オバマ大統領がシカゴで最後の演説をした直後、トランプ次期大統領がニューヨークで当選後初の記者会見を行った。トランプ氏がトップ扱いで報道される一方、現職大統領と言えどもオバマ氏は対照的に地味な扱いになったのはやむを得ないことだ。これから世界一の権力者になるのは誰か、当然の扱いではあるが寂しい。
オバマ大統領は歴代大統領の中でもレーガン大統領に次ぐ高い支持率(55%)で任期を終えるという。8年前に大統領になった時はリーマンショックの危機のさ中で崖っぷちに立ち多くの人達が家や財産を失い生活が脅かされた一方、9.11後ブッシュ大統領が始めたイラク戦争の泥沼にはまり込み厭戦気分が漂っていた。
米国は当時ベストセラーだった「分断されたアメリカ」(ハンチントン)の危機にあった。大統領就任後は途中支持率が低下した時ブッシュ元大統領が「史上最低の大統領」を免れそうになったかと思われたが、危機を回避し失業者に1500万人の職を与え徐々に支持率を高めてレーガン大統領並みの支持率になった。大統領としての業績もさることながらオバマ氏個人としての人間的魅力が評価されたのだと思う。
実際、リーマンショック後の米国経済復活は目を見張るものがあった。世界経済がリーマンショックの後遺症で長く苦しんでいる間に、米国政府はFRBと連携し次々と思い切った対策を打ち短期間で立て直した。私にとってもオバマ氏が他国の大統領とは言え他人事とではなかった。なけなしの退職金を投じた金融資産の残高は半分以下になったが、オバマ大統領下の米国経済の復調に同期して損失を取り戻すことが出来た。
私はオバマ大統領の任期の初めの頃、高い理想を掲げるがそれを実行に移す政治手腕に欠ける姿を「オバマ温泉」(つまり、言うだけ)と揶揄した。まるで企業お抱えの弁護士みたいな外交スタイルで、安倍首相も付き合い方に苦心したと言われている。だが、今ではそれがオバマ大統領の理想の高さ故のことだったと思う。特にそんな理想のかけらもないトランプ次期大統領と比較して、オバマ氏の理想主義が高く評価されたのだと思う。
オバマ外交を弱腰外交と非難されているのは高い理想と米国内の厭戦気分を反映し支持されたと思うが、一方で今となってはトランプ氏の強硬な主張に共感するところもある。日本の所謂「戦後リベラル」の流れをくむと言われる人達は反対するだろうが、世界は力を背景にして物事を動かす国が大半だ。そうした現実の世界にどう貢献していくか考えた時、先々難しい判断が求められることがあると思う。
唯一オバマ大統領の大失敗だったと思うのは、「米国は世界の警察官ではない」と明言したことだ。米国の圧倒的な軍事・経済力が相対的に衰退したのは間違いないし、世界の警察官を続けられる国力がなくなつつあるのも正しいだろう。これによって「G0の世界」が公式に出現した。だが、絶対に公言すべきではなかった。クリミア半島や南シナ海において中ロがやりたい放題出来たのは、米国の不介入姿勢を確信していたからだと思う。
この指摘をする識者はいない。私の素人考えかもしれない、だが依然として米国の国力は突出している。逆に皮肉にも今回言いたい放題のトランプ劇場に世界が右往左往している姿を見ると、依然米国の力は抜きん出ており強い影響力を持っていると実感した。オバマ氏のスタイルとは全く違うしやりたくないだろうが、言外に強い圧力をかけて中ロに思いとどまらせる巧妙な外交のやり方はあったのではないかと今でも思う。
任期最後までオバマ大統領を高く評価した同じ米国民が、対極にあると言ってもおかしくない品格に欠けるトランプ氏を後継者に選んだ。理由は格差拡大とか白人労働者の反乱だと言われても私にはまだ理解できない部分がある。米国をイラク戦争に向かわせた史上最低と言われるブッシュ大統領がオバマ大統領を生んだように、オバマの8年間がトランプ大統領を生んだと言われている。それについては別の機会に議論したい。
