「マン・レイ展 知られざる創作の秘密」 国立新美術館

国立新美術館港区六本木7-22-2
「マン・レイ展 知られざる創作の秘密」
7/14-9/13



国立新美術館で開催中の「マン・レイ展 知られざる創作の秘密」へ行ってきました。

ともかく「モダンアートの先駆者」(チラシより引用)と言われることだけあって、何らかの現代美術展となると度々登場するマン・レイですが、今回ほどの規模で業績を知る機会は殆どなかったかもしれません。マン・レイ財団の協力のもと、写真だけではなく絵画、彫刻までが全400点も揃う様子は新美術館のスケールにも決して負けていませんでした。

展示はオーソドックスな年代別の構成です。マン・レイの人生を作品とともに丹念に追いかけていました。

1.「New York 1890-1921」

フィラデルフィア生まれのマン・レイは初期、スティーグリッツと出会ったことをきっかけに、写真を芸術の域へ高めようと様々な制作に取り組みます。この時期で興味深いのは何やらカンディンスキーを思わせる抽象面を捉えた「シンフォニー」や、まるでマティスのダンスを立体化させたようなオブジェ、「両性具有」でした。またデュシャンとの関係もあったマン・レイは、有名な「階段を降りる裸体」を記録写真として残しています。かの名画も彼の視点を通してみるとまた新鮮でした。

2.「Paris 1921-1940」

パリへ移住したマン・レイは職業写真家としても成功します。 まずその写真家マン・レイとして楽しめるのが、先述のデュシャンの作品にも関わる写真による複製、つまりは他の芸術家の作品をとった写真です。なかでもマン・レイが死ぬまで手放さなかったというルソーの2点には目が止まりました。彼はルソーに一体何を感じていたのでしょうか。


「キキ・ド・モンパルナス」1923年(プリント年不詳)ゼラチン・シルバー・プリント

また同棲していたキキや、まるで彫像のように写るピカソのポートレート、さらにはマン・レイが様々な写真技法に挑戦した実験的な作品などの見どころも満載でした。実際、マン・レイというと写真家としての業績が一番知られていますが、このパリ時代こそハイライトとして位置付けられるのかもしれません。

3.「Los Angeles 1940-1951」

戦争のために全てをなげうってアメリカへ渡ったマン・レイですが、彼の残した「カルフォルニアは美しい牢獄だ。」の言葉の通り、その業績を正当に評価されることはなかなかありませんでした。しかしながらここで出会う彼の伴侶、ジュリエットは、マンレイの制作意欲を再び高めていきます。彼女をはじめ、同じくアメリカ西部で辛酸をなめた経験のあるイサム・ノグチのポートレートには、この時代のアメリカの空気を取り込んだような独特の臨場感がありました。


「永遠の魅力」1948年 木

またもう一つ、カルフォルニア時代で是非とも触れておきたいのがマン・レイのデザインによるチェスボードです。ガラス製の板の上に並ぶ、赤とシルバーのアルミの駒は実にスタイリッシュでした。マン・レイのセンスの良さを伺い知れる作品と言えるかもしれません。

4.「Paris 1951-1976」


「花を持つジュリエット」1950年代 カラー・ポジフィルム

ジュリエットとともに再びパリへと帰ったマン・レイは、過去の作品のスタイルに一部回帰しながら、写真以外にも多様な制作を続けていきます。写真ではカラーを用いつつ、また彼に特徴的な窃視趣味と呼ばれるモチーフの作品を生み出しました。結局、1976年、彼はジュリエットに看取られて亡くなります。マン・レイの死の3年後に撮られたアトリエ、そしてジュリエットとの墓地の写真を見ると、どこかぐっとこみ上げてくるものを感じました。


