見もの・読みもの日記

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梅雨を忘れる/中世人の花会と茶会(根津美術館)

2012-06-23 22:24:57 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 コレクション展『中世人の花会と茶会』(2012年6月2日~7月16日)

 『中世人(ちゅうせいびと)の花会(はなのえ)と茶会(ちゃかい)』と読む。ずらりと並んだ同館コレクションの床の間飾りと茶道具。うう、渋い。私は根津嘉一郎(初代)の趣味が、とても好きなのだ。前半は、ほとんど唐物である。青磁、そして古銅。ところどころに掛け物を取り合わせる。室町時代の『柿本人麿像』(めずらしく和物)には青磁、牧谿筆『漁村夕照図』には古銅。横長の画面が、窓から見る実景みたいだ。鞆の浦の対潮楼の眺めを思い出した。頸の根元がきゅっと締まった古銅の花生のプロポーションがいい。古銅とか砂張(銅合金)とか南鐐(銀)とか、ストイックで寡黙な金属が実に美しい。これらに比べたら青磁なんて、まだまだ華やかで饒舌過ぎ。

 それから天目茶碗があらわれる。曜変天目、油滴天目、建盞天目と並べる大サービス。私は、天目茶碗はあまり好きではないのだが、この展覧会用につくられた根津美術館のサイトで、曜変天目の写真を見て、あ、これは綺麗だ、と初めて思った。注をつけておくと、根津美術館のこの茶碗は、一般には曜変天目に数えられないものである。確かに最上級の曜変天目(藤田美術館蔵、MIHO MUSEUM蔵、大徳寺龍光院蔵の3件)に比べると華やかさに欠けるのだが、そこが根津嘉一郎の好みであるように思う。私は、全体に白っぽく(白銀色に)感じられる油滴天目も好きだ。堆朱の天目台とよく似合っていた。取り合わせには、玉澗の『廬山図』の写し。

 青井戸茶碗(銘:柴田)、雨漏茶碗など、高麗茶碗の名品には、伝・蘇顕祖筆『山水図』。茶室には絶対掛けられない巨大な山水図で、その無茶ぶりが面白かった。

 しかし、この展覧会一の見ものである長次郎の赤楽茶碗(銘:無一物)が、展示室1にはない。あれ~どうして~と不審がりながら、次の部屋に進む。展示室2は「利休好み」をテーマに、日本製の道具や、日本で価値を見出された道具が増える。この室の中央に、ぽつりと、単独で展示されていたのが『無一物』だった。小さい。そして、写真(この展覧会のポスター)で見るより、ずっと白っぽい。土から生まれ、すぐにも土に帰りそうに見える。ひどく「野性的」で、光悦の赤楽茶碗とは大違い(どちらも好きだけど)だなあと感じた。

 根来のような朱塗の四角い盆に載った、黄色い獅子香炉(瀬戸焼か!)もかわいかった。月江正印の墨蹟(この展覧会唯一の墨蹟?)、唐銅三具(明代)との取り合わせもよかった。

 さて、1階がこんなに本格的な茶道具展だと、上の階の展示室はどうなっているんだろう、と思って3階にあがった。展示室5は「牧谿(瀟湘八景図巻)を写す」がテーマ。2010年の特別展で見た模本(※詳細)が全面開示されていた。おお、これ、全部見たかったので嬉しい。牧谿筆『瀟湘八景図巻』を徳川吉宗が集めて写させた記録は「徳川実記」に見えるが、これは、さらにその模本と考えられるものだそうだ。とりあえず、裏書からメモ。

(1)山市晴嵐 原本栄川院絵本出所不審
(2)遠浦帰帆 原本栄川院絵本出所不審
(3)遠寺晩鐘[ママ:一般には煙寺晩鐘] 紀州様御所蔵
(4)漁村夕照 松平左京太夫殿所持
(5)平沙落雁 松平又三郎殿所持
(6)江天暮雪 紀州様御所蔵
(7)洞庭秋月 御物
(8)瀟湘夜雨(後補)

 根津美術館が所有する(4)『漁村夕照図』は、この中では、比較的、山の姿がはっきりしていて、メリハリのある作品。個人的には、(6)の雪景色(の原本)が見てみたい。(7)は満月の姿が印象に残って好きだ。…と思ったら、(6)(7)の原本は現存していないんだな。残念。ほかに2件の図巻があって、『雪村倣牧谿瀟湘八景図巻模本』は、雪村が牧谿の別の瀟湘八景図巻(中軸)を写したものを、さらに写し伝えた模本であるという。人物が多くて楽しそうに見えるのは、雪村の個性だろうか。いちおう、八つの異なる画面が並んでいる。狩野常信筆『瀟湘八景図巻』は、牧谿の表現を踏襲しているが、八景を一画面に構成し直すなど、オリジナル要素が強い。

 展示室6は「雨の中の茶の湯」。梅雨の鬱陶しさを忘れる、端正でさわやかな取り合わせだった。

 以上は先週末に見に行ったもの。今週は、仕事上で大きなイベントに関わっていたので、準備→実行→疲労回復のため、しばらくブログ更新を休んでいた。昨日から大阪泊。この機を逃さず、遊びまわりつつ、溜まった記事も書かなくては。
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