都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「近代工芸の百年/ルーシー・リーとハンス・コパー」 東京国立近代美術館工芸館 7/2
東京国立近代美術館工芸館(千代田区北の丸公園1-1)
「所蔵作品展 近代工芸の百年/特集展示 ルーシー・リーとハンス・コパー」
5/27-7/2(会期終了)
工芸館の前回の展示で惹かれたルーシー・リーが特集されるとのことで行ってきました。所蔵作品展の「近代工芸の百年」と二部構成の展覧会です。
まずはお目当てのルーシー・リーからいきましょう。出品作品は全7点。前の展示でも見た「白釉鎬文花瓶」などは相変わらず美しい作品ですが、今回は「ピンク象嵌小鉢」にも惹かれました。お椀に伸びるピンクと緑のライン。それが小さな器で控えめに映えている。また「白釉ニット文鉢」も魅力的です。まるで柵のように惹かれた黒い線。布地を被せて作られた模様なのでしょうか。それにしても、このシンプルで飾らないルーシー・リーのスタイル。どこか工業製品にも繋がるような実用性すら感じられます。私の好きな作品です。
ハンス・コパーの作品は8点展示されていました。こちらは花瓶や壷以外にも、オブジェとして面白い「キクラデス・フォーム」などに見応えがあります。どの作品も、やはりまずその奇妙な造形に目がいってしまいますが、特に手で押し曲げたような開口部の作りが独特です。半ば楕円形になるようにして口が狭められている。器の素材の質感と合わせてとても印象に残りました。
一方の所蔵作品展では、お馴染みの宮川香山や板谷波山の作品などが展示されていました。前回のエントリでは、あまり好意的ではない感想を書いてしまった香山も、今回の「色入屏風図花瓶」はさすがの洗練された味わいを見せています。とても端正でシャープな造形の花瓶ですが、よく見ると口の部分がややいびつに曲がっている。まるでミルクをかけたような質感の波山の壷と一緒に楽しめました。
その他、森口邦彦の「友禅着物 流砂文」や、まるで豆腐のようなオブジェである鈴木治の「四角な窓」などが記憶に残りました。工芸館については、私の感性とあまり相性が良くないなどと偉そうに書いたことがありますが、そのような無駄な毛嫌いをすることなくこれからも見続けていきたいと思います。
関連エントリ
「所蔵作品展 花より工芸」 東京国立近代美術館工芸館 5/21
「所蔵作品展 近代工芸の百年/特集展示 ルーシー・リーとハンス・コパー」
5/27-7/2(会期終了)
工芸館の前回の展示で惹かれたルーシー・リーが特集されるとのことで行ってきました。所蔵作品展の「近代工芸の百年」と二部構成の展覧会です。
まずはお目当てのルーシー・リーからいきましょう。出品作品は全7点。前の展示でも見た「白釉鎬文花瓶」などは相変わらず美しい作品ですが、今回は「ピンク象嵌小鉢」にも惹かれました。お椀に伸びるピンクと緑のライン。それが小さな器で控えめに映えている。また「白釉ニット文鉢」も魅力的です。まるで柵のように惹かれた黒い線。布地を被せて作られた模様なのでしょうか。それにしても、このシンプルで飾らないルーシー・リーのスタイル。どこか工業製品にも繋がるような実用性すら感じられます。私の好きな作品です。
ハンス・コパーの作品は8点展示されていました。こちらは花瓶や壷以外にも、オブジェとして面白い「キクラデス・フォーム」などに見応えがあります。どの作品も、やはりまずその奇妙な造形に目がいってしまいますが、特に手で押し曲げたような開口部の作りが独特です。半ば楕円形になるようにして口が狭められている。器の素材の質感と合わせてとても印象に残りました。
一方の所蔵作品展では、お馴染みの宮川香山や板谷波山の作品などが展示されていました。前回のエントリでは、あまり好意的ではない感想を書いてしまった香山も、今回の「色入屏風図花瓶」はさすがの洗練された味わいを見せています。とても端正でシャープな造形の花瓶ですが、よく見ると口の部分がややいびつに曲がっている。まるでミルクをかけたような質感の波山の壷と一緒に楽しめました。
