都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「週刊ニッポンの国宝100」が第30号に達しました
小学館の「週間ニッポンの国宝100」が、第30号に達しました。

「週刊 ニッポンの国宝100」
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kokuhou100/
国宝応援団twitter:https://twitter.com/kokuhou_project
国宝応援プロジェクトFBページ:https://www.facebook.com/kokuhouproject/
「週刊ニッポンの国宝100」は、昨年9月より刊行がはじまったウィークリーブックで、おおむね週に1度、2件の国宝が特集されてきました。これまでにも「阿修羅」や「松林図屏風」をはじめ、「厳島神社」や「瓢鮎図」、それに「向源寺 十一面観音」など、彫刻、絵画、建築の名だたる国宝が登場しました。全50号の刊行が予定されています。
「週刊ニッポンの国宝100 30 醍醐寺/信貴山縁起絵巻/小学館」
節目の第30号は、「醍醐寺/信貴山縁起絵巻」で、表紙には、火炎を従えた醍醐寺の不動明王の姿が捉えられていました。赤々とした炎も鮮やかではないでしょうか。

まず「国宝名作ギャラリー」では、醍醐寺の建築物を鮮やかな写真図版で紹介し、「国宝鑑賞術」において、同寺の境内を俯瞰しつつ、建物や美術品の見どころを取り上げていました。醍醐寺は真言宗の大寺であることから、密教関係の名品が特に目立っているそうです。また醍醐天皇の御願寺でもあり、のちの天皇にも庇護されたことから、朝廷との結びつきが深く、華麗な密教美術が多く残されてきました。

そのうちの1つが「文殊渡海図」で、誌面では、全図から文殊の姿を原寸で掲載していました。獅子に乗る文殊の着衣や装身具も実に鮮やかで、いつもながらの高精細な図版により、細部の細部まで手に取るように見ることが出来ました。鎌倉時代後期の制作で、「文殊渡海図」の最高傑作でもあります。

さらに「国宝ワンモアミステリー」では、かの有名な秀吉の花見のエピソードにも触れ、当時の様子を描いた「醍醐花見図屏風」を引用していました。秀吉は花見のために畿内各地から700本の桜を取り寄せ、山道の両側に埋め込んでは花見を楽しみました。応仁・文明の乱にて荒廃していた醍醐寺を、座主のために再興しようとする秀吉の熱意が込められていたそうです。醍醐寺の座主、義演は、関白就任の際などで、秀吉と密接な関係にありました。

一連の密教壁画も、見応えがあるのではないでしょうか。これは醍醐天皇の冥福を祈るために建てられた、五重塔内部に描かれたもので、951年に完成した、作例の少ない平安期の貴重な壁画資料でもあります。また五重塔は、京都に残る最古の木造建築として知られています。

後半の「信貴山縁起絵巻」も読み応えありました。同絵巻は信貴山上の朝護孫子寺を中興した僧、命蓮にまつわる3つの奇跡を描いた作品で、細かい線描により、臨場感のある人物表現などを特徴としています。

驚いたのは、「国宝名作ギャラリー」における「延喜加持の巻」で、命蓮の加持祈祷により派遣された護法童子が、清涼殿の醍醐天皇の枕元へ到達する場面でした。通常、絵巻は右から左へ時間が進みますが、ここでは逆に童子が左から現れ、右の清涼殿へと至る光景を描いていました。

また「尼公の巻」には、日本最古ともされる猫の絵が登場していて、それも「国宝名作ギャラリー」で確認することが出来ました。猫は奈良時代に中国から渡来し、平安時代にはペットとして飼われていました。

さらに東大寺大仏殿に参詣する尼公の場面を原寸で掲載し、南都焼討以前の大仏の姿の様子を見ることも出来ました。創建当初の大仏の姿を知る資料としても、「信貴山縁起絵巻」は重要であるそうです。
「信貴山縁起絵巻」の現状模写プロジェクトについて触れた、「国宝ジャーナル」も興味深いのではないでしょうか。現状模写とは、人の想像力を排した純然たる模写で、東京藝術大学では2004年より国宝三大絵巻の現状模写を行って来ました。既に「源氏物語絵巻」と「伴大納言絵巻」が完成し、2017年より「信貴山縁起絵巻」の制作に取り掛かりました。おおよそ11年後の完成を目指しています。

