「日産アートアワード2017」 BankArt Studio NYK

BankArt Studio NYK
「日産アートアワード2017:ファイナリスト5名による新作展」
9/16~11/5



BankArt Studio NYKで開催中の「日産アートアワード2017:ファイナリスト5名による新作展」を見てきました。

2013年から隔年で開催中の「日産アートアワード」も、今年で3回目を迎えました。事前に推薦委員によって25名のアーティストが選考され、この5月に最終選考へと進む、5名のファイナリストが選ばれました。

そのファイナリストによる展覧会です。題府基之、藤井光、石川竜一、田村友一郎、横山奈美の各作家が、個展の形式にて作品を発表しています。


石川竜一「home work」 2017年

故郷、沖縄の暮らしや風景を写真に収めたのが、2015年に木村伊兵衛賞を受賞した石川竜一でした。自室でしょう。テレビやパソコンなども置かれ、やや荷物で散乱した室内空間を写し撮っています。また本で溢れた書棚、食料の詰め込まれた冷蔵庫の写真もありました。さらに玄関や寝室、風呂と続きます。プライベートな空間が余すことなく切り取られていました。


石川竜一「home work」 2017年

そこからふと目を上げると、窓から眺めた戸外の風景が広がっていました。そして鳥とともに、空に行き交う軍用ヘリ、オスプレイの姿なども見えます。基地と隣り合わせの沖縄の現実が垣間見えました。


藤井光「日本人を演じる」 2017年

ドキュメンタリー映画や、演劇の演出でも幅広く活動する藤井光は、「日本人を演じる」というパフォーマンス映像を展示しています。舞台はワークショップで、数名の男女の参加者が、日本人を演じ、日本について語りながら、歴史観や多様性のあり方などについての意見を表明しています。


藤井光「日本人を演じる」 2017年

と同時に、1903年の内国勧業博覧会で、アイヌや沖縄のほか、各地の民族の人々を展示品とした「人類館事件」を題材とし、かつての植民地主義や人種主義についても掘り下げていました。


横山奈美「Crucifix」 2017年 ほか

十字架や男女の姿をネオンサインに象ったのが、画家の横山奈美でした。いずれも油彩で、ネオンの鮮烈な色彩と光が表現されています。遠目からでは、さもネオンが実際に組み込まれていると錯覚してしまうかもしれません。


横山奈美「Window」 2017年

横山は一度、ネオンサインをデザインしたのち、実物のネオンを製造した上で、油絵具で絵画に描いているそうです。つまり対象自体も自作です。しかも、ネオンを支える構造帯や配線なども、細かに描きこんでいます。ネオンの光と背後の闇が対比的に示されていました。


田村友一郎「栄光と終焉、もしくはその終演」 2017年

田村友一郎は、栄光と終焉をテーマにしたインスタレーションを制作しました。栄光、すなわちグロリアと、終焉を連想させるモチーフや情報など交差させ、映像で展開し、立体作品として空間全体へ落とし込んでいます。アートアワードを意識したのでしょうか。グロリアでは日産のセダンのエンブレムまでありました。


田村友一郎「栄光と終焉、もしくはその終演」 2017年

ポップやクラシック音楽、そして建築物やベケットの戯曲までと、実に多様な素材を用いています。時代も文化も一見、関連性が見られません。栄光と終焉、さらに再生の物語は緩やかに紡がれていました。


題府基之「STILL LIFE」 2013年」〜2016年

身の回りの日用品や食料品を捉えたのが、写真家の題府基之でした。食卓の上には見切れ品の弁当や惣菜、そしてナック菓子やお茶漬けなどが散乱しています。いずれも雑然と並び、まるで整っていません。強いフラッシュで撮影しているからか、色が際立ち、奥行き感が喪失しています。全てが日常のありふれた品にも関わらず、どことなく非日常的な雰囲気も感じられました。


会期中、審査員による選定を得て、藤井光がグランプリを獲得しました。また、一般来場者による投票により、オーディエンス賞として、横山奈美が選ばれました。(オーディエンス賞の投票は終了。)

なおアートアワードの会場は、BankArt Studio NYKの2階部分です。1階と3階では、別の企画展、「BankART LifeⅤ〜観光」(有料)が行われています。そちらは別のエントリにまとめます。

