都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「モネ それからの100年」 横浜美術館
横浜美術館
「モネ それからの100年」
7/14~9/24
横浜美術館で開催中の「モネ それからの100年」を見てきました。
フランスの印象派の大家、クロード・モネの「特質や独創性」(解説より)は、のちの世代、ひいては現代の美術家らにも大きな影響を与えました。
そのポスト・モネの展開を追うのが、「モネ それからの100年」で、モネ25点と、のちの世代の26の作家、計66点の作品が一堂に集まりました。
クロード・モネ「睡蓮」 1906年 吉野石膏株式会社(山形美術館に寄託)
冒頭はチラシ表紙も掲載された「睡蓮」でした。モネを代表するシリーズとしても知られ、クローズアップした構図と、画面全体で蓮の浮かぶ水面を捉えていました。色彩は全方位に広がり、淡い光が滲み出しているように見えました。
続くのが、モネの主にキャリア前半の作品群で、「海辺の船」や、筆触分割の手法を用いた「モンソー公園」などが展示されていました。また、同時に、色彩の自律的な用い方や、絵画の物質性、ないし「描く」行為そのものの提示など、モネ的とも呼べうる表現をとった現代の美術家らの作品も並んでいました。
丸山直文「puddle in the woods 5」 2010年 作家蔵
うち目立っていたのは、デ・クーニング、ルイ・カーヌ、中西夏之、丸山直文で、例えば中西の「G/Z 夏至・橋の上 To May VII」における「時間と光の内包する場の生成に」(解説より)、モネの関心との共鳴性を見出せると指摘していました。その緑や紫の広がるフラットな画面からは、確かにモネの「睡蓮」を連想させる面もあるかもしれません。
クロード・モネ「ヴィレの風景」 1883年 個人蔵
また、丸山の「puddle in the woods 5」の淡い色彩による風景は、モネの「ヴィレの風景」における、抽象性を帯びた木立の表現に近いかもしれません。実際に、キャプションでは、終始、モネと現代作品における親和性や影響関係について触れていて、その相互を見比べることが出来ました。
「風景の抽象化」や「移ろいや瞬間性の可視化」、ないし「絵画のレイヤー」や「光の創出」もモネの絵画の特質でした。そこで参照されたのが、ステイニングの技法で知られるモーリス・ルイスや、ドイツ現代絵画を代表する画家、ゲルハルト・リヒターの作品でした。
ゲルハルト・リヒター「アブストラクト・ペインティング(CR845-8)」 1997年 金沢21世紀美術館
中でもリヒターの「アブストラクト・ペインティング(CR845-8)」は充実していて、ヘラを用いて仕上げたという画からは、どこか光や色の向こうに風景が立ち上がるかのようでもあり、テムズの河畔を捉えたモネの「霧の中の太陽」のイメージが頭を過ぎりました。
モネと現代美術家の影響関係が最も明らかなのは、いわゆるオマージュこと、「引用」でした。現代の芸術家は、モネの特に「睡蓮」のモチーフを借り、様々な作品を生み出しました。
ルイ・カーヌ「睡蓮」 1993年 ギャラリーヤマキファインアート
例えば福田美蘭の「モネの睡蓮」は、ジヴェルニーから株分けされた大原美術館の中庭の睡蓮の池をモチーフとしました。また、アメリカのポップ・アートの画家、リキテンスタインも、「日本の橋のある睡蓮」を描いていて、さらに、フランスの現代画家のルイ・カーヌも、その名も「睡蓮」において、モネ画を援用し、9つの画面に色彩を反復させて描きました。
クロード・モネ「睡蓮、水草の反映」 1914-17年 ナーマッド・コレクション(モナコ)
1つのハイライトと言えるのが、モネの「睡蓮」の数作と、日本の写真家、鈴木理策の「水鏡」の連作が向き合うスペースでした。うちモネの「睡蓮、水草の反映」は、オランジュリー美術館の装飾画との関連の指摘される作品で、やや上からの視点で睡蓮を捉え、奥に水草の生い茂る池を描いていました。
鈴木理策「水鏡 14, WM-77」 2014年 作家蔵
一方で、鈴木理策の「水鏡」は、写真家が2014年から継続して写しているシリーズで、モネも多く表した水面を主題としていました。鏡とあるように、水面はまさに薄い鏡面のようで、蓮が広がる様子と、映り込む空を捉えていました。
ラストのテーマは、空間への広がりを意識した「拡張性」でした。サム・フランシスの「Simplicity(SEP80-68)」も、色の線や斑点が、左右へと乱れるように広がる作品で、画家自身もオランジュリーの装飾画に魅了され、本作のような絵画空間を築き上げました。
また、床一面に広がる小野耕石の「波絵」や、緑の色面が揺れ動き、さも画面から爛れて溢れるかのような松本陽子の「振動する風景的画面」も、迫力がありました。数点を除いて、ほぼ国内のコレクションで占められていましたが、モネをはじめ、とりわけ現代美術の作品が粒揃いで感心しました。
ロイ・リキテンスタイン「日本の橋のある睡蓮」 1992年 国立国際美術館
そもそも現代美術の方が点数が多く、モネを参照した、現代美術展として捉えても差し支えないかもしれません。「モネ」よりも、明らかに「それからの100年」に重点が置かれていました。
