「第12回 shiseido art egg 佐藤浩一展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第12回 shiseido art egg 佐藤浩一展」
7/6~7/29



資生堂ギャラリーで開催中の「第12回 shiseido art egg 佐藤浩一展」を見てきました。

東京に生まれ、現在、東京藝術大学大学院の修士課程に在籍する佐藤浩一は、植物や人間との関係をテーマとしながら、映像や立体を用いたインスタレーションを制作してきました。



階段の踊り場に現われたのが、果実、つまりイチジクの実を象った樹脂の立体作品でした。その前には「資料」とした、アダムとイブを描いた図像が掲げられていました。



「イチヂクは、旧約聖書において楽園を追放されたアダムとイブにより、彼らの恥部を隠すために使われたり、アフリカの民族神話の中で、そのラテックスの樹液が精液にたとえられ、不妊治療に用いられるなど、古くから生殖や性にまつわるシンボルとして描かれてきた。」(*)



地下の展示室の中央には大きなボックスが置かれていました。中には植物が入られていて、光に照らし出されているものの、半透明のビニールで覆われているため、中をはっきりと伺うことは出来ませんでした。



また、光の向きや強さは一定ではなく、人の行き来に対応しているのか、明るくなったり、暗くなったりしながら、四方を照らし出していました。まるで真夜中の温室へ迷い込んだかのようでした。



奥の小部屋では、イチジクを素材にした映像、「Breeding Institution」が展示されていました。そこではイチジクの葉や温室などが映し出されていました。

「現在日本で栽培されている品種は、成熟のための受粉を必要としないように品種改良されている。その本来の性と身体を奪われてしまった植物の一つの典型であると思う。」(*)

佐藤は、古来のイチジクを巡る物語と、現代の品種改良との関係を切っ掛けに、人間が自然を操作することが、「人間や人間同士の関係にどういった影響や意味をもたらす」(*)について問いを投げかけているそうです。



アプローチは重層的で、必ずしも取っ付きやすい内容ではないかもしれません。しかし植物を映し出す光と影の移ろいを追っていくと、実と虚の全てが曖昧になっていき、幻を前にしたかのような、奇妙な感覚にとらわれました。そもそも中にあった植物は、実在していたのでしょうか。

「第12回 shiseido art egg展」
冨安由真展:6月8日(金)~7月1日(日)
佐藤浩一展:7月6日(金)~7月29日(日)
宇多村英恵展:8月3日(金)~8月26日(日)


7月29日まで開催されています。*印の「」内は解説より引用。写真は全て「佐藤浩一展 Crepuscular Gardens」。

「第12回 shiseido art egg 佐藤浩一展」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:7月6日(金)~7月29日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「チームラボ ボーダレス」 お台場パレットタウン

お台場パレットタウン
「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」 
2018/6/21〜



「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」のプレスプレビューに参加して来ました。

「チームラボ ボーダレス」は、ウルトラテクノロジスト集団を自称するチームラボが、国内初の常設施設として作ったデジタルアートミュージアムで、「境界のない世界」を意味する「ボーダレス」をテーマに、約50点のインスタレーションを展示していました。

会場は、お台場パレットタウンの3階と4階のフロアで、おおよそ10000平方メートルの面積がありました。入口は3階で、暗がりの館内は、「Borderless World」、「チームラボアスレチックス 運動の森」、「学ぶ!未来の遊園地」、「ランプの森」、「EN TEA HOUSE」の5つのフロアで構成されていました。


「Borderless World」から「花の森、埋もれ失いそして生まれる」

デジタルの花園が待ち構えていました。エントランスを抜けて、まず辿り着くのが、「Borderless World」で、映像やプロジェクションマッピングなどにより、床面から柱の四方へ至るまで、極彩色の花で彩られていました。


「Borderless World」から「花の森、埋もれ失いそして生まれる」

ともかく鮮やかでかつ艶やかで、ひまわりをはじめ、様々な花々が、見る者を囲み、埋めつくさんとばかりに咲き誇っていました。その姿は、時間とともに、ひたすらに変化していました。