その他、森口邦彦の「友禅着物 流砂文」や、まるで豆腐のようなオブジェである鈴木治の「四角な窓」などが記憶に残りました。工芸館については、私の感性とあまり相性が良くないなどと偉そうに書いたことがありますが、そのような無駄な毛嫌いをすることなくこれからも見続けていきたいと思います。
関連エントリ
「所蔵作品展 花より工芸」 東京国立近代美術館工芸館 5/21
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7月の予定と6月の記録
毎月恒例の「予定と振り返り」です。殆ど私のスケジュール帳と化しているコーナーです。
7月の予定
展覧会
「近代工芸の百年/ルーシー・リーとハンス・コパー」 東京国立近代美術館工芸館(7/2まで)
「坂本繁二郎展」 ブリヂストン美術館(7/8まで)
「海に生きる・海を描く- 応挙・北斎から杉本博司まで - 」 千葉市美術館(7/17まで)
「特別展 唐鏡」 泉屋博古館分館(7/23まで)
「国宝『随身庭騎絵巻』と男(をとこ)の美術」 大倉集古館(7/30まで)
「生誕100年記念 吉原治良展」 東京国立近代美術館(7/30まで)
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第4期」 三の丸尚蔵館(8/6まで)
「パウル・クレー 創造の物語」 川村記念美術館(8/20まで)
「プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」 東京国立博物館(8/27まで)
「エコール・ド・パリ展」 松岡美術館(9/3まで)
「熊田千佳慕展/山名文夫と熊田精華展」 目黒区美術館(9/3まで)
「日本×画展(にほんガテン!) しょく発する6人」 横浜美術館(9/20まで)
映画
「異国の肌」 有楽町朝日ホール/ドイツ映画祭2006 7/16
6月の記録(リンクは私の感想です。)
展覧会
3日 「ナポレオンとヴェルサイユ展」 江戸東京博物館
3日 「カルティエ現代美術財団コレクション展」 東京都現代美術館
4日 「神坂雪佳展」 日本橋高島屋8階ホール
10日 「武満徹 - Visions in Time展」 東京オペラシティアートギャラリー
10日 「アートとともに 寺田小太郎コレクション」 府中市美術館
11日 「没後30年 高島野十郎展」 三鷹市美術ギャラリー
18日 「イサム・ノグチ 世界とつながる彫刻展」 横浜美術館
18日 「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第3期」 三の丸尚蔵館
18日 「現代中国の美術展」 日中友好会館美術館
25日 「緑雨の景観」 山種美術館
25日 「地中海の神話 ミンモ・イョーディチェ写真展」 イタリア文化会館
25日 「CHIKAKU/四次元の対話」 川崎市岡本太郎美術館
コンサート
15日 「NHK交響楽団第1573回定期Bプロ2日目」 フランク「交響曲」他/メルクル
17日 「目白バ・ロック音楽祭2006」 バッハ「無伴奏チェロ組曲」/寺神戸亮
30日 「日本フィル第581回定期2日目」 ショスタコーヴィチ「交響曲第5番」他/ヤルヴィ
ギャラリー
3日 「森万里子 『Tom Na H-iu』」 SCAI
3日 「佐藤好彦個展『 1 : 4 : 9』」 ヴァイスフェルト
3日 「田口和奈『その中にある写真』」 TARO NASU GALLERY
3日 「大塚聡『Counting Waves - 波をかぞえる - 』」 TSCA
10日 「村岡三郎展」 KENJI TAKI GALLERY/東京
10日 「リュック・タイマンス展」 WAKO WORKS OF ART
17日 「町田久美展」 西村画廊
