運と不運はバランスする

昼食の準備を始めようとした時、隣の集落の長老が怒鳴りこんできた。昨年まで稲作を代行してきてくれた農夫の都合がつかなくなった為、農地バンクを経由して貸していた水田が休耕し雑草が伸び放題になっていた。その水田の真ん前にある家の持ち主がクレームして来た。田んぼの横を流れる溝の掃除が出来なくなった、何とかしろという。

市が間に入って成立した貸借契約の解約を申し込まれ了解したことから心配していたことが起こった。市役所やその配下の農業委員会に加したえて知人に相談してみたが、農民の高齢化が進み各地に同様な問題が起っており解決策が見つからない。長老は赤飯の折り詰めを私に渡し、お礼を言わせてから際限なく大声で文句を言った。

お土産を渡して文句を言う長老の言い方で、もう８０代の耳の遠い老人との会話は、気の短い私をイラつかせた。勿論、迷惑をかけているのは私なのだ。中学卒業後から実家を出て教育を受け、その後は東京でサラリーマン生活をし農業に全く経験のない私だ。実家の家庭菜園すら雑草だらけで、怒鳴られているうちに気の短い私も喧嘩腰になった。

５月から歯医者に通い昨日やっと前歯の入れ歯が完成して久し振りの良い気分だったのが一気に吹き飛んだ。解が見つからないのにギュウギュウ理屈攻めにあうと、若い頃からの短気が突如噴き出した。良く言われる「人生における運と幸運の総量は決まっている」を思い出し、冷静になろうとした。

だが、一体どうすれば良いのか分からない。私は他にもっと広い３つの水田を相続し同じクレームがつくのは時間の問題だ。相続することを承知してた長男に問題を先送りする訳にも行かない。他にも田舎の実家や山林田畑にお墓などをどうすれば良いか間違いなく困るだろう。

田舎の不動産を相続する子供には、マイナス資産と位置付けて他のプラス動産を与え、相続全体のバランスを取ってやらねばと思っている。しかし、こういう事態は想定してなかったので、運と不運のバランスの見直しが必要になりそうだ。まずは当座の問題を解決するのが先だがどうしていいのか分からない。■