「赤いアイロン」1966年 ミクスト・メディア

写真は時に、写す人間の関心の有り様をダイレクトに表すことがありますが、そうした意味でもマン・レイはじめに触れたルソーの他、サドなどにも関心を抱いていたことはやや意外でした。また私の好きなエルンストとの関係などについても興味を覚えます。マン・レイは様々な芸術家との交流がありましたが、会場でその辺りについての解説が充実しているとなお良かったかもしれません。


「シュルレアリストたち」1930年 ゼラチン・シルバー・プリント

率直なところ私自身、これまでマン・レイを苦手だと避けていましたが、それは要するに私が彼について何一つ知らなかったからだということが良くわかりました。決して華やかな展示ではありませんが、それこそマン・レイについて苦手な私のような者でも十分に共感を覚え得る展覧会ではないでしょうか。私にとってのマン・レイ体験の原点がこの展示で良かったとさえ思いました。

会場前にはオルセー展入場のための長蛇の列ができていましたが、ここマン・レイについては一切の混雑とは無縁です。小さなポートレートもストレスなく見られました。

展覧会のHPがかなり充実しています。記者発表会の模様が動画で配信されている他、杉本博司や磯崎新がマン・レイについて語るコーナーなどもありました。

9月13日まで開催されています。 なお東京展終了後、大阪の国立国際美術館(9/28-11/14)へと巡回します。
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「没後25年 鴨居玲 終わらない旅」 そごう美術館

そごう美術館横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階)
「没後25年 鴨居玲 終わらない旅」
7/17-8/31



没後25年を契機にして画業を振り返ります。横浜そごう美術館で開催中の「没後25年 鴨居玲 終わらない旅」へ行ってきました。

作家、鴨居玲(かもいれい。1928-1985)の略歴については以下の通りです。(美術館サイトより引用。)

酔っぱらい、廃兵、皺だらけの老婆、そして自画像と、40年足らずの短い画業で、常に自己の内面と向き合い、苦悩しながらも数々の作品を描き続けた画家鴨居玲。
戦後創設された、金沢美術工芸専門学校(現・金沢美術工芸大学)に入学し、宮本三郎に師事。二紀会に出品して褒状を受けるなど、若くしてその才能を発揮します。しかし油絵制作に行き詰まり、油彩画から離れる時期もありました。その後、意を決して取り組んだ《静止した刻》で、1969年に安井賞を受賞。以後スペイン、フランス、そして神戸と生活の拠点を移しながら、鴨居独特の存在感のある画風を確立していきます。



「ボリビア インディオの娘」(1970年)

とかく語られる苦悩や不安のキーワード、また一見するところのおどろおどろしい画風もあってか、どこか近寄り難い独特のオーラが出ていたのは事実ですが、実際の作品に接すると、例えばチラシ図版で前もって抱いていた印象とは大分異なりました。鴨居は数多く手がけた自画像や人物画によって、苦悩云々だけではない、人間の奥底にある笑いや楽しみまでをも、どこか戯画的なまでの誇張的表現にて引き出すことに成功しています。千鳥足の酔っ払いの男や、旅先で見た人物を描いた作品などには、それこそ鴨居の人への鋭い観察眼、そして何よりも人へ対する愛情が強く滲み出ていました。


「静止した刻」(1968年)

出世作でもある「静止した刻」(1968年)も人間観察者の鴨居ならではの作品だと言えるのではないでしょうか。余白の多い暗がりの背景こそ不安な空気を醸し出していますが、サイコロを振る四人の男たちの表情はむしろ明るく、例えばドーミエの描く風刺画のようなコミカルな様相さえ感じられます。鴨居は一貫して重厚な色遣いを用いることで、どこか鬼気迫る画風を作り出していますが、人物の表情によく注意して見て下さい。瞳のない顔は異様ではありますが、それは人間のふとした何気ない表情が巧みに捉えられています。こうしたタッチの重厚さの反面、強いていえば人懐っこくさえある人物表現とのギャップもまた、鴨居の大きな特徴の一つであるのかもしれません。


「おっかさん」(1973年)

