都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎」 永青文庫
永青文庫
「重要文化財 長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎」
9/30~11/26

永青文庫で開催中の「重要文化財 長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎」を見てきました。
戦国から江戸の武将、細川幽斎の援助によって再興した南禅寺天授庵には、長谷川等伯の描いた障壁画が今も残されています。
その障壁画が全32面、まとめて永青文庫へとやって来ました。ただし会場のスペースの都合か、一度に出るのは半数です。前後期で各16面ずつ公開されます。

長谷川等伯「禅宗祖師図」(部分) 天授庵 *前期展示
冒頭が障壁画でした。前期は「禅宗祖師図」の16面です。一図とはいえども、場面は「船子夾山図」、「五祖・六祖図」、「趙州頭載草鞋図」、「南泉斬猫図」、「懶さんわい芋図」の5場面あり、中国の唐の禅僧に基づく物語などが描かれています。
いずれの面でも印象に深いのは、等伯が筆の硬軟を駆使し、人物に風景を巧みに描き分けていることです。「船子夾山図」でも、禅僧の着衣の線は素早く、直線的でかつ鋭い一方、顔相は、細かな線を丁寧に重ね、リアルに表現しています。また背後の波の線は柔らかく、穏やかな水面を表していました。
「五祖・六祖図」も同様です。さらに「趙州頭載草鞋図」では、岩の質感を引き出すために、太いストロークを重ねています。枝を左右に振り広げる松にも緊張感がありました。
チラシ表紙を飾るのが「南泉斬猫図」です。一人の禅僧が、屈み込みながら、右手で刃物を持ち、左手で猫をつかんでいます。この後、猫は殺されてしまうのでしょうか。
この禅僧は、唐の時代の南泉普願で、猫に仏性があるかを論争していた僧に対し、「私を納得させなければ猫を斬る。」と宣言したそうです。しかし誰一人、答えることが出来なかったために、南泉は猫を無残にも斬ってしまいました。猫は、明らかに恐怖に怯え、手足をばたつかせています。そして南泉は、目をむき出しにしては、険しい表情を見せていました。当然ながら静止した姿ながらも、さも動き出すような生気さえ感じられます。これぞ等伯の画力の現れなのかもしれません。
さて、永青文庫の展示室は、4階から2階へと3層に続きます。一連の障壁画は、最初の4階でした。階下の3階では、細川幽斎に因む書状や太刀、そして2階では、細川家に由来する能面が展示されています。幽斎は太鼓の名手であったことから、能楽は細川家で盛んに行われました。

「細川幽斎(藤孝)像」 天授庵 *前期展示
元々、足利家に仕えていた幽斎は、のちに織田信長に従いました。さらに本能寺の変では、光秀に助力を求められるも、拒絶し、家督を息子に譲り、秀吉、家康に属しました。戦国の武人でありながら、歌道や能にも通じた文化人でもあったそうです。その墓所は天授庵に存在します。
幽斎と等伯の直接的な繋がりは確認されていませんが、幽斎と利休、利休と等伯に交流があり、等伯は幽斎の弟の肖像を描いていることから、何らかの人脈があったと考えられています。等伯は晩年に天授庵の障壁画を制作しました。しかしそこには、松林図屏風のような空間表現はありません。より新しい墨画の構成を志向したと指摘されています。
幽斎に関する文物で目を引いたのは、国宝の「柏木菟螺鈿鞍」でした。足利13代将軍より賜ったと伝えられる鞍で、黒漆塗の表面には、柏と木菟の図などが、かなり細かな螺鈿で表されています。ほか信長からの朱印状や、歌集の「衆妙集」なども、幽斎の活動を今に伝える資料ではないでしょうか。

能面と狂言面は全部で8点出ていました。必ずしも広いスペースではありませんが、天授庵の障壁画のみならず、幽斎に関する資料も提示し、その人となりをも伝えています。細川家ゆかりの永青文庫ならではの展覧会と言えるかもしれません。なおカタログはありませんが、季刊「永青文庫」が内容に準拠しています。300円の小冊子ながらも、図版などが充実していました。
最後に展示替えの情報です。会期は2期制です。天授庵の障壁画は前後期で全て入れ替わります。
前期:9月30日(土)~10月29日(日)
後期:10月31日(火)~11月26日(日)
リピーター割と称し、会期中に観覧済の半券を提示すると、入館料が100円引きになります。後期も追いかけたいところです。

