おはようございます。アドラー心理学に基づく勇気づけの研修(外部研修も)とカウンセリングを行う ヒューマン・ギルド の岩井俊憲です。
通勤途上で桜の前兆の花が咲き始めているのを見かけます。
さて、「『名人伝』(中島敦)を素材とするカウンセリングのメタファー」シリーズの第9回目です。
『名人伝』(中島敦)のストーリーをカウンセリングのメタファーから
第1期 執着期
第2期 格闘期
第3期 忘却期
の3段階に分け、第3期の「忘却期」でどのようにしてセルフ・モニタリング・システムが働かせられるようになるかを中心にお伝えします。
◆今までの部分に関心のある方は
1回目 3月3日
2回目 3月7日
3回目 3月8日
4回目 3月10日
5回目 3月11日
6回目 3月13日
7回目 3月15日
8回目 3月16日
のブログをご参照ください。
前回は、私自身の体験から、同情モードに入るようなゾワゾワ感がある時は、セルフ・モニターしながら(自分で自分を見届けながら)「あ、来ているな」という警告として受け止め、クライアントとの間の目標の一致と協力関係に立ち戻ることを提案しました。
『名人伝』では、最後に弓の名人が弓という名も、その使い途もわからなくなっている状態で物語が終わっていますが、名人でもない私たちは、自分自身が体験してきたことを完全に忘れることはできません。
せめて、遠い過去の体験のように感じられればいいのではないでしょうか。
それでは、そのように至らしめる心理作用はいかなることによって可能なのでしょうか?
それは、「自分の目で見、自分の耳で聞き、自分の心で感じること」から「他者の目で見、他者の耳で聞き、他者の心で感じること」ができるようになる、徹底的な共感のトレーニングによると思います。
◆共感のトレーニングについては、次のブログをご参照ください。
2017年5月7日付けブログ 共感のトレーニング:"あたかも~のように(as if)"
自分の強いこだわりに結びつく体験とつながるクライアントを目の前にしたときは、以前にもお伝えした「セルフ・モニタリング・システム」を稼働させることをお勧めします。
自分の心の動きを俯瞰 ―「メタ認知」を活用すること― しながら、過去の物語に入ってしまいそうな時に、「その瞬間を捕らえて」ブレーキをかけるのです。
これができる限りは安全です。
私は、自分の過去の体験と関わりのあるクライアントを支援することを否定するものではありません。
未経験の人よりも心の深いところに寄り添う素養があります。
同情を抑えて真の共感に至ることもできると思います。
そうあるためにイギリスの経済学者のアルフレッド・マーシャル(1842-1924)の言葉を贈りながら、このシリーズを終えることにします。
経済学者は冷静な頭脳と温かい心(Cool Head but Warm Heart)を持たねばならない」
*1885年にケンブリッジ大学経済学教授の就任講演で残した言葉
これは、カウンセラーもまた同じではないでしょうか?
あなたが体験してきたことは無駄ではありません。
あなたの温かい心を養ってくれていたのです。
その心を冷静な頭脳と共に共感の目と耳と心をもって他者支援に使うことができれば、きっとあなたを待っている人の役に立つのです。
<お目休めコーナー>3月の花(20)
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