入場は無料です。11月5日まで開催されています。

「日産アートアワード2017:ファイナリスト5名による新作展」@nissanartaward) BankArt Studio NYK(2階)
会期:9月16日(土)~11月5日(日)
休館:第2・4木曜日。
時間:10:00~19:00
料金:無料。
住所:横浜市中区海岸通3-9
交通:横浜みなとみらい線馬車道駅6出口(赤レンガ倉庫口)より徒歩5分。
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「アルベルト・ヨナタン TERRENE」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「アルベルト・ヨナタン TERRENE」
10/7〜11/5



ポーラミュージアムアネックスで開催中の「アルベルト・ヨナタン TERRENE」を見てきました。

1983年にインドネシアに生まれたアルベルト・ヨナタンは、バンドンの工科大学陶芸学部を卒業後、京都に拠点を移して活動中です。2013年の第55回ヴェネツィア・ビエンナーレでは、インドネシア代表アーティストの1人として、最年少で選出されました。

タイトルの「Terrene」とは、「土からきたもの又は土のようなものを定義」(解説より)しています。主に陶磁器を用いたインスタレーションを展示していました。



否応なしに視線が下へと誘われます。床面での展開です。小さな屋根のような形をしたオブジェが、円を描くように広がっていました。その下にはさらに粉が積まれています。ランプのようでもあり、はたまた小さな仏塔のようにも見えました。何を意図しているのでしょうか。



さらに同じく床では菱形の彫刻がたくさん連なっています。一見すると、木のようにも思えるかもしれません。



より精巧なのが、鳥をモチーフとした作品でした。近づくとご覧のように、くちばしや羽の模様なども細かに再現されていることが分かります。やはり木彫りのようにも見えましたが、改めて素材を確認したところ、紛れもなく陶、テラコッタでした。見事な造形ではないでしょうか。



ほかにドローイングや映像なども加わります。ヨナタンは展示の目的を、「物質と無形、世俗的と精神的など、正反対同士の間を探ること」(解説より)にあると語っています。

ところで、アルベルト・ヨナタンの作品ですが、現在、ポーラ・アネックス以外の場所でも見ることが出来ます。

というのも、作家は、森美術館で開催中の「サンシャワー・東南アジアの現代美術展」にも参加しているからです。


アルベルト・ヨナタン「ヘリオス」 2017年 *「サンシャワー展」(森美術館会場)での展示風景。

それがギリシャの太陽神を意味する「ヘリオス」でした。キリスト教における天使セラフィムと、花を象徴した象った陶磁器による作品で、小型の陶を壁に計2000個も並べていました。記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

ヨナタンは作品の全てのパーツを、雛形を使用せずに制作しているそうです。つまり一つ一つが手作りです。俄かには分かりませんでしたが、ひょっとすると個々に歪みがあったり、微妙に大きさも異なっているかもしれません。



粘土を通して土に向き合うアルベルト・ヨナタン。その作品には神秘的な趣きも感じられました。


会期中は無休です。11月5日まで開催されています。

「アルベルト・ヨナタン TERRENE」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:10月7日(土)〜11月5日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」
9/23〜10/26



東京藝術大学大学美術館で開催中の「シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」を見てきました。


「法隆寺金堂壁画・釈迦三尊像の再現/復元」 日本

まるで実際の法隆寺へ足を踏み入れたかのようです。入口冒頭、眼前に堂々と鎮座するのが、法隆寺金堂の「金銅釈迦三尊像」でした。さらに堂内には、ぐるりと一周、失われた「金堂外陣壁画」が取り囲んでいます。三尊像の上には天蓋もかかっていました。驚くべき再現度です。本物の「釈迦三尊像」が展示されていると言われれば、思わず信じ込んでしまうかもしれません。


「法隆寺金堂壁画・釈迦三尊像の再現/復元」 日本

結論からすると、「釈迦三尊像」も「外陣壁画」もクローン、すなわち再現された複製品でした。そもそも金堂内の壁画も、昭和40年代の模写です。「釈迦三尊像」は高精度に三次元で計測し、デジタルで画像処理した後、同様の素材、質感で再現されました。彩色、造形の仕上げには、伝統的な手法も用いられているそうです。


