都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ミケランジェロと理想の身体」 国立西洋美術館
国立西洋美術館
「ミケランジェロと理想の身体」
6/19~9/24

国立西洋美術館で開催中の「ミケランジェロと理想の身体」を見てきました。
ミケランジェロの生きたルネサンスの美術の源には、古代ギリシャ・ローマ彫刻があり、その理想形には、主に男性の裸体彫刻がありました。
そうした一連の男性彫刻を俯瞰するのが、「ミケランジェロと理想の身体」で、古代ギリシャ・ローマ彫刻にはじまり、ミケランジェロを含むルネサンス彫刻、さらには以降、ミケランジェロを敬愛した芸術家を含め、全70点の作品がやって来ました。よって、端的なミケランジェロの回顧展ではありません。

「プットーとガチョウ」 1世紀半ば ヴァチカン美術館
古代とルネサンスの比較からはじまりました。例えば「プットーとガチョウ」は、1世紀半ばの大理石の彫刻で、左手で鵞鳥を抑えるプットーを表していました。一方で、「遊ぶプットーたち」も同じくプットーを題材とした作品で、15世紀後半にスケッジャが描いた板絵でした。

「聖セバスティアヌス」 マリオット・アルベルティネッリ 1509-10年 個人蔵
さらに、同じく古代とルネサンスのアスリートや戦士、また神々や英雄を象った彫刻を並べていて、互いに見比べることも出来ました。中でも目を引いたのは、16世紀にマリオット・アルベルティネッリの描いた「聖セバスティアヌス」で、無数の矢で射抜かれた聖人の姿を、油彩で描いていました。その身体は、少年のようでもあり、少し口を開いては、どこかあどけない表情をしていました。

「アメルングの運動選手」 紀元前1世紀 フィレンツェ国立考古学博物館
ほかにも、堂々とした2世紀の「男性頭部」や、ややアンニュイな表情で振り返るような仕草を見せた、15世紀の「紋章を支える従者」なども印象に残りました。
さて、展示の中盤を占めるのが、ミケランジェロをはじめとした、ルネサンスの男性彫刻でした。中でも世界で約40点しか確認されていないミケランジェロの彫刻が、計2体、ハイライトとして来日しました。うち1体が「ダヴィデ=アポロ」であり、もう1体が「若き洗礼者ヨハネ」でした。

「ダヴィデ=アポロ」 ミケランジェロ・ブオナローティ 1530年頃 フィレンツェ、バルジェッロ国立美術館
「ダヴィデ=アポロ」は、ミケランジェロの円熟期の作品とされていて、高さは147センチあり、右手を垂らしながら、腿に達し、左手を背中の方に回す様子をした、男性の裸体を象っていました。しかし、ミケランジェロとしては、主題の特定出来ない異例の作品で、あくまでも推定により、「ダヴィデとアポロ」と名付けられたに過ぎませんでした。
まず、興味深いのは、角度によって表情が大きく変わることで、左方向から捉えると、せり上がる筋肉など、身体としての迫力が増すものの、右方向から伺うと、中性的でかつ優美な姿に見えました。そして、振り上げた左手と降ろした右手、ないしステップを踏むようなポーズからして、回転するような動きも感じられました。また、背中の部分は未完であり、大きな石の塊がついていました。ダヴィデは投石器でゴリアテを仕留め、アポロは弓の名手であったことで知られていて、本像においても、確かに何かを取ろうとしているような姿に見えるもの、そこは塊が残るのに過ぎないため、主題の特定には至りませんでした。
もう1体の「若き洗礼者ヨハネ」は、ミケランジェロが20歳を過ぎたばかりの初期の作品で、ルネサンス美術でも重要な主題であった「洗礼者ヨハネ」を、幼少期を脱して間もない頃の様子で表現しました。

「若き洗礼者ヨハネ」 ミケランジェロ・ブオナローティ 1495-96年 ウベダ、エル・サルバドル聖堂、ハエン(スペイン)、メディナセリ公爵家財団法人
ともかく目を引くのは、あまりにも痛々しい姿を見せていることでした。実際にも頭部の一部は黒く焦げていて、身体にも継ぎ接ぎされた痕が残っていました。これは、1936年、スペインのウベダにあった本像が、内戦によって破壊してしまったことに由来するものので、その際に、あろうことか、14の石片に砕け散ってしまいました。
修復のプロセスがはじまったのは、1990年代になってからのことでした。本来の40%の部分しか残っていなかったため、ほかの部分は合成素材で補われました。結果的に、20年近くに渡って修復がなされ、近年になって完了し、2013年にヴェネツィアで公開されました。
なお、最近の研究によれば、「ダヴィデ=アポロ」と「若き洗礼者ヨハネ」は、ミケランジェロの生前、ごく短い期間、フィレンツェで同じ人物によって所蔵されていたことが確認されているそうです。それが500年も経って、日本で再会を果たしたわけでした。

