見もの・読みもの日記

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王朝ゴシップ集/殴り合う貴族たち(繁田信一)

2007-02-10 21:31:19 | 読んだもの(書籍)
○繁田信一『殴り合う貴族たち:平安朝裏源氏物語』 柏書房 2005.12

 『天皇たちの孤独』(角川選書 2006.12)が面白かったので、続けてもう1冊。書かれた順番では、本書のほうが1年ほど早い。『天皇』と同様、本書も、『小右記』などの古記録を素材に、王朝貴族の周辺で起きた暴力事件を掘り起こしたものだ。

 そこそこ面白かったが、本書は、ちょっと「やり過ぎ」の感がした。確かに、右中弁藤原経輔と蔵人式部丞源成任が髻をつかみあって取っ組み合いをしたとか、荒三位道雅が下級官人を半殺しにしたとか、上級貴族が自ら手を下したケースもあるにはある。しかし、大多数は、拉致にしろ強姦にしろ襲撃にしろ、配下の者に指図して実行させたエピソードだ。

 一般的な王朝貴族のイメージからすれば、十分センセーショナルかもしれないが、それを「殴り合う貴族」と呼んでしまうのは、読者の耳目を引き付けるための、あざとい手管に感じられて、あまりいい気持ちがしない。その点、新刊『天皇たちの孤独』のほうが、ソフィスケイトされている。編集の腕の差ではないかと思う。印象だけど。

 やっぱり、しみじみと面白いのは、中関白家の人々(藤原道隆の子孫)。前述の、御前で暴力沙汰を起こした経輔は、隆家(道隆男)の息子である。また「荒三位」と呼ばれた問題児、道雅は、伊周(道隆男)の息子で、祖父に溺愛されたという。歌人としても有名(むかし、ゼミでこのひとの和歌が当たって少し調べたことがある。懐かしいなあ~)。伊周と隆家の兄弟は、色恋沙汰から発した闘乱で、花山法皇の従者2人を殺して生首を持ち去ったという噂もあるそうだ(小右記)。ひー。これは、たぶん初耳。

 学生時代は文学史を通じて彼らを知るのみだったので、隆家の後半生を知ったのは、ずいぶん後のことになる。官位栄達の望みを絶たれたあと、隆家は、大宰権帥を拝命して九州に下り、在任中、刀伊(女真族か)の入寇を撃退して武名を挙げた。陰湿な政争よりも、こういう荒事のほうが彼の本分だったのかも知れない。伊周の、抜群の才芸にめぐまれながら、バランスを取れないエキセントリックな性格も魅力的。うーん、小説もしくはマンガにしたらオモシロイのに。
コメント
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