「浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」 千葉市美術館

千葉市美術館
「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」
11/10~12/18



千葉市美術館で開催中の「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術展」を見てきました。

江戸時代の文人画家、浦上玉堂(1745〜1820)。千葉市美術館で玉堂の名を冠した展覧会が開かれるのは約10年ぶりのことです。

出品は計270点。途中に展示替えがありますが、大変なスケールです。また絵画のみならず、所縁の楽器や書簡などの資料も多数。初公開の作品も含みます。玉堂の幅広い業績を知ることが出来ました。


浦上秋琴「山水図(散歩多勝遊)」 明治3(1870)年 岡山県立美術館

さて本展、タイトルにもあるように、何も玉堂単独の回顧展ではありません。春琴、秋琴とは玉堂の子。兄弟です。春琴は中国画にも学び、後に花鳥画などで父を凌ぐほどの人気を得ます。弟の秋琴は主に音楽面で才能を発揮しましたが、晩年なって書画も嗜みました。

この父子の関係にも触れているのがポイントです。しかも春琴の作品が殊更に美しい。春琴の魅力に触れたのも大きな収穫でした。

玉堂の元々の職業は藩士です。岡山の鴨方藩、本姓は紀です。かの紀貫之にも連なる姓として誇りをもっていました。40歳の頃まで藩務に勤しみます。儒学や医学も学びました。その傍で詩作や音楽に打ち込んでいたそうです。50歳で脱藩。琴と筆を手にして、北は会津、南は長崎へと諸国漫遊の旅に出ます。この時、春琴は16歳で秋琴は10歳。ともに父の旅に同行しました。67歳から京都に居を構えます。春琴と同居して制作を続けました。

「七絃琴・琴嚢」は自作の琴です。また書にも精通。特に隷書を得意としていました。額の「心静」も見事です。文字は端麗で美しい。ほかほぼ唯一の画巻という「南山壽巻」も目を引きます。墨に朱を交えて野山を描いています。一部に藍色も混じっているのでしょうか。小さな点で畝を細かに表現していました。


浦上玉堂・秋琴「山水画帖より 浦上秋琴『山水図』」 寛政8(1796)年 個人蔵

「山水画帖」は玉堂、秋琴の合作です。玉堂は6枚を担当。秋琴は1枚を描いています。秋琴はこの時、まだ12歳です。父からも手習いを受けたのでしょう。素朴な筆触で水辺や柳を表していました。

玉堂は作品に自然の趣きをうたった4~5字ほどの詩句を記し、絵画表現に反映させていたそうです。また興味深いのは郭中画です。掛軸の画面を方形や円窓形、あるいは扇面に区切って書画を描いています。「秋色半分図」、「酔雲醒月図」、「隷體章句」、「深山渡橋図」の4幅も元は一枚の作品です。郭中画でした。叙情的な秋の景色が広がっています。


浦上春琴「名華鳥蟲図」 文政4(1821)年 岡山県立美術館

一方で子の春琴はどうでしょうか。「名華鳥蟲図」に目を奪われました。43歳の時の一枚。父を亡くして約1年後の作品です。見るも鮮やかな色彩美です。四季の花々を背景に鳥が飛び、あるいは蝶が舞っています。地面にはカマキリもいました。花は生気に満ちています。まるで楽園です。ほか長崎画に学んだという「花鳥画」をはじめ、光沢のある絹に季節の花を描いた「花卉図巻」も美しい。こうした可憐な花鳥画を前にすれば人気があったというのも納得させられます。


浦上春琴「春秋山水図屏風」(右隻) 文政4(1821)年 ミネアポリス美術館(バークコレクション)

春琴唯一の大作がアメリカのミネアポリス美術館からやって来ました。「春秋山水図屏風」です。右へ左へと連なる大パノラマ。中央には湖が広がっています。辺りを高い山脈が囲んでいました。ほぼ墨ながらも、一部に朱を加えていいる上、水の際などは青く塗っています。それゆえでしょうか。画面に透明感があります。清く明らかな光、ないし空気を感じました。


浦上春琴「蔬果蟲魚帖」 天保5(1834)年 泉屋博古館

「果蔬海客図」も面白い。魚に貝、そして野菜や果物などを写実的に描いています。魚の鱗も丸い筆遣いで描写。茄子のヘタの部分を濃くするなど、質感表現にも抜かりありません。

秋琴は70歳を過ぎてから本格的に書画を初めたこともあり、父、そして兄の作品に比べると多くはありません。まさしく三者三様です。親子はもちろん、同時代の画家との関係にも言及しています。想像以上に見応えがありました。

さて今回の展覧会で久々に強い感銘を受ける作品に出会いました。それが玉堂の「東雲篩雪図」です。川端康成の旧蔵品の国宝です。ただともかく出品会期は短い。公開は僅か6日間のみでした。実際のところ既に展示は終了しています。


国宝 浦上玉堂「東雲篩雪図」 川端康成記念会 *11/22~11/27のみ展示

極感の冬景色です。一面には粉雪が舞い、全てが凍りついています。木々は寒さに打ち震えていました。山に雪が積もり、辺りには黒い雲も迫っています。庵には人の姿も見えますが、険しい自然の恐ろしさばかりが伝わってきます。その緊張感といったら比類がありません。

何たる深淵な世界なのでしょうか。さらに墨の筆触も自在。滲まない墨を駆使しているそうですが、もはや墨自体が魂を得たかのように生動しています。図版ではまるで分かりませんでしたが、このような墨の質感を見たのは初めてでした。


重要文化財 浦上玉堂「煙霞帖のうち『青山紅林図』」 梅澤記念館

図録が重量級です。東博の日本美術の特別展クラスです。資料性も高く、永久保存版となりそうです。

12月18日まで開催されています。まずはおすすめします。

「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:11月10日(木)~12月18日(日)
休館:9月26日(月)、10月3日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *前売券は千葉都市モノレール千葉みなと駅、千葉駅、都賀駅、千城台駅の窓口、及びローソンチケット、セブンチケットで会期末日まで販売。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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