「Borderless World」から「人々のための岩に憑依する滝、小さきは大きなうねりとなる」

花園を抜けると、大きな滝が現れました。それが、本展で初めて公開された、「人々のための岩に憑依する滝、小さきは大きなうねりとなる」で、天井から滔々と落ちる水は、床面の岩に落ち、割れては左右へと流れさしていました。また、滝の流れは一定ではなく、流れの上に立つと、水が避けていく様子を見ることも出来ました。

こうした人の動きに反応した、インタラクティブな作品が多いのも特徴で、それこそが、「作品と鑑賞者の境界」を超えた世界と言えるのかもしれません。


「Borderless World」から「地形の記憶」

この滝を中心に、作品は通路を経由して、会場のあちこちに偏在していました。ここで重要なのは、明確な順路の指定がなされていないことです。つまり、作品の鑑賞、ないし体験の順番は、全て鑑賞者に委ねられていました。


「Borderless World」から「Black Waves」

よって、場内は、ほぼ迷路と呼んで差し支えありません。実際、私も、何度も会場内を歩いては、同じスペースに立ち入ったり、また、逆にしばらく彷徨っては、ようやく辿り着いた作品もありました。いわば、隠し部屋的な展示室も少なくなく、全体の構造を把握するには相当な時間もかかりました。


「Borderless World」から「Wander through the Crystal World」

鑑賞者がパネルを操作することにより、色や光の表現をかえることの出来たのが、「Wander through the Crystal World」でした。上下に光が展開する作品で、時に激しい雨のように、強く光が点滅しては、動いていました。


「呼応するランプの森」

たくさんのヴェネツィアン・グラスによって彩られたのが、「ランプの森」で、近くに寄って手をかざすと色が変化し、またほかの人の動きによっても、同じく変わっていました。なお「ランプの森」の展示室の体験は、時間で区切られていて、定員制でした。混雑時には待つ必要があるかもしれません。


「チームラボアスレチックス 運動の森」から「重力にあがらう生命の森」

一連の3階の「Borderless World」に続くのが、階段上の4階に広がる「チームラボアスレチックス 運動の森」、「学ぶ!未来の遊園地」、「EN TEA HOUSE」でした。*「ランプの森」も4階にありましたが、別の階段でした。


「チームラボアスレチックス 運動の森」から「マルチジャンピング宇宙」

そのうち「チームラボアスレチックス 運動の森」は、まさにタイトルが示すように、身体を使って体感出来るアスレチック的な作品で、トランポリンやボルダリング、それにエアリアルクライミングによるインスタレーションが展開していました。


「チームラボアスレチックス 運動の森」から「グラフィティネイチャー 山山と深い谷」

4階フロアの中央は山のように盛り上がっている箇所もあり、よく見ると水が湧き上がり、窪みの部分へと落ちるような演出がなされていました。ちょうど水たまりの部分の下に、先の3階の滝があるという仕掛けでした。


「学ぶ!未来の遊園地」から「お絵かき水族館」

「学ぶ!未来の遊園地」は、これまでにも国内外で公開されてきたプロジェクトで、「共創」をテーマに、いわば教育的な作品が展示されていました。


「学ぶ!未来の遊園地」から「すべって育てる!フルーツ畑」

とはいえ、ここでも「すべって育てる! フルーツ畑」などには高低差もあり、時に「チームラボアスレチックス」と同様、身体を使って体感する作品もありました。極力、軟らかい素材が使われていますが、薄暗いスペースでの展開のため、怪我などしないように、一定の注意が必要かもしれません。


「EN TEA HOUSE」

この4階に、館内唯一のカフェスペース、「EN TEA HOUSE」が開設されていました。とはいえ、単なるカフェではなく、チームラボによるデジタルアートの1つでもありました。受付で「水出し茶」、「ゆず緑茶」、「緑茶」、「カモミールほうじ茶」を選び、所定の位置に座ると、花の演出がはじまりました。


