見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

「NEW!」海の見える美術館/横須賀美術館

2007-06-25 23:36:12 | 行ったもの(美術館・見仏)
○横須賀美術館 開館記念特別展『近代日本美術を俯瞰する』ほか

http://www.yokosuka-moa.jp/

 神奈川県の三浦半島の西側には、神奈川県立近代美術館(葉山館)がある。最寄りのバス停で下りると、鎌倉の海と空を背景にした建物が見える。いつも太陽のふりそそぐイメージがある、明るい美術館だ。パンの美味しいカフェレストランは私のお気に入りである。

 と思っていたら、今度は、東側の観音崎に横須賀市が美術館を建てたというので、行ってみた。日曜日は残念ながら、冷たい小雨のパラつく曇天だった。山が海岸ぎりぎりまで迫っていて、西海岸とはかなり風景が違う。新しい美術館は、道路を挟んで海の反対側に、緑の山に優しく抱かれて建っている。

 開館記念企画展が2つ。『生きる』展は、現代作家9人の作品によるもの。私は、現代美術についてはあまり熱心な鑑賞者ではないが、立体オブジェ(しかも動くもの)は好きだ。ついでに、やたらに大きいものも好きなので、時間が来ると、赤ん坊の姿をした巨大なロボットもどき(ジャイアント・トらやん)が、いやいやをするように腕を振る、ヤノベケンジの作品に見とれてしまった。科学が明るい夢だった頃、手塚治虫の世界を思わせる。

 それから地下の『近代日本美術を俯瞰する』へ。第1セクションは「1900-1910年代」とある。黒田清輝ら第一世代の洋画家たちの活動が、文展(文部省展覧会)の開催というかたちで結実するとともに、その権威に反発する世代の活動が始まる時代である。なるほど、梅原龍三郎、岸田劉生、萬鉄五郎らはこの位置にくるのだな。

 そして、豊かな実りの時代を感じさせる「1920-1930年代」。安井曽太郎の『承徳喇嘛廟』(1938=昭和13年)は、私の大好きな作品である。これまで葉山の美術館で2回見ているのだが、何度見てもいい(公式サイトに画像あり)。山も雲も喇嘛の白塔も、音楽に合わせて体を揺らしているようだ。右隣りには同じ作者の『外房風景(太海)』。色は乏しいが、パズルのピースをはめたような岩山の描写が面白い。左隣りは梅原龍三郎の『城山』。深い緑陰に沈む日本家屋、紺の瓦屋根。鹿児島の風景を描いたものだという。

 戦争と復興の時代「1930-50年代」を見ていて、妙に目を引く作品があった。『南昌新飛行場爆撃の図』と題した横長の大作。透明感のある、明るい色彩。澄んだ青空では、今まさに砲弾飛び散る空中戦が行われている。一方、出撃前の戦闘機の座席には、きりりとした表情で振り返る操縦士。なんだかアメコミのヒーローのようだ。「右遠景、○○機。○○二空曹、△△一空曹」という具合に、モデルの名前が詳しく注されており、「海上自衛隊第一術科学校蔵」という但し書きも、尋常ならぬ由来を感じさせる。作者は藤田嗣治である。

 目を移すと、隣には『銃剣を持つ』と題して、銃剣を構えた兵士の後ろ姿を描いた作品。これも藤田の作品である。半ば軍帽の陰に隠れた兵士の表情は分からない。絵筆をぶつけたような手早い描画の跡。背景は空白のままだ。兵士は背中に担いだヘルメットの脇に、可憐な黄色い花の野草を挿している。藤田は、戦争画を描いたことで、のちに「半ば生贄に近い形で戦争協力の罪を非難された」(→Wikipedia)という。初めて実際の作品を見て粛然とした。
コメント
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