「ラオコーン」 ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ 1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託
会場の終盤で一点、撮影可能な彫刻、ヴィンチェンツォ・ロッシの「ラオコーン」がありました。1506年に、当時の皇帝ネロの宮殿近くから出土した、古代ギリシャの大理石像を写した彫像で、いかにオリジナルが、ルネサンスの芸術家に強い影響を与えたかを伝える作品として知られています。

「ラオコーン」 ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ 1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託
ただ大きさはオリジナルとほぼ同一なものの、細部はかなり異なっていて、模刻ではなく、ヴィンチェンツォが再構築したと捉えられているそうです。なお発見時は、ミケランジェロも現場に呼ばれ、目にした記録も残されています。

「ラオコーン」 ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ 1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託
彫刻を中心にしながらも、絵画や工芸、素描の参照もあり、古代と相互に比較するなどして、幅広い観点から、ルネサンスの追求した「理想の身体」像を追うことが出来ました。右も左も男性の裸体像で、ほぼ男性のヌード展として捉えても良いかもしれません。
会期の早い段階の日曜日に見てきましたが、特に混雑はしていませんでした。今のところ待機列も一切発生していません。夏休みの期間中も、おそらくはスムーズに観覧出来そうです。

9月24日まで開催されています。
「ミケランジェロと理想の身体」(@miche_body) 国立西洋美術館(@NMWATokyo)
会期:6月19日(火)~9月24日(月・休)
休館:月曜日。7月17日(火)。但し、7月16日(月・祝)、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、9月24日(月・休)は開館。
時間:9:30~17:30
*毎週金・土曜日は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
「ミケランジェロと理想の身体」
6/19~9/24

国立西洋美術館で開催中の「ミケランジェロと理想の身体」を見てきました。
ミケランジェロの生きたルネサンスの美術の源には、古代ギリシャ・ローマ彫刻があり、その理想形には、主に男性の裸体彫刻がありました。
そうした一連の男性彫刻を俯瞰するのが、「ミケランジェロと理想の身体」で、古代ギリシャ・ローマ彫刻にはじまり、ミケランジェロを含むルネサンス彫刻、さらには以降、ミケランジェロを敬愛した芸術家を含め、全70点の作品がやって来ました。よって、端的なミケランジェロの回顧展ではありません。

「プットーとガチョウ」 1世紀半ば ヴァチカン美術館
古代とルネサンスの比較からはじまりました。例えば「プットーとガチョウ」は、1世紀半ばの大理石の彫刻で、左手で鵞鳥を抑えるプットーを表していました。一方で、「遊ぶプットーたち」も同じくプットーを題材とした作品で、15世紀後半にスケッジャが描いた板絵でした。

「聖セバスティアヌス」 マリオット・アルベルティネッリ 1509-10年 個人蔵
さらに、同じく古代とルネサンスのアスリートや戦士、また神々や英雄を象った彫刻を並べていて、互いに見比べることも出来ました。中でも目を引いたのは、16世紀にマリオット・アルベルティネッリの描いた「聖セバスティアヌス」で、無数の矢で射抜かれた聖人の姿を、油彩で描いていました。その身体は、少年のようでもあり、少し口を開いては、どこかあどけない表情をしていました。

「アメルングの運動選手」 紀元前1世紀 フィレンツェ国立考古学博物館
ほかにも、堂々とした2世紀の「男性頭部」や、ややアンニュイな表情で振り返るような仕草を見せた、15世紀の「紋章を支える従者」なども印象に残りました。
さて、展示の中盤を占めるのが、ミケランジェロをはじめとした、ルネサンスの男性彫刻でした。中でも世界で約40点しか確認されていないミケランジェロの彫刻が、計2体、ハイライトとして来日しました。うち1体が「ダヴィデ=アポロ」であり、もう1体が「若き洗礼者ヨハネ」でした。