「EN TEA HOUSE」

いわば花を味わう作品とも言えるかもしれません。なお「EN TEA HOUSE」の利用に際しては、別途の料金(500円)が必要でした。

入場に際して幾つかの注意事項があります。まず館内は、映像の演出のため暗く、繰り返しになりますが、特に順路が指定されているわけでもないため、ほぼ迷路のような作りになっています。全ての展示空間を行き来することはおろか、3階から4階へあがる階段も、簡単に見つけられないかもしれません。


「チームラボアスレチックス 運動の森」から「裏返った世界の、巨大!つながるブロックのまち」

遊具などのあるアスレチックエリアは、安全上、ヒールやサンダルなどで入場出来ません。シューズの貸出コーナーが準備されていますが、貸出数に限りがあるため、はじめから運動靴で出かけるのが良さそうです。


「Borderless World」会場風景(3階)

床が鏡面の作品も少なくなく、アスレチックエリアには高低差もありました。よってズボンやTシャツなど、動きやすい服装がベストです。また大きな荷物を持ち込むことも出来ません。貴重品以外は、コインロッカーに預けることをおすすめします。


「エプソン チームラボ ボーダレス」会場風景(3階から4階への階段)

カフェでは食事の提供がありません。さらに、場内は広く、迷うことを考慮しても、観覧にはかなりの時間がかかります。余裕を持って出かけられることをおすすめします。(OPEN直後が最も混み、夕方に向けて混雑が解消する傾向があるそうです。)


「チームラボアスレチックス 運動の森」から「色取る鳥の群れの中のエアリアルクライミング」

最後にチケットの情報です。前売券と当日券の2種類あり、ともに値段は共通で、前売券は日付の指定をすることが出来ます。また、前売券が完売している場合は、当日券の販売はありません。既に7月分の前売券は完売しているため、当日券で今月中に入場することが出来ません。


「Borderless World」から「秩序がなくともピースは成り立つ」

7月5日からは、8月と9月分のチケットの販売がはじまりました。なお、現時点であれば、両月とも、土日を含め、前売券を購入することが可能です。詳しくは公式サイトのチケット購入ページをご覧下さい。


「学ぶ!未来の遊園地」から「小人が住まうテーブル/小人が住まう奏でる壁」

映像と写真の撮影が可能です。ただし、一脚や三脚、自撮り棒は使用できません。


「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」は、お台場パレットタウンに、2018年6月21日にオープンしました。

「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス(MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless)」@teamlab_news) お台場パレットタウン
開業日:2018年6月21日 (木)
休館:第2・第4火曜日
 *8月の休館日は通常とは異なり、8/28(火)のみ。
 *8/10(金)は貸切営業のため閉館。
料金:一般・高・大学生3200円、子供1000円。
 *前売券・当日券ともに料金は共通。前売券は日付指定。
 *前売券・当日券ともに、その日の販売予定枚数の上限に達し次第、販売終了。
 *「EN TEA HOUSE」は別途料金が必要。
 *中学生以下だけの入場は不可。
時間:月~木 11:00〜19:00 (21:00)
   金・祝前日 11:00〜21:00 (22:00)
   土 10:00〜21:00 (22:00)
   日・祝日 10:00〜19:00 (20:00)
 *最終入館は閉館の1時間前
 *()内は8/31(金)までの特別延長時間。
 *営業時間はシーズンによって異なる。
住所:江東区青海1-3-8 お台場パレットタウン内
交通:りんかい線東京テレポート駅徒歩5分。新交通ゆりかもめ青海駅徒歩5分。有料提携駐車場あり。(2時間無料)
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「岡本神草の時代展」 千葉市美術館

千葉市美術館
「岡本神草の時代展」
5/30~7/8



千葉市美術館で開催中の「岡本神草の時代展」を見てきました。

明治27年、神戸に生まれ、京都市立美術工芸学校を卒業後、新南画から夢二風の作品を描いていた岡本神草は、大正7年に国展に入選した「口紅」により、一躍、美人画家として注目を浴びました。


