「禅ー心をかたちに」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念 特別展 禅ー心をかたちに」
10/18~11/27



東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 禅ー心をかたちに」の特別内覧会に参加してきました。


「達磨像」 白隠慧鶴筆 江戸時代・18世紀 大分・萬壽寺

冒頭から大変な迫力です。白隠の「達磨像」が待ち構えています。高さは約2メートル。ぎょろりとした目で上の方を凝視しています。衣の線は自由でかつ太い。輪郭線は即興的です。堂々たる姿ながら、親しみやすくもあります。達磨はもちろん禅の初祖です。これほどシンボリック描いた達磨をほかに知りません。


国宝「慧可断臂図」 雪舟等楊筆 室町時代・明応5(1496)年  愛知・齊年寺

禅に因む絵画も名品揃いでした。雪舟の「慧可断臂図」(えかだんぴず)はどうでしょうか。岩窟の中で座禅を組むのが達磨。顔面の表現はリアルです。ただし表情は伺えません。手前の僧は神光、のちの慧可です。参禅が許されず、決意を示すために左腕を切り落としたというエピソードを描いています。確かに血塗られた腕を右手で抱えていました。苦悶しているようにも見えなくはありません。両者の間の距離は近いようで遠い。張り詰めた空気を感じました。

日本に禅宗が導入されたのは鎌倉時代のことです。南北朝時代の末には、現在の臨済宗の本山、全14寺が出揃いました。そうした臨済宗の開山や本山の寺宝の展示も充実。各寺が所蔵する肖像や墨跡などが紹介されています。


重要文化財「蘭渓道隆坐像」 鎌倉時代・13世紀 神奈川・建長寺

例えば建長寺の開山である蘭渓道隆です。由来の「蘭渓道隆坐像」は眼光が鋭い。瞳の部分のみに水晶板がはめ込まれています。裏には金泥の線も用いられているそうです。やや突き出た下唇をはじめ、こけた頬、ないし筋肉の表現も写実的です。迫真的とも呼べるかもしれません。


重要文化財「夢窓疎石像」 自賛 無等周位 南北朝時代・14世紀 京都・妙智院

夢窓疎石も知られているのではないでしょうか。天龍寺の開山です。物静かに佇む僧を細かな線で写しとっています。像主の特徴をありのままに捉えた優品として評価されているそうです。


重要文化財「九条袈裟」 無関普門所用 中国 元時代・13~14世紀 京都・天授庵

無関普門所用の「九条袈裟」も興味深い資料です。また臨済宗大徳寺派の一休宗純に関する展示も目を引きました。禅の歴史の一端を追うことも出来ます。

時代を進めましょう。戦国、江戸時代です。戦国の武将も禅に帰依。多くの禅僧と交流を持ちました。いわゆるブレーンとして参謀役を務めた僧も少なくありません。禅宗寺院も各大名の庇護を受けて繁栄しました。


「織田信長像」 伝狩野永徳筆 安土桃山時代・16世紀 京都・総見院

伝永徳の「織田信長像」がお出ましです。天正10年の信長葬の際に掛けられたとも言われています。大徳寺の真筆ほどの凄みはありません。ただそれでも眉間の細かな皺や切れ長の目から、深い思慮、ないし神経質な性格を伺えるのではないでしょうか。



各武将と禅僧の関係を示す解説パネルも有用でした。ともかく禅展には数多くの人物が登場しますが、パネルなりで一度、整理してから見ると理解も深まるかもしれません。


左:「乞食大燈像」 白隠慧鶴筆 江戸時代・18世紀 東京・永青文庫

白隠と仙厓に着目したコーナーがありました。ともに膨大な禅画を描き、時に各地を渡り歩いては、庶民にわかりやすい形で布教した名僧です。白隠では「達磨像」、「乞食大燈像」、さらに「円相図」と続きます。また仙厓の「花見図」も賑やかです。たくさんの人が宴を楽しんでいます。誰一人、花を見ている者がいません。賛は「楽しみハ花の下より鼻の下」とありました。「花より団子」は今も昔も変わりません。


「十大弟子立像」 鎌倉時代・13世紀 京都・鹿王院

禅宗寺院の仏像や仏画も各地からやって来ました。鹿王院の「十大弟子立像」が真に迫ります。老若の弟子たち。所作はもちろん、表情にも同じものがありません。何かを訴えかけるように立っています。幸いにも露出での展示でした。ぐるりと一周、360度の角度から鑑賞することが可能です。


