見もの・読みもの日記

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情報危機に備える/緊急解説!福島第一原発事故と放射線(水野倫之ほか)

2011-06-27 21:45:15 | 読んだもの(書籍)
○水野倫之、山崎淑行、藤原淳登『緊急解説!福島第一原発事故と放射線』(NHK出版新書) NHK出版 2011.6

 東日本大震災の発生直後、私がいちばん頼ったのはNHKだった。印刷媒体の新聞を読む習慣は、ずいぶん前からなかった。ネット媒体の新聞は、事実の収集には使えるが、「解説」としては物足りなく感じた。テレビの視聴習慣もほとんど無くなっていたが、NHKが震災関連番組をネット配信してくれた結果、これが最もアクセスしやすく、最も信頼できる感じがした。阪神淡路大震災では、むしろ民放各局のニュースを見ていたと思うのだが、今回は、民放で誰が何をしゃべっていたのか、全く関知していない。

 本書は、NHK記者および解説委員として、福島第一原発事故の発生に立ち会った3人が、そのときの「報道」のありかたを振り返るとともに、原発問題の背景と放射線の影響、今後の見通しについて、わかりやすく解説したものである。

 当日および翌日の「ドキュメント48時間」は、やはり読み応えがある。地震発生から約1時間後に発令された「10条通報」、さらに1時間もしないうちに「15条通報」にレベルアップし、午後7時03分、総理が「原子力緊急事態宣言」を発令するに至る。うーむ。今さらだが、こんなに緊迫した展開だったのか。

 当日、私は職場で、携帯電話を持たずに屋外に避難したまま、しばらく情報途絶の状態だったのである。夜に入って、職場のテレビをチラ見できるようになったが、津波や火事の映像に目を奪われて、原発事故の情報には相応の関心を払うことができなかった。原発がたいへんな事態らしい…と発見したのは、ようやく帰宅を許された土曜日、いや、この日は早々に布団にもぐりこんだので、その翌朝の日曜以降ではなかったかと思う。

 その後は、何日も、何十時間にもわたって、原発事故関連の報道を見てきたはずだが、本書を読んで、いかに自分が「何も分かっていなかった」かが、よく分かった。たとえば、耳にだけはなじんでしまった「ベクレル」「シーベルト」という単位が何を意味するかとか、「屋内退避」という指示は、絶対に外に出てはいけないということではなく、被爆対策をした上で、必要があれば買い物に出かけてもいい(そうなの?!)とか、「必要のない放射線はできるだけ浴びないほうがいい」という原則から、平常時は「限りなくゼロに近づける」目標が定められているが、非常時は「健康に異常が出ないレベル」の目標に切り替える、というのも、ゴマカシではなく、危機管理のひとつの考え方なのだ、と納得した。

 それから、アメリカやヨーロッパ諸国が、1979年のスリーマイル、1986年のチェルノブイリ事故を契機に、原発の新増設ペースを大幅にダウンさせていたにもかかわらず、日本は例外的に原発推進を続けてきた(ええ~!)という事実も、本書を読んで初めて把握した。

 原子力災害は、情報の混乱によって住民に不安を引き起こす「情報危機」につながりやすい、というのは、チェルノブイリ事故の研究で、すでに指摘されているそうだ。ひとくちに「正しく恐れる」というが、実際そのように行動することは、なかなか困難だと思う。最近よく聞く「風評被害」という言葉も、すいぶん曖昧に使われているし。自分の生命と尊厳を守るには、判断の根拠となる知識を、日ごろから貪欲に蓄えておくしかないのではないかと思う。

 私は、80年代に、ある哲学者とある科学者の対談を読んだ記憶があって(高木仁三郎氏かなあ)、火力や水力や電力は、もともと地球上に存在するエネルギーだが、原子力というのは、星の世界にしかないもので、それを人間が持ってはいけないのではないか、という科学者の言葉が印象深く残っている。原子力のことを考えるときは、いつも立ち返る発言である。
コメント
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