見もの・読みもの日記

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知識は東アジアの海を渡った(丸善ギャラリー&学習院大学史料館展示室)

2010-02-01 22:58:16 | 行ったもの(美術館・見仏)
○学習院大学開学60周年記念特別展覧会『知識は東アジアの海を渡った~学習院大学コレクションの世界~』(2010年1月26日~2月1日)

 学習院大学が開学60周年(※新制大学となってから)を記念して、丸善・丸の内本店ギャラリーと、学習院大学史料館展示室と、豊島区雑司ヶ谷地域文化創造館の3ヶ所で行う貴重書展覧会。第3会場のパネル展示はいいとしても、はじめの2つは必ず見ておきたいと思った。

■丸善・丸の内本店ギャラリー

 「学習院」の歴史を年代順に追いながら、関係資料を並べてある(→詳しい沿革はこちら)。弘化4年(1847)、京都において、公家の教育機関として学習院(学習所とも)が開講し、各家から書籍が献じられた。展示品は、一条家から寄贈された『性理大全』(和刻本)、近衛家から寄贈された『大唐六典』(近衛家熙校訂本)など。嘉永3年(1850)の『学習院雑掌備忘』に、これらの受贈記録がちゃんと残っているというのも素晴らしい。学習院の蔵書は初めて見るので、「学習院印」「京都学校蔵書之印」の角印が物珍しくて面白かった。

 明治10年(1877)、東京・神田に華族学校として成立。華族会館に集められた書籍を蔵書とした図書館も設置された。同館旧蔵書には「華族会館書籍局印」という八文字を円形に配した、変わった蔵書印が押されている。これらは公家や武家からの寄贈書で、「冷泉府書」の印のある『唐文粋』や「養賢閣図書記」(徳川宗家旧蔵)の印のある『東坡全集』などが見られる。徳川宗家旧蔵の『史記』に押されていた「政余蛍雪」という角印は、明治天皇の蔵書印だったのか! 買って帰ってきた図録を読んで、はじめて知った。明版の『白氏文集』には「弘前医官渋江氏蔵書記」の印が押されていた。おお、懐かしい、渋江抽斎の印である。しかし、これも図録を読んだら、その隣りに「森氏」という森枳園=森立之の印があったのを見落としていた。もうちょっと、展示ケース内に蔵書印の説明が欲しかったなあ、と思う。

 明治期の学習院においては、日本における東洋学の祖、白鳥庫吉、市村瓚次郎、塩谷温らが教鞭を取り、多数の漢籍・朝鮮本・満洲語文献などが蒐集された。特に朝鮮本の充実ぶりはすごい。すごすぎて、ちょっとドキドキする。返還を要求されるような、無法な蒐集をしていないことを願いたいのだが…。

 それから、前半の名家伝来本に比べると、何これ?というような扱い(印象)で展示されていた「友邦文庫」の資料。これは、旧朝鮮総督府の統治政策にかかわるアーカイブ資料である(→詳細)。見た目はボロボロのわらばん紙資料だが、掘り起こせば、とんでもない真実が眠っているのではないかと、わくわくする。

■学習院大学史料館展示室

 丸善ギャラリーと同様に、京都学習院→華族会館→明治→大正・昭和という時代順の構成。重なる資料も多い。印象的だったのは「朝鮮戸籍大帳」2件。1825年(朝鮮23代・純祖25年、道光5年)の旧式戸籍と、1899年(光武3年、大韓帝国成立後)の新式戸籍が対比されていて、非常に面白かった。『正始文程』(1795年刊)には、朝鮮宮廷の蔵書であったことを示す「奎章之宝」印が堂々と押してあって、入手径路が気になった。図録の解説には「未詳」とあるのみ。『二月堂焼経』を持っているのにはびっくりしたが、ちょっと焼け過ぎ(半分以上焼失)。参考展示の地球儀や陶俑も面白かった。

 ひとつ苦言を呈しておきたいのは、丸善インフォメーションの催し物情報に画像が掲載されている「高句麗広開土王碑拓本」に「展示は複製」という注記がないこと。学習院大学東洋文化研究所の「お知らせ」でダウンロードできる展示品リストにも複製注記がない。デジタル技術の高度化した時代だからこそ、会場で見られるのが、本物なのか複製なのかは、重要な情報だと思う(チラシの裏面にはちゃんと書かれている)。

 『清帝勅誥命書(馬超麟勅命)』も、私の記憶違いでなければ、複製(写真)パネルしか出ていなかったようだ。図録の解説によれば、本人に手渡す勅命の現物の作成は、康煕元年以降、江寧の織造局に任せられ、勅命の場合は純白の綾を用い、満洲語と漢語の「奉天勅命」を、昇降する2匹の龍紋様の間に織らせることが規定されていたという。私は、一読して、東大図書館が電子版を公開している『明・弘治十八年八月二十日勅命』を思い出した。後者は「奉天勅命」が漢語だけであることを除けば、スタイルは同じである。でも、こういう物理的な状態の確認には、写真だけでは不足なのだ。ちょっと残念。

※図録解説はなかなか有益。



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