十弗着。ホームには「十弗は10$駅」のコピーが入った10$札もどきの看板が掲げられている。もちろん「十弗」と「十$」が似ているからだが、それがどういう町興しになるのか、よく分からない。
その後も各駅に停まるが、駅舎は相変わらず味わい深い。根室本線は単線だが、列車は左側通行なので、左側に駅舎が多いように思われる。私は偶然左側のボックスに座ったので、難なく鑑賞できる。
16時過ぎ、常豊(つねとよ)に停車した。しかしこの駅は時刻表に掲載されていない。旅客営業をしていない信号場ゆえだが、それなのにホームには駅名標がある。全国的に珍しい例である。
…というようなことを、右ボックス席のオジサンが同行者に話している。
このオジサンは、鄙びた駅舎や時刻表があると、こちら側に身を乗り出して撮影する。この駅ももちろんそうで、私もウェルカムである。
そしてこのころから何となく、車内に鉄道ファンの一体感みたいな雰囲気が出てきた。
運転席の横では、鉄道女子がかぶりつくように、前方を眺めている。
直別から列車は海沿いを走り、太平洋がチラチラ見えるようになった。
その次の尺別で数分停車になる。上りの特急をやり過ごすためである。走行距離が308.4kmなのに所要時間が8時間25分もかかるのは、こうやって大小の駅で停車時間があるからだ。
16時51分、特急スーパーおおぞら10号が右車線を一気に走り抜けていった。
車内は100%、鉄道ファンになっている。まるで貸切で、普通列車でこの光景はすこぶる珍しい。2429D列車の面目躍如である。
17時06分、古瀬着。ここがまた板張りだけの簡素なホームだ。私の目の前にちょうど時刻表看板が来たので、右のオジサンが身を乗り出して撮影する。私もつられて見てみると、下りが4本、上りが3本しかない。そして下りはこれが「最終」である。古瀬駅、列車は通るが停車はしないという、いわゆる秘境駅で、所さんの番組で取り上げられそうな雰囲気がムンムンだった(帰京後、ビデオ録画しておいた「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!2時間スペシャル」を観たら、秘境駅のコーナーで古瀬駅が舞台になっていて、あまりの偶然にひっくり返った)。
17時23分、白糠着。ここはかつて白糠線が分岐していたが、1983年10月に廃止になった。国鉄再建法の施工により、特定地方交通線の廃止路線第1号となった線である。
そんなわけだから乗降者はいないと思いきや、数人の高校生が乗ってきた。近くに高校があるのだろう。
やや陽は陰ってきたが、いまはいちばん陽が長く、まだ明るさを保っている。西庶路を17時30分に発車して、あと30分余りとなった。庶路、大楽毛(おたのしけ)、新大楽毛、新富士、と停まり、次は終着の釧路となった。
乗客は、運転席上の料金表を撮影している。滝川から釧路までは5,720円であった。
18時02分、2429D列車は、釧路に到着した。朝に滝川を発ってから8時間25分の長旅だったが、北海道の景色が雄大で、ちっとも退屈しなかった。ありがとう、2429D列車。
私は改札口に向かうが、ここで最後のお楽しみがある。2429D列車を完全乗車し、この区間の切符を提示すると、「完全乗車証明書」がいただけるのだ。
これは2010年4月から期間限定で始めたサービスだが、好評につき現在も継続されているものだ。
私は遠軽までの切符を提示し、証明書をめでたく頂戴した。マラソンを完走して認定書をもらったような、何ともいえない充実感があった。
きょうは釧路で泊まるが、まずは晩ご飯である。釧路といえば、幣舞橋の先を行ったところに美味いタンメンを食べさせてくれる中華料理屋がある。今から10年以上前、銭湯を探している時にたまたま見つけて入ったものだが、東京なら行列ができる美味さだった。
4月に二子玉川で食べたタンメンも美味かったが、何てことのない店に名店が潜んでいる。
ともあれ今回、この時間帯に私が釧路にいるのは珍しく、久しぶりにお邪魔しようと思った。
幣舞橋に到着し、とりあえずは4人の美女を鑑賞する。いわゆる「道東四季の像」である。
私の好きなタイプは「春」。私の体調がよければ「夏」というところだ。
その右手の道を入っていく。数分歩いたところで、見覚えのある外観が目に入ったが、何かの鉄工所になっていて、中で男性が作業していた。
いやまさか…この店じゃないだろう? しかしあの出窓、見覚えがある…。
私は先に進むが、もう中華料理屋がある雰囲気ではない。そこで近くの理髪店で聞いてみると、案の定、先の鉄工所が元の中華料理屋とのことだった。
「4年くらい前に、閉店したよ」
店のオジサンは散文的に答える。私は気が遠くなるのを感じた。
先月の鹿児島・山ちゃんラーメンに続いて、またも閉店である。きっとここも、代替わりを果たせず、閉店のやむなきに至ったのだろう。
遅かった…。もう1回ぐらい、あのタンメンを食べたかった。
私は呆然と立ち尽くした。
(21日につづく)
その後も各駅に停まるが、駅舎は相変わらず味わい深い。根室本線は単線だが、列車は左側通行なので、左側に駅舎が多いように思われる。私は偶然左側のボックスに座ったので、難なく鑑賞できる。
16時過ぎ、常豊(つねとよ)に停車した。しかしこの駅は時刻表に掲載されていない。旅客営業をしていない信号場ゆえだが、それなのにホームには駅名標がある。全国的に珍しい例である。
…というようなことを、右ボックス席のオジサンが同行者に話している。
このオジサンは、鄙びた駅舎や時刻表があると、こちら側に身を乗り出して撮影する。この駅ももちろんそうで、私もウェルカムである。
そしてこのころから何となく、車内に鉄道ファンの一体感みたいな雰囲気が出てきた。
運転席の横では、鉄道女子がかぶりつくように、前方を眺めている。
直別から列車は海沿いを走り、太平洋がチラチラ見えるようになった。
その次の尺別で数分停車になる。上りの特急をやり過ごすためである。走行距離が308.4kmなのに所要時間が8時間25分もかかるのは、こうやって大小の駅で停車時間があるからだ。
16時51分、特急スーパーおおぞら10号が右車線を一気に走り抜けていった。
車内は100%、鉄道ファンになっている。まるで貸切で、普通列車でこの光景はすこぶる珍しい。2429D列車の面目躍如である。
17時06分、古瀬着。ここがまた板張りだけの簡素なホームだ。私の目の前にちょうど時刻表看板が来たので、右のオジサンが身を乗り出して撮影する。私もつられて見てみると、下りが4本、上りが3本しかない。そして下りはこれが「最終」である。古瀬駅、列車は通るが停車はしないという、いわゆる秘境駅で、所さんの番組で取り上げられそうな雰囲気がムンムンだった(帰京後、ビデオ録画しておいた「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!2時間スペシャル」を観たら、秘境駅のコーナーで古瀬駅が舞台になっていて、あまりの偶然にひっくり返った)。
17時23分、白糠着。ここはかつて白糠線が分岐していたが、1983年10月に廃止になった。国鉄再建法の施工により、特定地方交通線の廃止路線第1号となった線である。
そんなわけだから乗降者はいないと思いきや、数人の高校生が乗ってきた。近くに高校があるのだろう。
やや陽は陰ってきたが、いまはいちばん陽が長く、まだ明るさを保っている。西庶路を17時30分に発車して、あと30分余りとなった。庶路、大楽毛(おたのしけ)、新大楽毛、新富士、と停まり、次は終着の釧路となった。
乗客は、運転席上の料金表を撮影している。滝川から釧路までは5,720円であった。
18時02分、2429D列車は、釧路に到着した。朝に滝川を発ってから8時間25分の長旅だったが、北海道の景色が雄大で、ちっとも退屈しなかった。ありがとう、2429D列車。
私は改札口に向かうが、ここで最後のお楽しみがある。2429D列車を完全乗車し、この区間の切符を提示すると、「完全乗車証明書」がいただけるのだ。
これは2010年4月から期間限定で始めたサービスだが、好評につき現在も継続されているものだ。
私は遠軽までの切符を提示し、証明書をめでたく頂戴した。マラソンを完走して認定書をもらったような、何ともいえない充実感があった。
きょうは釧路で泊まるが、まずは晩ご飯である。釧路といえば、幣舞橋の先を行ったところに美味いタンメンを食べさせてくれる中華料理屋がある。今から10年以上前、銭湯を探している時にたまたま見つけて入ったものだが、東京なら行列ができる美味さだった。
4月に二子玉川で食べたタンメンも美味かったが、何てことのない店に名店が潜んでいる。
ともあれ今回、この時間帯に私が釧路にいるのは珍しく、久しぶりにお邪魔しようと思った。
幣舞橋に到着し、とりあえずは4人の美女を鑑賞する。いわゆる「道東四季の像」である。
私の好きなタイプは「春」。私の体調がよければ「夏」というところだ。
その右手の道を入っていく。数分歩いたところで、見覚えのある外観が目に入ったが、何かの鉄工所になっていて、中で男性が作業していた。
いやまさか…この店じゃないだろう? しかしあの出窓、見覚えがある…。
私は先に進むが、もう中華料理屋がある雰囲気ではない。そこで近くの理髪店で聞いてみると、案の定、先の鉄工所が元の中華料理屋とのことだった。
「4年くらい前に、閉店したよ」
店のオジサンは散文的に答える。私は気が遠くなるのを感じた。
先月の鹿児島・山ちゃんラーメンに続いて、またも閉店である。きっとここも、代替わりを果たせず、閉店のやむなきに至ったのだろう。
遅かった…。もう1回ぐらい、あのタンメンを食べたかった。
私は呆然と立ち尽くした。
(21日につづく)