「光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」 根津美術館

根津美術館
「特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」 
4/14~5/13



根津美術館で開催中の「特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」を見てきました。

江戸時代半ば、尾形光琳(1658〜1716)と弟の乾山(1663〜1743)は、時に協同し、また個々に制作に取り組んでは、日本美術史上にも輝く様々な名品を生み出しました。

その光琳と乾山の業績を辿るのが、「光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」で、館内には、両者の作品が約60件ほど展示されていました。(一部に展示替えあり。)


国宝「燕子花図屏風」(左隻) 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 根津美術館

いきなり目に飛び込んできたのが、尾形光琳の名作、「燕子花図屏風」でした。言わずと知れた国宝で、琳派を代表する作品として人気を集めています。同館でも、毎年、カキツバタの咲く時期に合わせて公開しています。

まばゆい金地の右と左に広がるのが、カキツバタの花群で、群青と緑青を用い、図像的に配していました。右はほぼ正面から見据え、上へと花が向いているのに対し、左隻はやや上方から見下ろす形になっているのか、花群が下へ沈みこむようにも見えました。これまでにも何度か目にした作品ではありますが、その美しさに改めて見惚れました。

光琳では「夏草図屏風」も見どころで、晩春から夏にかけての30種類の草花を描いていました。先の「燕子花図屏風」が意匠的であるのに対し、この「夏草図屏風」は写実的で、芥子の葉の葉脈やギザギザとした形までも丹念に描きこんでいました。実際、公家の近衛家熙の表した植物写生図に近く、渡辺始興のサポートがあったとも指摘されています。


重要文化財「太公望図屏風」 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 京都国立博物館

「太公望図屏風」にも目を引かれました。中央に頰杖をつく太公望がいて、釣具こそ見えないものの、水辺で釣りをする姿を表していました。水や衣文のほか、背後に迫る懸崖の曲線の描写が特徴的で、崖の線は太公望のヘソのあたりに収斂していました。構図に光琳の個性が現れているかもしれません。


「鵜舟図」 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 静嘉堂文庫美術館

「鵜舟図」も魅惑的ではないでしょうか。謡曲の鵜飼に取材して描いた淡彩画で、川の上で小舟に乗り、鵜飼をする翁の姿を、宗達風の軽妙な筆で表していました。ちょうど鵜は魚をのみ、首を突き出す瞬間を捉えていて、その方向を翁も見やっていました。光琳は水墨の名手でもあります。臨場感のある一枚ではないでしょうか。

光琳と乾山の合作も見逃せません。中でも興味深いのが、乾山作、光琳画の「銹絵寒山拾得図角皿」で、ちょうど巻物を広げる寒山を光琳、箒を持つ拾得を乾山に見立てて描いていました。ほかに「銹絵竹図角皿」や「銹絵楼閣山水図四方火入」も充実していて、後者は雪舟風の山水表現を見ることが出来ました。おそらく光琳が、江戸にいた頃に写したのではないかと考えられています。

続くのは乾山の書画でした。江戸に降った乾山は、作陶よりもむしろ絵画の制作に勤しんでいて、素人性を帯びた作品と、一方で光琳風を思わせる作品を残しました。兄、光琳が装飾的な色彩画と、水墨の双方に才能を発揮したのと同様に、乾山も二面性とも受け取れる画業を展開していました。


「兼好法師図」 尾形乾山筆 江戸時代・18世紀 梅澤記念館

「兼好法師図」も素朴な作品で、もはやヘタウマとも呼べるようなざっくりとした筆使いにて、庵の中で座る兼好法師の様子を捉えていました。和歌は隠棲したつもりの場所が憂き世であることを詠んでいて、乾山の江戸生活に対する思いが反映されていると言われています。

「定家詠十二ヶ月和歌花鳥図」は、かつて角皿にも用いた和歌画題を着彩に表した作品で、9月ではすすきと鶉を描いていました。会場には2月、8月、9月の3幅が展示されていましたが、元々は12枚セットの画帳であったそうです。

一転して華やかなのが、「桜に春草図」と「紅葉に菊流水図」でした。ともに春と秋の草花などを描いた作品で、桜はピンク色、紅葉は朱色に染まっていました。必ずしも対幅ではありませんが、春と秋のセットの作品だと考えられています。

ラストは乾山の焼きものでした。作風は多様で、一括りには出来ませんが、「絵」をキーワードにした角皿や色絵、さらに蓋物や土器皿の優品が集まっていました。


「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」(のうちの一月) 尾形乾山作 江戸時代・元禄15(1702)年 MOA美術館

「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」は、12枚の角皿に花木と鳥、それに藤原定家の詠んだ和歌を表した作品で、表が絵、裏に和歌が描かれていました。角皿に文学性を盛り込んだ乾山ならではの様式で、実際にもヒット商品と化したそうです。


「銹絵染付金彩絵替土器皿」(5枚のうち) 尾形乾山作 江戸時代・18世紀 根津美術館

「銹絵染付金彩絵替土器皿」は、梅や帆掛け船、すすきや流水の菱などを5枚に描いたもので、手で成形した円い皿の中で、叙情的とも呼べる風景が広がっていました。また「色絵竜田川向付」は、流水に紅葉をかたどった10枚の連作で、金や紅、緑などの色を用いては、実に雅やかな世界を築き上げていました。


重要文化財「武蔵野隅田川図乱箱」 尾形乾山作 江戸時代・寛保3(1743)年 大和文華館

さらに「武蔵野隅田川図乱箱」も見逃せません。木の箱の見込みに蛇籠と波、それに千鳥を描き、側面や裏面にすすきをあしらっていました。光琳的なデザインと乾山風の素朴な筆を同時に見られる作品で、時に乾山81歳、最晩年に制作されました。

展示は、1階の展示室1と2、さらに2階の展示室5へと続いていきます。また同館のコレクションだけでなく、MOA美術館、東京国立博物館、サントリー美術館のほか、MIHO MUSEUM、大和文華館、湯木美術館など関西の美術館からも作品がやって来ていました。必ずしも広いスペースではありませんが、これほどまでに光琳と乾山の作品を一度に見る機会など、なかなかありません。まさに琳派ファンには嬉しい展覧会でした。



展覧会を鑑賞したのちは、美術館裏に広がる庭園を散策しました。



私が出向いた際は、弘仁亭前のカキツバタはまだ咲いていませんでした。とはいえ、藤の花が開き、園内の木々の新緑も鮮やかでした。



ともかく緑が深く、いつもながらに都心とは思えません。


なお4月17日の段階で、例年より1週間ほど早く、カキツバタが開花したそうです。つぼみも膨らんでいて、もう間もなく見頃を迎えると思われます。



会期早々であったにも関わらず、館内はかなり盛況でした。中盤以降、GWにかけては混み合うかもしれません。



会期最終週の5月8日(火)から13日(日)は、連日19時まで開館します。



5月13日まで開催されています。おすすめします

「特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」 根津美術館@nezumuseum
会期:4月14日(土)~5月13日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月)は開館。
時間:10:00~17:00。
 *5月8日(火)~13日(日)は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、学生1000円、中学生以下無料。
 *20名以上の団体は200円引。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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