今月はコンサートの予定がありません。と言うことで、かわりに(?)映画の予定を入れてみました。作品は、昨年も拝見したドイツ映画祭にて上映される「異国の肌」です。また実はもう一つ、東京国立近代美術館フィルムセンターで開催されるロシア・ソビエト映画祭にも少し心を引かれていますが、こちらはまだ行けるかどうか分かりません。予定がつけば、何か一つくらいは見ておきたいです。
それにしても7月は盛りだくさんです。東博+尚蔵館の「若冲」展はもちろんのこと、川村「クレー」+千葉市美術館の「海に生きる」展、さらには横浜の日本画展など、どれも期待出来そうな企画が目白押しです。忘れないようにチェックしなくてはなりません。また横浜へ行った際には、赤レンガ倉庫で開催される「C-DEPOT2006」へも足を伸ばしたいと思います。これまでにもギャラリーで拝見したことのある、若い作家の方が集う展覧会です。こちらも非常に楽しみです。
既に、工芸館の展覧会とブリヂストンの坂本繁二郎展、それに松岡のエコール・ド・パリと目黒の熊田千佳慕展は見終えています。早めに感想をアップしていきたいと思います。
それでは今月もどうぞ宜しくお願いします。
7月の予定
展覧会
「近代工芸の百年/ルーシー・リーとハンス・コパー」 東京国立近代美術館工芸館(7/2まで)
「坂本繁二郎展」 ブリヂストン美術館(7/8まで)
「海に生きる・海を描く- 応挙・北斎から杉本博司まで - 」 千葉市美術館(7/17まで)
「特別展 唐鏡」 泉屋博古館分館(7/23まで)
「国宝『随身庭騎絵巻』と男(をとこ)の美術」 大倉集古館(7/30まで)
「生誕100年記念 吉原治良展」 東京国立近代美術館(7/30まで)
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第4期」 三の丸尚蔵館(8/6まで)
「パウル・クレー 創造の物語」 川村記念美術館(8/20まで)
「プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」 東京国立博物館(8/27まで)
「エコール・ド・パリ展」 松岡美術館(9/3まで)
「熊田千佳慕展/山名文夫と熊田精華展」 目黒区美術館(9/3まで)
「日本×画展(にほんガテン!) しょく発する6人」 横浜美術館(9/20まで)
映画
「異国の肌」 有楽町朝日ホール/ドイツ映画祭2006 7/16
6月の記録(リンクは私の感想です。)
展覧会
3日 「ナポレオンとヴェルサイユ展」 江戸東京博物館
3日 「カルティエ現代美術財団コレクション展」 東京都現代美術館
4日 「神坂雪佳展」 日本橋高島屋8階ホール
10日 「武満徹 - Visions in Time展」 東京オペラシティアートギャラリー
10日 「アートとともに 寺田小太郎コレクション」 府中市美術館
11日 「没後30年 高島野十郎展」 三鷹市美術ギャラリー
18日 「イサム・ノグチ 世界とつながる彫刻展」 横浜美術館
18日 「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第3期」 三の丸尚蔵館
18日 「現代中国の美術展」 日中友好会館美術館
25日 「緑雨の景観」 山種美術館
25日 「地中海の神話 ミンモ・イョーディチェ写真展」 イタリア文化会館
25日 「CHIKAKU/四次元の対話」 川崎市岡本太郎美術館
コンサート
15日 「NHK交響楽団第1573回定期Bプロ2日目」 フランク「交響曲」他/メルクル
17日 「目白バ・ロック音楽祭2006」 バッハ「無伴奏チェロ組曲」/寺神戸亮
30日 「日本フィル第581回定期2日目」 ショスタコーヴィチ「交響曲第5番」他/ヤルヴィ
ギャラリー
3日 「森万里子 『Tom Na H-iu』」 SCAI
3日 「佐藤好彦個展『 1 : 4 : 9』」 ヴァイスフェルト
3日 「田口和奈『その中にある写真』」 TARO NASU GALLERY
