今日の朝日新聞は15日からの新聞週間を前にして特集を組み、新聞の役割を見直し読者から支持を受ける紙面つくりといい現場の記者の声を伝え過去を振り返っていた。正直言って新味がなくて薄っぺらな、紙面を埋めるのが目的のような力の入らない、第23面に相応しい内容だった。
特集の最初の頁で、林香里氏が新聞のおかれた今日的な課題を投げかけたのに、その後に5頁も使って過去の苦労談・言い訳を延々と述べているだけだ。新聞の当事者としての姿勢が見えない。「で、あなたたちはどうするの?」と氏は分かりやすい問いかけをしているのに応えていない。
編集委員の薬師寺氏は続けて、「政治ニュースが面白い」という声を紹介している。その理由として政権交代後の民主党政権が次々と打ち出す政策転換が、シナリオの無い驚きを与えているからと説明し、林氏の真っ向からの問いかけに答えずWhatよりHowに逃げる姿勢を保った。どうにも覚悟の程が窺えない。
メディアの実態は「政局ニュースが面白い」と理解しているように私は感じる。民主党と政府や官僚、連立与党内の微妙な関係を不一致といって大騒ぎし、補正予算の見直し額が3兆円に達しないと公約違反で政局になるかの様な報道をし、政策の中身の議論は脇に追いやられる。
こういう印象を持つのは新聞の責任もさることながら、テレビのニュースショーが新聞記事から政局ニュースをツマミ食いして面白おかしく報じていることにある。私は亀井大臣を支持しないが、一連のモラトリアム報道ではまるで政局になるのを狙った恣意的な報道のように感じた。
今回の総選挙で民主党を圧勝させた最大の要因は、テレビから得た情報をもとに選挙民が判断したと思われる。調査データを見てないが、趨勢的にはテレビがトップで、新聞の影響力が低下、インターネットを参考にした比率が高まっている。米国などに比べテレビの影響力が大きい。
私は、巷間伝えられる新聞の危機を乗り切る為にも、「真」の政治ニュースをしっかり本丸に据えた発信をすべきだと思う。それが冒頭の林氏が投げかけた「で、あなたたちはどうするの?」に答えることになる。換言すると今までは中立的立場を捨て、立場を明らかにすることだ。
私の解釈では、その意味するところは新聞の55年体制からの脱却である。自民党が国の背骨を定義して経済復興成長させ、政権をとる気が無く何でも反対する社会党から知恵を借りて、取り残された領域の手当てをした。新聞は高度成長の歪を正す社会党を後押しする役割を果たした。
しかし、政治の領域では小泉改革から政権交代を経て55年体制が崩壊したが、新聞はいまだ方向感を失っているように感じる。自信が無ければ、選択肢を見せて我国のあるべき姿を求めて行く姿勢でもいいと思う。やがてそれが我国の良識となれば、テレビやインターネットとは一線を画す差別化になり、やがてメディアを超えた影響力を持つ国民の財産になりうるだろう。
民主党政権が困難な現実に直面し迷走するとしたら、それは多分テレビ報道が決定的な役割を果たすだろう。この実験とも言うべき新政権の挑戦を良き方向に導いていくのは現状我国最大の課題であり、そのためには健全で創造的かつ大局観を失わない批判が必須である。
新聞にとって更に深刻な問題は、読者層の変化と広告費の減少による経営の問題だろう。全国紙の読者は中流階級であり、中央年齢は40-50歳ではないかと思う。世代間のギャップが、メディアのギャップになる可能性がある。ネット市民の過激な意見はその兆しのように感じる。又、新聞社経営が記事の内容や質に影響する時は必ず来るだろう。新聞は自らの変化を読者に分かりやすく透明性のある形でやって欲しいと願う。■