「ダヴィデ=アポロ」 ミケランジェロ・ブオナローティ 1530年頃 フィレンツェ、バルジェッロ国立美術館
「ダヴィデ=アポロ」は、ミケランジェロの円熟期の作品とされていて、高さは147センチあり、右手を垂らしながら、腿に達し、左手を背中の方に回す様子をした、男性の裸体を象っていました。しかし、ミケランジェロとしては、主題の特定出来ない異例の作品で、あくまでも推定により、「ダヴィデとアポロ」と名付けられたに過ぎませんでした。
まず、興味深いのは、角度によって表情が大きく変わることで、左方向から捉えると、せり上がる筋肉など、身体としての迫力が増すものの、右方向から伺うと、中性的でかつ優美な姿に見えました。そして、振り上げた左手と降ろした右手、ないしステップを踏むようなポーズからして、回転するような動きも感じられました。また、背中の部分は未完であり、大きな石の塊がついていました。ダヴィデは投石器でゴリアテを仕留め、アポロは弓の名手であったことで知られていて、本像においても、確かに何かを取ろうとしているような姿に見えるもの、そこは塊が残るのに過ぎないため、主題の特定には至りませんでした。
もう1体の「若き洗礼者ヨハネ」は、ミケランジェロが20歳を過ぎたばかりの初期の作品で、ルネサンス美術でも重要な主題であった「洗礼者ヨハネ」を、幼少期を脱して間もない頃の様子で表現しました。

「若き洗礼者ヨハネ」 ミケランジェロ・ブオナローティ 1495-96年 ウベダ、エル・サルバドル聖堂、ハエン(スペイン)、メディナセリ公爵家財団法人
ともかく目を引くのは、あまりにも痛々しい姿を見せていることでした。実際にも頭部の一部は黒く焦げていて、身体にも継ぎ接ぎされた痕が残っていました。これは、1936年、スペインのウベダにあった本像が、内戦によって破壊してしまったことに由来するものので、その際に、あろうことか、14の石片に砕け散ってしまいました。
修復のプロセスがはじまったのは、1990年代になってからのことでした。本来の40%の部分しか残っていなかったため、ほかの部分は合成素材で補われました。結果的に、20年近くに渡って修復がなされ、近年になって完了し、2013年にヴェネツィアで公開されました。
なお、最近の研究によれば、「ダヴィデ=アポロ」と「若き洗礼者ヨハネ」は、ミケランジェロの生前、ごく短い期間、フィレンツェで同じ人物によって所蔵されていたことが確認されているそうです。それが500年も経って、日本で再会を果たしたわけでした。

「ラオコーン」 ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ 1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託
会場の終盤で一点、撮影可能な彫刻、ヴィンチェンツォ・ロッシの「ラオコーン」がありました。1506年に、当時の皇帝ネロの宮殿近くから出土した、古代ギリシャの大理石像を写した彫像で、いかにオリジナルが、ルネサンスの芸術家に強い影響を与えたかを伝える作品として知られています。

「ラオコーン」 ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ 1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託
ただ大きさはオリジナルとほぼ同一なものの、細部はかなり異なっていて、模刻ではなく、ヴィンチェンツォが再構築したと捉えられているそうです。なお発見時は、ミケランジェロも現場に呼ばれ、目にした記録も残されています。

「ラオコーン」 ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ 1584年頃 ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託
彫刻を中心にしながらも、絵画や工芸、素描の参照もあり、古代と相互に比較するなどして、幅広い観点から、ルネサンスの追求した「理想の身体」像を追うことが出来ました。右も左も男性の裸体像で、ほぼ男性のヌード展として捉えても良いかもしれません。
#ミケランジェロ の ダヴィデ=アポロ。何度見ても素敵だにゃ・・・。週末は、#ミケランジェロと理想の身体 へ。#上野 #国立西洋美術館https://t.co/FaXfzkRQEw pic.twitter.com/T8tvIsxJSu
— ミケにゃん@ミケランジェロと理想の身体【公式】 (@miche_body) 2018年6月29日
会期の早い段階の日曜日に見てきましたが、特に混雑はしていませんでした。今のところ待機列も一切発生していません。夏休みの期間中も、おそらくはスムーズに観覧出来そうです。

9月24日まで開催されています。
「ミケランジェロと理想の身体」(@miche_body) 国立西洋美術館(@NMWATokyo)
会期:6月19日(火)~9月24日(月・休)
休館:月曜日。7月17日(火)。但し、7月16日(月・祝)、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、9月24日(月・休)は開館。
時間:9:30~17:30
*毎週金・土曜日は21時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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