「法隆寺金堂壁画・釈迦三尊像の再現/復元」 日本

さらに「釈迦三尊像」に関しては、一歩、踏み込んでいます。というのも、飛鳥時代の制作当初の姿を復元しているからです。欠落した中尊の髪や白毫を復元し、美術史の研究を踏まえて、脇侍の左右を入れ替えました。また同じく欠落した光背の飛天も、復元して取り付けました。

こうした復元の文化財を紹介するのが、「素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」展です。タイトルに「失われた」とあるように、何も現存する文化財に留まらず、戦火などで失われたものについても、復元を試みています。


「キジル石窟航海者窟壁画復元」 中国・新疆ウイグル自治区

その一つが、中国新疆ウイグル自治区の「キジル石窟航海者窟壁画」でした。これは、紀元1000年頃に同地域に栄えた「亀茲(きじ)国」の、伝統仏教の教義を反映して描かれたもので、再現された212窟は、数少ないインド・イラン第一様式の壁画でした。仏弟子の物語と、釈迦の前世物語が、ちょうど左右の壁に対になって広がっていたそうです。


「キジル石窟航海者窟壁画復元」 中国・新疆ウイグル自治区

しかし1906年、ドイツの探検隊が石窟を調査し、壁画を剥ぎ取って持ち帰ります。そして悲劇が起こりました。一部が第二次世界大戦の空爆で失われてしまいます。現在、石窟内の壁画は、天井の断片と、側壁の下部の3分の1しか残っていません。

その石窟を再現しています。また、剥がされた断片を元に、分割した形状で復元を行っています。さらに壁画の位置関係についても検証を行い、現地に残された壁画の画像も参照しました。


「バーミヤン東大仏 天井壁画復元」 アフガニスタン

アフガニスタンのバーミヤン東大仏の天井壁画復元も見どころの一つです。大仏は2001年、タリバン政権下において無残にも破壊されます。そのために大仏の頭頂部の壁画も失われました。


「バーミヤン東大仏 天井壁画復元」 アフガニスタン

ちょうど天井のドームに復元壁画が描かれています。ほぼ実寸大スケールで、曲面状に広がっていました。1970年代の撮影データを使用し、壁画の表面の質感までを再現しています。臨場感も十分でした。

この天井壁画が展示されたのは2回目です。昨年、同じく芸大美術館の陳列館で行われた「素心 バーミヤン大仏天井壁画~流出文化財とともに」以来のことでした。記憶に新しい方も多いかもしれません。


「敦煌莫高窟第57窟の再現」 中国

中国の敦煌莫高窟第57窟の再現展示も圧巻の一言です。かの地の第57窟の内部壁画と塑像が実に見事に再現されています。アーチを抜けると、そこは敦煌でした。


「敦煌莫高窟第57窟の再現」 中国

この再現度が半端ありません。壁画の凹凸までを記録したデータを元に、画像処理を行った上で、紙に印刷し、その上から荒砂や敦煌の土を混ぜた構造体を貼り付けています。


「敦煌莫高窟第57窟の再現」 中国

塑像に関しては後世の修復が見られるそうです。よって、ほかの洞窟の仏像を参照し、造像当初の姿を推定して復元しています。暗がりの洞窟内の湿った空気感さえ伝わるかのようでした。


「高句麗古墳群 江西大墓」 北朝鮮

ほかにも北朝鮮の「高句麗古墳群江西大墓」の「四神図」や、ミャンマーのバガン遺跡の「ミンカバー・グービャウッヂー寺院壁画」の部分再現のほか、一部にオリジナルの仏像頭部や壁画の断片なども展示されています。


「仏陀頭部」 パキスタン 3〜4世紀 平山郁夫シルクロード美術館

また香りや音楽を用いるなど、五感で楽しめる取り組みもあります。クローン文化財で辿る世界の遺跡への旅。復元品の新たな可能性を感じるような展覧会でした。


館内は一部のパネルを除き、撮影も可能でした。

10月26日まで開催されています。

「シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」 東京藝術大学大学美術館
会期:9月23日(土)〜10月26日(木)
休館:月曜日。但し10月9日は開館。
時間:10:00~17:00 
 *金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高校・大学生800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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「マジカル・アジア」 東京国立博物館

