都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「安藤忠雄展ー挑戦」 国立新美術館
国立新美術館
「安藤忠雄展ー挑戦」
9/27〜12/18

国立新美術館で開催中の「安藤忠雄展ー挑戦」を見てきました。
1941年に大阪で生まれ、独学で建築を学んだ安藤忠雄は、1969年に「都市ゲリラ」として設計活動を始め、以来、約50年、世界的な規模で建築作品を作り続けてきました。
その安藤の足跡を辿る回顧展です。模型、スケッチ、ドローイングのほか、原寸再現の作品を通し、建築家としての業績を振り返りつつ、進行形のプロジェクトを踏まえることで、未来への展開も見据えていました。
冒頭、安藤のアトリエの再現展示を過ぎると、数多く現れるのが、住宅建築の模型でした。そもそも安藤のキャリアは、都市住宅の設計からスタートしています。しかし、最初の10年は、なかなか設計の仕事が得られず、敷地も狭い上に、予算も乏しい状況だったそうです。
安藤の建築テーマは、「徹底して単純な幾何学形態の内に、複雑多様な空間シーンを展開させる」、あるいは「コンクリートの素材を持って、どこにもないような個性的な空間をつくりだす」(ともに解説より)ことにありました。

「住吉の長屋」 大阪府大阪市 1976年
その安藤が、一躍注目を浴びたのが、今もなお有名な「住吉の長屋」でした。大阪の下町の三軒の長屋を、一棟のコンクリートのコートハウスに建て替えたもので、敷地面積は約57平方メートルと狭小でした。光と風を送り込むための中庭が特徴的で、雨の日には、家の中でも傘をささねば移動出来ないとして物議を醸しました。実際、安藤自身も、自らの住宅を「住みにくいかもしれません」と語っています。

「靭公園の住宅」 大阪府大阪市 2010年
自然を引き込むことも、安藤住宅の一つの要素です。大阪の「靭公園の住宅」も同様で、間口5メートル、奥行き27メートルという町家的な敷地の中に、公園の緑を取り込むように設計しました。より緑との一体感を志向するためか、公園との隔壁は緑化壁になっています。壁と公園の緑が一つに重なって見えました。

「4×4の住宅」 兵庫県神戸市 2003年
「4×4の住宅」も個性的です。4×4メートルの建坪の個人住宅で、瀬戸内海に面し、眼前の海景を屋内に引き込むために、最上階の海側の全面をガラスの開口部として設計しました。海面に反射した光も、屋内へと鮮やかに差し込んでいました。
その光を効果的に活かした作品として知られるのが、大阪の茨木の「光の教会」でした。郊外の住宅街に作られた礼拝堂で、装飾性のないコンクリートの正面に、十字型の切り込みを入れ、そこから入り込む光が、教会のシンボルを暗示するように仕上げました。
驚いたことに、屋外展示場にて「光の教会」が原寸で再現されています。撮影も可能でした。

「光の教会」 大阪府茨木市 1989年 *原寸大再現展示
足場が組まれていて、順に沿いつつ、狭い開口部より中へと入ると、ご覧のように、白い十字架の光が燦然と輝いていました。内部は階段状になっていて、十字架部分の手前に祭壇がありました。もちろん祭壇まで行くことも出来ました。

「光の教会」 大阪府茨木市 1989年 *原寸大再現展示
壁に触れると、コンクリートに独特の冷ややかな感触が、手に伝わってきました。内部は完全な長方形ではなく、後方の一部が、壁で斜めに切り取られています。右側にも開口部があり、そこからも別の光が入り込んでいました。それ以外の仕掛けは一切ありません。シンプルながらも、実にシンボリックでかつ、美しい空間です。しばし光に見惚れてしまいました。

「光の教会」 大阪府茨木市 1989年 *原寸大再現展示
もちろん十字の切り込みを、外から見ることも出来ます。過去の建築展において、これほどまでに大規模でかつ、精巧な再現が行われたことはあったのでしょうか。展覧会のハイライトと化していました。
さて展示の後半は、都市における商業や公共建築です。ここに安藤は、「余白の空間をつくりだし、人の集まる場を生み出すこと」(解説より)を目指しました。それは地上から回遊する道であり、人々が立ち止まる、広場のような空間でもありました。