重要文化財「達磨・蝦蟇・鉄拐図」 吉山明兆 室町時代・15世紀 京都・東福寺

吉山明兆の「達磨・蝦蟇・鉄拐図」も見応えがあります。達磨に道教の仙人の2名を組み合わせた3幅対の作品です。所蔵は東福寺。作者の明兆は同時で活動した禅僧でした。中央の達磨の存在感が際立ちます。達磨図としては日本最大でもあるそうです。


国宝「油滴天目」 中国 南宋時代・12~13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館

禅は人々に思想だけでなく、絵画や喫茶においても様々な影響を与えました。禅宗の喫茶において重宝されたのは唐物です。国宝の「油滴天目」が展示されていました。銀色の細かな斑紋が器の内側に広がっています。やや強めの照明です。器の輝きを引き出しています。


国宝「瓢鮎図」 大岳周崇等三十一僧賛 大巧如拙筆 室町時代・15世紀 京都・退蔵院

伝牧谿の「芙蓉図」も美しい。水墨の微妙なニュアンスが花の生気を表現しています。大巧如拙の「瓢鮎図」も出展中です。水中で泳ぐのは鮎。それを男は瓢箪で捕まえようとしています。竹は僅かに風に吹かれているのでしょうか。実に流麗です。湿潤な空気が画面を満たします。山の稜線は霞んでいました。


重要文化財「呂洞賓図」 雪村周継筆 室町時代・16世紀 奈良・大和文華館

雪村の「呂洞賓図」も面白いのではないでしょうか。龍の頭の上に立つのが呂洞賓。右手に瓶を持っています。上にはもう一体の龍が空を駆けています。瓶の中から飛び出しました。力漲る一枚です。一瞬の動きを画面に封じています。まるでアニメーションを見ているかのようでした。


重要文化財「龍虎図屛風」 狩野山楽筆 安土桃山〜江戸時代・17世紀 京都・妙心寺

ラストは禅寺に伝わる障壁画です。うちとりわけ見事なのは妙心寺に伝わる狩野山楽の「龍虎図屏風」でした。東博で展示されるのは2009年の「妙心寺展」以来のことかもしれません。

右隻に颯爽と姿を現れたのが龍。大風が吹き荒れています。対峙するのが左隻の虎です。雌雄で2頭います。雄の虎は龍に向かって吠えたてて威嚇しています。牙もむき出しです。竹が大きくしなっていました。一方で雌の虎は何やら物静かな様で様子を伺っています。これほど迫力のある龍虎図はほかに見当たりません。


左:「鷲図」 伊藤若冲筆 江戸時代・寛政10(1798)年 エツコ&ジョー・プライスコレクション
右:「旭日雄鶏図」 伊藤若冲筆 江戸時代・18世紀 エツコ&ジョー・プライスコレクション


後期からは特別出品として若冲の作品が2点加わりました。「旭日雄鶏図」 と「鷲図」です。ともにプライスコレクション。若冲自身も禅と深く関わっていたことは良く知られています。かの傑作、「動植綵絵」を寄進したのも臨済宗の相国寺でした。


チームラボ「円相 無限相」の前に立つチームラボ代表猪子寿之氏

なおこの日は禅の「円相」をテーマとしたチームラボの新作の発表もありました。場所は平成館の1階のロビーです。書の筆跡が円を描いては消えていきます。同じ形は2度と現れません。

特別内覧会時に加え、再度、11月20日(日)の午後に観覧してきました。


座禅体験撮影コーナー

すると館内は盛況。最初の展示室は最前列確保のための僅かな列も発生していました。ただ全般的に流れはスムーズです。ほかは特に待つこともなく、じっくり見ることが出来ました。

早くも会期末です。最終盤はひょっとすると混み合うことがあるかもしれません。



50年に1度のスケールだそうです。展示替えも多く、巡回前の京都会場とも作品がかなり異なりますが、今回ほど大規模な禅の展覧会は当分望めそうもありません。

時間に余裕をもってお出かけください。11月27日まで開催されています。

臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念 特別展 禅ー心をかたちに」 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:10月18日(火) ~11月27日(日)
時間:9:30~17:00。
 *会期中の金曜日および10月22日(土)、11月3日(木・祝)、5日(土)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し7月18日(月・祝)、8月15日(月)、9月19日(月・祝)は開館。7月19日(火)は休館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(700)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真は特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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