東京国立博物館・東洋館
「博物館でアジアの旅 マジカル・アジア」 
9/5~10/15



アジアに関する美術工芸、考古品を、「マジカル」のキーワードで見せる展覧会が、東京国立博物館の東洋館にて行われています。

主な切り口は3つです。まずは「チベットの仏教と密教の世界」(東洋館12室)でした。同地の仏教は、密教の中でも呪術性が強く、儀礼を重視するため、独特の複雑な造形の仏像が生み出されました。


「ヴァジュラバイラヴァ父母仏立像」 中国 清時代・17〜18世紀

その1つが、「ヴァジュラバイラヴァ父母仏立像」です。たくさんの手を付けた、男女が抱擁する象った仏像で、ここから、ほかの仏が生まれると考えられていたそうです。頭部は水牛で、呪いのための道具を持っています。いかにも異形で、恐ろしい仏像ではないでしょうか。足で鳥獣を踏みつけていました。


「八臂十一面観音菩薩立像」 中国 清時代・17〜18世紀

チベットで、ラクシュミー流として親しまれているのが、「八臂十一面観音菩薩立像」でした。頭上には十一面の顔があり、8本の腕が表されています。笑っているような表情が印象的でした。どちらかと言えば、端正な造形ながらも、引き締まった腰や、四方に伸びる腕などに、個性を見出せるのではないでしょうか。


「六臂マハーカーラ立像」 中国 清時代・17〜18世紀

いわゆる大黒天は、本来的に「大いなる暗黒」を意味するシヴァ神の別名でもあるそうです。まさに怒りの表情を見せるのが、「六臂マハーカーラ立像」でした。口を開き、目を剥いては、凄まじい形相で前を睨んでいます。チベットでは、寺院を敵から守る仏として信仰されています。


「加彩舞女」 中国 唐時代・7〜8世紀

2つ目は「唐三彩」(東洋館5室)です。鮮やかな釉薬で、人物や動物を彩った三彩は、中国・唐の時代、主に俑として墓へ埋葬されました。


「三彩馬」 中国 唐時代・7〜8世紀

この三彩がまとめて展示されています。ご覧のように、大型の展示ケースの中にも、三彩がずらりと並んでいました。

ラストが「アジアの祈り」(東洋館13室)です。祈りとはいえども、内実は多様で、中には民間の呪術や迷信も含まれます。まさに魔法です。最もマジカルの意味を体現していたかもしれません。


「精霊の仮面」 パプアニューギニア 20世紀初頭

古来よりパプアニューギニアでは、先祖の精霊を、仮面や偶像に表してきました。ずばり「精霊の仮面」です。ニューギニア島のセピック川流域の仮面で、顔は楕円形をしています。長い鼻と、笑みをたたえた口元が特徴的でもありました。


「クリス」 インドネシア、ジャワ島東部 17〜18世紀

神秘的な霊力を持つと考えられているのが、インドネシアの刀こと「クリス」でした。うねうねと歪んだ形は、極めて個性的です。成分の異なった鉄を重ねて鍛え、薬品で処理しては、独特な刃文を作り出しています。現代においても、男性は伝統的な正装の際、腰にクリスを挿すそうです。祈りは何も古い時代のものだけではありません。


「呪詛人形」 東京上野公園 明治10(1877)年

この祈りにて仰天の文物がありました。何と呪いの人形です。1877年、上野公園のイチョウに釘で打ち付けられていたもので、もちろん誰が作ったものかも、何を呪ったのかも分かりません。確かに体の中央には釘が刺さっていました。何やら強い怨念を感じさせます。未だ呪力を保っているかのようでした。


「共命鳥像」 中国・ヨートカン 5世紀

さらにマジカルが導くアジアツアーは、東洋館の全館に及びます。人面を2つ持った「共命鳥像」なども、興味深いのではないでしょうか。男女に作り分けられている例は珍しいそうです。