最後に混雑の情報です。会期2日目、7月15日の昼過ぎに美術館に到着しましたが、チケットブースには購入待ちの数十人の列が出来ていました。
また場内も入場規制こそなかったものの、一部でかなり賑わっていて、特にはじめの展示室は、係りの方から「前にお進み下さい。」との呼びかけが常に行われるほどでした。その後、一通り、展示を見終えて、受付に戻ると、今後は入場待ちの列も僅かながら出来ていました。
モネの知名度と人気は絶大のようです。今後、土日を中心に、規制がかかることも予想されます。なお混雑の状況は公式アカウント(@monet2018yokobi)が発信しています。時間には余裕を持ってお出かけ下さい。
ウジェーヌ・アジェ「ウルザン通り、パリ4区」 1900年
特に最後の写真展示室は、「モネと同時代のフランス写真」と題し、モネの生きた時代のフランスの写真がまとめて展示されていました。いずれも、当時、近代都市として変貌を遂げたパリの街並みを捉えていて、モネと同時代の息吹を感じられるかもしれません。ほかにも「モネ それからの100年」でも取り上げられた、イメージの転化などに着目した展示も目を引きました。コレクション展も合わせてお見逃しなきようにおすすめします。
9月24日まで開催されています。
「モネ それからの100年」(@monet2018yokobi) 横浜美術館(@yokobi_tweet)
会期:7月14日(土)~9月24日(月)
休館:木曜日。但し8月16日は開館。
時間:10:00~18:00
*9月14日(金)、15日(土)は20時半まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1500)円、大学・高校生1200(1100)円、中学生600(500)円。小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。要事前予約。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
*当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
「モネ それからの100年」
7/14~9/24
横浜美術館で開催中の「モネ それからの100年」を見てきました。
フランスの印象派の大家、クロード・モネの「特質や独創性」(解説より)は、のちの世代、ひいては現代の美術家らにも大きな影響を与えました。
そのポスト・モネの展開を追うのが、「モネ それからの100年」で、モネ25点と、のちの世代の26の作家、計66点の作品が一堂に集まりました。
クロード・モネ「睡蓮」 1906年 吉野石膏株式会社(山形美術館に寄託)
冒頭はチラシ表紙も掲載された「睡蓮」でした。モネを代表するシリーズとしても知られ、クローズアップした構図と、画面全体で蓮の浮かぶ水面を捉えていました。色彩は全方位に広がり、淡い光が滲み出しているように見えました。
続くのが、モネの主にキャリア前半の作品群で、「海辺の船」や、筆触分割の手法を用いた「モンソー公園」などが展示されていました。また、同時に、色彩の自律的な用い方や、絵画の物質性、ないし「描く」行為そのものの提示など、モネ的とも呼べうる表現をとった現代の美術家らの作品も並んでいました。
丸山直文「puddle in the woods 5」 2010年 作家蔵
うち目立っていたのは、デ・クーニング、ルイ・カーヌ、中西夏之、丸山直文で、例えば中西の「G/Z 夏至・橋の上 To May VII」における「時間と光の内包する場の生成に」(解説より)、モネの関心との共鳴性を見出せると指摘していました。その緑や紫の広がるフラットな画面からは、確かにモネの「睡蓮」を連想させる面もあるかもしれません。
クロード・モネ「ヴィレの風景」 1883年 個人蔵
また、丸山の「puddle in the woods 5」の淡い色彩による風景は、モネの「ヴィレの風景」における、抽象性を帯びた木立の表現に近いかもしれません。実際に、キャプションでは、終始、モネと現代作品における親和性や影響関係について触れていて、その相互を見比べることが出来ました。
「風景の抽象化」や「移ろいや瞬間性の可視化」、ないし「絵画のレイヤー」や「光の創出」もモネの絵画の特質でした。そこで参照されたのが、ステイニングの技法で知られるモーリス・ルイスや、ドイツ現代絵画を代表する画家、ゲルハルト・リヒターの作品でした。
ゲルハルト・リヒター「アブストラクト・ペインティング(CR845-8)」 1997年 金沢21世紀美術館
中でもリヒターの「アブストラクト・ペインティング(CR845-8)」は充実していて、ヘラを用いて仕上げたという画からは、どこか光や色の向こうに風景が立ち上がるかのようでもあり、テムズの河畔を捉えたモネの「霧の中の太陽」のイメージが頭を過ぎりました。
モネと現代美術家の影響関係が最も明らかなのは、いわゆるオマージュこと、「引用」でした。現代の芸術家は、モネの特に「睡蓮」のモチーフを借り、様々な作品を生み出しました。