「表参道ヒルズ」 東京都渋谷区 2006年
都内でよく知られるのが「表参道ヒルズ」です。同潤会青山アパートの跡地に作られた、集合住宅と商業の複合施設で、内部に、かつてのアパートの中庭を思わせる、三角形の吹き抜け広場を構築しました。またファサードは、参道の並木の高さを超えない範囲で作られ、広場には、参道と同じ勾配のスパイラルロープを巡らせました。私も中へ初めて入った時には、独特の勾配が印象に残ったものでした。
国立新美術館にほど近い「21_21DESIGN SIGHT」も安藤建築です。言うまでもなく、デザインをテーマとする展示施設で、内部にはやはり吹き抜けがあり、地下の展示空間へ光を誘っています。「折り紙」とも称される外観の造型も独特で、鳥が翼を広げているようにも見えました。周囲の環境と一体化するように、ランドスケープを取り込むべくデザインされました。

「直島の一連のプロジェクト」 香川県直島町 1992年〜 *インスタレーション風景
「直島プロジェクト」も、一つのランドスケープを構築した言えるかもしれません。安藤は瀬戸内海に浮かぶ直島に、ベネッセハウスや地中美術館のほか、計7棟の建築を、約30年余りかけて作り上げました。まさしく直島の地形あってのプロジェクトです。これぞ「その場所にしかできない建築」(解説より)への挑戦の証でもあります。

「直島の一連のプロジェクト」 香川県直島町 1992年〜 *インスタレーション風景
この「直島プロジェジェクト」は、映像と模型を用いたインスタレーションとして紹介されていました。(直島プロジェジェクトは撮影可)直島を模した空間の向こうにはスクリーンがあり、かの地の自然や安藤の建築を、臨場感のある映像で見ることが出来ました。

「真駒内滝野霊園 頭大仏」 北海道札幌市 2015年
「周辺環境と一体化して、その場所の個性を際立たせるような建築」(解説より)も安藤作品の一つの特質です。私が驚いた建築がありました。それが札幌にある「真駒内滝野霊園 頭大仏」です。主役は大仏です。とはいえ、大仏自体は安藤の設計では当然ありません。その外側の建造物こそが作品でした。ここで安藤は大仏の頭だけをいわば露出し、下部をラベンダーの丘で覆い隠すという設計を行っています。よって来場者は、アプローチ先に、ラベンダーから突き出た頭を仰ぎ見ることになるそうです。また冬はご覧のように雪に埋もれるようです。なんたる演出なのでしょうか。

「プンタ・デラ・ドガーナ」 イタリア、ヴェニス 2009年
安藤は世界的な建築家です。よって海外の建築も目を離せません。とりわけ印象深いのは、30分の1スケールの大型模型も目立つ、「プンタ・デラ・ドガーナ」でした。ヴェニスのサン・マルコ広場の歴史的建造物を、現代美術館として再生させた建物で、建造当初の15世紀の形に戻しつつ、中央部にコンクリートの壁による空間を取り込み、新旧の「対話」(解説より)する場を作り上げました。こうした建物の再生も安藤の重要な仕事の一つでした。

「FABRICA(ベネトン・アートスクール)」 イタリア、トレヴィーゾ 2000年
模型、映像や再現模型など、体感的にも楽しめる展示ですが、図面がかなり出ていて、いずれ殊更に美しいのが印象に残りました。素人目にも目を見張るものがあります。

「上海保利大劇院」 中華人民共和国、上海 2014年
随所に垣間見える直筆のキャプションも親しみ易いのではないでしょうか。安藤の持ち前のサービス精神を見るかのようでした。
会期の初めに出かけてきましたが、思いがけないほどに混雑していました。特に前半部、安藤の住宅建築の模型を見せるスペースは、通路状で狭く、最前列で見るためには列に並ぶ必要がありました。
「安藤忠雄 仕事をつくるー私の履歴書/日本経済新聞出版社」
ファミリー、カップルをはじめ、若い方が多いのも印象的でした。会期後半には入場待ちの待機列が出来るかもしれません。金曜、及び土曜日の20時までの夜間開館も狙い目となりそうです。
300ページ超にも及ぶカタログが1980円とお値打ちでした。会場のテーマに準じ、約90もの建築作品が図版で掲載されています。即購入しました。
12月18日まで開催されています。おすすめします。
「安藤忠雄展ー挑戦」@(ANDO_endeavors) 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:9月27日(水)〜12月18日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
*毎週金・土曜日は20時まで開館。
*9月30日(土)、10月1日(日)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。
* ( )内は20名以上の団体料金。
*11月3日(金・祝)、4日(土)、5日(日)は高校生無料観覧日(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
「安藤忠雄展ー挑戦」
9/27〜12/18