3日 「大塚聡『Counting Waves - 波をかぞえる - 』」 TSCA
10日 「村岡三郎展」 KENJI TAKI GALLERY/東京
10日 「リュック・タイマンス展」 WAKO WORKS OF ART
17日 「町田久美展」 西村画廊
今月はコンサートの予定がありません。と言うことで、かわりに(?)映画の予定を入れてみました。作品は、昨年も拝見したドイツ映画祭にて上映される「異国の肌」です。また実はもう一つ、東京国立近代美術館フィルムセンターで開催されるロシア・ソビエト映画祭にも少し心を引かれていますが、こちらはまだ行けるかどうか分かりません。予定がつけば、何か一つくらいは見ておきたいです。
それにしても7月は盛りだくさんです。東博+尚蔵館の「若冲」展はもちろんのこと、川村「クレー」+千葉市美術館の「海に生きる」展、さらには横浜の日本画展など、どれも期待出来そうな企画が目白押しです。忘れないようにチェックしなくてはなりません。また横浜へ行った際には、赤レンガ倉庫で開催される「C-DEPOT2006」へも足を伸ばしたいと思います。これまでにもギャラリーで拝見したことのある、若い作家の方が集う展覧会です。こちらも非常に楽しみです。
既に、工芸館の展覧会とブリヂストンの坂本繁二郎展、それに松岡のエコール・ド・パリと目黒の熊田千佳慕展は見終えています。早めに感想をアップしていきたいと思います。
それでは今月もどうぞ宜しくお願いします。
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日本フィル 「ショスタコーヴィチ:交響曲第5番」他 6/30
日本フィルハーモニー交響楽団 第581回定期演奏会2日目
バーバー 弦楽のためのアダージョ
グリーグ 4つの交響的舞曲
ショスタコーヴィチ 交響曲第5番「革命」
指揮 ネーメ・ヤルヴィ
演奏 日本フィルハーモニー交響楽団
2006/6/30 19:00 サントリーホール
日フィルの定期へ行ったのは何年ぶりでしょうか。ここ最近では聞いた記憶がありません。客員首席指揮者の父・ヤルヴィが振る「革命」を聴いてきました。
ヤルヴィのショスタコーヴィチはとても無理がありません。あまり大きくない振りの指揮にて最小限の指示を与え、他はオーケストラの自発的な呼吸感に任せていく。基調となるテンポ感は実にスムーズです。さすがにラルゴ楽章では幾分テンポが遅くなり、各フレーズを丁寧になぞっていく演奏となりましたが、他は総じて小気味良く進みました。オーケストラを縛るような指揮者ではありません。
第1楽章の冒頭の主題はあっさりと入っていきました。その後、徐々に暗雲が漂って不気味な金管が強烈に咆哮し、さらには陰鬱ながらもいささか弱々しいピアノが入ってくる。行進曲調の展開部のリズム感は抜群です。むやみにテンポをあげることはありませんが、迫力満点に音楽を畳み掛けていく。ここでヤルヴィは、オーケストラに持てる限りの響きを要求しました。アクセルを全開での猛烈なフォルテッシモです。久々に聴いた日フィルは驚くほど力強い。特にコントラバスを初めとする低弦群と、トロンボーン、チューバの金管。もの凄い迫力でした。ホールが割れます。予想以上の鳴りっぷりです。これには参りました。
ラルゴ楽章が一番優れていました。祈りとも死とも、また孤独とも言われるこの楽章が、半ば違和感さえ与えるほどに爽やかに響きわたります。これがあの「革命」の第3楽章なのかと思うほどの爽快感。ヤルヴィはここで、第1楽章で要求したフォルテッシモから一転し、今度は極限のピアニッシモを要求します。それが日フィルのヴァイオリンセクションにかかると、今にも消え入りそうなか細い響きが実現されるのです。まさに寄せては返す小波の調べ。時折絡むチェロやハープ。そしてヤルヴィの指示なのか、総じてややフォルテ志向の木管群。まさに精霊の調べでしょうか。少し冷たい湿り気を帯びた森の奥深くを彷徨っている。「革命」からこんなイメージが湧いて来たのは初めてです。清らかな森林浴をしているような心地良ささえ感じられました。ただしこれは、後でもまた触れますが、ヤルヴィの解釈よりも、日フィルの特質によるものかと思います。