この日は天気が良く、永青文庫から神田川へと連なる肥後細川庭園も、あわせて散策してきました。

池泉回遊式の日本庭園で、目白台側を山に見立てた、立体的な景観が特徴です。緑に囲まれた空間はおおよそ都心とは思えません。園内も思いの外に広く、約19000平方メートルもあります。

池には台地の湧き水も取り入れられているそうです。また園内には休憩室や集会室を有する松聲閣があり、風景を眺めながらお茶をいただくことも出来ます。

元は細川家の下屋敷で、明治時代に本邸となったのち、戦後、東京都によって公園として整備されました。現在は文京区が管理しています。
11月26日まで開催されています。
「重要文化財 長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎」 永青文庫(@eiseibunko)
会期:9月30日(土)~11月26日(水・祝)
前期:9月30日(土)~10月29日(日)
後期:10月31日(火)~11月26日(日)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館し、翌日休館。
料金:一般1000(900)円、70歳以上800(700)円、大学・高校生400円、中学生以下無料。
*( )内は10名以上の団体料金。
*リピーター割:会期中、観覧済半券を提示すると100円引。
時間:10:00~16:30。
*入館は閉館の30分前まで
住所:文京区目白台1-1-1
交通:都電荒川線早稲田駅より徒歩10分。東京メトロ有楽町線江戸川橋駅出口1aより徒歩15分。東京メトロ東西線早稲田駅出口3aより徒歩15分。JR目白駅より都営バス「白61 新宿駅西口」行きにて「目白台三丁目」下車徒歩5分。
「重要文化財 長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎」
9/30~11/26

永青文庫で開催中の「重要文化財 長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎」を見てきました。
戦国から江戸の武将、細川幽斎の援助によって再興した南禅寺天授庵には、長谷川等伯の描いた障壁画が今も残されています。
その障壁画が全32面、まとめて永青文庫へとやって来ました。ただし会場のスペースの都合か、一度に出るのは半数です。前後期で各16面ずつ公開されます。

長谷川等伯「禅宗祖師図」(部分) 天授庵 *前期展示
冒頭が障壁画でした。前期は「禅宗祖師図」の16面です。一図とはいえども、場面は「船子夾山図」、「五祖・六祖図」、「趙州頭載草鞋図」、「南泉斬猫図」、「懶さんわい芋図」の5場面あり、中国の唐の禅僧に基づく物語などが描かれています。
いずれの面でも印象に深いのは、等伯が筆の硬軟を駆使し、人物に風景を巧みに描き分けていることです。「船子夾山図」でも、禅僧の着衣の線は素早く、直線的でかつ鋭い一方、顔相は、細かな線を丁寧に重ね、リアルに表現しています。また背後の波の線は柔らかく、穏やかな水面を表していました。
「五祖・六祖図」も同様です。さらに「趙州頭載草鞋図」では、岩の質感を引き出すために、太いストロークを重ねています。枝を左右に振り広げる松にも緊張感がありました。
チラシ表紙を飾るのが「南泉斬猫図」です。一人の禅僧が、屈み込みながら、右手で刃物を持ち、左手で猫をつかんでいます。この後、猫は殺されてしまうのでしょうか。
この禅僧は、唐の時代の南泉普願で、猫に仏性があるかを論争していた僧に対し、「私を納得させなければ猫を斬る。」と宣言したそうです。しかし誰一人、答えることが出来なかったために、南泉は猫を無残にも斬ってしまいました。猫は、明らかに恐怖に怯え、手足をばたつかせています。そして南泉は、目をむき出しにしては、険しい表情を見せていました。当然ながら静止した姿ながらも、さも動き出すような生気さえ感じられます。これぞ等伯の画力の現れなのかもしれません。
さて、永青文庫の展示室は、4階から2階へと3層に続きます。一連の障壁画は、最初の4階でした。階下の3階では、細川幽斎に因む書状や太刀、そして2階では、細川家に由来する能面が展示されています。幽斎は太鼓の名手であったことから、能楽は細川家で盛んに行われました。

