「驚異の超絶技巧!ー明治工芸から現代アートへ」 三井記念美術館

三井記念美術館
「驚異の超絶技巧!ー明治工芸から現代アートへ」 
9/16~12/3



三井記念美術館で開催中の「驚異の超絶技巧!ー明治工芸から現代アートへ」のブロガーナイトに参加してきました。

明治時代、主に輸出用として作られた七宝や金工などの工芸品には、まさに「超絶技巧」と呼ぶべき、職人らの並外れた技が反映されていました。

そうした工芸品に着目したのが、「驚異の超絶技巧!ー明治工芸から現代アートへ」です。三井記念美術館では、2014年にも「超絶技巧!明治工芸の粋」を開催しましたが、今回は内容を一新し、明治時代だけでなく、現代美術における技巧的な作品までを紹介しています。


右:宗義「伊勢海老」 清水三年坂美術館

まずは海老の自在置物に注目です。自在とは、身体の各部の可動する金属の置物で、江戸時代中期頃に生み出されました。その後、明治時代に発展し、機構のみならず、色彩までを再現しては、実物に迫ろうとする作品も作られました。写真の右は、戦前の宗義の制作した「伊勢海老」です。宗義は、明治時代に京都で台頭した、高瀬好山に習った職人の1人で、特に名工の呼び声が高く、様々な自在を世に送り出しました。


大竹亮峯「自在 鹿の子海老」

一方で、中央の海老はどうでしょうか。これこそが、1989年生まれの大竹亮峯による木彫の自在で、本展のために制作された新作でした。触覚から細かな肢までを見事に再現し、一部には、和紙に漆を塗った素材で、透ける様子を表現しています。自在の伝統は、若い作家の創作を借りて、現代に新たな形で蘇りました。


手前:満田晴穂「自在蛇骨格」

このように明治から戦前までと、現代の作品が、時に隣り合わせに展示されているのもポイントです。例えば、同じく自在では、明珍派の「蛇」と、現代作家の満田晴穂の「自在蛇骨格」が並んでいました。ちなみに、満田の骨格のパーツ数は全部で500個もあり、背骨は0.1ミリ単位で調整することが出来るそうです。触ることこそ叶いませんが、さぞかし滑らかに動くに違いありません。


手前:高瀬好山「十二種昆虫」 清水三年坂美術館

昆虫の自在の比較も面白いのではないでしょうか。手前は、明治から昭和にかけて活動した、高瀬好山による「十二種昆虫」で、蜻蛉や蝶、兜虫などの12種の昆虫を、銀や銅との合金などで、ほぼ原寸大に作っています。もちろん脚を動かせたり、翅を開閉することも出来るそうです。


満田晴穂「自在十二種昆虫」

その奥にあるのが、先の蛇同様、現代作家の満田晴穂の「自在十二種昆虫」でした。同じく本物と見間違うかのように精巧ですが、満田は技巧をより進展させ、明治工芸では動かなかった腹や顎、符節など、本来的に昆虫が動く部分を、ほぼ全て動かせるように作り上げています。


安藤緑山「柿」 ほか

そのリアリティーにかけて断然に魅惑的なのが、明治から昭和にかけて活動した、牙彫家の安藤緑山でした。2014年の「超絶技巧展」でも注目を集めた緑山は、その後、調査が進み、新たな作品も発見されました。ただし安藤自体は依然として謎めいた職人で、生没年はおろか、家族や弟子の有無も分かっていません。作品のみが残されています。


安藤緑山「胡瓜」

スーパーリアリズムと称されるのも、あながち誇張ではありません。その最たるのが「胡瓜」でした。蔓や実の表皮のイボ、さらにはしぼんだ花など、まさに実物に迫る造形でキュウリを象っています。


安藤緑山「パイナップル、バナナ」 清水三年坂美術館

柿やパイナップル、筍もリアルで、全て象牙の彫刻です。また安藤は形だけでなく、本物の色も実に器用に再現しています。しぼんだ干し柿や、土色のしいたけからは、象牙の硬さを微塵も感じられません。