第4楽章は素直に盛り上がりました。この曲の中でも特に解釈が分かれる部分ではありますが、ヤルヴィはそういったある種の主観的な視点へ入り込むことなく、純然とした響きのみを追求していきます。ここでも日フィルはまた一気に力強くなり、ど迫力のフォルテッシモを聴かせてくれました。もちろん聴衆の熱狂的な拍手に迎えられます。確かにこれは立派な演奏です。オーケストラも全力でした。
さて、「革命」の演奏だけに限りませんが、日フィルの演奏にはともかく迫力がありました。この日だけ聴いていても、本当に全力で音楽に取り組んでいるということがヒシヒシと伝わってきます。ただし大変失礼な言い方をすれば、その分、かなり粗さが目立っていたようにも思いました。合奏が揃わない部分や、響きが落ちてしまうホルン、そして力強くとも私には美しく聴こえなかったコントラバスにチューバやトロンボーン。いつもフォルテ方向に持ち味を見せているオーケストラなのかもしれませんが、私はピアノ方向への丁寧な音の紡ぎこそに日フィルの美点があるのではないかと思います。(特にヴァイオリン。)フォルテでの合奏は響きとして殆どまとまらずに、ただ力任せに鳴っているようにさえ感じました。あれでは大味です。音が大きくなればなるほどに美感が損なわれていきます。その点では、いつも決して臨界点を超えることなく、常にフォルテでもまとまろうとしている新日フィルと正反対のポジションにあるのかもしれません。(その分パワーは落ちるのでしょうが…。)また、これは良い点なのかもしれませんが、表情を刻々と変えていくような機動力こそないものの、それこそラテン系とも言えるような明るい響きを持っているのが興味深い点かと思いました。だからこそ、「革命」の第3楽章でも、あのように沈鬱な表現にならなかったのかもしれません。他の在京のオーケストラでは少し聴けないような響きでした。(だからこそアンサンブルの精度が向上すればと思ってしまうわけですが。)
プログラムの前には、モーツァルトのメモリアルを祝っての「5つのコントルダンス」(「フィガロの結婚」からの引用など。K.609)が演奏されました。思わぬサプライズです。そして「革命」の後でもしっかりとアンコール曲がある。(ヴァイネルの「ディヴェルティメント」です。)最後は、ヤルヴィの音頭で会場の拍手が手拍子に変わるというおまけまでついてきました。これぞ日フィル流とでも言ったところでしょうか。
ともかく日フィルにはすっかりご無沙汰していました。良い部分もたくさん感じられたので、これからはもう少し接していきたいです。
バーバー 弦楽のためのアダージョ
グリーグ 4つの交響的舞曲
ショスタコーヴィチ 交響曲第5番「革命」
指揮 ネーメ・ヤルヴィ
演奏 日本フィルハーモニー交響楽団
2006/6/30 19:00 サントリーホール
日フィルの定期へ行ったのは何年ぶりでしょうか。ここ最近では聞いた記憶がありません。客員首席指揮者の父・ヤルヴィが振る「革命」を聴いてきました。
ヤルヴィのショスタコーヴィチはとても無理がありません。あまり大きくない振りの指揮にて最小限の指示を与え、他はオーケストラの自発的な呼吸感に任せていく。基調となるテンポ感は実にスムーズです。さすがにラルゴ楽章では幾分テンポが遅くなり、各フレーズを丁寧になぞっていく演奏となりましたが、他は総じて小気味良く進みました。オーケストラを縛るような指揮者ではありません。
