○根津美術館 新創記念特別展 第3部『陶磁器ふたつの愉楽 観るやきもの・使ううつわ』(2010年1月9日~2月28日)
展示構成は、まず「観るやきもの」の視点から、(1)室町時代の陶磁器→(2)江戸時代の陶磁器→(3)20世紀の陶磁器→(4)昭和20年代以降の陶磁器、と続く。なのだが、この展覧会には、たいへん気前のいい「オマケ」がついている。雪村周継筆『龍虎図屏風』がそれで、冒頭の「室町時代の陶磁器」と次の「江戸時代の陶磁器」の間に据えられているのだが、うぉ~とそのインパクトに感激のあまり、冒頭に何が展示されていたかを忘れてしまうような迫力だ。右隻は、びよーんとバネ仕掛けのように飛び出した龍、油のように粘りつく水の飛沫。左隻は、背景の滝や竹林があやしく歪み、SF的な空間に出現した虎のよう。いいなあ。
この「観るやきもの」では、それぞれの時代の美意識によって択ばれた陶磁器が並んでいる。「室町時代」は徹底した唐物好みで、すっきりと形のいい南宋や元の青磁が好まれた。「江戸」では、小ぶりで、どことなく生活感のある朝鮮の井戸茶碗や珠光青磁が登場。「20世紀」に入ると、世界的な中国陶磁ブームが起こり、1935年、ロンドンのロイヤルアカデミーで開かれた中国陶磁展(中国芸術国際展覧会)には、根津嘉一郎のコレクションも出品されたという。ただ、この頃に好まれた中国陶磁は(宋元から明清まで多様だが)あまりにも無駄なく美しくまとまったものが多くて、かえって魅力を感じない。逆に、強く共感するのは「昭和20年代以降」の美意識。実は、朝鮮陶磁や国焼(江戸時代、京都・瀬戸以外の諸地方で産した陶器)の美しさが発見されたのは、この時期なのだそうだ。
展覧会では、作品のつくられた「産地」や「時代」で分類するのが常道だが、このように「鑑賞眼」の変遷に沿って並べなおしてみるのも新鮮である。自分では「古いもの好き」だと思っていても、実は、けっこう「新しい美意識」に影響されていることが分かったりする。私のお気に入りの逸品は、備前焼の『緋襷(ひだすき)鶴首花瓶』(桃山時代、16世紀)。夕顔の実のようなぽってりした太鼓腹から、細い首が立ち上がっている。つる草の、クレマチスか何かを生けてみたい。
続いて「使ううつわ」では、春夏秋冬の懐石膳の献立を想定し、それに合わせたうつわを取り揃える趣向。『呉州青絵赤壁文鉢』は白地に青緑の釉薬が凛々しい美しさを誇っているが、これに「いぶし鮭」の赤身が載るのかあ、と頭の中で想像を楽しむ。伊羅保茶碗ふうの朴訥な『紅葉半使鉢』(朝鮮)には「おでん」。大きな水玉模様の散った『焼餅文州浜鉢』(備前)には、模様に合わせて(?)「鴨だんご」。これは楽しいけど、ちゃんと食事を済ませてから会場に入らないと、空き腹にこたえる…。
なお、会場には「あなたが考える おもてなしの献立」と題した投票用紙が置かれており、展示の懐石膳セットを使った「あなたの献立」を募集している。楽しい企画だけど、その場で、さらさらとメニューが浮かぶものですかねえ。私は、ふだん懐石膳など全く縁がないので、帰ってから「強肴(しいざかな)?!」「八寸?」といろいろ調べて勉強になった。
展示室2「京派の粋(エスプリ)」は、円山四条派の絵画を紹介。展示室5は「茶道具と名物裂・更紗」。以前の根津美術館で、常盤山文庫の書画を包んでいたインド更紗の特集展示を見たことを思い出した。なつかしいな。展示室6は「新春を寿ぐ」。色も形も明快で、男振りのいいお道具が多くて、新春にぴったり。
※林實(はやしまこと)『作法心得』:茶懐石料理の沿革
東京YMCA国際ホテル専門学校講師をつとめた著者による解説。「魚の骨などは、懐紙に包んで持ち帰られよ」など。簡潔な文体が個性的。
