○国立劇場第61回雅楽公演『舞楽 名曲と稀曲をたのしむ』 出演・宮内庁式部職楽部
http://www.ntj.jac.go.jp/performance/1039.html
国立劇場の雅楽公演は、毎回チェックを入れているのだが、楽器演奏だけだと、ちょっと敷居が高そうな気がして二の足を踏む。今回は「舞」が付くので、面白そうだと思って見に行った。
演目は『五常楽』と『胡徳楽』。前者は、唐太宗の作とされ、「序」「破」「急」の形式を伝える唯一のもの。明治以前は、初心者が一番はじめに習う曲であったというから、名曲の極めつけである。巻纓(けんえい)老懸(おいかけ)と呼ばれる武官姿の楽人が、袖をひるがえしながら、ゆったりと舞う。長い裾を引いた後ろ姿が、優雅な蜻蛉のようだ。はじめは単調だが、だんだん動きが早く大きくなり、最後は太鼓をアクセントに、勇壮な行進曲調になる。4人の舞人が一列に並び、後ろ向きに退場していくところまできて、あ、この曲を聴く(見る)のは初めてではない、と思い出した。
次の『胡徳楽』は、プログラムの解説によれば、明治以降、ほとんど上演されなくなっていたものを、昭和41年、国立劇場の雅楽公演が始まったときに復活上演された「稀曲」だそうだ。いや、びっくり。雅楽の概念をくつがえすような曲目である。最初と最後に申し訳程度の「舞」が付くが、あとはほとんど、軽快なBGMに載せたパントマイムなのである。
登場人物は「勧盃(けんぱい)」と呼ばれる主人役。紙製の「雑面」(安摩、蘇利古の面)を付ける。左右の纓を誇張した冠が、どことなく滑稽。そして4人の酔客たち。派手なストライプの頭巾を被り、天狗のような赤い面を付ける。最後に「腫面(はれめん)」を付け、瓶子と酒盞を抱えた「瓶子取」。この瓶子取が、酔客たちに酒を勧めながら、自分も盗み酒をするうち、だんだん酔っ払っていく。会場は笑いっぱなし。科白がない分、舞人のセンス次第で、狂言や歌舞伎のチャリ場よりも自由なアドリブが可能なのだと思う。笑いのツボが、かなりアナーキーで現代的だ。千鳥足で退場するとき、鉦鼓の楽人に激突したりするのだ。ちなみに今日の瓶子取役は多忠輝さんだった(演奏家としても著名)。
私は、韓国の河回村(ハフェマウル)で見た仮面劇を思い出した。プログラムの解説によれば、『五常楽』は左舞(さまい)と呼ばれる中国大陸経由の楽。一方、『胡徳楽』は右舞(うまい)と呼ばれ、朝鮮半島経由の楽に分類されているそうだ。なるほど、直感と一致する。
左舞と右舞では楽器編成が異なる。左舞は三管(笙、篳篥、龍笛)三鼓(鞨鼓、太鼓、鉦鼓)だが、右舞は二管(篳篥、高麗笛)と三鼓(三ノ鼓、太鼓、鉦鼓)で笙が入らない。笙のあるなしで、ずいぶん楽曲の印象が違うことを、今回、発見した。高麗笛(こまぶえ)は龍笛よりも少し音域が高いそうだ。チャルメラみたいな音を出していたのがそうかなあ。
「左舞は旋律で舞い、右舞は拍子で舞う」というのも面白い表現である。原則として、左舞は赤系の装束、右舞は青系の装束というのも覚えておこうと思う。
http://www.ntj.jac.go.jp/performance/1039.html
国立劇場の雅楽公演は、毎回チェックを入れているのだが、楽器演奏だけだと、ちょっと敷居が高そうな気がして二の足を踏む。今回は「舞」が付くので、面白そうだと思って見に行った。
演目は『五常楽』と『胡徳楽』。前者は、唐太宗の作とされ、「序」「破」「急」の形式を伝える唯一のもの。明治以前は、初心者が一番はじめに習う曲であったというから、名曲の極めつけである。巻纓(けんえい)老懸(おいかけ)と呼ばれる武官姿の楽人が、袖をひるがえしながら、ゆったりと舞う。長い裾を引いた後ろ姿が、優雅な蜻蛉のようだ。はじめは単調だが、だんだん動きが早く大きくなり、最後は太鼓をアクセントに、勇壮な行進曲調になる。4人の舞人が一列に並び、後ろ向きに退場していくところまできて、あ、この曲を聴く(見る)のは初めてではない、と思い出した。
次の『胡徳楽』は、プログラムの解説によれば、明治以降、ほとんど上演されなくなっていたものを、昭和41年、国立劇場の雅楽公演が始まったときに復活上演された「稀曲」だそうだ。いや、びっくり。雅楽の概念をくつがえすような曲目である。最初と最後に申し訳程度の「舞」が付くが、あとはほとんど、軽快なBGMに載せたパントマイムなのである。
登場人物は「勧盃(けんぱい)」と呼ばれる主人役。紙製の「雑面」(安摩、蘇利古の面)を付ける。左右の纓を誇張した冠が、どことなく滑稽。そして4人の酔客たち。派手なストライプの頭巾を被り、天狗のような赤い面を付ける。最後に「腫面(はれめん)」を付け、瓶子と酒盞を抱えた「瓶子取」。この瓶子取が、酔客たちに酒を勧めながら、自分も盗み酒をするうち、だんだん酔っ払っていく。会場は笑いっぱなし。科白がない分、舞人のセンス次第で、狂言や歌舞伎のチャリ場よりも自由なアドリブが可能なのだと思う。笑いのツボが、かなりアナーキーで現代的だ。千鳥足で退場するとき、鉦鼓の楽人に激突したりするのだ。ちなみに今日の瓶子取役は多忠輝さんだった(演奏家としても著名)。
私は、韓国の河回村(ハフェマウル)で見た仮面劇を思い出した。プログラムの解説によれば、『五常楽』は左舞(さまい)と呼ばれる中国大陸経由の楽。一方、『胡徳楽』は右舞(うまい)と呼ばれ、朝鮮半島経由の楽に分類されているそうだ。なるほど、直感と一致する。
左舞と右舞では楽器編成が異なる。左舞は三管(笙、篳篥、龍笛)三鼓(鞨鼓、太鼓、鉦鼓)だが、右舞は二管(篳篥、高麗笛)と三鼓(三ノ鼓、太鼓、鉦鼓)で笙が入らない。笙のあるなしで、ずいぶん楽曲の印象が違うことを、今回、発見した。高麗笛(こまぶえ)は龍笛よりも少し音域が高いそうだ。チャルメラみたいな音を出していたのがそうかなあ。
「左舞は旋律で舞い、右舞は拍子で舞う」というのも面白い表現である。原則として、左舞は赤系の装束、右舞は青系の装束というのも覚えておこうと思う。