「揺銭樹」 中国四川省あるいはその周辺 後漢時代・1〜2世紀

古代中国の「揺銭樹」も、元来は人々の信仰した、神仙や目出度い文物で飾った架空の樹木でした。頂部には鳳凰が止まり、枝には龍の姿も垣間見えました。

「マジカル・アジア」の目印はピンク色のキャプションです。チラシがパンフレットの役割を果たしています。


「ナーガ上のブッダ坐像」 カンボジア・アンコール アンコール時代・12世紀

いわゆるコレクション展でもあり、何も凝った仕掛けがあるわけではありませんが、キャッチーなタイトルも効果的なのかもしれません。普段、ともすると寂しい感のある東洋館が、普段より賑わっているように見えました。



総合文化展の料金のみ(特別展チケットでも可)で観覧出来ます。


10月15日まで開催されています。

「博物館でアジアの旅 マジカル・アジア」 東京国立博物館・東洋館(@TNM_PR
会期:9月5日(火) ~10月15日(日)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで。9月中の日曜と9月18日(月・祝)は18:00まで。9月22日(金)・23日(土・祝)は22時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *特別展チケットでも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「窓学展ー窓から見える世界」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「窓学展ー窓から見える世界」 
9/28~10/9



スパイラルガーデンで開催中の「窓学展ー窓から見える世界」を見てきました。

アルミ建材メーカーで、ファスナーでも有名なYKK AP株式会社は、2007年より「窓は文明であり、文化である」(解説より)の思想のもと、窓を学問とする「窓学」を提唱してきました。

今年は「窓学」誕生、10周年です。それを期して、大学の機関による窓に関した研究発表のほか、窓をテーマとした現代美術作品を展示しています。


塚本由晴「窓の仕事学」

まずは研究展示です。東京工業大学の塚本由晴が着目したのは、日本の手仕事の作業場や工房における窓の機能でした。「窓の仕事学」では、線香や塩、益子焼や藍染、さらには秋田の燻りがっこの生産現場で、窓がいかに素材に関わり、環境を変化させているのかについて検証しています。


小玉祐一郎「窓の環境制御学」

エステック計画研究所の小玉祐一郎は、室内気候を制御する窓を、光と熱と風に注目して分析しました。自作の家の模型などにより、窓が環境に果たす役割を紹介しています。


村松伸+六角美瑠「窓の進化系統学」

窓の進化について考察したのが、東京大学の村松伸+六角美瑠でした。洋の東西を問わず、古来より常に変化してきた窓の様態を、現代、さらには未来を見据えて紐解いています。


中西礼二「窓の記録学」

日本の古い建築に窓はなく、柱と柱の間に、窓的な役割があることを見出したのが、早稲田大学の中西礼仁でした。その間とは、襖であり、また障子でもあります。中西は「柱間装置」と定義しました。

日本建築における間を捉えた写真がいくつも並んでいます。いずれもポストカードサイズで、手にとることが出来るだけでなく、持ち帰ることも可能でした。古来の日本の建築は、柱の間の空間を、さながら余白のように捉えていたのかもしれません。


原広司「窓のものがたり学」

建築家の原広司も「窓学」に加わります。素材は意外にも文学作品です。テキストの中から窓を抽出し、いわば想像力の世界で、どのように解釈されているのかを探っています。将来的にはデータベースの作成も視野に入れているそうです。窓は単なる建具としてだけではなく、人の生み出した物語の中でも、多様に描かれてきました。


鎌田友介「不確定性の透視図法」

一方で、アートの立場から窓を捉えると、どのように表現されるのでしょうか。サッシ型のオブジェを制作し、窓を通して多様な視点を提示したのが、鎌田友介の「不確定性の透視図法」でした。


鎌田友介「不確定性の透視図法」

一見すると、窓のようでもありますが、その形は複雑で、本来的な機能を有しているようには思えません。またスパイラルに元々ある窓を意識しているのでしょうか。窓を模したオブジェ越しには、窓があり、さらに外の景色が広がっています。否応なしに知覚は外へと誘われました。


ホンマタカシ「Camera Obscura Studies, La Tourette」

写真家のホンマタカシは、ピンホールカメラを用いたインスタレーションを展示しています。舞台は、ル・コルビュジエの設計したラ・トゥーレット修道院です。その宿坊部屋を全てピンホールカメラにし、窓の外の風景を露光させて、撮影しました。


