先週、車で田舎に戻った。途中京都の義妹夫妻宅に一泊させてもらい、近くの東福寺など境内の散策を楽しんだ。その後、介護院に入所した義母を見舞い、大洲市の実家に戻ると、予想以上に衰弱していた母の姿を見てショックを受けた。今後どうするか少し様子を見て決めようと思う。
そんなこんなで遅ればせながら一週遅れのネタを一つ。先週NHKの番組「クローズアップ現代」を見た。近年の読者の書籍購読決定プロセスの変化が書店経営と出版業界に大きな影響を与えているというもので、大変興味深く思った。
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年読書人口減少による出版不況が続き、出版業界・書店ともに苦境に陥っている。ところが総部数は減っているにもかかわらず、出版された本はこの数年で6万から8万に増えているという。書店が仕入れた本は半年程度の短期間に売れないか判断し返本され、出版業界はその収入減の穴埋めの為に代わりの新刊本を送りつける、この自転車操業的サイクルが総部数減と新刊点数増を生んでいるというものだった。
その背景の一つとしてランキングを見て本を買う読者が増えた、しかもベストセラー1位の本ばかり売れると報じられた。年に数冊しか読まない人にとっては、ベストセラー1位の本を読めば今年はそれで終わり、みたいなことなのだろう。結果としてランキング2位以下の本はランキング発表後も変わりなく売れないのだそうだ。まさにウィナー・テイクス・オール(一人勝ち)状態だ。
この番組を見て常々疑問に思っていたことが一つ理解でき、出版業界の経営思想の変化のようなものを感じた。
私は定期的に古本屋を利用するが、最近出版されたばかりと思われる本を見かけることが増えたような気がしていた。良く利用する古本屋のチェーン店は棚に並べて一定期間が経過すると価格改定をする。本の内容より在庫回転を優先する、換言すると資金の回転効率を上げるキャッシュフロー経営をして成功した。そのお陰で私は古本屋で良い本を安価に入手できるというわけだ。
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型書店は近年その種の経営に転換し、本の知識豊かな昔ながらの書店が無くなりつつあるという。新刊本にはスキャナーで読み取れるコード(名前)が付いており、それで平積みするか何処の棚に並べるか決め、売れるたびにレジでコンピューターに入力され、本毎の売れ行きがリアルタイムで捕捉される。一定期間の売れ行きを管理し、売れる本を目の付き易い棚に並べ、売れない本を返本する。その管理サイクルがドンドン短くなってきた為、返本数と発刊数の両方ともに増え、返本された本が逸早く古本屋の棚に並ぶという仕掛けだ。
実はこの「キャッシュフロー管理」は他の業界ではずっと前から採用されてきた経営手法だ。コンビニがPOSを利用して一品一品の売れ行きをリアルタイムで把握し、そのデータを下に商品の仕入れや棚管理を始め、24時間営業で何時行っても欲しいものが手に入る街角の便利屋さん的存在になった。家電製品も需給管理を月次管理から週次管理にした。もしかすると今は更に短縮されているかも知れない。在庫をきめ細かく短いスパンで管理する経営手法は、IT導入と合わせて大きな効果が実証されている。テレビで見た大型書店経営もビジネスである限り同じ発想のようだ。
この傾向は昔からの出版業界にいた人達にとっては割り切れない気持ちになるだろう。良い本を作る為にじっくり時間をかけて作り、発刊後も長い間書店の棚に並べて本の良さを分かってもらう、本の内容が売れ行きの全てだと信じていた人達には辛いことだろう。その一例として番組では草思社の経営破綻を報じていたのは私にもショックだった。この出版社は素晴らしい本を何冊も出してきた、私に言わせるととても良心的な出版社だった。
それに代わって以前「国家の品格批評」で紹介したような短期間で素早く新刊本を発行する、プロジェクト的な高速出版プロセスが可能な出版社でないと今は生き残れない。一方、書店は売れ行きにあわせ売れる本だけを棚に並べ棚効率を上げないとやって行けなくなった。時間をかけて中身で勝負したら最早生き残れないのだろうか。
最後に、読者のランキング依存がこの変化を引き起こしたというのは、チョット言い過ぎではないかというのが私の感想だ。良くも悪くもアイテム管理的経営手法と読者のランキング依存が両輪となって変化を引き起こしているということではないだろうか。しかし、ランキング自体は決して悪いことではないと思う。むしろ日本には色々な分野で信頼できる独立した評価機関が不足している。番組ではオリコンが分野別の書籍ランキングを始めたという。ランキングビジネスは有望な商売になる可能性は十分あると思う。■