「黄金町バザール2017」 日ノ出町駅から黄金町駅間の高架下スタジオほか

京急線日ノ出町駅から黄金町駅間の高架下スタジオ、周辺のスタジオ、既存の店舗、屋外、他
「黄金町バザール2017ーDouble Façade 他者と出会うための複数の方法」 
8/4〜9/13、9/15〜11/5



「黄金町バザール2017」へ行ってきました。

2008年にスタートした黄金町バザールも、10回目の開催を迎えました。

今年はヨコハマトリエンナーレとの連動企画です。「Double Façade 他者と出会うための複数の方法」をテーマに、現代美術の展示をはじめ、ワークショップ、パフォーマンスイベントのほか、シンポジウムなどが開催されています。



「黄金町バザール」起点は、ちょうど開催エリア中央部、日の出町駅と黄金町駅の間の、「黄金町エリアマネジメントセンター事務局」です。ここでヨコハマトリエンナーレのセット券を、バザールのパスポートに引き換えることが出来ます。トリエンナーレ会場と行き来するシャトルバスも、センターの目の前で発着していました。



センターでパスポートを入手し、地図を片手に街へと繰り出します。会場は約15か所です。いずれも小さなスペースですが、エリア一帯に分散しているため、まさに街歩きさながら、線路の高架に沿いつつ、時に細い路地を行き来しては、会場を練り歩く必要があります。



建物の壁面に絵画が見えました。台湾のキャンディー・バードによる、「歯車味のチャーハン」です。何とも謎めいたタトルですが、三島由紀夫の小説「仮面の告白」に着想を得ていて、作中に登場する、台湾の少年工の歴史を表現しています。作家は、台湾でストリート・アーティストとして活動し、街頭や廃墟に作品を描いているそうです。その絵画が黄金町にも加わりました。



フィリピンのジェイビー・デル・ロザリオは、詩や作曲に加え、バンドとしても活動しています。既製品による楽器でしょうか。映像に流れる音楽とともに、実際に叩いては、打ち鳴らし、演奏することも出来ました。



たくさんのモニターが置かれていました。キュンチョメによる「ここでつくる新しい顔」です。しかし顔とはいえども、いずれも様子がおかしいことに気づきました。何故ならば、皆、目隠しをしているからです。作品は、昨年、チュンチョメが実施した個展を記録した映像で、作家は、国内にいる難民を個展会場に滞在させ、来場した観客と一緒に顔を作るというパフォーマンスを行いました。

その会場は暗く、戸惑いを覚える観客も少なくなかったそうです。しかし、回が進むに連れ、難民が観客、つまり日本人をうまくコントロールし、的確に顔を作り上げる、いわばプロフェッショナルと化しました。そこにチュンチョメは、難民と日本人という、本来的にゲストとホストの関係が、逆転していることを見出しました。



Chim↑Pomは以前、無人島ギャラリーに出展した「The other side」を縮小して再構成。メキシコとアメリカの国境に取材した映像作品を展示しています。



地域住民を集め、オークションを行ったのが、現代美術家の松蔭浩之でした。ただし通常とは異なり、美術品の落札にお金を要しません。つまり「お金のかからないオークション」でした。その代わりに会期中、落札者の自宅や商店に、作品を展示します。



オークション時の映像が出ていましたが、松蔭の巧みなトークもあってか、会場も盛り上がっているように見えました。地域を巻き込んだ、面白い取り組みではないでしょうか。



アニメソングを鳴り響かせながら、踊り続けるパフォーマンス劇団、「革命アイドル暴走ちゃん」が、カオスとも言うべき空間を作り出していました。2013年に、スイスやオランダの招聘を受けて活動を始め、以来、ヨーロッパ各地やオーストラリアでも公演を重ねてきました。



ライブは演出家が統制し、観客にコミュニケーションを求める、「客席に侵入する上演スタイル」(解説より)を取っているそうです。「普通の演劇に興味ありません」のメッセージもありました。かなり尖っています。



韓国のイ・セヒョンの写真を見て、思い出したのが、マグリットの絵画でした。ランドマークタワーを背にした横浜港を捉えたのが、「Made in Yokohama」です。藍色の海に青空がよく映えてます。しかし、空に異変がありました。突如、現れた石の存在です。まるで隕石が飛来したかのように宙に浮いています。