※幸菜庵:「茶懐石料理レシピ集」
実際に料理が載ったうつわのイメージが湧く。
展示構成は、まず「観るやきもの」の視点から、(1)室町時代の陶磁器→(2)江戸時代の陶磁器→(3)20世紀の陶磁器→(4)昭和20年代以降の陶磁器、と続く。なのだが、この展覧会には、たいへん気前のいい「オマケ」がついている。雪村周継筆『龍虎図屏風』がそれで、冒頭の「室町時代の陶磁器」と次の「江戸時代の陶磁器」の間に据えられているのだが、うぉ~とそのインパクトに感激のあまり、冒頭に何が展示されていたかを忘れてしまうような迫力だ。右隻は、びよーんとバネ仕掛けのように飛び出した龍、油のように粘りつく水の飛沫。左隻は、背景の滝や竹林があやしく歪み、SF的な空間に出現した虎のよう。いいなあ。
この「観るやきもの」では、それぞれの時代の美意識によって択ばれた陶磁器が並んでいる。「室町時代」は徹底した唐物好みで、すっきりと形のいい南宋や元の青磁が好まれた。「江戸」では、小ぶりで、どことなく生活感のある朝鮮の井戸茶碗や珠光青磁が登場。「20世紀」に入ると、世界的な中国陶磁ブームが起こり、1935年、ロンドンのロイヤルアカデミーで開かれた中国陶磁展(中国芸術国際展覧会)には、根津嘉一郎のコレクションも出品されたという。ただ、この頃に好まれた中国陶磁は(宋元から明清まで多様だが)あまりにも無駄なく美しくまとまったものが多くて、かえって魅力を感じない。逆に、強く共感するのは「昭和20年代以降」の美意識。実は、朝鮮陶磁や国焼(江戸時代、京都・瀬戸以外の諸地方で産した陶器)の美しさが発見されたのは、この時期なのだそうだ。
展覧会では、作品のつくられた「産地」や「時代」で分類するのが常道だが、このように「鑑賞眼」の変遷に沿って並べなおしてみるのも新鮮である。自分では「古いもの好き」だと思っていても、実は、けっこう「新しい美意識」に影響されていることが分かったりする。私のお気に入りの逸品は、備前焼の『緋襷(ひだすき)鶴首花瓶』(桃山時代、16世紀)。夕顔の実のようなぽってりした太鼓腹から、細い首が立ち上がっている。つる草の、クレマチスか何かを生けてみたい。
続いて「使ううつわ」では、春夏秋冬の懐石膳の献立を想定し、それに合わせたうつわを取り揃える趣向。『呉州青絵赤壁文鉢』は白地に青緑の釉薬が凛々しい美しさを誇っているが、これに「いぶし鮭」の赤身が載るのかあ、と頭の中で想像を楽しむ。伊羅保茶碗ふうの朴訥な『紅葉半使鉢』(朝鮮)には「おでん」。大きな水玉模様の散った『焼餅文州浜鉢』(備前)には、模様に合わせて(?)「鴨だんご」。これは楽しいけど、ちゃんと食事を済ませてから会場に入らないと、空き腹にこたえる…。
なお、会場には「あなたが考える おもてなしの献立」と題した投票用紙が置かれており、展示の懐石膳セットを使った「あなたの献立」を募集している。楽しい企画だけど、その場で、さらさらとメニューが浮かぶものですかねえ。私は、ふだん懐石膳など全く縁がないので、帰ってから「強肴(しいざかな)?!」「八寸?」といろいろ調べて勉強になった。
展示室2「京派の粋(エスプリ)」は、円山四条派の絵画を紹介。展示室5は「茶道具と名物裂・更紗」。以前の根津美術館で、常盤山文庫の書画を包んでいたインド更紗の特集展示を見たことを思い出した。なつかしいな。展示室6は「新春を寿ぐ」。色も形も明快で、男振りのいいお道具が多くて、新春にぴったり。
※林實(はやしまこと)『作法心得』:茶懐石料理の沿革
東京YMCA国際ホテル専門学校講師をつとめた著者による解説。「魚の骨などは、懐紙に包んで持ち帰られよ」など。簡潔な文体が個性的。
※幸菜庵:「茶懐石料理レシピ集」
実際に料理が載ったうつわのイメージが湧く。