第1楽章の冒頭の主題はあっさりと入っていきました。その後、徐々に暗雲が漂って不気味な金管が強烈に咆哮し、さらには陰鬱ながらもいささか弱々しいピアノが入ってくる。行進曲調の展開部のリズム感は抜群です。むやみにテンポをあげることはありませんが、迫力満点に音楽を畳み掛けていく。ここでヤルヴィは、オーケストラに持てる限りの響きを要求しました。アクセルを全開での猛烈なフォルテッシモです。久々に聴いた日フィルは驚くほど力強い。特にコントラバスを初めとする低弦群と、トロンボーン、チューバの金管。もの凄い迫力でした。ホールが割れます。予想以上の鳴りっぷりです。これには参りました。
ラルゴ楽章が一番優れていました。祈りとも死とも、また孤独とも言われるこの楽章が、半ば違和感さえ与えるほどに爽やかに響きわたります。これがあの「革命」の第3楽章なのかと思うほどの爽快感。ヤルヴィはここで、第1楽章で要求したフォルテッシモから一転し、今度は極限のピアニッシモを要求します。それが日フィルのヴァイオリンセクションにかかると、今にも消え入りそうなか細い響きが実現されるのです。まさに寄せては返す小波の調べ。時折絡むチェロやハープ。そしてヤルヴィの指示なのか、総じてややフォルテ志向の木管群。まさに精霊の調べでしょうか。少し冷たい湿り気を帯びた森の奥深くを彷徨っている。「革命」からこんなイメージが湧いて来たのは初めてです。清らかな森林浴をしているような心地良ささえ感じられました。ただしこれは、後でもまた触れますが、ヤルヴィの解釈よりも、日フィルの特質によるものかと思います。
第4楽章は素直に盛り上がりました。この曲の中でも特に解釈が分かれる部分ではありますが、ヤルヴィはそういったある種の主観的な視点へ入り込むことなく、純然とした響きのみを追求していきます。ここでも日フィルはまた一気に力強くなり、ど迫力のフォルテッシモを聴かせてくれました。もちろん聴衆の熱狂的な拍手に迎えられます。確かにこれは立派な演奏です。オーケストラも全力でした。
さて、「革命」の演奏だけに限りませんが、日フィルの演奏にはともかく迫力がありました。この日だけ聴いていても、本当に全力で音楽に取り組んでいるということがヒシヒシと伝わってきます。ただし大変失礼な言い方をすれば、その分、かなり粗さが目立っていたようにも思いました。合奏が揃わない部分や、響きが落ちてしまうホルン、そして力強くとも私には美しく聴こえなかったコントラバスにチューバやトロンボーン。いつもフォルテ方向に持ち味を見せているオーケストラなのかもしれませんが、私はピアノ方向への丁寧な音の紡ぎこそに日フィルの美点があるのではないかと思います。(特にヴァイオリン。)フォルテでの合奏は響きとして殆どまとまらずに、ただ力任せに鳴っているようにさえ感じました。あれでは大味です。音が大きくなればなるほどに美感が損なわれていきます。その点では、いつも決して臨界点を超えることなく、常にフォルテでもまとまろうとしている新日フィルと正反対のポジションにあるのかもしれません。(その分パワーは落ちるのでしょうが…。)また、これは良い点なのかもしれませんが、表情を刻々と変えていくような機動力こそないものの、それこそラテン系とも言えるような明るい響きを持っているのが興味深い点かと思いました。だからこそ、「革命」の第3楽章でも、あのように沈鬱な表現にならなかったのかもしれません。他の在京のオーケストラでは少し聴けないような響きでした。(だからこそアンサンブルの精度が向上すればと思ってしまうわけですが。)
プログラムの前には、モーツァルトのメモリアルを祝っての「5つのコントルダンス」(「フィガロの結婚」からの引用など。K.609)が演奏されました。思わぬサプライズです。そして「革命」の後でもしっかりとアンコール曲がある。(ヴァイネルの「ディヴェルティメント」です。)最後は、ヤルヴィの音頭で会場の拍手が手拍子に変わるというおまけまでついてきました。これぞ日フィル流とでも言ったところでしょうか。
ともかく日フィルにはすっかりご無沙汰していました。良い部分もたくさん感じられたので、これからはもう少し接していきたいです。
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