「素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」
9/23〜10/26



東京藝術大学大学美術館で開催中の「シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」を見てきました。


「法隆寺金堂壁画・釈迦三尊像の再現/復元」 日本

まるで実際の法隆寺へ足を踏み入れたかのようです。入口冒頭、眼前に堂々と鎮座するのが、法隆寺金堂の「金銅釈迦三尊像」でした。さらに堂内には、ぐるりと一周、失われた「金堂外陣壁画」が取り囲んでいます。三尊像の上には天蓋もかかっていました。驚くべき再現度です。本物の「釈迦三尊像」が展示されていると言われれば、思わず信じ込んでしまうかもしれません。


「法隆寺金堂壁画・釈迦三尊像の再現/復元」 日本

結論からすると、「釈迦三尊像」も「外陣壁画」もクローン、すなわち再現された複製品でした。そもそも金堂内の壁画も、昭和40年代の模写です。「釈迦三尊像」は高精度に三次元で計測し、デジタルで画像処理した後、同様の素材、質感で再現されました。彩色、造形の仕上げには、伝統的な手法も用いられているそうです。


「法隆寺金堂壁画・釈迦三尊像の再現/復元」 日本

さらに「釈迦三尊像」に関しては、一歩、踏み込んでいます。というのも、飛鳥時代の制作当初の姿を復元しているからです。欠落した中尊の髪や白毫を復元し、美術史の研究を踏まえて、脇侍の左右を入れ替えました。また同じく欠落した光背の飛天も、復元して取り付けました。

こうした復元の文化財を紹介するのが、「素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」展です。タイトルに「失われた」とあるように、何も現存する文化財に留まらず、戦火などで失われたものについても、復元を試みています。


「キジル石窟航海者窟壁画復元」 中国・新疆ウイグル自治区

その一つが、中国新疆ウイグル自治区の「キジル石窟航海者窟壁画」でした。これは、紀元1000年頃に同地域に栄えた「亀茲(きじ)国」の、伝統仏教の教義を反映して描かれたもので、再現された212窟は、数少ないインド・イラン第一様式の壁画でした。仏弟子の物語と、釈迦の前世物語が、ちょうど左右の壁に対になって広がっていたそうです。


「キジル石窟航海者窟壁画復元」 中国・新疆ウイグル自治区

しかし1906年、ドイツの探検隊が石窟を調査し、壁画を剥ぎ取って持ち帰ります。そして悲劇が起こりました。一部が第二次世界大戦の空爆で失われてしまいます。現在、石窟内の壁画は、天井の断片と、側壁の下部の3分の1しか残っていません。

その石窟を再現しています。また、剥がされた断片を元に、分割した形状で復元を行っています。さらに壁画の位置関係についても検証を行い、現地に残された壁画の画像も参照しました。


「バーミヤン東大仏 天井壁画復元」 アフガニスタン

アフガニスタンのバーミヤン東大仏の天井壁画復元も見どころの一つです。大仏は2001年、タリバン政権下において無残にも破壊されます。そのために大仏の頭頂部の壁画も失われました。


「バーミヤン東大仏 天井壁画復元」 アフガニスタン

ちょうど天井のドームに復元壁画が描かれています。ほぼ実寸大スケールで、曲面状に広がっていました。1970年代の撮影データを使用し、壁画の表面の質感までを再現しています。臨場感も十分でした。

この天井壁画が展示されたのは2回目です。昨年、同じく芸大美術館の陳列館で行われた「素心 バーミヤン大仏天井壁画~流出文化財とともに」以来のことでした。記憶に新しい方も多いかもしれません。


「敦煌莫高窟第57窟の再現」 中国

中国の敦煌莫高窟第57窟の再現展示も圧巻の一言です。かの地の第57窟の内部壁画と塑像が実に見事に再現されています。アーチを抜けると、そこは敦煌でした。


「敦煌莫高窟第57窟の再現」 中国

この再現度が半端ありません。壁画の凹凸までを記録したデータを元に、画像処理を行った上で、紙に印刷し、その上から荒砂や敦煌の土を混ぜた構造体を貼り付けています。


「敦煌莫高窟第57窟の再現」 中国

塑像に関しては後世の修復が見られるそうです。よって、ほかの洞窟の仏像を参照し、造像当初の姿を推定して復元しています。暗がりの洞窟内の湿った空気感さえ伝わるかのようでした。


「高句麗古墳群 江西大墓」 北朝鮮

ほかにも北朝鮮の「高句麗古墳群江西大墓」の「四神図」や、ミャンマーのバガン遺跡の「ミンカバー・グービャウッヂー寺院壁画」の部分再現のほか、一部にオリジナルの仏像頭部や壁画の断片なども展示されています。


「仏陀頭部」 パキスタン 3〜4世紀 平山郁夫シルクロード美術館

また香りや音楽を用いるなど、五感で楽しめる取り組みもあります。クローン文化財で辿る世界の遺跡への旅。復元品の新たな可能性を感じるような展覧会でした。


館内は一部のパネルを除き、撮影も可能でした。

10月26日まで開催されています。

「シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」 東京藝術大学大学美術館
会期:9月23日(土)〜10月26日(木)
休館:月曜日。但し10月9日は開館。
時間:10:00~17:00 
 *金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高校・大学生800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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