の周囲は赤や白、そしてピンクの花で彩られていました。奥の建物の獅子、手前の楽人たちも大変に細かい。これほど大規模でかつ緻密な漆絵を初めて見ました。幸いなことに薄いガラスケースに収められています。やや写り込みがあるものの、肉眼でも細部まで確認することが出来ました。

さて本展、見どころは「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」だけにとどまりません。静嘉堂の誇る日本、中国、朝鮮、そして琉球の漆芸品がずらり。約100点です。(一部に展示替えあり。)いずれも優品ばかりでした。


尾形光琳「住之江蒔絵硯箱」 江戸時代(18世紀)

まずは日本。光琳の「住之江蒔絵硯箱」が見事です。意匠は古今和歌集。藤原敏行の恋歌によっています。せり上がった蓋の造形はまさしく光悦風です。波は荒れ狂うかのように岸の間をうねっています。岸の部分は鉛です。歌の文字が随所に散っていますが、波と岸は絵そのもので示されています。


柴田是真「柳流水青海波塗重箱」 江戸末期=明治時代(19世紀)

是真は2点。「柳流水青海波塗重箱」は5色に塗り分けられた重箱です。川の部分を是真が得意とした青海波塗の技法で表現しています。また「変塗絵替丼蓋」も面白い。古伊万里の丼の蓋が10枚、全て異なった塗りで作っています。目地はまるで本物の木目のようです。言わなければ漆絵とは気がつかないかもしれません。


原羊遊斎 酒井抱一(下絵)「秋草虫蒔絵象嵌印籠」 江戸時代(18〜19世紀)

原羊遊斎の印籠も見逃せません。「秋草虫蒔絵象嵌印籠」は下絵を抱一が担当しています。流麗な線で秋草を可憐に表現していました。かげろうもいます。「雪華蒔絵印籠」も美しい。模様はすべて雪の結晶です。大変にモダン。何とも魅惑的ではないでしょうか。

印籠ではもう1点、技巧を凝らした「龍雷神螺鈿印籠」にも目を奪われました。極限にまで小さく砕かれた青貝がモザイク画を描くかのようにちりばめられています。ほぼ点描と言っても良いかもしれません。驚くほどに細かい。高い技術に裏打ちされた作品に違いありません。


「曜変天目」(付属:黒漆天目台) 南宋時代(12〜13世紀)

唐物では何と言っても曜変天目です。静嘉堂の誇る名品中の名品。今回は天目台にのせた形で展示されています。やや明るめの展示室内でも際立つ斑紋。小宇宙とも称されますが、まさしく星屑が瞬いているかのようでした。


「人魚箔絵挽家」 東南アジア(16世紀)

「人魚箔絵挽家」も珍しいのではないでしょうか。挽家とは茶入を収納する容器ですが、蓋の部分に2つの尾を持つ人魚が描かれています。ほかにも女神や羽人がいました。異国趣味といったところかもしれません。可愛らしい姿に思わずにやりとさせられました。


「雲龍堆朱盒 大明宣徳年製(銘)」 明時代・宣徳年代(1426〜35)

中国の漆芸も充実しています。「山水人物堆朱盒」は楼閣や人物、それに鶴などを象った作品です。官営の工房で制作されたと言われています。また「七宝繋填漆櫃」は全面に七宝の繋文が表されていました。均一な文様で揺らぎがありません。洗練されています。


「蓮華唐草螺鈿玳瑁箱」 朝鮮時代(16〜17世紀)

朝鮮の漆芸の中心は黒漆地の螺鈿にあるそうです。「蓮華唐草螺鈿玳瑁箱」が華やかです。玳瑁、すなわちタイマイとはウミガメの一種です。螺鈿を円状に連ね、蓮の花を象っています。箱全体が飴色に染まります。かつての三菱財閥の総帥、岩崎小彌太が熱海の別邸で文房具箱として使用していたそうです。


「清明節図螺鈿座屏」 琉球(18〜19世紀)

琉球に優れた螺鈿の漆器がありました。「清明節図螺鈿座屏」です。高さは78センチ。かなり大きい。人々が橋を渡りながら出かけています。解説によればピクニックだそうです。4月の清明節には墓参を兼ねて踏青、つまりピクニックに行く場面を表しています。17世紀初頭まで王府の漆器制作を担っていた「貝摺奉行所」にて制作されました。

高蒔絵、針描、切金など、実際の作品を参照しながら、蒔絵技法の解説を付した展示もあります。鑑賞の参考になりました。

一美術館だけとは思えないコレクションです。「名品展」のタイトルに偽りはありません。



「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」の左隻、右隻の双方が揃って出るのは11/8から11/20の間だけです。(11/20以降は紅葉賀図のみ展示。)両隻展示期間中での観覧をおすすめします。

12月11日まで開催されています。

「漆芸名品展ーうるしで伝える美の世界」 静嘉堂文庫美術館
会期:10月8日(土)〜12月11日(日)
休館:月曜日。但し10月10日は開館。翌11日(火)は休館。
時間:10:00~16:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学・高校生700円、中学生以下無料。
 *一般・大高生は20名以上の団体割引あり。
場所:世田谷区岡本2-23-1
交通:二子玉川駅4番のりばより東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車、徒歩5分。成城学園前駅南口バスのりばより二子玉川駅行きバスにて「吉沢」下車。大蔵通りを北東方向に徒歩約10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )