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ヨタ車の品質問題は豊田社長の公聴会出席で沈静化の方向に向いつつあるが、肝心の車の信頼性に関する疑いが完全にクリアされず、事故発生当初から真の問題を隠蔽した疑惑も晴れていない。世界各国の対応に温度差があり特に米国で最も厳しいのは、不公正な隠蔽工作疑惑に加えて以前指摘した江戸の敵を長崎で討っている印象が私には残っている。
昨日のNYタイムズは問題が表面化後も日本で売れ続けるトヨタ車に対して、そもそも日本国民は企業に甘い体質があると例を挙げて報じている。ミートホープの食肉加工偽装の例などで改善しつつあると断わっているものの、私から見ると上から目線でそこまで言うかと感じられなくもない。
と、ここまでは枕である。今回はトヨタトップの経営陣が何故大問題を長く放置してきたのかについて、“週刊誌的”アプローチで分析してみたい。豊田社長は公聴会で問題を知ったのは昨年暮れだったと証言した。更にトヨタが急拡大して人や組織が追いつかなかったのが今回の大失態の原因と示唆した。かつての「国民総懺悔」みたいに責任を曖昧にする常套手段のように聞こえる。
根本的な問いかけとして、豊田社長がこれほどの大問題を知ったのが昨年末だったというのは信じ難い、普通の会社ではありえない、事実なら何故起こったか。一体どういうメカニズムでこんなことが起こったのか。私が大組織で働いた経験では、報告は上がっていたが社長は事の重大さを認識していなかったと思う。つまり、問題を正しく把握できない致命的な何かがあったということだ。
その一因として社長を取り巻く「インナーグループ」の存在が判断を誤らせたという推測記事を読んで、私はあり得る事と思った。インナーグループは強い権力者の周りに同心円状に作られる側近グループで、全ての情報がここで一旦咀嚼され解釈されて報告される。権力者に外部から直接アクセスさせないことにより、権力者の持つ力を自らのものとして活用する古くて新しいやり方だ。
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織となればある程度こういう傾向があり、一概に悪とは言い切れない。彼等は同じ目標に向う同志でもある。だが、これが権力闘争のマシーンに化けると、醜いことになる。インナーグループが暴走し機能不全に陥った例は歴史上枚挙に暇がない。常にそういう恐れがある。
某週刊誌の記事のエッセンスを抽出すると、昨年就任した豊田新社長の周りに出来たインナーグループが、旧経営陣を排除することに忙しく経営の優先順位を誤り市場からの重要なサインを見逃したというものだ。事実は不明だが、豊田家の御曹司をたてることにより、自らの存在を強化し情報を独占加工した人達がいたということだろう。残念ながら、これを聞いても私は驚かない。
というのも、この現象は日本だけではなくどこにでも見られる。身近に典型的な例がある。絶対的な権力を手にした小沢民主党幹事長の側近達はインナーグループになることで力を手に入れ政策を左右する立場に立った一方で、国民からの支持を失う危険を冒す本末転倒の構図が浮かび上がった。問題は一票を投じた国民が期待した優先順位とは違う価値観が表面化したことだ。
米国大統領には多くの補佐官や顧問がいて、大統領の政策決定に強い影響力を与えており、彼等は世界一の権力を待ったインナーグループだ。彼等も誤りを犯した。古いところではニクソン時代のカリフォルニアの広告業界、最近でもブッシュ政権の石油業界の人材がスタッフになった。インナーグループは結局のところ「類は類」を呼んだ結果になる。
民主党政権の場合、基地問題等では前政権の政策を覆すことに熱心になり過ぎ迷走したが、インナーグループが政策を権力強化の道具に使い内閣が黙認して手段が目的化した。トヨタでも前経営陣の意思決定を見直して影響力を排除するのに熱心なあまり、取り巻きが本筋を見失った。それ以外に大事件が長期間放置された説明がつかないというのが記事の根拠のようだ。
そういう事態を防ぐ為には、全体を見回して「何かおかしい」と警鐘を鳴らす人材もしくは仕組がインナーグループとは別にあり、それを受け入れて大局を見直す中核と同心円に作り変えないと、どんな組織でも同じ問題を繰り返す恐れがある。だが、この煙たい存在は遠ざけられ機能しないことが多いのが現実だ。
実際の意思決定のメカニズムがどうなっているか分からないが、この問題はトヨタ得意の現場の改善とは視点を変えて、忠実な側近達が作る最上位の同心円そのものに手をかける決意と度量があるか問うている。日本人が最も苦手とする自ら身を切ることであり、仮にやるとしても忘れた頃に痛み止めをたっぷり使って密かにやるだろう。米国がそれで我慢してくれるかは別だが。■
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