岡本神草「口紅」 大正7(1918)年 京都市立芸術大学芸術資料館

その「口紅」が冒頭に展示されていました。チラシの表紙を飾る一枚で、艶やかな着物を纏った女性が、背中を極端に曲げながら、蝋燭を前に、口紅をつける姿を描いていました。やや歯を見せながら、紅を口に塗る女性は、僅かながら高揚感も漂わせているように思えました。また、着物の文様は実に精緻で、絵具も時に盛り上げては、豊かな質感を作り上げていました。さらに、蝋燭の光も、小さな金色の粒で表されていて、細部にまで丁寧に表現していました。まさに色気を帯びた、官能性に溢れた作品と言えるかもしれません。

しかし、岡本神草は、単に濃厚で、官能的な作品ばかりを描いていたわけではありませんでした。

「口紅」に先立つ7年前、明治末期に描かれた「鎌と鋏」、「水仙」などは、例えば鎌の古色や、花の様態を、淡い色で写実的に表現していました。また、「口紅」と同年に描かれた「藤に鴨」でも、白い藤の咲く中を、3羽の鴨がいる様子を、上品に表していました。「牡丹」も、雨に濡れる白い牡丹を、滲みを用いた色で描いていて、もはや幽玄とも言えるような光景を生み出していました。



明治期の後半から大正にかけては、ちょうど夢二ブームが沸き起こっていて、神草も雑誌のイラストを写すなどして、夢二風の作品を制作しました。一方で、「海十題」では、新南画風に海景を描いたり、ゴーギャンの「アダムとイヴ」を写すなど、様々なスタイルの作品を吸収しました。時には、古典的な宗教絵画を参照することもありました。

神草は完成作の少ない画家でした。一例が、「花見小路の春宵」で、部分草稿、全体草稿、未成作など、何点かの作品を見比べることが出来ました。反り返った女性が楽器を奏でる、浮世絵的な構図の「春雨のつまびき」も、未完の作品で、やはり幾つかの草稿が並んで紹介されていました。実際、会場でも目立つのは未完成作で、相当の割合を占めていました。


岡本神草「拳を打てる三人の舞妓の習作」 大正9(1920)年 京都国立近代美術館

同様に未完成ながらも、展覧会のハイライトを飾るのが、「拳を打てる三人の舞妓」で、断片、草稿、未成作、習作が、複数枚、展示されていました。盃と徳利を囲み、3名の舞妓が座る様子を描いていて、正面の舞妓は、白く長い指ののびた両手を、肩の上で開くような仕草を見せていました。うち「習作」には、中央部に切り取られた跡が残っていましたが、これは第2回国画創作協会展に際し、神草自身が切り取ってしまったそうです。言わば「未完の神草」を体現した一枚と呼べるかもしれません。


岡本神草「婦女遊戯」 昭和7(1932)年 株式会社ロイヤルホテル

スペードのエースを手にしては、半裸で座る女性を捉えた「骨牌を持てる半裸女」や、5名の女性が、黒い卓を囲んでは、くつろぐ光景を描いた「五女遊戯」も、神草ならではの、妖艶な表現が見られる作品ではないでしょうか。ただ、昭和期に入ると、全般的に官能性は影を潜め、「婦女遊戯」など、瀟洒とも受け取れる美人画を描くようになりました。水浴びする女性を表した「沐浴美人図」では、鈴木春信の作風を思わせる面もありました。


甲斐庄楠音「毛抜」 大正4(1915)年頃 京都国立近代美術館

さて、タイトルに「時代展」とあるように、何も神草の単独の回顧展ではありません。師の菊池契月や、同時代の甲斐庄楠音など、神草に関わりのある画家の作品も、多く展示されていました。うち目立つのは稲垣仲静の「太夫」で、遊女の顔を、極めて濃厚な色彩と、陰影のある描写で表していました。実に生々しく、まさにデロリと言うべき作品かもしれません。


丸岡比呂史「夏の苑」 大正末期 京都国立近代美術館

神草の2歳年上である丸岡比呂史の「夏の苑」は、夏の草花の中で、青い衣服に身を包んだ女性を描いていて、強い色彩の効果もあるのか、夏の熱気の伝わるような作品でした。ほかには、甲斐庄楠音の「毛抜」も、少年の半裸を描いていて、どことなく官能的な雰囲気を漂わせていました。