そのほか、山下裕二先生の名物コラム、「未来の国宝・MY国宝」では、長沢芦雪の「虎図襖」が取り上げられていました。つい昨年、愛知県美術館の回顧展でも人気を集めたのは、記憶に新しいところかもしれません。
[第30号以降の週刊ニッポンの国宝のラインナップ]
30:醍醐寺/信貴山縁起絵巻
31:仏涅槃図/出雲大社
32:浄土寺/彦根屏風
33:明恵上人像/仁和寺
34:四天王寺扇面法華経冊子/法隆寺釈迦三尊像
35:葛井寺千手観音/薬師寺吉祥天像
36:志野茶碗 銘卯花墻/東大寺伽藍
37:羽黒山五重塔/聚光院花鳥図襖
38:辟邪絵/色絵雉香炉
39:勝常寺薬師三尊像/夕顔棚納涼図屏風
40:天燈鬼・龍燈鬼/金剛峯寺
41:浄瑠璃寺九体阿弥陀/二条城
42:東大寺不空羂索観音/観音猿鶴図
43:普賢菩薩/三佛寺投入堂
44:神護寺薬師如来/十便図・十宜図
45:玉虫厨子/臼杵磨崖仏
46:唐招提寺/火焔型土器
47:本願寺/鷹見泉石像
48:中宮寺菩薩半跏像/崇福寺
49:青不動/赤糸威鎧
50:深大寺釈迦如来/大浦天主堂
「週刊ニッポンの国宝100 31 仏涅槃図/出雲大社/小学館」
第30号に続き、第31号の「仏涅槃図/出雲大社」も発売されました。以降も「彦根屏風」、先の仁和寺展で話題を集めた「葛井寺千手観音」、また縄文展にも出展予定の「火焔型土器」、さらに「青不動」に「大浦天主堂」など、興味深い国宝が次々と登場する予定です。
これからも定期的に「週刊ニッポンの国宝100」を追っていきたいと思います。
「週刊ニッポンの国宝100」(@kokuhou_project) 小学館
内容:国宝の至高の世界を旅する、全50巻。国宝とは「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)国宝を知ることは、日本美術を知ること。そして、まさに日本のこころを知る旅だともいえます。「週刊 ニッポンの国宝100」では、現在指定されている1108件の中からとくに意義深い100点を選び、毎号2点にスポットを当てその魅力を徹底的に分析します。
価格:創刊記念特別価格500円。2巻以降680円(ともに税込)。電子版は別価格。
仕様:A4変形型・オールカラー42ページ。

「週刊 ニッポンの国宝100」
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「週刊ニッポンの国宝100」は、昨年9月より刊行がはじまったウィークリーブックで、おおむね週に1度、2件の国宝が特集されてきました。これまでにも「阿修羅」や「松林図屏風」をはじめ、「厳島神社」や「瓢鮎図」、それに「向源寺 十一面観音」など、彫刻、絵画、建築の名だたる国宝が登場しました。全50号の刊行が予定されています。

節目の第30号は、「醍醐寺/信貴山縁起絵巻」で、表紙には、火炎を従えた醍醐寺の不動明王の姿が捉えられていました。赤々とした炎も鮮やかではないでしょうか。

まず「国宝名作ギャラリー」では、醍醐寺の建築物を鮮やかな写真図版で紹介し、「国宝鑑賞術」において、同寺の境内を俯瞰しつつ、建物や美術品の見どころを取り上げていました。醍醐寺は真言宗の大寺であることから、密教関係の名品が特に目立っているそうです。また醍醐天皇の御願寺でもあり、のちの天皇にも庇護されたことから、朝廷との結びつきが深く、華麗な密教美術が多く残されてきました。

そのうちの1つが「文殊渡海図」で、誌面では、全図から文殊の姿を原寸で掲載していました。獅子に乗る文殊の着衣や装身具も実に鮮やかで、いつもながらの高精細な図版により、細部の細部まで手に取るように見ることが出来ました。鎌倉時代後期の制作で、「文殊渡海図」の最高傑作でもあります。

さらに「国宝ワンモアミステリー」では、かの有名な秀吉の花見のエピソードにも触れ、当時の様子を描いた「醍醐花見図屏風」を引用していました。秀吉は花見のために畿内各地から700本の桜を取り寄せ、山道の両側に埋め込んでは花見を楽しみました。応仁・文明の乱にて荒廃していた醍醐寺を、座主のために再興しようとする秀吉の熱意が込められていたそうです。醍醐寺の座主、義演は、関白就任の際などで、秀吉と密接な関係にありました。

