一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

梶浦旋風

2020-08-01 00:11:22 | 男性棋士
梶浦宏孝六段は第33期竜王戦のランキング戦5組で優勝し、決勝トーナメントで4連勝、準決勝に進出した。その内訳は以下のごとくである。

7月7日 ○高野智史五段(6組優勝)
7月13日 ○石井健太郎六段(4組優勝)
7月22日 ○木村一基王位(1組5位)
7月27日 ○佐藤康光九段(1組4位)

若手強豪とベテラン強豪2名ずつをほふった。本戦での4連勝は史上初だ。9日の順位戦C級1組で堀口一史座七段に敗れたのが理解不能だが、佐藤九段戦などは難しい将棋を勝ち切り、見事だった。
梶浦六段といえば、名人戦と竜王戦七番勝負における新橋解説会での駒操作でおなじみである。大内延介九段や鈴木大介九段(師匠)を前にして、黙々とおのが仕事をこなしていたものだ。
私は同解説会で何度か拝見しているので、過去記事の第31期竜王戦から、梶浦六段の記述部分を抜き出してみよう。

●第3局
31手目に▲9六歩と突いた。(鈴木九段)「端歩はふだんの対局より遅いかな。……先手が▲2五歩を早く突くのは雁木を警戒している場合があるんですが、本局は保留しています。
ところで梶浦君は角換わりの将棋はどのくらい指してるの?」
「公式戦では10何局です」
そんなものかと思うが、梶浦四段はデビューが2015年4月。まあいい数字であろう。
▲4七金~▲4五歩。「この形は珍しいと思います」と梶浦四段が続けた。

△2三同銀▲同飛成。「羽生さんが攻めてくるんだから恐いよね。この辺り、梶浦くんの見解はどう?」
「後手を持ってて生きた心地がしません」
と、梶浦宏孝四段が嘆息した。

次の一手ができなかった無念が漂う。「これは即詰み? ▲7九同玉△5九飛成▲6九歩……梶浦君どうやんの?」
「△7八銀▲同玉△6七桂成▲同玉△6九竜……アッ、▲6八歩に△7六銀で」
梶浦宏孝四段が静かに答えた。

もっともそこは抜かりなく、梶浦宏孝四段に代替問題が用意されていた。すなわち、
「広瀬(章人)八段は、北海道のどこ出身でしょう?」
である。候補手は
「1. 札幌 2.稚内 3.釧路」
私は釧路と思ったが、どうなのだろう。

「だけど△5二玉に▲4三銀成のところねえ、あそこは▲3一銀不成でしょう。そんなに難しくない。どう梶浦君、梶浦君ならそこでどう指す?」
そこで梶浦四段が「△6一飛」と遠慮気味に答えた。
「ロクイチヒ!? ……いい手だね……。梶浦君強くなったね。△6一飛いい手じゃない。
△6一飛は今までにない鋭さがあるよ」
鈴木九段が弟子を褒めた。

「梶浦君は今期の加古川清流戦で決勝(三番勝負)に進出したんですよね。私は現地に見に行きましたヨ」
と、最後に鈴木九段は言った。

●第7局
羽生善治竜王は△8六歩と反撃に転じた。
「この△8六歩がどうだったんでしょうか」
と梶浦宏孝四段。
(鈴木九段)「ほう、じゃあ梶浦君の見解はどうなの?」
「ここは後手持ちです」

対して羽生竜王は△5五銀。どうですこの手は、と鈴木大介九段が絶句する。
△5五銀には▲4五馬と出られる。ゆえにカナ駒を手放した甲斐がないのでは、というわけだ。
梶浦宏孝四段「空振りしそうです」

そこで梶浦宏孝四段は▲8八金を予想する。が、鈴木九段は「なるほど、金を戻す手は冷静です。でも広瀬さんなら▲3三銀成△同桂▲3四銀と行きそうなもんなんですが」と、まだこの順を推している。

△3三同桂▲3四銀。「これは必至に近い。羽生さん、今年は国民栄誉賞を受賞したんですが、(年末に)こうなるとはねえ……。
(羽生竜王のタイトルが少なくなった点について、)若手の台頭がありますよね。豊島二冠、高見叡王、斎藤王座……。梶浦君は絡まなかったけれども」
ここで会場に笑いが起こった。「広瀬さんは棋王の挑戦者にもなって、今いちばん乗っている棋士のひとりです。梶浦君も頑張って」
「頑張ります」

会場はしんとしている。「これ負けたら羽生さんは27年ぶりの無冠ですもんね」
「私の生まれる前からタイトルを持ち続けてたんですね」
と、梶浦四段。

鈴木九段「相居飛車は研究が進んでるんで、自由度がないんですね。広瀬さんも昔は振り飛車党だったんですが、居飛車党に転向しちゃった。
裏切り者!
ボクも来年は居飛車やろうかな。梶浦君も振り飛車指しなさい」
「えっ……。じゃあ一局やります」
「ボクも居飛車をやったことはあるんだけど、2勝18敗だったかな」
「それは……」
と梶浦宏孝四段が絶句した。
「梶浦君が飛車振ったらボクは居飛車やるよ。そうだ今度対局で当たったらお互い逆持とう」
何だかすごい話になってきた。

鈴木九段はさっきの解説中にも、「今日は羽生竜王が勝っても負けても号外が出る」とソワソワしていた。
しかし梶浦四段は「1時間くらいかかると思います」と冷静だ。

「▲4五銀には△同銀もありますが、そこで▲6三歩成がありますか」
「そこで△3六銀はどうでしょう?」
と梶浦四段。
「……え? ……これは悪い手(いい手)を指すね」


以上である。梶浦六段の担当は第3局と第7局だった。転載すると、鈴木九段の話のほうが多くなってしまった。
梶浦六段は寡黙だが、将棋に真摯に向かっているさまが見て取れた。
さて梶浦六段の今後の竜王戦だが、準決勝で羽生善治九段に勝ち、挑戦者決定戦で久保利明九段か丸山忠久九段に2勝すればよい。
第31期第7局で鈴木九段がハッパをかけたように、新橋解説会の駒操作君が竜王戦七番勝負に登場したら、愉快ではないか。
コメント
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