岡本神草は38歳の若さで急逝しました。大正から昭和にかけ、やや作風を変化させていただけに、その後、もし生き長らえていれば、どのような作品を手がけていたのでしょうか。未完作こそ多いものの、資料などを含め、約100点ほど出展されていて、「初の大規模展」とするのにも不足はありませんでした。


昨秋、先行して開催された京都国立近代美術館からの巡回展です。千葉市美術館が東日本唯一の会場で、以降の巡回もありません。

もう間もなく会期末を迎えます。7月8日まで開催されています。

「岡本神草の時代展」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:5月30日(水)~ 7月8日(日)
休館:6月4日(月)、18日(月)、7月2日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「八木夕菜 NOWHERE」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「八木夕菜 NOWHERE」
6/15~7/8



ポーラミュージアムアネックスで開催中の「八木夕菜 NOWHERE」を見てきました。

2004年にニューヨーク・パーソンズ美術大学建築学部を卒業し、建築設計事務所の勤務を経たのち、アーティストとして活動をはじめた八木夕菜は、主に建築をモチーフとした、写真やインスタレーションを制作してきました。


「ひとつになる世界」 2015〜2018年

小さなアクリルボックスの中に、建築物が閉じ込められていました。「ひとつになる世界」と題した作品で、横から見る限りでは、無色透明、中に何も入っているように見えません。しかし別の側面や上から眺めると、建築の写真が差し込まれていることが分かりました。


「ひとつになる世界」 2015〜2018年

いずれの写真も、別々の建築で、中には合掌造りの家屋と、ガラスのピラミッドが写っている作品もありました。つまり、本来的には異なった場所にあり、全く異質の建築が、ボックスの中で「ひとつに」なって、存在していたわけでした。


「ANONYMOUS(バウハウス)」 2018年

「ANONYMOUS」は、建物の写真の看板やロゴの上へ、直接、アクリスボックスを載せた作品でした。


「ANONYMOUS(ニューヨーカー)」 2018年

ちょうど正面から向き合うと、ロゴが浮き上がって見えるものの、一部の角度からでは、完全に見えなくなってしまい、一体、何を示す建物か分からなくなりました。ロゴや看板の名称を通して、建物を捉えようとする、人の認識に揺さぶりをかけているのかもしれません。


「くずれゆく世界」 2016〜2018年

会場で最も目立っていたのは、床面に置かれたアクリルブロックの作品、「くずれゆく世界」でした。全8点あり、中には大阪や東京のほか、ナントやバンコクなど、国内外の建築物の写真が収められていました。その全ては、上から吊るされたライトで照らされていて、中にはメガストラクチャーのプレハブ建築で知られる、芦屋浜団地も写されていました。


「くずれゆく世界」 2016〜2018年

遠目からでは分かりにくいかもしれませんが、近寄って覗きこむと、写真の画像の一部に歪みがあることが見て取れました。いずれも意図的に処理されたもので、かつてのホテルオークラ東京のロビーを写した作品では、かなりの部分が歪んでいました。


「くずれゆく世界」 2016〜2018年

さらにアクリルブロックの中には、水が張られていて、その僅かな揺らめきにより、像はさらにぶれているようにも思えました。「くずれゆく」の名が示すように、建築が崩壊する姿を目の当たりにしたような錯覚に陥るかもしれません。


「Blanc/Black」 2018年

「Blanc/Black」も興味深いではないでしょうか。全ては京都の日向大神宮を捉えていて、手前に極めて明るいフィルムがあり、奥には対照的に暗い写真が並んでいました。


「Blanc/Black」 2018年

これは、光の三原色と、色の三原色を重ねて表現された作品で、前者は光が白に、そして後者は影の黒が現れていました。まさに写真の光と影をテーマとしていました。


「NOW/HERE」 2018年

フィルムプロジェクターによって映し出された「NOW/HERE」の言葉が、鏡を通して、会場全体を緩やかに巡っていました。いわば建築的に構築された、展示空間も魅惑的と言えそうです。


7月8日まで開催されています。

「八木夕菜 NOWHERE」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:6月15日(金)~7月8日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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