数年前に実家の向かいに家を新築し引っ越してきた若夫婦に異変が起こった。奥さんはすらりと背が高く目鼻立ちのしっかりした美人、亭主は大人しくて口数が少ない感じの良いカップルで、子供が二人いていつも庭で遊ぶ声が聞こえて来た。とても感じの良いお隣さんが引っ越してきてくれて嬉しく思ったものだ。
新築の家はとても広く平均的な若夫婦にはとても手が出ないような立派な家だが、親がお金持ちだと聞いて納得した。多分借金を返す積りだろうが夫婦ともに驚くほどの働き者だった。亭主は夜遅くまで働き殆ど顔を見たことが無い。奥さんも昼は菓子屋の売り子、夜は別のところで働き、その間に車で子供を送り迎えしていた。
ところが、今回実家に戻って以来殆ど奥さんを見かけなくなった。見たことも無い中年女性や男性などが子供の送り迎えをしている。学校帰りの子供達二人にお母さんは、と聞くと返事が無い。いつも家にこもっていて、庭で大声を上げて遊ぶ子供達の姿が無くなった。
以前この夫婦の様子を見て、こんなに働いたら長続きしないと思った。特に小さな子供を抱えて昼夜働く奥さんは、今は頑張れてもいつか持たなくなるのではと心配した。1-2年だったか前に、私と同年輩の彼女の叔父に会った時、私の懸念を伝えたことがある。彼の実家は私の実家の隣だ。
今日の午後彼の姿を見かけたので、早速疑問をぶつけた。聞くともう手遅れだった。今年の春頃に不仲が表面化し、あっという間に離婚したというのだ。彼は私の懸念を聞いた時、そんな気配には感じなかった。間に入ろうと両親に申し入れた時はもう修復可能な状況ではなかったという。
それを聞いて二人ともとても感じのいいカップルだっただけに、何でそうなったかとても残念に思った。しかし、ぼんやりとこうなることを予想していた。お互い一生懸命頑張ってそうなった。献身の代償は余りにも大きかった。
翻って私の働き盛りの時代は文字通り仕事に熱中した。しかし、家族の為に身を粉にしてやっているという言訳を自分にしていた。いま頃になってもっと子供達の為に時間を使えたのではないかとほろ苦く思い出す。子供達の事が急に気になって、昨日息子の嫁と小一時間電話した。■