ホンマタカシ「Camera Obscura Studies, La Tourette」

さらに写真だけでなく、部屋の内部空間を原寸大の模型で再現し、中に入ることも出来ます。模型の窓には、人と車の行き交う表参道の景色が飛び込んできます。宿坊部屋の窓の写真と見比べるのも面白いかもしれません。


レアンドロ・エルリッヒ「Window and Ladder - Leaning into History」

ハイライトはスパイラルの吹き抜けです。アルゼンチンのアーティスト、レアンドロ・エルリッヒが、「Window and Ladder - Leaning into History」と題した大型のインスタレーションを展示しています。


レアンドロ・エルリッヒ「Window and Ladder - Leaning into History」

驚きました。古びた「青山堂」との看板のある窓が宙に浮いています。また窓の下にはアルミのハシゴがかかっていました。ワイヤーも見当たりません。一体、どのように自立しているのでしょうか。


レアンドロ・エルリッヒ「Window and Ladder - Leaning into History」

強烈なビジュアルです。実際にも、多くの人が怪訝そうに首を傾げながら、空中の窓を見上げていました。人の視覚や認識を揺さぶる、エルリッヒならではの作品と言えそうです。


入場は無料です。10月9日まで開催されています。

「窓学展ー窓から見える世界」@madokenjp) スパイラルガーデン@SPIRAL_jp
会期:9月28日(木)~10月9日(月・祝)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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2017年10月に見たい展覧会

多くの展覧会が始まった9月では、千葉市美術館の「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」が、特に印象に残りました。ボストン美術館の春信コレクションは、想像以上に状態が良く、初めて見るような発色の美しい作品も少なくありませんでした。会期は今月23日までですが、まだの方は是非ともお勧めしたいと思います。

大型の展覧会では、東京国立博物館で、運慶展が始まりました。事前の期待も大きかったのか、早くも土日の午前中の一部時間帯に、入場のための待ち時間が発生しました。何せ知名度抜群の運慶です。会期中盤以降、後半にかけては、長蛇の列となるかもしれません。

10月に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「上村松園ー美人画の精華」 山種美術館(~10/22)
・「素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」 東京藝術大学大学美術館(~10/26)
・「安藤忠雄 21_21の現場 悪戦苦闘」 21_21 DESIGN SIGHT(10/7~10/28)
・「馬の美術150選ー山口晃『厩圖2016』完成披露」 馬の博物館(~10/29)
・「あざみ野コンテンポラリー vol.8 渡辺豪 ディスロケーション」 横浜市民ギャラリーあざみ野(10/7〜10/29)
・「マックス・クリンガー版画展」 神奈川県立近代美術館葉山館(~11/5)
・「天下を治めた絵師 狩野元信」 サントリー美術館(~11/5)
・「生誕120年 東郷青児展 抒情と美のひみつ」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(~11/12)
・「丸木スマ展ーおばあちゃん画家の夢」 丸木美術館(~11/18)
・「長沢芦雪展 京(みやこ)のエンターテイナー」 愛知県美術館(10/6~11/19)
・「フランス人間国宝展」 東京国立博物館(~11/26)
・「長谷川等伯障壁画展 南禅寺天授庵と細川幽斎」 永青文庫(~11/26)
・「長島有里枝 そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」 東京都写真美術館(~11/26)
・「特別展覧会 国宝」 京都国立博物館(10/3~11/26)
・「三沢厚彦 アニマルハウス 謎の館」 渋谷区立松濤美術館(10/7~11/26)
・「フェリーチェ・ベアトの写真 人物・風景と日本の洋画」 DIC川村記念美術館(~12/3)
・「シャガール 三次元の世界」 東京ステーションギャラリー(~12/3)
・「表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」 パナソニック汐留ミュージアム(10/17~12/20)
・「知られざるスイスの画家 オットー・ネーベル展」 Bunkamuraザ・ミュージアム(10/7~12/17)
・「怖い絵展」 上野の森美術館(10/7~12/17)
・「安藤忠雄展ー挑戦」 国立新美術館(~12/18)
・「田原桂一『光合成』with 田中泯」 原美術館(~12/24)
・「単色のリズム 韓国の抽象」 東京オペラシティアートギャラリー(10/14~12/24)
・「パリ♥グラフィックーロートレックとアートになった版画・ポスター展」 三菱一号館美術館(10/18~2018/1/8)
・「野生展:飼いならされない感覚と思考」 21_21 DESIGN SIGHT(10/20~2018/2/4)