前原冬樹「一刻:皿に秋刀魚」

もちろん現代においても、リアリズムに取り組む作家がいます。その1人が木彫家の前原冬樹でした。食べかけの秋刀魚が、白い皿の上にのっています。鱗や半身の質感の再現度は極めて高く、何度見ても木彫には思えませんが、さらに解説を読んで驚きました。というのも、魚と皿は一体、つまり一木から彫り出された作品だからです。にわかには信じられません。


前原冬樹「一刻:有刺鉄線」

同じく前原の「空き缶、ピラカンサ」、「有刺鉄線」も、一木から作られた作品でした。有刺鉄線には、細く、葉をつけた植物の蔓が絡みついています。作家は制作中、作品が折れないよう、指の上で彫り進めるそうです。


鈴木祥太「綿毛蒲公英」

1987年生まれの鈴木祥太も、驚くべき精緻な作品を作り上げていました。「綿毛蒲公英」です。一本のタンポポの綿を再現していますが、綿毛は極細の真鍮線で、白い色は酸化チタンをつけて、茎の部分に一本一本差し込んでいます。肉眼では細部が確認出来ないかもしれません。単眼鏡が必要でした。


山口英紀「右心房左心室」

写真と見間違う方も少なくないかもしれません。現代の画家、山口英紀は、「右心房左心室」において、高層ビルの間を走る高速道路の風景を表しました。タイトルは車の流れを動脈と静脈に見立てたもので、右の作品には車が走っているものの、左には一台も走っていません。


山口英紀「右心房左心室」(拡大)

素材は水墨で、絹地の上に筆で描いています。確かにモノクロ写真のようにも見えますが、実際の作品を前にすると、墨の細かなニュアンスも伝わってきます。その辺も魅力と言えそうです。


臼井良平「Untitled」

写実的ながらも、ややトリッキーでもあるのが、臼井良平の作品でした。一見するところ、水で満たされたペットボトルが2本あり、一部は手で押しつぶしたのか、歪んでいます。中にはたくさんの気泡が浮いていました。プラスチックで出来ているように思えるかもしれません。

実際はガラスでした。ボトルの左右、底面を3分割して型取りし、型を作ります。その受け口に固形のガラスを詰め、焼成しているそうです。さらに質感を際立たせるため、やすりで研磨します。完成まで全部で20工程にも及ぶそうです。作家の造形に対する執念すら感じられるほどでした。


並河靖之「紫陽花図花瓶」 清水三年坂美術館

出展作数は七宝、漆工、牙彫、木彫、自在、陶磁、金工、染織をあわせて約150点です。現代の作品が意外と多くあります。明治から昭和、そして現代へと至る、職人や作家の超絶技巧の系譜を、工芸品から辿ることが出来ました。


右:宮川香山「猫ニ花細工花瓶」 眞葛ミュージアム
左:高橋賢悟「origin as a human」


写真はいずれもブロガーナイト時に美術館の許可を得て撮影しましたが、冒頭の2点、宮川香山の「猫ニ花細工花瓶」と、現代作家の高橋賢悟の「origin as a human」は、会期中、いつでも写真が撮れます。

12月3日まで開催されています。

「驚異の超絶技巧!ー明治工芸から現代アートへ」 三井記念美術館
会期:9月16日(土)~12月3日(日)
休館:月曜日、10月10日(火)。
 *但し9月18日(月・祝)、10月10日(火)は開館。
時間:10:00~17:00  
 *ナイトミュージアム:会期中の金曜日、および9月30日(土)は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。 
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *70歳以上は1000円。
 *ナイトミュージアム開催日の17時以降の入館料は一般1000円、大学・高校生500円。
 *リピーター割引:会期中、一般券、学生券の半券を提示すると、2回目以降は団体料金を適用。
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅1番出口より徒歩5分。

注)写真はブロガーナイト時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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