一連の密教壁画も、見応えがあるのではないでしょうか。これは醍醐天皇の冥福を祈るために建てられた、五重塔内部に描かれたもので、951年に完成した、作例の少ない平安期の貴重な壁画資料でもあります。また五重塔は、京都に残る最古の木造建築として知られています。

後半の「信貴山縁起絵巻」も読み応えありました。同絵巻は信貴山上の朝護孫子寺を中興した僧、命蓮にまつわる3つの奇跡を描いた作品で、細かい線描により、臨場感のある人物表現などを特徴としています。

驚いたのは、「国宝名作ギャラリー」における「延喜加持の巻」で、命蓮の加持祈祷により派遣された護法童子が、清涼殿の醍醐天皇の枕元へ到達する場面でした。通常、絵巻は右から左へ時間が進みますが、ここでは逆に童子が左から現れ、右の清涼殿へと至る光景を描いていました。

また「尼公の巻」には、日本最古ともされる猫の絵が登場していて、それも「国宝名作ギャラリー」で確認することが出来ました。猫は奈良時代に中国から渡来し、平安時代にはペットとして飼われていました。

さらに東大寺大仏殿に参詣する尼公の場面を原寸で掲載し、南都焼討以前の大仏の姿の様子を見ることも出来ました。創建当初の大仏の姿を知る資料としても、「信貴山縁起絵巻」は重要であるそうです。
「信貴山縁起絵巻」の現状模写プロジェクトについて触れた、「国宝ジャーナル」も興味深いのではないでしょうか。現状模写とは、人の想像力を排した純然たる模写で、東京藝術大学では2004年より国宝三大絵巻の現状模写を行って来ました。既に「源氏物語絵巻」と「伴大納言絵巻」が完成し、2017年より「信貴山縁起絵巻」の制作に取り掛かりました。おおよそ11年後の完成を目指しています。

そのほか、山下裕二先生の名物コラム、「未来の国宝・MY国宝」では、長沢芦雪の「虎図襖」が取り上げられていました。つい昨年、愛知県美術館の回顧展でも人気を集めたのは、記憶に新しいところかもしれません。
[第30号以降の週刊ニッポンの国宝のラインナップ]
30:醍醐寺/信貴山縁起絵巻
31:仏涅槃図/出雲大社
32:浄土寺/彦根屏風
33:明恵上人像/仁和寺
34:四天王寺扇面法華経冊子/法隆寺釈迦三尊像
35:葛井寺千手観音/薬師寺吉祥天像
36:志野茶碗 銘卯花墻/東大寺伽藍
37:羽黒山五重塔/聚光院花鳥図襖
38:辟邪絵/色絵雉香炉
39:勝常寺薬師三尊像/夕顔棚納涼図屏風
40:天燈鬼・龍燈鬼/金剛峯寺
41:浄瑠璃寺九体阿弥陀/二条城
42:東大寺不空羂索観音/観音猿鶴図
43:普賢菩薩/三佛寺投入堂
44:神護寺薬師如来/十便図・十宜図
45:玉虫厨子/臼杵磨崖仏
46:唐招提寺/火焔型土器
47:本願寺/鷹見泉石像
48:中宮寺菩薩半跏像/崇福寺
49:青不動/赤糸威鎧
50:深大寺釈迦如来/大浦天主堂

第30号に続き、第31号の「仏涅槃図/出雲大社」も発売されました。以降も「彦根屏風」、先の仁和寺展で話題を集めた「葛井寺千手観音」、また縄文展にも出展予定の「火焔型土器」、さらに「青不動」に「大浦天主堂」など、興味深い国宝が次々と登場する予定です。
これからも定期的に「週刊ニッポンの国宝100」を追っていきたいと思います。
「週刊ニッポンの国宝100」(@kokuhou_project) 小学館
内容:国宝の至高の世界を旅する、全50巻。国宝とは「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)国宝を知ることは、日本美術を知ること。そして、まさに日本のこころを知る旅だともいえます。「週刊 ニッポンの国宝100」では、現在指定されている1108件の中からとくに意義深い100点を選び、毎号2点にスポットを当てその魅力を徹底的に分析します。
価格:創刊記念特別価格500円。2巻以降680円(ともに税込)。電子版は別価格。
仕様:A4変形型・オールカラー42ページ。
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