ルイ・カーヌ「睡蓮」 1993年 ギャラリーヤマキファインアート
例えば福田美蘭の「モネの睡蓮」は、ジヴェルニーから株分けされた大原美術館の中庭の睡蓮の池をモチーフとしました。また、アメリカのポップ・アートの画家、リキテンスタインも、「日本の橋のある睡蓮」を描いていて、さらに、フランスの現代画家のルイ・カーヌも、その名も「睡蓮」において、モネ画を援用し、9つの画面に色彩を反復させて描きました。
クロード・モネ「睡蓮、水草の反映」 1914-17年 ナーマッド・コレクション(モナコ)
1つのハイライトと言えるのが、モネの「睡蓮」の数作と、日本の写真家、鈴木理策の「水鏡」の連作が向き合うスペースでした。うちモネの「睡蓮、水草の反映」は、オランジュリー美術館の装飾画との関連の指摘される作品で、やや上からの視点で睡蓮を捉え、奥に水草の生い茂る池を描いていました。
鈴木理策「水鏡 14, WM-77」 2014年 作家蔵
一方で、鈴木理策の「水鏡」は、写真家が2014年から継続して写しているシリーズで、モネも多く表した水面を主題としていました。鏡とあるように、水面はまさに薄い鏡面のようで、蓮が広がる様子と、映り込む空を捉えていました。
ラストのテーマは、空間への広がりを意識した「拡張性」でした。サム・フランシスの「Simplicity(SEP80-68)」も、色の線や斑点が、左右へと乱れるように広がる作品で、画家自身もオランジュリーの装飾画に魅了され、本作のような絵画空間を築き上げました。
また、床一面に広がる小野耕石の「波絵」や、緑の色面が揺れ動き、さも画面から爛れて溢れるかのような松本陽子の「振動する風景的画面」も、迫力がありました。数点を除いて、ほぼ国内のコレクションで占められていましたが、モネをはじめ、とりわけ現代美術の作品が粒揃いで感心しました。
ロイ・リキテンスタイン「日本の橋のある睡蓮」 1992年 国立国際美術館
そもそも現代美術の方が点数が多く、モネを参照した、現代美術展として捉えても差し支えないかもしれません。「モネ」よりも、明らかに「それからの100年」に重点が置かれていました。
最後に混雑の情報です。会期2日目、7月15日の昼過ぎに美術館に到着しましたが、チケットブースには購入待ちの数十人の列が出来ていました。
また場内も入場規制こそなかったものの、一部でかなり賑わっていて、特にはじめの展示室は、係りの方から「前にお進み下さい。」との呼びかけが常に行われるほどでした。その後、一通り、展示を見終えて、受付に戻ると、今後は入場待ちの列も僅かながら出来ていました。
モネの知名度と人気は絶大のようです。今後、土日を中心に、規制がかかることも予想されます。なお混雑の状況は公式アカウント(@monet2018yokobi)が発信しています。時間には余裕を持ってお出かけ下さい。
なお引き続く、コレクション展においても、一部に「モネ それからの100年」に関したテーマで構成されていました。【モネ展開催中!】モネが繰り返し描いた「睡蓮」。展覧会にちなみ、睡蓮の鉢が美術館前に登場しました!朝からお昼すぎまで、ピンクや白の可憐な花を咲かせています。8/26までの設置予定。モネの愛した花を、ぜひご覧ください。#yokobihttps://t.co/UGu5bpwGzo pic.twitter.com/TKWQVlwkUJ
— 横浜美術館 (@yokobi_tweet) 2018年7月20日
ウジェーヌ・アジェ「ウルザン通り、パリ4区」 1900年
特に最後の写真展示室は、「モネと同時代のフランス写真」と題し、モネの生きた時代のフランスの写真がまとめて展示されていました。いずれも、当時、近代都市として変貌を遂げたパリの街並みを捉えていて、モネと同時代の息吹を感じられるかもしれません。ほかにも「モネ それからの100年」でも取り上げられた、イメージの転化などに着目した展示も目を引きました。コレクション展も合わせてお見逃しなきようにおすすめします。
9月24日まで開催されています。
「モネ それからの100年」(@monet2018yokobi) 横浜美術館(@yokobi_tweet)
会期:7月14日(土)~9月24日(月)
休館:木曜日。但し8月16日は開館。
時間:10:00~18:00
*9月14日(金)、15日(土)は20時半まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1500)円、大学・高校生1200(1100)円、中学生600(500)円。小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。要事前予約。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
*当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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