ギャラリー

・「鏡と穴ー彫刻と写真の界面 vol.4 小松浩子」 ギャラリーαM(~10/14)
・「高田唯展 遊泳グラフィック」 クリエイションギャラリーG8(~10/19)
・「青山悟展 News From Nowhere」 ミヅマアートギャラリー(~10/21)
・「中西夏之展」 SCAI THE BATHHOUSE(~10/28)
・「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」 スパイラルガーデン(10/13〜10/31)
・「アレッサンドロ・ラホ Jessica」 TARONASU(10/13〜11/4)
・「アルベルト・ヨナタン TERRENE」 ポーラ・ミュージアム・アネックス(10/7〜11/5)
・「組版造形 白井敬尚」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(~11/7)
・「人・建築・都市を記憶するーレンズ付きフィルムによる写真展 100人の日本橋」 ギャラリーA4(10/13~11/9)
・「椛田ちひろー見知らぬ惑星」 アートフロントギャラリー(10/6〜11/12)
・「榎倉康二 Figure」 タカ・イシイギャラリー 東京(10/20〜11/18)
・「超絶記録!西山夘三のすまい採集帖」 リクシルギャラリー(~11/25)

兵庫県立美術館で話題を集めた「怖い絵」展が、いよいよ上野の森美術館へとやって来ます。



「怖い絵展」@上野の森美術館(10/7~12/17)

ドイツ文学者の中野京子氏の著作、「怖い絵」シリーズが、初めて展覧会の形として実現しました。近代ヨーロッパの絵画、版画より、悪魔、地獄、怪物、また神話や聖書、さらに幻視などをモチーフとした作品が、約80点ほど展示されます。ロンドンのナショアンル・ギャラリーの、「レディ・ジェーン・グレイの処刑」(ポール・ドラローシュ作)も初来日しました。


人気のシリーズだけあるのか、兵庫会場では計27万名もの入場者を記録しました。何せ手狭な上野の森のスペースのことです。早々からかなり混雑するかもしれません。

続いて日本美術です。江戸の奇想の絵師、長沢芦雪の回顧展が、愛知県美術館で行われます。



「長沢芦雪展 京(みやこ)のエンターテイナー」@愛知県美術館(10/6~11/19)

芦雪の大規模な回顧展といえば、2011年、滋賀のMIHO MUSEUMにおいて、「長沢芦雪 奇は新なり」と題した展覧会が開催されました。


今回の最大の見どころは、有名な「虎図襖」を含む、無量寺方丈の空間再現展示です。さらに同間を挟む2部屋の襖絵も再現展示し、芦雪の代表作を空間全体で味わえるように工夫されます。また4点の初公開作品も加わるそうです。

実は私も芦雪は大好きな絵師の一人ですが、MIHOの展覧会を行きそびれてしまいました。今度こそは見逃さないようにしたいと思います。

この秋の最大の目玉かもしれません。国宝誕生120周年を記念し、京都国立博物館で「特別展覧会 国宝」が開催されます。



「特別展覧会 国宝」@京都国立博物館(10/3~11/26)


現在、国宝の美術工芸品の855件のうち、4分の1の200件が集結し、計4回の会期に分けて公開される展覧会です。また雪舟の国宝指定品6点の同時展示や、光琳の「燕子花図屏風」の100年ぶりの里帰りなどの話題にも事欠きません。会期直前には、通常、非公開の、京都・龍光院の「曜変天目」の出展も発表されました。

どの会期に出掛けるのか悩ましいところですが、公式サイトの「日程別作品検索」が思いの外に良く出来ています。色々と参考になりそうです。

また上のリストにはあげませんでしたが、今月は、あべのハルカス美術館で、「大英博物館 国際共同プロジェクト 北斎」展もはじまります。



「大英博物館 国際共同プロジェクト 北斎ー富士を超えて」@あべのハルカス美術館(10/6〜11/19)

さらに月末には、奈良国立博物館で、恒例の「正倉院展」もスタートします。この秋は、名古屋、そして関西の日本美術展に大いに注目が集まりそうです。

それでは今月も宜しくお願いします。
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