「細川幽斎(藤孝)像」 天授庵 *前期展示
元々、足利家に仕えていた幽斎は、のちに織田信長に従いました。さらに本能寺の変では、光秀に助力を求められるも、拒絶し、家督を息子に譲り、秀吉、家康に属しました。戦国の武人でありながら、歌道や能にも通じた文化人でもあったそうです。その墓所は天授庵に存在します。
幽斎と等伯の直接的な繋がりは確認されていませんが、幽斎と利休、利休と等伯に交流があり、等伯は幽斎の弟の肖像を描いていることから、何らかの人脈があったと考えられています。等伯は晩年に天授庵の障壁画を制作しました。しかしそこには、松林図屏風のような空間表現はありません。より新しい墨画の構成を志向したと指摘されています。
幽斎に関する文物で目を引いたのは、国宝の「柏木菟螺鈿鞍」でした。足利13代将軍より賜ったと伝えられる鞍で、黒漆塗の表面には、柏と木菟の図などが、かなり細かな螺鈿で表されています。ほか信長からの朱印状や、歌集の「衆妙集」なども、幽斎の活動を今に伝える資料ではないでしょうか。

能面と狂言面は全部で8点出ていました。必ずしも広いスペースではありませんが、天授庵の障壁画のみならず、幽斎に関する資料も提示し、その人となりをも伝えています。細川家ゆかりの永青文庫ならではの展覧会と言えるかもしれません。なおカタログはありませんが、季刊「永青文庫」が内容に準拠しています。300円の小冊子ながらも、図版などが充実していました。
最後に展示替えの情報です。会期は2期制です。天授庵の障壁画は前後期で全て入れ替わります。
前期:9月30日(土)~10月29日(日)
後期:10月31日(火)~11月26日(日)
リピーター割と称し、会期中に観覧済の半券を提示すると、入館料が100円引きになります。後期も追いかけたいところです。

この日は天気が良く、永青文庫から神田川へと連なる肥後細川庭園も、あわせて散策してきました。

池泉回遊式の日本庭園で、目白台側を山に見立てた、立体的な景観が特徴です。緑に囲まれた空間はおおよそ都心とは思えません。園内も思いの外に広く、約19000平方メートルもあります。

池には台地の湧き水も取り入れられているそうです。また園内には休憩室や集会室を有する松聲閣があり、風景を眺めながらお茶をいただくことも出来ます。

元は細川家の下屋敷で、明治時代に本邸となったのち、戦後、東京都によって公園として整備されました。現在は文京区が管理しています。
京都国立博物館「国宝」展が開幕しました。永青文庫からも「時雨螺鈿鞍」「太刀 銘 豊後国行平作」などを出品しています。展示期間をご確認のうえぜひご覧ください。https://t.co/uDO6sXkVahなお永青文庫「長谷川等伯障壁画展」では、もう1件の国宝中世螺鈿鞍「柏木莵螺鈿鞍」を展示中です。 pic.twitter.com/N0ELP9nTXn
— 永青文庫 (@eiseibunko) 2017年10月4日
11月26日まで開催されています。
「重要文化財 長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎」 永青文庫(@eiseibunko)
会期:9月30日(土)~11月26日(水・祝)
前期:9月30日(土)~10月29日(日)
後期:10月31日(火)~11月26日(日)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館し、翌日休館。
料金:一般1000(900)円、70歳以上800(700)円、大学・高校生400円、中学生以下無料。
*( )内は10名以上の団体料金。
*リピーター割:会期中、観覧済半券を提示すると100円引。
時間:10:00~16:30。
*入館は閉館の30分前まで
住所:文京区目白台1-1-1
交通:都電荒川線早稲田駅より徒歩10分。東京メトロ有楽町線江戸川橋駅出口1aより徒歩15分。東京メトロ東西線早稲田駅出口3aより徒歩15分。JR目白駅より都営バス「白61 新宿駅西口」行きにて「目白台三丁目」下車徒歩5分。
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