ほかにも、広島の原爆ドームの空に石が現れた写真もありました。実際のところ、石を投げ込んで、写真に収めているそうです。にも関わらず、どこか非日常的な世界を捉えているようにも見えました。シュールとも言えるかもしれません。



毒山凡太朗は、台湾と沖縄で戦争を体験した人々に取材し、映像を制作しています。いわゆる皇民化教育の時代で、当時の記憶を残す台湾の老人は、流暢な日本語で軍歌を歌っていました。作家は福島の生まれで、かの3.11を切っ掛けに、サラリーマン生活をやめ、美術家として活動し始めました。対象者へ真正面に向き合う丁寧なインタビューも印象に残りました。



有川滋男の映像インスタレーションが見応えありました。舞台は横浜です。ユニフォーム姿で、ヘルメットをかぶり、ラバーカップを持っている人々が登場します。水道業者なのでしょうか。しかしすぐに違うことがわかりました。



全ては創作で、現実ではありません。有川は「架空の職業を営む架空の職場」(解説より)を作り上げているからです。



映像だけでなく、会場にも職場を再現しているのも、面白いのではないでしょうか。映像と見比べては楽しみました。



ほかには高架下の土の剥き出しのスペースを用いた地主麻衣子や、日常的な空間に日用品を取り込んでインスタレーションを構成した、チョン・ボギョンの展示なども心に留まりました。

さて、最後におすすめしたいのが、マツダホームです。アーティストは、黄金町の長期レジデンスに参加している松田直樹・るみによるユニットで、ガイドには「彼らの日常生活の様子を公開」とありました。一体、どのような内容なのでしょうか。



マツダホームは、大岡川に面した、古びた雑居ビルの3階にありました。かなり老朽化が進んでいて、塗装は剥げ落ち、あちこちは錆び付いています。しかし廃墟ではなく、現役の建物で、実際に人の生活の気配も感じられました。住人もおられるようです。



率直なところ、入るのに躊躇しました。というのも、バザールの看板こそあるものの、マツダホームの扉が固く閉ざされているからです。しかも入場にはインターホンを押す必要もありました。

あえてネタバレは伏せます。是非、現地で体験していただきたいところですが、まさしくテーマの「他者と出会うための複数の方法」を、体を張って実現した展示ではないでしょうか。事前にリサーチしていなかった私にとっては、大いにサプライズでした。

結局、今年のヨコハマトリエンナーレは、3つの本展示と、連動するBankARTと黄金町バザールを、2日間に分けて見て来ました。もちろんペースに個人差はありますが、全ての展示を1日で巡るのは、相当にハードではないかと思います。



横浜美術館を中心とするトリエンナーレも見応えはありますが、古い倉庫跡を利用したBankARTや、かつての風俗街の雰囲気も残る黄金町界隈の展示は、ともに場所自体からして独特な魅力があります。



トリエンナーレにお出かけの際は、日程にゆとりを持って、BankARTや黄金町もあわせて観覧されることをおすすめします。


会期も残り半月強となりました。11月5日まで開催されています。

*「ヨコハマトリエンナーレ2017」 関連エントリ
前編:横浜美術館/中編:横浜赤レンガ倉庫1号館/後編:横浜市開港記念会館地下/BankART LifeⅤ~観光/黄金町バザール2017

「黄金町バザール2017ーDouble Façade 他者と出会うための複数の方法」@koganechobazaar) 京急線日ノ出町駅から黄金町駅間の高架下スタジオ、周辺のスタジオ、既存の店舗、屋外、他
会期:8月4日(金)〜 9月13日(水)、9月15日(金)〜11月5日(日)
休館:第2・第4木曜日。
時間:11:00~18:30
 *但し10/27〜29、11/2〜4は20時半まで。
料金:700円。パスポート制。会期中有効。
 **ヨコハマトリエンナーレ提携セット券あり。一般2400円、大学・専門学生1800円、高校生1400円。中学生以下無料。
住所:横浜市中区日ノ出町2-158(認定NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター)
交通:京急線日ノ出町駅または黄金町駅より徒歩約3分。JR線・横浜市市営地下鉄桜木町駅より徒歩15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )