○出光美術館 『麗しのうつわ-日本やきもの名品選-』(2010年1月9日~3月22日)
出光美術館は、陶磁器をめぐって、数々の意欲的な展覧会を送り出してきた。たとえば、景徳鎮、柿右衛門、古伊万里からデルフト、マイセンまでを視野に収めた『陶磁の東西交流』展。肥前磁器に焦点をあて、その成立と変遷を紹介した『柿右衛門と鍋島』展など。知的な興奮と眼の愉楽を兼ね備えた好企画が、いくつも思い浮かぶ。
今回は「知的な興奮」をしばし忘れて「眼の愉楽」に身をゆだねるような展覧会である。最初のセクションは、最も新春にふさわしい、色彩豊かな京焼が並ぶ「京(みやこ)の美」。出光美術館の名品として名高い『色絵芥子文茶壺』(野々村仁清)が出品されている。嬉しいことに、隣りの展示ケースに光琳の『紅白梅屏風』が出ているので(~2/14)、これを背景に眺めると、贅沢感倍増。ところで、この壺を見ていたら、前日、根津美術館で全く同じ形の明代の茶壺を見たことを思い出した。銘は「四国猿」。頸の四方に4つの小さな耳(取っ手)がついているから「四国猿」かと思ったが、田舎者の意味らしい。室町~江戸初期に愛好された唐物茶壺は武骨な単彩釉だが(→例:徳川美術館)、「形」はそのままに、華やかな色絵でドレスアップして、その「違和」を楽しむところが、『色絵芥子文茶壺』の斬新さであったようだ。
仁清は、華麗な色絵に目を奪われがちだが、形へのこだわりも面白い。『白釉耳付水指』は、ふくらんだ頭部の下に耳がついていて、鶴首瓶をひっくり返したような形をしている。白釉の下に赤いまだらが透けて覗く、柘榴のようなピンク色も、もちろん魅力的だけど。古清水の名品『色絵桜藤文鶴首徳利』も、高麗青磁に同形のものがあるし、『色絵松竹梅文硯屏』も、青磁や白磁に類品がありそうな気がする。でも、それらを、どうしてこんな「ラブリー」な色彩で飾ってしまうのか。日本人の「かわいい」もの好きの遺伝子は、けっこう根が深いように思う。
続く「幽玄の美」のセクションでは、唐津、志野など、桃山以前の古陶を紹介。中でも抜群に古いのが猿投(さなげ)窯で、名古屋市東部の丘陵地帯で、奈良時代から平安時代にかけて焼かれた。しかし、11世紀半ばに宋から大量の磁器が流入したこと、12世紀になると隣接する瀬戸窯で施釉陶器窯があらわれたことから、13世紀には廃れてしまったそうだ。最近、私もようやく古陶のシブい魅力が分かるようになってきた。
「うるおいの美」では、鍋島、柿右衛門など、色絵と染付の「磁器」を特集。最後は「いつくしむ美」で楽茶碗と織部。やっぱり、最初はこのへんがいちばんとっつきやすい。私の「やきもの開眼」は古九谷だったなあ(これも出光美術館、2004年の展覧会)と懐かしく思い出す。いや、そんなことをいうと、志野や織部を見れば、2007年の『志野と織部』展、楽茶碗を初めて知った2005年の『京の雅び・都のひとびと』など、私の「やきもの」鑑賞眼は、ひとえに出光美術館に育てられてきたんだなあ、と会場をまわりながら、あらためて思った。感謝々々。
同展の後半には、板谷波山など、近代のやきものもシームレスに並べてあって、これもよかった。
出光美術館は、陶磁器をめぐって、数々の意欲的な展覧会を送り出してきた。たとえば、景徳鎮、柿右衛門、古伊万里からデルフト、マイセンまでを視野に収めた『陶磁の東西交流』展。肥前磁器に焦点をあて、その成立と変遷を紹介した『柿右衛門と鍋島』展など。知的な興奮と眼の愉楽を兼ね備えた好企画が、いくつも思い浮かぶ。
今回は「知的な興奮」をしばし忘れて「眼の愉楽」に身をゆだねるような展覧会である。最初のセクションは、最も新春にふさわしい、色彩豊かな京焼が並ぶ「京(みやこ)の美」。出光美術館の名品として名高い『色絵芥子文茶壺』(野々村仁清)が出品されている。嬉しいことに、隣りの展示ケースに光琳の『紅白梅屏風』が出ているので(~2/14)、これを背景に眺めると、贅沢感倍増。ところで、この壺を見ていたら、前日、根津美術館で全く同じ形の明代の茶壺を見たことを思い出した。銘は「四国猿」。頸の四方に4つの小さな耳(取っ手)がついているから「四国猿」かと思ったが、田舎者の意味らしい。室町~江戸初期に愛好された唐物茶壺は武骨な単彩釉だが(→例:徳川美術館)、「形」はそのままに、華やかな色絵でドレスアップして、その「違和」を楽しむところが、『色絵芥子文茶壺』の斬新さであったようだ。
仁清は、華麗な色絵に目を奪われがちだが、形へのこだわりも面白い。『白釉耳付水指』は、ふくらんだ頭部の下に耳がついていて、鶴首瓶をひっくり返したような形をしている。白釉の下に赤いまだらが透けて覗く、柘榴のようなピンク色も、もちろん魅力的だけど。古清水の名品『色絵桜藤文鶴首徳利』も、高麗青磁に同形のものがあるし、『色絵松竹梅文硯屏』も、青磁や白磁に類品がありそうな気がする。でも、それらを、どうしてこんな「ラブリー」な色彩で飾ってしまうのか。日本人の「かわいい」もの好きの遺伝子は、けっこう根が深いように思う。
続く「幽玄の美」のセクションでは、唐津、志野など、桃山以前の古陶を紹介。中でも抜群に古いのが猿投(さなげ)窯で、名古屋市東部の丘陵地帯で、奈良時代から平安時代にかけて焼かれた。しかし、11世紀半ばに宋から大量の磁器が流入したこと、12世紀になると隣接する瀬戸窯で施釉陶器窯があらわれたことから、13世紀には廃れてしまったそうだ。最近、私もようやく古陶のシブい魅力が分かるようになってきた。
「うるおいの美」では、鍋島、柿右衛門など、色絵と染付の「磁器」を特集。最後は「いつくしむ美」で楽茶碗と織部。やっぱり、最初はこのへんがいちばんとっつきやすい。私の「やきもの開眼」は古九谷だったなあ(これも出光美術館、2004年の展覧会)と懐かしく思い出す。いや、そんなことをいうと、志野や織部を見れば、2007年の『志野と織部』展、楽茶碗を初めて知った2005年の『京の雅び・都のひとびと』など、私の「やきもの」鑑賞眼は、ひとえに出光美術館に育てられてきたんだなあ、と会場をまわりながら、あらためて思った。感謝々々。
同展の後半には、板谷波山など、近代のやきものもシームレスに並べてあって、これもよかった。