そうした意味でも作家の集大成であるのが、70年代の「私の村の酔っぱらい」(1973年)や「おっかさん」(1973年)であるかもしれません。鴨居は自身も酒を好んでいたこともあり、こうした酔っ払いのモチーフを非常に多く描いていますが、そこには酔って醜くもある男たちへの深い共感を見ることが出来ます。また「おっかさん」においても放蕩息子の胸を掴む老婆には人情味が溢れていました。ここにはまるで筋肉や血管までを浮き上がらせた奇異な顔面が描かれていますが、それよりもむしろ鴨居は切っても切り離せない親子の深い愛情を羨望の眼差しでもって捉えたように思えてなりませんでした。


「1982 私」(1982年)

一つの問題作として是非とも挙げておきたいのは、白い大きなキャンバスを前に座る自身を描いた「1982 私」(1982年)です。ヨーロッパ生活を終えて帰国後したものの、絵の製作に悩んだ鴨居は、この作品を描くことで「もう何も描けない」(解説冊子より引用)ということを表現しました。しかしながらここでも鴨居はこれまでのモチーフらの人物に囲まれ、どこか苦しんでいるような表情を見せながらも、何やらドラマに登場する役者がポーズをとるかのようにしてこちらを振り向いています。確かに鴨居は晩年、狂言的な自殺をはかるなど波乱の人生を送りましたが、本来的に人間が好きで明るかったという彼は、人を描きながら自己を投影し、またこのように画中でも多くの人物に囲まれることで、何か連帯感や安堵感のようなものを求めていたのかもしれません。


「裸婦」(1982年)

晩年の「裸婦」(1982年)には心がとまりました。彼はこの時期、女性表現に取り組むなど、作風に若干の変化も見られますが、まるで青の時代のピカソが描いたようなこの女性の美しさは、同時期の自画像とは完全に一線を画しています。彼はキャンバスをそれこそ白くせず、また新たなモチーフを求めて旅立っていました。

ともかく図版と実際の作品はまるで別物です。私の感想はさて置いても、チラシのみを見て絵の印象を定めてしまうのはあまりにも勿体ないことだと改めて感じました。そうした意味においてもこの回顧展へ足を運ぶ価値は多分にあります。

8月31日まで開催されています。
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「欣求浄土~ピュア・ランドを求めて - 大倉コレクション 仏教美術名品展」 大倉集古館

大倉集古館港区虎ノ門2-10-3 ホテルオークラ東京本館正門前)
「欣求浄土 (ごんぐじょうど)~ピュア・ランドを求めて - 大倉コレクション 仏教美術名品展」
8/1-9/26



「大倉コレクションの日本・東洋の仏教美術の優品から、浄土やそのイメージに繋がるものを中心に展観」(美術館HPより全文引用。)します。大倉集古館で開催中の「欣求浄土~ピュア・ランドを求めて - 大倉コレクション 仏教美術名品展」へ行ってきました。

同美術館の仏教美術品というとお馴染みの国宝、普賢菩薩像が有名なところですが、それを中心に、仏像、絵巻、曼荼羅、また羅漢図などの作品、全30点弱が一同に揃っていました。(出品リスト)いつもの通り、非常に簡素な展示ではありますが、所蔵の仏教美術をじっくりと楽しむのにはまたとない機会かもしれません。

何やらポップな阿弥陀様のチラシ表紙が目を引くところですが、その図像が実際の展示作品であるのは言うまでもありません。険しい山の間に突如出現する阿弥陀如来を描いたのは、復古大和絵派の絵師、冷泉為恭でした。ビビットな色遣いの他、随所に見られる柔らかな線描などはまさに彼の画風のなすところですが、着衣における金彩にも要注目です。実に細やかでかつ艶やかな表現で模様を表していました。

絵巻にも充実した作品が出ています。中でも印象深いのは、平安末期の僧、良忍上人の事蹟を描いた「融通念仏縁起絵巻」です。毘沙門の化身が僧良忍の庵を訪ねる箇所から始まり、逆に今度は鞍馬にて良忍が姿を見せた毘沙門に会う光景などが、軽妙なタッチにて表されていました。


「空也上人絵伝」

私として今回の一推しにしたいのは、空也の生涯を6つの場面に分けて描いた「空也上人絵伝」です。青い雲を場面の転換に用いた縦長の空間には、まるで民画のようにコミカルな空也が登場しています。特に最下段の空也には是非注目して下さい。念仏を唱えた空也の口から小仏が飛び出す様子が描かれていました。


「十六羅漢図」のうち「第三尊者」

展示の目玉は「十六羅漢図」に他なりません。この羅漢図は極彩色のものと、色数の少ない線描的なものの二パターンに分かれているそうですが、今回はそれらを一度の展示替えを挟んで全幅公開しています。ここはじっくりと見入りました。

「十六羅漢図」展示スケジュール
前期(8/1~8/29):第一、三、五、七、九、十一、十三、十五尊者
後期(8/31~9/26):第二、四、六、八、十、十二、十四、十六尊者


その他、4幅の金彩の「阿弥陀三尊来迎図」の他、宗画の影響を受けたという大きな「仏涅槃図」、また狩野探幽による画帳などの見どころもありました。なお今回は単眼鏡が必須です。仏画の細かな描写を見るのに役立ちました。

9月26日まで開催されています。
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「近代日本画にみる東西画壇」 泉屋博古館分館

泉屋博古館分館港区六本木1-5-1
「近代日本画にみる東西画壇」
7/17-9/26



泉屋博古館で開催中の「近代日本画にみる東西画壇」へ行ってきました。

近代日本絵画に定評のある泉屋博古館ではありますが、今回は日本の東西、つまりは東京と京都・大阪の各画壇に焦点を当てて作品を展示しています。三都の特質を東京=粋、京都=雅、大阪=婀娜(あだ。なまめかしく、美しい。色っぽい様子。)と捉え、それぞれに代表される画家を紹介していました。

東京画壇=「粋」 狩野芳崖、橋本雅邦、下村観山など。

狩野芳崖「寿老人」(前期)
芳崖らしい大胆な線描が寿老人をアバンギャルドな姿に変えている。鶴と白梅、そして老人の着衣の線が、まるで戦い合うかのように乱れて入り組んでいる。鶴の頭だけ紅が用いられているのが面白い。芳崖は狩野派に倣いながらも、その古法に縛られるのを嫌がって法外、つまり芳崖と名乗った。

京都画壇=「雅」 望月玉泉、竹内栖鳳、木島桜谷など。

竹内栖鳳「禁城松翠」(前期)
何度見ても美しいお堀越しの石垣。青、緑、そして土の色が溶け合って混じる水面が何とも繊細。色の滲みが稀な効果を見せている。しかしベニスの月しかり、栖鳳は水面を描くのが本当に巧い。

木島桜谷「菊花図」
琳派風のトリミングによる菊花が金屏風に舞う。構図的にはやや動きがないがまさに「雅」を思わせる作品だ。

大阪画壇=「婀娜」(あだ) 深田直城、上島鳳山など。

上島鳳山「十二月美人」
今回一推しにしたいのはこの「十二月美人」シリーズ。浮世絵風美人がいかにも艶やかな立ち姿を見せて描かれている。特に「青楓」は素晴らしい。口に布をあてて楓を見やる女性の姿の色っぽさは何ともなめやか。人なつっこい表情もまた良かった。

率直なところ、三都の特質までを汲み取ることはなかなか出来ませんでしたが、あえていえば大阪の「婀娜」が一番心に感じ入ったかもしれません。独特の色気を見ると深みにはまります。

いつもの泉屋同様、点数こそ望めませんが、良質の近代日本画をゆったりとした気分で楽しむことが出来ました。

作品の一部に展示替え(8月23日)があります。後期には小林古径の作品などが出るそうです。

9月26日まで開催されています。
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「BASARA展」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン港区南青山5-6-23
「BASARA展」
8/4~8/7(会期終了)



スパイラルガーデンで開催されていた「BASARA展」へ行ってきました。

展示の概要は以下の通りです。

現代美術家・天明屋尚がキュレーターとなり、あまり注目されてこなかった日本文化の側面にスポットを当て、従来の日本美術・アートシーンのイメージの刷新を試みるアートイベントを開催します。
侘び・寂び・禅の対極にあり、オタク文化とも相容れない華美(過美)で反骨精神溢れる覇格(破格)の美の系譜「BASARA」をテーマに、大胆かつダイナミックな和の世界が展開されます。


またBASARAについてはキュレーターの天明屋の以下の文章が参考になります。非常に重要です。

視点・論点 「日本の美(3) BASARA」@解説委員室(NHK)

縄文土器から現代アートまでを一同に展示する、言わばクロスオーバー的な企画自体は珍しくないかもしれませんが、会場に足を踏み入れれば一目瞭然、そこには天明屋によるBASARAの独特な美学が貫かれています。その意識は『絢爛』かつ『反骨』とのことでしたが、それはケバケバしいまでに装飾の施された改造バイクや族車、そして刺青などから如実に伺い知れたのではないでしょうか。良く指摘される、日本人の縄文土器由来のドロドロとしたデコラティブなものに対する憧憬は、半ばそれとは対極的であまりにもスタイリッシュなスパイラルの空間に満ちあふれています。現代アートのいくつかの作品など、それぞれの括りにはやや謎めいた面もありましたが、全体としての展示の流れのブレはほぼありませんでした。

オープニングの刺青のイベントにも参加しました。率直なところ、刺青自体を美しいと見るのは私の中ではまだ戸惑いがありますが、そこにこめられた彫り師の熱意、さらには体を張って表現を貫いた刺青の人達の心意気は伝わってきます。私としてはこの展示にBASARAの『絢爛』よりも、アウトロー的なものにも価値を与え、一般的な価値観を揺さぶる『反骨』の精神を強く感じました。本来、この半権力的なものこそ芸術の源泉であったのかもしれません。このイベントに関するBASARAは、少なくとも単なるデコラティブなファッションではありませんでした。

この会期の短さは意図的なのかもしれませんが、一つの問題提起としてはもう少し長く展示するか、あえて巡回するのも良かったのではないかとは思いました。

展示は既に終了しています。
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板橋区立美術館で諸国畸人伝展を開催

江戸絵画展で定評のある板橋区立美術館ですが、この秋にもまた見逃せない展覧会が予定されています。



江戸文化シリーズNo.26「諸国畸人伝」 9月4日(土)~10月11日(月・祝)

既に詳細はWEBサイトにも掲載されていますが、今回は江戸時代の、とりわけ各流派に属さなかった個性的な絵師たちにクローズアップを当てる企画です。タイトルからしてまさに板橋区立美ならではの展示となりそうですが、出展画家のラインナップを見るだけでも期待が高まるのではないでしょうか。

出展画家:菅井梅関、林十江、佐竹蓬平、加藤信清、狩野一信、白隠、曾我蕭白、祇園井特、中村芳中、絵金
出品総数:掛軸・屏風・巻子 48件 *9月27日に一部展示替


曾我蕭白「群童遊戯図屏風」九州国立博物館

さて私としてまず注目したいのは、曾我蕭白の「群童遊戯図屏風」(九州国立博物館蔵)です。この作品は元々、後世の画家のコピーが伝えられていたそうですが、近年にそのオリジナルが出現し、九州国立博物館の所蔵作品となりました。蕭白では珍しい銀を背景とした屏風というと、かの東博対決展でも出た「群仙図屏風」を思い出しますが、それに匹敵し得るだけのインパクトを与えること間違いありません。


狩野一信「五百羅漢図 第50幅」増上寺

続いてもう一点、同じく注目したいのが狩野一信の「五百羅漢図」(増上寺蔵)の一部が展示されることです。増上寺編の「五百羅漢図」というと来年春、江戸東京博物館にて全幅展示が予定されていますが、その先取り的な公開となるのではないでしょうか。


「五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信」 2011年3月15日~5月29日 江戸東京博物館

江戸博の言わば前哨戦としてこちらも楽しみにしたいところです。


祇園井特「美人図(左)」摘水軒記念文化振興財団

最後に是非とも忘れてはならない絵師が一人いました。それが江戸時代、主に京都で活躍した祇園井特(ぎおんせいとく)です。井特はかつて奈良の県立博物館での「上方絵画の底ぢから」展で見て以来、非常にアクの強い画風に興味を覚えましたが、再びそれこそ奇特な美人画を見る機会がやってきました。芳中しかり、こうした上方で活躍した絵師の作品を関東で見ることはそう多くありません。こちらも話題になりそうです。

展示に関連したイベント、伝統演芸の公演も準備されています。スケジュールはこちらを参照いただきたいところですが、嬉しいことに観覧料以外の一切の料金がかかりません。太っ腹の企画ということで、展示とあわせて楽しまれては如何でしょうか。

去年の秋の一蝶展同様、今年もまた足繁く板橋へ通うことになりそうです。
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「ハンス・コパー展 20世紀陶芸の革新」 パナソニック電工汐留ミュージアム

パナソニック電工汐留ミュージアム港区東新橋1-5-1 パナソニック電工ビル4階)
「ハンス・コパー展 20世紀陶芸の革新」
6/26-9/5



パナソニック電工汐留ミュージアムで開催中の「ハンス・コパー展 20世紀陶芸の革新」へ行ってきました。

コパーと言うと、つい先だって新美術館で開催されたルーシー・リー展のことを思い出しますが、やはり単独展となると作家への共感の度合いは大分異なっているかもしれません。規模こそまるで違いますが、それこそ相互に補完し合う展覧会だと改めて感じました。

構成は時間軸に沿っています。ルーシー・リーとの関係を踏まえた上で、コパーの制作史を辿るシンプルなものでした。

1.「アルビオン・ミューズ」(1946~1958):ルーシー・リーの工房時代。共同製作。


ハンス・コパー/ルーシー・リー「コーヒーセット(7点組)」1955年頃 滋賀県立陶芸の森 陶芸館蔵

ルーシー・リーとの共同製作時代冒頭に展示されているのは、ルーシー・リー展でも出品されていた陶器ボタンです。またこの時期のコパーの作品には細かい線刻が施されたものが目立ちます。ルーシー・リーも得意とする掻き落としの技法の関連を伺わせていました。


ハンス・コパー「ポット」1950年代 個人蔵

しかしながらやや抽象的な陶製の頭部作品など、作家のオブジェへの関心を見せる作品もいくつか登場していました。

2.「ディグズウエル」(1959~1963):工房を離れたコパー。ディグズウエル・アート・トラストでの制作活動。

この時期のコパーはタイルや壁面装飾、それに燭台など、建築と密接な作品を数多く手掛けています。特にコベントリー聖堂を飾った大型のロウソク立ては必見の作品ではないでしょうか。まるでエンタシスの柱のような形は聖堂云々を差し引いてもどこか瞑想的です。古代彫刻への興味も強かったコパーの作風は建築面でも独自性を発揮していました。

3.「ロンドン」(1963~1967):ロンドンへ戻り、自身の工房を構えた時代。

コパーはロンドンで名声を高めます。ここで円盤と円筒形の土台を組み合わせたモニュメンタルなオブジェを次々と生み出しました。

4.「フルーム」(1967~1981):田園地帯の農場を拠点に制作活動。晩年のコパー。


ハンス・コパー「キクラデス・フォーム」左/1975年 バークレイ・コレクション蔵 右/1975年頃 個人蔵

晩年のコパーは独自の境地です。古代中国の祭器に似たスペード・フォーム、またあざみの花を象ったティッスル・フォーム、さらには古代エーゲ海のキクラテス彫刻にモチーフを借りたキクラデス・フォームなど、まさに多種多様な陶芸を発表していきました。それにしてもこれらの作品はいずれも神秘的です。まるでそれ自体に魂がこもっている土偶のようでした。


ハンス・コパー「スペード・フォーム」(手前)1970年頃/「ティッスル・フォーム」(奥)1975年頃

狭い会場ですが、展示方法にも工夫がなされています。コパーがヨークシャーのコミュニティスクールに建てた壁面作品を実寸で展示しているのをはじめ、一部作品には有機ELの照明などが使われていました。雰囲気ある会場です。

若干高めですが、図録の図版が非常に鮮明でした。ルーシー・リー展図録同様、永久保存版になるかもしれません。

最後になりましたが、会場外の展覧会紹介VTRもお見逃しなきようご注意下さい。NHKが質の良い映像でコパーの芸術を丹念に追っています。ちなみに今月22日(再放送29日夜)には日曜美術館でもコパーの特集があるそうです。

空いているのが勿体ないと感じるくらいに良くまとまった展示でした。これはおすすめ出来ます。

9月5日まで開催されています。
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8月の展覧会・ギャラリーetc

手短にいきます。今月に見たい展示などをあげてみました。

展覧会

「ウィリアム エグルストン:パリ―京都」 原美術館(~8/22)
「鴨居玲 終わらない旅」 そごう美術館(~8/31)
「有元利夫展 天空の音楽」 東京都庭園美術館(~9/5)
「ハンス・コパー展 20世紀陶芸の革新」 パナソニック電工汐留ミュージアム(~9/5)
「タブロオ・マシン(図画機械) 中村宏の絵画と模型」 練馬区立美術館(~9/5)
 #ギャラリートーク 中村宏 8/22 15:00~ 
「アール・ヌーヴォーのポスター芸術展」 松屋銀座(8/25~9/6)
「日本美術のヴィーナス - 浮世絵と近代美人画」 出光美術館(~9/12)
「マン・レイ展」 国立新美術館(~9/13)
「田中一村 新たなる全貌」 千葉市美術館(8/21~9/25)
 #シンポジウム「田中一村の新たなる全貌を求めて」 司会:小林忠(千葉市美術館館長) 8/22 13:30~
「オノデラユキ 写真の迷宮へ」 東京都写真美術館(~9/26)
「欣求浄土~ピュア・ランドを求めて 仏教美術名品展」 大倉集古館(~9/26)
「アントワープ王立美術館コレクション展 アンソールからマグリットへ-ベルギー近代美術の殿堂」 東京オペラシティアートギャラリー(~10/3)
「ポンピドー・センター所蔵作品展 シャガール ロシア・アヴァンギャルドとの出会い」 東京藝術大学大学美術館(~10/11)
「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール スイス発-知られざるヨーロピアン・モダンの殿堂」 世田谷美術館(8/7~10/11)
「誇り高きデザイン 鍋島」 サントリー美術館(8/11~10/11)
「ヘンリー・ムア 生命のかたち」 ブリヂストン美術館(~10/17)
「三菱が夢見た美術館」 三菱一号館美術館(8/24~11/3)
「ネイチャー・センス:吉岡徳仁、篠田太郎、栗林隆」 森美術館(~11/7)

ギャラリー

「BASARA展」 スパイラルガーデン(8/4~8/7)
「C-DEPOT 旅」 横浜赤レンガ倉庫(8/4~8/9)
「東信 Frozen Flowers」 void+(8/7~8/15)
「呉亜沙 The Unknown」 不忍画廊(~8/28)
「遠藤利克展 - 欲動⇔空洞」 代官山ヒルサイドテラス(8/17~9/5)
「束芋 ててて」 ギャラリー小柳(8/5~9/11)
「桑久保徹 海の話し 画家の話し」 TWS渋谷(8/7~9/26)



まず今月に始まる展覧会で注目したいのは、南国をモチーフとした風景画などを独特のタッチで描いた田中一村の回顧展です。過去最大規模とのことで期待も高まりますが、9月には館長小林先生による記念講演会なども予定されています。一村の画業を改めて問い直すような展覧会になりそうです。



マネ展の盛況が伝えられた三菱一号館美術館ですが、今度はゆかりの美術品を公開する「三菱が夢見た美術館」が開催されます。もちろん目玉は何と言っても「曜変天目」ではないでしょうか。なお公開が8月24日から9月5日までと限定されています。二子玉川の静嘉堂で公開される際も大変に混雑するので、なるべく早めの方が良いかもしれません。



ギャラリーではともかく明日からスパイラルで行われるBASARA展に要注目です。何と会期が僅か4日間しかありませんが、かの天明屋尚プロデュースのもと、縄文土器から河鍋暁斎、それに族車から山口晃までが登場するという、超・横断的な展覧会になることが予告されています。これは大きな話題となりそうです。

私事ながら夏のスケジュールの見通しが立ちません。今月も遠出をせず、地道に都内を廻ることになりそうです。

それではどうぞ宜しくお願いします。
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「2010イタリア・ボローニャ 国際絵本原画展」 板橋区立美術館

板橋区立美術館板橋区赤塚5-34-27
「2010イタリア・ボローニャ 国際絵本原画展」
7/10-8/15



世界最大規模を誇る絵本原画コンクール、「ボローニャ国際絵本原画展」の入選作品を展観します。板橋区立美術館で開催中の「2010イタリア・ボローニャ 国際絵本原画展」へ行ってきました。



勝手な思い込みながら絵本の原画展というと子ども向けのイメージがありますが、実際には大人も十分に楽しめる、言わば『強度』をもった展覧会でした。よって可愛らしい絵本ばかりがあると思って行くと、失礼ながら良い意味で見事に裏切られます。社会的なテーマを突っ込んだものからシュールな主題、また一つの平面として描き込みが充実した作品など、現代アートの絵画展として捉えても遜色のない内容でした。


タシエス(スペイン)「盗まれた名前たち」

特別展示として紹介されているスペインの絵本作家、タシエスの一連の原画からして、どこか毒々しいまでの作風を見せる絵画的な作品と言えるかもしれません。またマン・レイを思わせるようなコラージュから、水彩、素描風の作品など、技法も非常に多様です。ともかく出品作家が多いので個々の作品には触れませんが、計20カ国、総勢87組の作家の絵本の共演は予想以上に見応えがありました。


ジュアンクリース・ベラ(スペイン)「美容師さん」

原画展の審査の様子を映した映像コーナーも見逃せません。今回の原画展では計2454名もの応募があったそうですが、ここでは5名の審査員が議論を交わしながら入選作を選定していく課程がおさめられています。ある審査員の「子ども向けでなくても子どもの心に届くもの、そして芸術性を大切にした作品を選びたい。」という主旨の発言が心に残りました。おそらくはそうした視線がコンクールの質を維持することに繋がっているのかもしれません。


ディアナ・マルガレタ・チェプレアヌ(ルーマニア)「アフリカの絵のかりうど」

いつもアットホームな板橋区美ですが、今回はさらに手作り感が漂うスペースが用意されています。手作りパンも楽しめる期間限定のカフェ、「カフェ・ボローニャ」でゆっくり絵本を手にしながらくつろぐのも良いのではないでしょうか。私も成増行きのバスを待つ時間、カフェの書籍コーナーで絵本を楽しみました。



8月15日までの開催です。おすすめします。

*展示風景は板橋区立美術館ニュースより拝借しました。
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