国立新美術館で開催中の「安藤忠雄展ー挑戦」を見てきました。
1941年に大阪で生まれ、独学で建築を学んだ安藤忠雄は、1969年に「都市ゲリラ」として設計活動を始め、以来、約50年、世界的な規模で建築作品を作り続けてきました。
その安藤の足跡を辿る回顧展です。模型、スケッチ、ドローイングのほか、原寸再現の作品を通し、建築家としての業績を振り返りつつ、進行形のプロジェクトを踏まえることで、未来への展開も見据えていました。
冒頭、安藤のアトリエの再現展示を過ぎると、数多く現れるのが、住宅建築の模型でした。そもそも安藤のキャリアは、都市住宅の設計からスタートしています。しかし、最初の10年は、なかなか設計の仕事が得られず、敷地も狭い上に、予算も乏しい状況だったそうです。
安藤の建築テーマは、「徹底して単純な幾何学形態の内に、複雑多様な空間シーンを展開させる」、あるいは「コンクリートの素材を持って、どこにもないような個性的な空間をつくりだす」(ともに解説より)ことにありました。

「住吉の長屋」 大阪府大阪市 1976年
その安藤が、一躍注目を浴びたのが、今もなお有名な「住吉の長屋」でした。大阪の下町の三軒の長屋を、一棟のコンクリートのコートハウスに建て替えたもので、敷地面積は約57平方メートルと狭小でした。光と風を送り込むための中庭が特徴的で、雨の日には、家の中でも傘をささねば移動出来ないとして物議を醸しました。実際、安藤自身も、自らの住宅を「住みにくいかもしれません」と語っています。

「靭公園の住宅」 大阪府大阪市 2010年
自然を引き込むことも、安藤住宅の一つの要素です。大阪の「靭公園の住宅」も同様で、間口5メートル、奥行き27メートルという町家的な敷地の中に、公園の緑を取り込むように設計しました。より緑との一体感を志向するためか、公園との隔壁は緑化壁になっています。壁と公園の緑が一つに重なって見えました。

「4×4の住宅」 兵庫県神戸市 2003年
「4×4の住宅」も個性的です。4×4メートルの建坪の個人住宅で、瀬戸内海に面し、眼前の海景を屋内に引き込むために、最上階の海側の全面をガラスの開口部として設計しました。海面に反射した光も、屋内へと鮮やかに差し込んでいました。
その光を効果的に活かした作品として知られるのが、大阪の茨木の「光の教会」でした。郊外の住宅街に作られた礼拝堂で、装飾性のないコンクリートの正面に、十字型の切り込みを入れ、そこから入り込む光が、教会のシンボルを暗示するように仕上げました。
驚いたことに、屋外展示場にて「光の教会」が原寸で再現されています。撮影も可能でした。

「光の教会」 大阪府茨木市 1989年 *原寸大再現展示
足場が組まれていて、順に沿いつつ、狭い開口部より中へと入ると、ご覧のように、白い十字架の光が燦然と輝いていました。内部は階段状になっていて、十字架部分の手前に祭壇がありました。もちろん祭壇まで行くことも出来ました。

「光の教会」 大阪府茨木市 1989年 *原寸大再現展示
壁に触れると、コンクリートに独特の冷ややかな感触が、手に伝わってきました。内部は完全な長方形ではなく、後方の一部が、壁で斜めに切り取られています。右側にも開口部があり、そこからも別の光が入り込んでいました。それ以外の仕掛けは一切ありません。シンプルながらも、実にシンボリックでかつ、美しい空間です。しばし光に見惚れてしまいました。

「光の教会」 大阪府茨木市 1989年 *原寸大再現展示
もちろん十字の切り込みを、外から見ることも出来ます。過去の建築展において、これほどまでに大規模でかつ、精巧な再現が行われたことはあったのでしょうか。展覧会のハイライトと化していました。
さて展示の後半は、都市における商業や公共建築です。ここに安藤は、「余白の空間をつくりだし、人の集まる場を生み出すこと」(解説より)を目指しました。それは地上から回遊する道であり、人々が立ち止まる、広場のような空間でもありました。