ともあれ、どんな問題が残され待っていようとオバマの時代は終わった。この8年間がアメリカにとって悲劇だったのか喜劇だったのか、皮肉なことにそれはトランプ次期大統領が決めてくれそうな気がする。■
オバマ大統領は歴代大統領の中でもレーガン大統領に次ぐ高い支持率(55%)で任期を終えるという。8年前に大統領になった時はリーマンショックの危機のさ中で崖っぷちに立ち多くの人達が家や財産を失い生活が脅かされた一方、9.11後ブッシュ大統領が始めたイラク戦争の泥沼にはまり込み厭戦気分が漂っていた。
米国は当時ベストセラーだった「分断されたアメリカ」(ハンチントン)の危機にあった。大統領就任後は途中支持率が低下した時ブッシュ元大統領が「史上最低の大統領」を免れそうになったかと思われたが、危機を回避し失業者に1500万人の職を与え徐々に支持率を高めてレーガン大統領並みの支持率になった。大統領としての業績もさることながらオバマ氏個人としての人間的魅力が評価されたのだと思う。
実際、リーマンショック後の米国経済復活は目を見張るものがあった。世界経済がリーマンショックの後遺症で長く苦しんでいる間に、米国政府はFRBと連携し次々と思い切った対策を打ち短期間で立て直した。私にとってもオバマ氏が他国の大統領とは言え他人事とではなかった。なけなしの退職金を投じた金融資産の残高は半分以下になったが、オバマ大統領下の米国経済の復調に同期して損失を取り戻すことが出来た。
私はオバマ大統領の任期の初めの頃、高い理想を掲げるがそれを実行に移す政治手腕に欠ける姿を「オバマ温泉」(つまり、言うだけ)と揶揄した。まるで企業お抱えの弁護士みたいな外交スタイルで、安倍首相も付き合い方に苦心したと言われている。だが、今ではそれがオバマ大統領の理想の高さ故のことだったと思う。特にそんな理想のかけらもないトランプ次期大統領と比較して、オバマ氏の理想主義が高く評価されたのだと思う。
オバマ外交を弱腰外交と非難されているのは高い理想と米国内の厭戦気分を反映し支持されたと思うが、一方で今となってはトランプ氏の強硬な主張に共感するところもある。日本の所謂「戦後リベラル」の流れをくむと言われる人達は反対するだろうが、世界は力を背景にして物事を動かす国が大半だ。そうした現実の世界にどう貢献していくか考えた時、先々難しい判断が求められることがあると思う。
唯一オバマ大統領の大失敗だったと思うのは、「米国は世界の警察官ではない」と明言したことだ。米国の圧倒的な軍事・経済力が相対的に衰退したのは間違いないし、世界の警察官を続けられる国力がなくなつつあるのも正しいだろう。これによって「G0の世界」が公式に出現した。だが、絶対に公言すべきではなかった。クリミア半島や南シナ海において中ロがやりたい放題出来たのは、米国の不介入姿勢を確信していたからだと思う。
この指摘をする識者はいない。私の素人考えかもしれない、だが依然として米国の国力は突出している。逆に皮肉にも今回言いたい放題のトランプ劇場に世界が右往左往している姿を見ると、依然米国の力は抜きん出ており強い影響力を持っていると実感した。オバマ氏のスタイルとは全く違うしやりたくないだろうが、言外に強い圧力をかけて中ロに思いとどまらせる巧妙な外交のやり方はあったのではないかと今でも思う。
任期最後までオバマ大統領を高く評価した同じ米国民が、対極にあると言ってもおかしくない品格に欠けるトランプ氏を後継者に選んだ。理由は格差拡大とか白人労働者の反乱だと言われても私にはまだ理解できない部分がある。米国をイラク戦争に向かわせた史上最低と言われるブッシュ大統領がオバマ大統領を生んだように、オバマの8年間がトランプ大統領を生んだと言われている。それについては別の機会に議論したい。
ともあれ、どんな問題が残され待っていようとオバマの時代は終わった。この8年間がアメリカにとって悲劇だったのか喜劇だったのか、皮肉なことにそれはトランプ次期大統領が決めてくれそうな気がする。■