おはようございます。新宿区神楽坂で研修&カウンセリングの事業を営む ヒューマン・ギルド の岩井俊憲です。
土曜日のため本来は「男と女の心理学」のはずでしたが、今週は休ませていただきます。
さて、小倉 広さん(株式会社小倉広事務所 代表取締役、ヒューマン・ギルドプレミアム会員)が私に新著『任せてもらう技術』(実業之日本社、1,300円+税)を贈呈してくださったことから、小倉さんが書いた本の読みやすさの秘訣を探ってみたくなりました。
秘訣の5つうち最初の2つは、次のとおりです。
今回は、この2つのことに絞って深く掘り下げてみたいと思います。
1.理屈でなくケースから始まることが多いので、どんどん先を読みたくなる。
2.ご自分の体験を個人やビジネスの失敗体験も含めて開示するので、共感を呼びやすい。
まず、1.について小倉さんご自身が心がけていることがあるので、小倉さんがメルマガに書かれたことを転載させていただきます。
「抽象と具象の二往復」
これは、私が提唱する「腹オチの法則」だ。
つまり抽象的なメッセージと具体的なエピソードを二回行ったり来たりする。
すると、聞いている人の腹にオチる。それを言葉にしたものだ。
私のメルマガはこの法則に常に従って書いている。
まずは具体的なエピソードを提示する。
そして、そのエピソードを通じて、伝えたいメッセージをまとめとして伝える。
これで一往復。それと同じことを別のエピソードを使ってもう一度繰り返す。これで二往復。
すると、読者の腹にオチる、というわけだ。
「切り口」×「エピソード」=「コラムタイトル」
これは、講演の内容を考えるときも同じだ。
「切り口」だけでは、おもしろくない。
「エピソード」だけでは、おもしろいが、何を参考にしていいかわからない。
だから、その二つを行ったり来たりする。それは文字で伝えるコラムだけでなく、話し言葉で伝える講演でもまったく同じこと。
私はそんな風にして原稿を創っているのだ。
次に、2.の共感を呼びやすいことに関して。
小倉さんは6月14日付けのメルマガvol.53「 なぜ、わざわざ恥をさらすのか 」で恥をさらす理由を3つ書いていらっしゃいます。
一つ目の理由は、私には成功体験が乏しく、本当に失敗体験が多いからだと思う。
二つ目の理由は、読み物としておもしろいものを書きたいからだ。
そして三つ目の理由こそが最大のものとなる。それは、皆さんに深く共感していただき、行動を変えるヒントにしていただきたいからだ。
続いて、こんなことも。
恥をさらして文章を書き続ける私を見て、私の心理学の師、ヒューマン・ギルド社の岩井俊憲先生はこう言って下さった。
「小倉さんは、菩薩様なんです。菩薩とは、いまだ悟りを開いていない修行中の方を指します。しかも、小倉さんは本当は悟りを開こうと思えば開けるのに、わざと悟りを開かない。それは衆生の方々を救うためにそうしているのです」
私の名前が出てきたので、補足します。
これは事実です。確か アドラー・カウンセラー養成講座 でのことだったように記憶しています。
そして、6月14日の晩に私が小倉さんにお送りしたメールに次のことを書きました。
トルストイの『アンナ・カレーニナ』の冒頭に次の表現があります。
「幸せな家族はどれもみな同じように見えるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」(訳:望月哲男、光文社古典新訳文庫、2008)
小倉さんの本が読者の共感を得るのは、成功の物語でなく、不幸、失敗の物語が込められているからだと思います。
以前にも申し上げましたが、成功体験を本に書く □□○ さんは、7割がだいたい以前に読んだ内容と一緒です。
小倉さんは「こんなこと書いていいの」というほど、失敗談に満ち溢れ、ご自身の体験もさらっとお話しになります。
それだけにネタが限りなくあるのだと思います。
小倉さんはメルマガで私の「菩薩道」発言のことを書かれましたが、私は心底、小倉さんを現代の菩薩だと思っています。
菩薩の菩薩たる所以は「上求菩提、下化衆生」(じょうぐぼだい、げけしゅじょう)にありますが、小倉さんは、もう一つの知られざる菩薩道を実践されています。
それは、『維摩経』の中で在家の維摩居士が自分の病を「衆生が病むがゆえに、我もまた病む」と言っているところに象徴されます。
このことは、菩薩道のもう一つの側面、「代受苦」(だいじゅく)です。
「代受苦」とは、仏や菩薩が衆生の地獄のような苦しみを代わりに受けることを意味します。
小倉さんの本が人々の共感を得るのは、「上求菩提、下化衆生」のような上の立場の人が下の人間を救うのでなく、衆生と一緒の泥の中に入り、共に病み、共に苦しみながらも、それでいて、一緒に這い上がろうとしているところにあると思います。
どうかこれからも菩薩道 ― とりわけ「代受苦」 ― の精神で、悩み苦しむ人たちに、一燈照隅 万燈照国の精神で灯明をお与えくださいますよう願っております。
小倉さんが恥をさらしながらも、メルマガや人間塾などを通じて地道に現代の菩薩道を実践されていることが、本がヒットしている秘訣だという私の結論です。
◆今回は私が紹介した小倉さんの本のうち次の2つをご参照ください。
2012年11月9日付けブログ 小倉広さんの33歳からのルールの『男なら書斎を持て』
2013年6月7日付けブログ 小倉 広さんの本の紹介:『自分でやった方が早い病』
◆カウンセラーになりたい方は こちら をご参照ください。
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