「表参道ヒルズ」 東京都渋谷区 2006年
都内でよく知られるのが「表参道ヒルズ」です。同潤会青山アパートの跡地に作られた、集合住宅と商業の複合施設で、内部に、かつてのアパートの中庭を思わせる、三角形の吹き抜け広場を構築しました。またファサードは、参道の並木の高さを超えない範囲で作られ、広場には、参道と同じ勾配のスパイラルロープを巡らせました。私も中へ初めて入った時には、独特の勾配が印象に残ったものでした。
国立新美術館にほど近い「21_21DESIGN SIGHT」も安藤建築です。言うまでもなく、デザインをテーマとする展示施設で、内部にはやはり吹き抜けがあり、地下の展示空間へ光を誘っています。「折り紙」とも称される外観の造型も独特で、鳥が翼を広げているようにも見えました。周囲の環境と一体化するように、ランドスケープを取り込むべくデザインされました。

「直島の一連のプロジェクト」 香川県直島町 1992年〜 *インスタレーション風景
「直島プロジェクト」も、一つのランドスケープを構築した言えるかもしれません。安藤は瀬戸内海に浮かぶ直島に、ベネッセハウスや地中美術館のほか、計7棟の建築を、約30年余りかけて作り上げました。まさしく直島の地形あってのプロジェクトです。これぞ「その場所にしかできない建築」(解説より)への挑戦の証でもあります。

「直島の一連のプロジェクト」 香川県直島町 1992年〜 *インスタレーション風景
この「直島プロジェジェクト」は、映像と模型を用いたインスタレーションとして紹介されていました。(直島プロジェジェクトは撮影可)直島を模した空間の向こうにはスクリーンがあり、かの地の自然や安藤の建築を、臨場感のある映像で見ることが出来ました。

「真駒内滝野霊園 頭大仏」 北海道札幌市 2015年
「周辺環境と一体化して、その場所の個性を際立たせるような建築」(解説より)も安藤作品の一つの特質です。私が驚いた建築がありました。それが札幌にある「真駒内滝野霊園 頭大仏」です。主役は大仏です。とはいえ、大仏自体は安藤の設計では当然ありません。その外側の建造物こそが作品でした。ここで安藤は大仏の頭だけをいわば露出し、下部をラベンダーの丘で覆い隠すという設計を行っています。よって来場者は、アプローチ先に、ラベンダーから突き出た頭を仰ぎ見ることになるそうです。また冬はご覧のように雪に埋もれるようです。なんたる演出なのでしょうか。

「プンタ・デラ・ドガーナ」 イタリア、ヴェニス 2009年
安藤は世界的な建築家です。よって海外の建築も目を離せません。とりわけ印象深いのは、30分の1スケールの大型模型も目立つ、「プンタ・デラ・ドガーナ」でした。ヴェニスのサン・マルコ広場の歴史的建造物を、現代美術館として再生させた建物で、建造当初の15世紀の形に戻しつつ、中央部にコンクリートの壁による空間を取り込み、新旧の「対話」(解説より)する場を作り上げました。こうした建物の再生も安藤の重要な仕事の一つでした。

「FABRICA(ベネトン・アートスクール)」 イタリア、トレヴィーゾ 2000年
模型、映像や再現模型など、体感的にも楽しめる展示ですが、図面がかなり出ていて、いずれ殊更に美しいのが印象に残りました。素人目にも目を見張るものがあります。

「上海保利大劇院」 中華人民共和国、上海 2014年
随所に垣間見える直筆のキャプションも親しみ易いのではないでしょうか。安藤の持ち前のサービス精神を見るかのようでした。
会期の初めに出かけてきましたが、思いがけないほどに混雑していました。特に前半部、安藤の住宅建築の模型を見せるスペースは、通路状で狭く、最前列で見るためには列に並ぶ必要がありました。

ファミリー、カップルをはじめ、若い方が多いのも印象的でした。会期後半には入場待ちの待機列が出来るかもしれません。金曜、及び土曜日の20時までの夜間開館も狙い目となりそうです。
安藤忠雄スペシャルインタビュー https://t.co/bswCqzV7xY
— 安藤忠雄展-挑戦-(公式) (@ANDO_endeavors) 2017年10月5日
300ページ超にも及ぶカタログが1980円とお値打ちでした。会場のテーマに準じ、約90もの建築作品が図版で掲載されています。即購入しました。
12月18日まで開催されています。おすすめします。
「安藤忠雄展ー挑戦」@(ANDO_endeavors) 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:9月27日(水)〜12月18日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
*毎週金・土曜日は20時まで開館。
*9月30日(土)、10月1日(日)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。
* ( )内は20名以上の団体料金。
*11月3日(金・祝)、4日(土)、5日(日)は高校生無料観覧日(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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