見もの・読みもの日記

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特別展『ボストン美術館 日本美術の至宝』(再訪・備忘録)

2012-06-02 11:34:43 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 特別展『ボストン美術館 日本美術の至宝』(2012年3月20日~6月10日)

 最初の参観は開催初日だった。あれから2カ月半、東京展もそろそろ終幕なので、もう1回行ってみることにした。1日(金)は、定時過ぎにそさくさと職場を出る。山の手線の内側の職場なのだが、上野への近道ルートがなくて、博物館到着は18時半頃だった。そろそろ空いてくる頃合いかと思ったら、この時間から入館するお客さんが、けっこう多い。

 第1会場・第1室。人が多くて、作品の最前列まで寄れない。最前列に進んでしまうと、長居できない雰囲気なので、ゴッタ返す観客の頭越しに眺める。これが初見だったら、かなりストレスだけど、一度見ているので、まあいいかと達観できる。平安時代の『馬頭観音菩薩像』は頭部と頭光が合体してしまって、巨大な茶髪のアフロヘアに見える。截金で飾られていた天衣や衣の縁(へり)も茶色く褪色して、毛皮みたいに見えるのが、逆にゴージャスに感じられて面白い。カタログに京都・興聖寺旧蔵というが、上京区の?宇治の? どっちだろう。

 平安~鎌倉時代の『毘沙門天像』は吉祥天、五夜叉など多くの眷族を従える。胸の前に斜めに長剣を構え、左手には宝塔ではなく蓮花?宝珠?みたいなものを掲げる。非常に装飾的な甲冑、特に兜と、ひるがえる天衣のように肩から上がるニ筋の炎(光?)。あんまり面白すぎて、初見のとき、アメリカン・コミックみたいだなーと思った。カタログの解説を書いているのは中国系(台湾)の方で、「中国・元代の、特に山西省における仏教絵画を想起させる」という。へえーなるほど。

 内山永久寺の障壁画『四天王像』(4面)は、図録の写真があまりよくない。実物の印象はもう少し暗くて、足元の邪鬼や背景の波がよく見えないが、頭部周辺の残りのよい多聞天と広目天は、もっと表情に生彩がある。全体に装飾的な仏画の多いこのセクションで、私がいちばん好きだったのは、信仰の対象としての威厳を保っている『一字金輪像』。

 第1会場・第2室「二大絵巻」は、まあまあの混みよう。「閉館まであと1時間です。まだ第2会場もございますのでご注意ください~」と案内の方が必死に急かすので、きちんと並んで見ていく観客はそれほど多くない。それなら、と思って、短い列に並び、最前列で一周する。『吉備大臣入唐絵巻』に何度も登場する楼閣は、第1巻がいちばん色彩の残りがいい。3、4巻になると屋根の色がほとんど飛んでいるし、柱の朱色の印象もかなり違う。でも何度見ても楽しいなあ、この絵巻。

 見ている間、男性の声で「これ、ストーリーが分かると面白いんだぜ、ユウレイさんがいろいろ助けてくれるんだよ」とか、若い女性が「あ、座って飛んでる~かわいい~」という声が耳に入る。画面から目を離せないので、どんな人が喋っているのか分からなかったが。やっぱり、こういう魅力的な作品が、美術ファンだけでなく、広く認知されるには、里帰り展覧会の意味は大きいのだな、と思った。

 『平治物語絵巻・三条殿夜討の巻』は、冒頭の大混乱の場面、交錯する人々の視線、表情がすごい。(脱げないように)烏帽子を押さえている男たちが何人もいる。牛車にひかれかかっている白イヌ。すでにひかれている男も。燃え上がる三条殿の場面は、いちばん観客が多かった。最後の引き上げる信頼・義朝軍の場面は、チラッと見て立ち去る人が多かったが、よく見ると、後白河上皇を載せた牛車を囲む軍勢の中に、豆腐のような空白が4、5カ所浮いており、重要人物の名前を書き入れるつもりだったらしい。烏帽子・狩衣姿の人物が信頼だとして、ほかの武者も特定できているのかな。知りたい。大河ドラマにも、このくらい迫力ある映像を期待したいが、セット撮影では、密集する騎馬武者軍団のものものしさを表現するのは無理だろうなあ、きっと。

 この絵巻の向かいに展示された『観音図』(元または鎌倉)に注意を向ける観客は少ないが、画中に描かれた大勢の死者たち(とりわけ無残な女性たち)への手向けのような気がして、私は、つい手を合わせたくなった。

 あとは途中を斜め見しながら、第2会場の光琳『松島図屏風』へ急ぐ。観客が多くて全景を見られないのが残念。しかし、人の頭越しに見ていたら、右側の高い岩山の頂上に生えている小さな松に注目する結果になって、変な松だなあ、と気になり始めた。波や岩山が抽象化されているのに対し、小さな松だけが、妙に生々しいのである。ただし、図録解説によると、松には加筆が認められるとあるから、もとの光琳の意図なのかどうかは分からない。フーリア美術館が所蔵する宗達の『松島図』右隻をもとにしていると読んで、画像(※Wikiにあり)を探してみたが、ずいぶん印象が違う。私は、これは光琳作品のほうが好きだ。第2会場・第3室の蕭白も、夢中で見入ってしまう。『商山四皓図屏風』左隻の、触角をのばしたカタツムリみたいな驢馬が可笑しい。

 時計を見ると、閉館まで15分。ここでUターンすると、混雑しているのは蕭白のところだけで、他はそろそろ閑散とし始めていた。しかし「二大絵巻」には、まだ人がいる。第1室の仏画は、かなり自由に鑑賞できる状態になっていた。最後に、また「二大絵巻」に戻り、お気に入り場面だけ、チラチラのぞき見ているうちに閉館チャイムが鳴った。案内の方は「まだお客様が並んでいらっしゃいます~どうぞ間を開けずにお進みください~」と列を進ませるのみで、さすがにジャスト20時では追い出さないのだな。当たり前の対応かもしれないが、感心した。ご苦労様です。最後まで様子を見ていようかと思ったが、申し訳ないので、そろそろ退出した。

 外に出たら、大勢の人がカメラを構えているので、何かと思ったら、平成館と本館の間の細長い夜空に、ライトアップされた東京スカイツリーが浮かんでいるのである。日中でも見えるんだろうけど、全然気がついていなかった。これは夜間開館のちょっとした「見もの」になりそう。

 ボストン美術館展は、たぶん名古屋会場か大阪会場で、もう1回くらいは見に行くつもりである。
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